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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』
07 イーガへ
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イズヴァルト達は要塞の南側から出た。しかし門を出るとすでに、3000程の軍勢が待ち構えていた。
率いていた武将は、イズヴァルトを嫌い抜いている近衛騎士団の団員だ。パラッツォ教徒の抹殺の時に、子供や赤ん坊を投石砲に入れて飛ばすのを愉しむサークルに所属している極悪人だ。
「イズヴァルトがいたぞ! ぶちころせ!」
ここで倒せば俺が最強の指揮官だと意気込む。亜人の隊列に命令。10対1どころではない戦力差。数に任せて首を挙げようとする。
しかし怒り狂ったイズヴァルトは凶悪だった。『鬼神も泣いて土下座して詫びを入れる』という武力でもって先手を圧倒した。いや、野にさらされる屍を作った。
「お、おのれえ! 更に強くなりおって! シギサンシュタウフェンの田舎猿のくせして、生意気であるぞ!」
亜人達もイズヴァルトやイナンナに討ち果たされて臆病になった。『でかちんつらぬき丸』を手にしたイナンナは、『森の蝮』という昔の仇名にふさわしかった。
その2人に『イーガの天才魔法少女』と言われたことがあるエレクトラが掩護。敵から奪った弓矢で『爆炎弓箭』を放ち、『紫電砲』で蹴散らす。
ホーデンエーネン軍、旗色悪し。しかし深入りすると要塞から追手が出て襲い掛かって来た。イズヴァルト抹殺の命を受けた武将の1人が無理やり引っ張り出したのだ。
砦から1000余りの増援。イズヴァルトはますます怒った。
「……そうまでして、拙者を亡き者にしたいのでござるか!」
敵は弱兵ではないがしつこい。この乱戦で連れて来たニンゲンの武者は全員死んだ。心が痛む。しかし前に進まなければならなかった。
「きりがないですねぇ!」
返り血で真っ赤に染まったエレクトラが歯ぎしりした。強行突破は可能だが、あまりにも犠牲が多すぎる。
そこへちょうど折よく、マルカスとクリスタらが残りの仲間達を引き連れて援軍に駆けつけてくれた。2人の武勇は折り紙付きだ。
「クリスタ、イズヴァルト達を生かして連れ戻さねえといけねえな!」
「言われんでもそうするざあ!」
マルカスが突っ込んで敵武者の兜をへこませ、クリスタが炎をまとったハルバードで鎖帷子ごと両断する。
奇襲をかけられた形のホーデンエーネンの武将らは、残らず首を刎ね飛ばされた。とてもかなわぬと見たホーデンエーネン側の兵士達は逃げて行った。
戦いは終わった。連れて来たニンゲンの武者が半数ほどやられた。ヒッターチやツックバーで腕に覚えがある男達だったのに。
「多勢に無勢、ズラ……」
アヅチハーゲンの港で仲間の手当てをしながらイナンナは漏らした。一昨日までは自分達やパラッツォ教徒の娘らと交歓し、人生を謳歌した男らは旅立ってしまった。
イズヴァルトとエレクトラは、疲れ切った顔でうなずいた。特にエレクトラは心理的な衝撃が強かった。まさかホーデンエーネンがここまで強硬だと思わなかった。
だが、ホーデンエーネン軍はここであきらめない。追手を差し向ける準備を整え、街に向かっていた。
真夜中のこと。ミツクニュモスが町の北側にかがり火が連なるのを見たと告げた。
「どうする? 俺達を完全に殺しに来る様子だよ、イズヴァルトさん?」
「情けなし、でござる。かのような乱暴を為すようになったとは。王国は変わってしまったのでござろうか……」
「イズヴァルトさん、現実逃避はその辺にしておけよ。とにかくアヅチハーゲンから脱出する方法を探さないとな……」
