聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』

05 油断

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 エレクトラはイズヴァルトから武者を2人つけてもらい、アヅチハーゲンの周辺を探っていた。イーガのスパイ仲間が潜んでいるか、痕跡を残してくれているかを調べる為だ。

 イズヴァルトがパラッツォ教徒と交流を深めている3日間、彼女は歩きに歩いた。探しに探し回った。つきあってくれる男達に身体と巧みな性愛術でお礼を施しながら。

「エレクトラ姐さん。そのイーガ人のスパイは本当に潜んでいるんですかね?」

 呼びかけたのは武者の1人でツックバー人のギュシオン。女のアナルを舐めるのが大好きな男だ。寝床ではエレクトラの美穴を蕩けさせるまで舐め続ける。糞も喰ってみたいと言い出したから、流石にそれは断っているが。

「潜ませているはずなんですがねえ。イーガとしてもホーデンエーネンでの北部戦線は興味津々なはずでしょうし、こいつを機に、ホーデンエーネンへの政治的介入もやってみたく思うでしょうし」

 しかし港湾都市アヅチハーゲン一帯では見つからなかった。もう少し脚を伸ばそう。宿で3人の男達と睦みあいながら語らった後、思い切って北の激戦地に向かおうと決めた。

 翌日の朝早く。イズヴァルトに頼んでホーデンエーネン軍から馬を借りるとエレクトラ達は出発した。北の戦いが行われているのはアヅチハーゲンから馬で2日かかる場所だ。

 馬に乗ってから6時間。正午を過ぎたあたりである。街道沿いにある廃屋がエレクトラの目に留まった。

 何もない原っぱに家がどうしてあるのかと思いきや、どうもそうではないらしい。道行く人の休憩小屋だ。しっくい壁をところどころ補修している跡がある。次の村まであと10キロもあるから設けたのだろう。

「姐さん。ここでおまんこですかい? お相手しますぜ?」
「ばかですねぇ。こんないいお天気の日はお外でやるほうがいいに決まってますよ。こんなぼろっちい家じゃあ、気持ちが削がれちまいますよ」

 エレクトラは中に入った。低い天井には照明石がついており、手をかざすと中をかざした。
 
 休憩所らしく粗末な椅子や藁が敷かれていた。壁は落書きだらけだ。ここに入ったカップルの旅人の記念書きみたいなものが。

 部屋の隅にあったゴミ置きには、避妊に使う詰め紙がいくつも捨てられていたから、そういう用途で用いていたらしい。

(……あそこだ。)

 北側の壁に、エレクトラを勘づかせたものがあった。古びて割れがはしっていたしっくいの壁に手を当てると印を切った。山吹色の文章がぼんやりと浮かんで来た。

 隠し伝言の魔法だ。言語は古代ホーデンエーネン語。こんな文章だった。

「パンケーキが食べたい。パンケーキが食べたい。おもいっきりはちみつをかけたパンケーキをたくさん食べたい……」

 数行に渡ってつらつらと。ただのぼやきにしか見えなかった。しかしこれはメッセージだ。エレクトラは思い出した。ところどころにある文字の癖は誰の手によるものか。

(この字は……マリシアの!)

 マリシア。女占い師に身をやつしていたイーガの魔道士だ。イーガのスパイは仲間への連絡に意味不明な文章を書く。マリシアのはお菓子関係の文が多かった。

 しかし術式で解読すれば本当の文書がわかる。エレクトラは暗号解除の魔法を使った。パンケーキが食べたいという文字がつらつらと書かれていた落書きが、今のイーガの言葉での本当のメッセージに変わった。

「イーガの偵察魔道士マリシア=ルデッセン、今生の終わりに記し遺す」

(遺す。マリシア程の手練れが? 彼女には元魔道騎士団の剣士たちがついていたのに。)

「仕損じた。味方もみな死んだ。今はホーデンエーネンの刺客らに取り囲まれている。もう長くはない。相手はシマナミスタンのエルフを雇い入れているようだ。毒矢も受けているようだ」

(本当のことなのかい、マリシア!)