ミツクニュモスが一計を案じる。アヅチハーゲンの船主に手を借りて逃がしてもらおう。しかし助力は思いも寄らぬ者達から受ける事になった。
一刻のち、イズヴァルトらはクボーニコフの軍艦に乗り込んでいた。いいや、クボーニコフの艦隊にはせ参じた、ユーリポフ13小王国の連合艦隊所属の船だ。
そのままイーガのトーバコフ港まで向かうという。助けた理由はイズヴァルトの勇名もさることながら、ミツクニュモスらカントニアの者が多くいたからである。ユーリポフ13王国やその南の小国群は、カントニアと仲良くしたい気持ちが強かった。
艦長はイズヴァルトに語った。
「クボーニコフ王国の提督からの依頼でそう致した次第でして。カントニア諸国は我らの連合にとっても友邦。これを機に恩を売ってもっと仲良くするという思惑があるのですよ」
クボーニコフ内の武将らの中にも、いろいろと思惑があるようだ。海軍というよりは海賊衆と思っておくべきだ、と艦長は言った。海将おのおのが独立した自治首長で、国王の命を絶対視していない。
「ずいぶんと正直にお話なされるでござるな。いやいや、それがよろしかろう……しかしホーデンエーネンは、どうなっているのでござる?」
こうも攻撃的になるとは思ってもみなかった。ユーリポフ人の艦長はため息をついた。
近衛騎士団というのが前線の指揮を任されてから、ホーデンエーネン軍の統率は極端になってしまったと。
「伝え聞いた話ですと、そもそもが聖騎士団や北方諸侯の軍団が采配をとっていたとか。しかしあまりにも戦功を得やすいいくさばかりだったという話で、近衛騎士団が指揮権をかすめ取ったらしいのです」
近衛騎士団はとにかく、乱暴狼藉に余念が無い。パラッツォ教徒への虐殺にはちゅうちょしないし、戦場となる土地の財宝や娘を奪って国元に送る様な真似もする。
それに嫌気がさした北部諸侯の中には、パラッツォと密かに通じて近衛騎士団の作戦を妨害する連中も出て来た。
「ここだけの話、クボーニコフは手を引くことも考えているようです」
「それは!」
「何度かいくさに加担して、女奴隷を沢山手に入れたからもうこの辺で終わりにしようと考えているようです。あまりやり過ぎるとクボーニコフも攻められるかもしれませんからね。我々ユーリポフ13王国は、海戦で先手を受け持つのに捕虜はいただけませんから。本当に、嫌ないくさですよねえ……」
□ □ □ □ □
トーバコフへは10日ほどの航海でたどり着いた。ホーデンエーネン王国暦349年の5月の終わり頃だった。
ここからは入国許可を得た後、トーバコフの『えくすぷれす』の駅からコーヅケーニッヒに向かうだけだ。
しかしイーガ人は少なくとも、イズヴァルトに対しては歓迎ムードではなかったようだ。入港してからすぐ、イズヴァルトらはトーバコフの魔道騎士団に連行された。
モモチ高原の戦いでのイズヴァルトとエルフ達による妨害で、少なからず犠牲者が出ていたからか、彼等が自分を見る目が刺々しいとイズヴァルトには思えた。
そうして騎士団の要塞に連れてこられた。3日間も拘留すると告げられた。エレクトラだけは『えくすぷれす』で、コーヅケーニッヒに連れていかれた。
宿舎には水練の為のプールがあった。イズヴァルトはその周りにあるベッドの様な椅子にねそべっていた。短いズボンの様な水着1枚で、木製の板に取り付けられたガラス板とにらめっこしていた。
「ふーむ。やっと使い方に慣れてきたでござる」
ガラス板に映っていたのはずらりと並んだ文字だった。とある書物の1ページ。チンゼー大陸の中央部、クマモンビーク大密林に住む羽根妖精についてのものである。
一番下まで読み終えると板を右から左へなぞる。次のページになった。この道具、『たぶれっとぱっど』にはこうした書物が1000以上も内蔵されている。
しかもこの道具の下部についているスロットに、専用の魔道符を取り付ければ新たに100冊分の書物が読めるのだ。なんと素晴らしいものだろうか。
(これをマイヤは産みだしたのでござるな。すごい、素晴らしい。)
イズヴァルトは深く感じ入っていた。横にあった低いテーブルから冷えた果汁の飲み物を口につけた。トーバコフはこの季節になると日中の気温が30℃まであがる。一年で一番の暑さになるのだ。
プールを見てみると水着のイナンナとクリスタらが泳いでいた。他の女エルフらもひと眠りを終えて水の中に。泳ぎの上手さを競い始めていた。
隣の席にいたミツクニュモスが、葡萄酒を薄めて冷やしたものを傾けながら彼女達を眺める。素っ裸は見慣れているが、ぴっちりした水着を着ているのを眺めるのも乙なものだ、と笑った。
「それでイズヴァルトさん、俺達はまだ、ここにとどめ置かれるわけかい?」
「あと2日待ってほしい、という話が先ほどござった。それまではこの水練場でのんびりするしか無いでござるよ」
「水練場ねえ……単なる保養所だったりするんじゃないのか?」
イズヴァルトにはそうは思えなかった。このプールの横に稽古場があれば、汗を流す為の沐浴場もある。そりゃあ魔道騎士団の宿舎は兵士達が寝泊りする部屋よりも広かったが、れっきとした基地の中であることは確かだった。
「それよりもエレクトラさんだ。彼女だけ『えくすぷれす』でコーヅケーニッヒに。まだ帰ってこないよな」
「エレクトラどのはもとはといえば、マルティン殿下のおかあさまでござる。つまりは王家に連なる人物。親子水いらずの日々を過ごしているのでござろう」
「そうだった。イーガの貴族ガモーコヴィッツ家のご令嬢でもあったな。気安いところがあるしへりくだったところがあるから、町のおばちゃんと勘違いしがちだけどな」
親しみやすいし、何よりあっちもすぐやらせてくれる。しっぽりやると夢中になってしまう。ミツクニュモスはこれまでに5回程、彼女と寝たと告白した。小柄で片腕が無いが、かなりの好き者だ。
「……寝たのでござるか?」
「まあな。手練手管はかなりもんだ。相当にやりまくっていたらしい。あそこのほうは入れた時はするりとなんだが、奥まで入れるときゅっと締めて来る」
身体は感じやすいし何よりも腰遣いがいい。鍛え上げられた女戦士とのセックスは大抵、挿入後が一番気持ちがいいとミツクニュモスは言う。
とにかく激しくて何度も中で放ってしまう。身体は少々柔らかみに欠けるところがあるのだが、いやらしくくねるからとにかくそそる。ペニスの抑えがきかなくなる。
「おしゃぶりもなかなかにすごかったぜ。前世で仕込んだものだと言ってたけどな、エレクトラさん」
「あまり聞きたくない話でござるよ。拙者は遠慮するでござる」
「イズヴァルトさんはあの人にいい感情を抱いていないだろうからな。けど、俺はあの人はとてもいいと思っているぜ。何なら俺がエレクトラさんの愛人になろうか?」
8歳ほど年上で30も半ばだが、あんなに美人なら全然かまわないとミツクニュモスは言った。勝手にすればいい。イズヴァルトは思った。エレクトラはどうにも苦手だ。いつも何かをたくらんでいるところがある。
水練場にマルカスら、ニンゲンの武者達が入ってきた。彼等は稽古を終えて沐浴場で汗を流したばかりだ。水着はつけていなかった。全裸で股間のものをぶらぶらとさせて、イズヴァルトに会釈する。
「イズヴァルト、泳がないのか?」
「拙者は『たぶれっとぱっど』でご本を読むでござるよ。マルカスどの、この水練場は水着を着るお約束でござるよ?」
「構うもんか。全裸で泳いだ方が気持ちがいいからな!」
マルカスは自慢の巨根をぶらぶらとさせながら、プールに飛び込んだ。ひと泳ぎするとクリスタに抱き着く。プールの中でいちゃいちゃするのが始まるとそのうちに、クリスタが悩ましい声で喘ぎ始めた。