「遠くからでもきついにおいが漂っていたから、多分ゾウズジャヤのエルフだろう。私はもうだめだ。アヅチハーゲンを一緒に探っていたレジナとルイリオも殺された。これを見た同胞らは決してアヅチハーゲンに近づくな。連中はきっとどこかで潜んでいるだろう」

 ゾウズジャヤのエルフ達が。エレクトラは大変にまずいと感じた。彼等はシマナミスタンの凄腕暗殺者達だ。膂力や魔法はエルフ族最底辺と言われているが、闇討ちと罠にかけては油断ならない。

「みんな、戻りますよ」
「何が書いてたんです、エレクトラ姐さん?」
「アヅチハーゲンのイズヴァルトさんたちが危ない。ホーデンエーネンは罠を仕掛けているようなんです」


□ □ □ □ □


 カシバフェルト公に呼び出されたイズヴァルトは、アヅチハーゲンの北で展開しているパラッツォ教団とホーデンエーネン軍との和議も取り持って欲しいと頼まれた。

 停戦から3日。恐れていた騙し討ちが為されないので、もう大丈夫だろう。イズヴァルトは念のためイナンナやマルカスらに尋ねたが、おおむね問題は無さそうだという返答をもらった。

「ホーデンエーネン人のパラッツォ教徒は自分達の村に戻る準備をしているし、エチウの連中も退くらしいズラ。だいたいズラな……」

 カシバフェルトは教典の巫女のリブ=リデラントを、まるで愛妾のごとく側に置いて会っていたではないか。

 カシバフェルト公は彼女にぞっこんだった。新たな妾どころか、後妻として遇するつもりだった。彼の妻は一昨年に心臓発作で死んでいたのだ。

「さようでござるな。理想よりも主義よりも、何より愛情こそが相互理解を促すものでござるよ」

 イズヴァルトは決心した。全員を集めて出発の準備だ。男達はパラッツォ教徒の女達との乱交で疲れ切った顔を見せ、エルフ達は楽しいファックを存分に楽しめて眼が生き生きしていた。

 男達の中で数少ない元気な男、エドニアのマルカスに旅支度の指図を任せた。かつては傭兵団を率いていたから旅支度は慣れたものだ。

「ま、すぐには出発できないけどな。食い物や衣服を仕入れる為に1日ぐらいアヅチハーゲンに留まることになるぜ」
「そうでござるな。では、みんなでアヅチハーゲンに戻るでござるよ」

 イズヴァルトはカシバフェルト公に挨拶して港町へ戻った。しかしそれはホーデンエーネン側がひそかに進めていた計画の呼び水となってしまった。
 
 イズヴァルト達が要塞から去った後、カシバフェルト公はリブと共に寝床に入った。今朝もめいいっぱい楽しんだがその続きをなす為であった。

「おお、リブ。そなたはなんと美しいのだ?」

 ささやきながら大公はリブを裸にし、見事な乳房を掴んで揉む。柔らかく重たいそれは掌に心地よい感触を与えてくれた。

「カシバフェルト様。この和平、必ず成し遂げられましょう」
「隣人を愛し隣人と交歓し、法悦により神との対話を為さんとする。それがパラッツォの教えであったな?」
 
 大公はリブの下腹に右手をあてる。へそとその下を撫でさすり、割れ目に指を咥え込ませた。

「はい……教典の注釈ではその隣人のを、異教徒でもあると記しております」
「妻がパラッツォ教徒であっても夫が改宗するのはその者の意志に任せる、だったな?」
「その通りですわ……」
 