他の武者達も女エルフと水の中で絡み合っていた。昨日もここで見た光景だ。イーガは大目に見てくれる。この時間、プールはイズヴァルトらの貸し切りとなっていた。
「マルカスさん達、またおっぱじめちまったよ?」
「よきにはからえと言うほかござらぬ……拙者は稽古場に向かうでござる」
率いていた武将は、イズヴァルトを嫌い抜いている近衛騎士団の団員だ。パラッツォ教徒の抹殺の時に、子供や赤ん坊を投石砲に入れて飛ばすのを愉しむサークルに所属している極悪人だ。
「イズヴァルトがいたぞ! ぶちころせ!」
ここで倒せば俺が最強の指揮官だと意気込む。亜人の隊列に命令。10対1どころではない戦力差。数に任せて首を挙げようとする。
しかし怒り狂ったイズヴァルトは凶悪だった。『鬼神も泣いて土下座して詫びを入れる』という武力でもって先手を圧倒した。いや、野にさらされる屍を作った。
「お、おのれえ! 更に強くなりおって! シギサンシュタウフェンの田舎猿のくせして、生意気であるぞ!」
亜人達もイズヴァルトやイナンナに討ち果たされて臆病になった。『でかちんつらぬき丸』を手にしたイナンナは、『森の蝮』という昔の仇名にふさわしかった。
その2人に『イーガの天才魔法少女』と言われたことがあるエレクトラが掩護。敵から奪った弓矢で『爆炎弓箭』を放ち、『紫電砲』で蹴散らす。
ホーデンエーネン軍、旗色悪し。しかし深入りすると要塞から追手が出て襲い掛かって来た。イズヴァルト抹殺の命を受けた武将の1人が無理やり引っ張り出したのだ。
砦から1000余りの増援。イズヴァルトはますます怒った。
「……そうまでして、拙者を亡き者にしたいのでござるか!」
敵は弱兵ではないがしつこい。この乱戦で連れて来たニンゲンの武者は全員死んだ。心が痛む。しかし前に進まなければならなかった。
「きりがないですねぇ!」
返り血で真っ赤に染まったエレクトラが歯ぎしりした。強行突破は可能だが、あまりにも犠牲が多すぎる。
そこへちょうど折よく、マルカスとクリスタらが残りの仲間達を引き連れて援軍に駆けつけてくれた。2人の武勇は折り紙付きだ。
「クリスタ、イズヴァルト達を生かして連れ戻さねえといけねえな!」
「言われんでもそうするざあ!」
マルカスが突っ込んで敵武者の兜をへこませ、クリスタが炎をまとったハルバードで鎖帷子ごと両断する。
奇襲をかけられた形のホーデンエーネンの武将らは、残らず首を刎ね飛ばされた。とてもかなわぬと見たホーデンエーネン側の兵士達は逃げて行った。
戦いは終わった。連れて来たニンゲンの武者が半数ほどやられた。ヒッターチやツックバーで腕に覚えがある男達だったのに。
「多勢に無勢、ズラ……」
アヅチハーゲンの港で仲間の手当てをしながらイナンナは漏らした。一昨日までは自分達やパラッツォ教徒の娘らと交歓し、人生を謳歌した男らは旅立ってしまった。
イズヴァルトとエレクトラは、疲れ切った顔でうなずいた。特にエレクトラは心理的な衝撃が強かった。まさかホーデンエーネンがここまで強硬だと思わなかった。
だが、ホーデンエーネン軍はここであきらめない。追手を差し向ける準備を整え、街に向かっていた。
真夜中のこと。ミツクニュモスが町の北側にかがり火が連なるのを見たと告げた。
「どうする? 俺達を完全に殺しに来る様子だよ、イズヴァルトさん?」
「情けなし、でござる。かのような乱暴を為すようになったとは。王国は変わってしまったのでござろうか……」
「イズヴァルトさん、現実逃避はその辺にしておけよ。とにかくアヅチハーゲンから脱出する方法を探さないとな……」
ミツクニュモスが一計を案じる。アヅチハーゲンの船主に手を借りて逃がしてもらおう。しかし助力は思いも寄らぬ者達から受ける事になった。
一刻のち、イズヴァルトらはクボーニコフの軍艦に乗り込んでいた。いいや、クボーニコフの艦隊にはせ参じた、ユーリポフ13小王国の連合艦隊所属の船だ。
そのままイーガのトーバコフ港まで向かうという。助けた理由はイズヴァルトの勇名もさることながら、ミツクニュモスらカントニアの者が多くいたからである。ユーリポフ13王国やその南の小国群は、カントニアと仲良くしたい気持ちが強かった。
艦長はイズヴァルトに語った。
「クボーニコフ王国の提督からの依頼でそう致した次第でして。カントニア諸国は我らの連合にとっても友邦。これを機に恩を売ってもっと仲良くするという思惑があるのですよ」
クボーニコフ内の武将らの中にも、いろいろと思惑があるようだ。海軍というよりは海賊衆と思っておくべきだ、と艦長は言った。海将おのおのが独立した自治首長で、国王の命を絶対視していない。
「ずいぶんと正直にお話なされるでござるな。いやいや、それがよろしかろう……しかしホーデンエーネンは、どうなっているのでござる?」
こうも攻撃的になるとは思ってもみなかった。ユーリポフ人の艦長はため息をついた。
近衛騎士団というのが前線の指揮を任されてから、ホーデンエーネン軍の統率は極端になってしまったと。
「伝え聞いた話ですと、そもそもが聖騎士団や北方諸侯の軍団が采配をとっていたとか。しかしあまりにも戦功を得やすいいくさばかりだったという話で、近衛騎士団が指揮権をかすめ取ったらしいのです」
近衛騎士団はとにかく、乱暴狼藉に余念が無い。パラッツォ教徒への虐殺にはちゅうちょしないし、戦場となる土地の財宝や娘を奪って国元に送る様な真似もする。
それに嫌気がさした北部諸侯の中には、パラッツォと密かに通じて近衛騎士団の作戦を妨害する連中も出て来た。
「ここだけの話、クボーニコフは手を引くことも考えているようです」
「それは!」
「何度かいくさに加担して、女奴隷を沢山手に入れたからもうこの辺で終わりにしようと考えているようです。あまりやり過ぎるとクボーニコフも攻められるかもしれませんからね。我々ユーリポフ13王国は、海戦で先手を受け持つのに捕虜はいただけませんから。本当に、嫌ないくさですよねえ……」
□ □ □ □ □
トーバコフへは10日ほどの航海でたどり着いた。ホーデンエーネン王国暦349年の5月の終わり頃だった。
ここからは入国許可を得た後、トーバコフの『えくすぷれす』の駅からコーヅケーニッヒに向かうだけだ。
しかしイーガ人は少なくとも、イズヴァルトに対しては歓迎ムードではなかったようだ。入港してからすぐ、イズヴァルトらはトーバコフの魔道騎士団に連行された。
モモチ高原の戦いでのイズヴァルトとエルフ達による妨害で、少なからず犠牲者が出ていたからか、彼等が自分を見る目が刺々しいとイズヴァルトには思えた。
そうして騎士団の要塞に連れてこられた。3日間も拘留すると告げられた。エレクトラだけは『えくすぷれす』で、コーヅケーニッヒに連れていかれた。
宿舎には水練の為のプールがあった。イズヴァルトはその周りにあるベッドの様な椅子にねそべっていた。短いズボンの様な水着1枚で、木製の板に取り付けられたガラス板とにらめっこしていた。
「ふーむ。やっと使い方に慣れてきたでござる」
ガラス板に映っていたのはずらりと並んだ文字だった。とある書物の1ページ。チンゼー大陸の中央部、クマモンビーク大密林に住む羽根妖精についてのものである。
一番下まで読み終えると板を右から左へなぞる。次のページになった。この道具、『たぶれっとぱっど』にはこうした書物が1000以上も内蔵されている。
しかもこの道具の下部についているスロットに、専用の魔道符を取り付ければ新たに100冊分の書物が読めるのだ。なんと素晴らしいものだろうか。
(これをマイヤは産みだしたのでござるな。すごい、素晴らしい。)
イズヴァルトは深く感じ入っていた。横にあった低いテーブルから冷えた果汁の飲み物を口につけた。トーバコフはこの季節になると日中の気温が30℃まであがる。一年で一番の暑さになるのだ。