 大公とリブは寝台に倒れ、裸になってもつれあった。数時間を経た後に大公はすやすやと眠るリブを置いて扉を開けた。

 目の前には茶色い肌のエルフが数名。シマナミスタンの黒髪エルフ達だ。身ぎれいで垢とほこりの嫌なにおいがしないのは、ゾウズジャヤのエルフだからではなかった。

 馬の体臭や鞍のにおいが濃く漂っている。彼等は騎乗を得意とするソゴプールのエルフ達だ。部屋の中にいるリブに悟られぬよう、彼等は結界を張っていた。

「首尾はどうだ?」
「はい。エチウのパラッツォ教徒達は西の岬に集めております」
「我らソゴプールのエルフが100名。他にクボーニコフから、オーガとハーフエルフの戦士を20名ずつ手配いたしましたゆえ、仕損じる事はないでしょう」
「クボーニコフも陸戦隊の上陸準備が完了。ホーデンエーネンの別働部隊も北の森で整えております定刻になれば、予定通りに行いたいと思いますがいかがでしょう?」
「うむ……」

 和議の後の騙し討ち。これはそもそも、イズヴァルトが来る前から計画していたものだ。

 カシバフェルト公は考え込み、待て、と皆に呼び掛けた。イズヴァルトとの約束がある。作戦は中止しよう。

「掃討は別の日に改めよう。一応だが岬に向かったエチウ人達は船で行けるところまで運んでやってくれ」
「よろしいので? 近衛騎士団の他の将軍がたはどうしても、この機会を逃したくないとおっしゃっておりましたが?」
「栄光あるホーデンエーネンは、この様なやり方でせずとも、勝利を収められると伝えておいて欲しい」

 私は眠る。そう言ってカシバフェルト公は部屋に戻って行った。すやすやと眠るリブを背後から抱き閉め、潤沢なヴァギナに突き入れて再開する。

 中の様子を気配で感じ取ったソゴプールのエルフらは、地元のお国言葉で陰口を叩いた。

「のんきなもんやで。叱られるのはカシバフェルトさんの方やで」
「ちょっと待ってってそないなことゆうとるけど、他の将軍さまはせわしないのが多いから、もうすぐ始まるやろなあ」
「ま、ぼくらは仲間の報告を淡々と伝えればエエだけの話や。とりあえずお馬を走らせて暇つぶしとこ。な?」

 彼等が呆れて語り合っていた同じ頃、西の岬では既に首狩りが始まっていた。指揮をとるホーデンエーネンの武将とクボーニコフの海将が命じた。

「男達は皆殺し。女らは捕えて犯した後に奴婢とする! かかれ!」

 ホーデンエーネン軍とクボーニコフ軍が殺到した。パラッツォ教軍はすっかり油断していた。数が多いだけでその実弱兵ばかり。半分が非力な女兵士であったのもよろしくなかった。

 指揮官らが声をあげ、方円陣で迎え撃った。けれども先手を務める亜人たちの猛攻を受け、陣形はたちまち瓦解。

 混戦が始まった。パラッツォ教軍は数にものを言わせて弓矢や投石などで戦うのは得意だったが、白兵戦は苦手だった。

 捕えた女は物にしていいとの通達でホーデンエーネンとクボーニコフの兵は躍起になった。股間に貯まっていた不満を解消したいが為に果敢になった。

 激戦が繰り広げられたが、パラッツォ教軍は押し返せなかった。男達は残らず首を落とされた。

 女らは激しく抵抗して勇敢に戦って死んだ者以外、獣欲の餌食となった。泣き叫ぶ女らをその場で犯す兵士達の叫び声は無欠の万能感に満ちていた。

 その響きはまさに、この世に生まれ出た戦士達の生命賛歌であった。いや、戦いに勝った男達のものかもしれない。奪い、殺し、犯し、産ませる。人はそうやって歴史を紡いできた。そう論ずる様な祈りの歌。

 首を斬られ、血を流しながら地に伏すパラッツォ教徒らの屍も、まだ動いていた頃は神に感謝し祈って生きて来た。

 ただ、戦いと奪い合いにおいては、ホーデンエーネン軍やクボーニコフ軍のほうが長じていた。それだけである。
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