プールを見てみると水着のイナンナとクリスタらが泳いでいた。他の女エルフらもひと眠りを終えて水の中に。泳ぎの上手さを競い始めていた。
隣の席にいたミツクニュモスが、葡萄酒を薄めて冷やしたものを傾けながら彼女達を眺める。素っ裸は見慣れているが、ぴっちりした水着を着ているのを眺めるのも乙なものだ、と笑った。
「それでイズヴァルトさん、俺達はまだ、ここにとどめ置かれるわけかい?」
「あと2日待ってほしい、という話が先ほどござった。それまではこの水練場でのんびりするしか無いでござるよ」
「水練場ねえ……単なる保養所だったりするんじゃないのか?」
イズヴァルトにはそうは思えなかった。このプールの横に稽古場があれば、汗を流す為の沐浴場もある。そりゃあ魔道騎士団の宿舎は兵士達が寝泊りする部屋よりも広かったが、れっきとした基地の中であることは確かだった。
「それよりもエレクトラさんだ。彼女だけ『えくすぷれす』でコーヅケーニッヒに。まだ帰ってこないよな」
「エレクトラどのはもとはといえば、マルティン殿下のおかあさまでござる。つまりは王家に連なる人物。親子水いらずの日々を過ごしているのでござろう」
「そうだった。イーガの貴族ガモーコヴィッツ家のご令嬢でもあったな。気安いところがあるしへりくだったところがあるから、町のおばちゃんと勘違いしがちだけどな」
親しみやすいし、何よりあっちもすぐやらせてくれる。しっぽりやると夢中になってしまう。ミツクニュモスはこれまでに5回程、彼女と寝たと告白した。小柄で片腕が無いが、かなりの好き者だ。
「……寝たのでござるか?」
「まあな。手練手管はかなりもんだ。相当にやりまくっていたらしい。あそこのほうは入れた時はするりとなんだが、奥まで入れるときゅっと締めて来る」
身体は感じやすいし何よりも腰遣いがいい。鍛え上げられた女戦士とのセックスは大抵、挿入後が一番気持ちがいいとミツクニュモスは言う。
とにかく激しくて何度も中で放ってしまう。身体は少々柔らかみに欠けるところがあるのだが、いやらしくくねるからとにかくそそる。ペニスの抑えがきかなくなる。
「おしゃぶりもなかなかにすごかったぜ。前世で仕込んだものだと言ってたけどな、エレクトラさん」
「あまり聞きたくない話でござるよ。拙者は遠慮するでござる」
「イズヴァルトさんはあの人にいい感情を抱いていないだろうからな。けど、俺はあの人はとてもいいと思っているぜ。何なら俺がエレクトラさんの愛人になろうか?」
8歳ほど年上で30も半ばだが、あんなに美人なら全然かまわないとミツクニュモスは言った。勝手にすればいい。イズヴァルトは思った。エレクトラはどうにも苦手だ。いつも何かをたくらんでいるところがある。
水練場にマルカスら、ニンゲンの武者達が入ってきた。彼等は稽古を終えて沐浴場で汗を流したばかりだ。水着はつけていなかった。全裸で股間のものをぶらぶらとさせて、イズヴァルトに会釈する。
「イズヴァルト、泳がないのか?」
「拙者は『たぶれっとぱっど』でご本を読むでござるよ。マルカスどの、この水練場は水着を着るお約束でござるよ?」
「構うもんか。全裸で泳いだ方が気持ちがいいからな!」
マルカスは自慢の巨根をぶらぶらとさせながら、プールに飛び込んだ。ひと泳ぎするとクリスタに抱き着く。プールの中でいちゃいちゃするのが始まるとそのうちに、クリスタが悩ましい声で喘ぎ始めた。
他の武者達も女エルフと水の中で絡み合っていた。昨日もここで見た光景だ。イーガは大目に見てくれる。この時間、プールはイズヴァルトらの貸し切りとなっていた。
「マルカスさん達、またおっぱじめちまったよ?」
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