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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』
01 エレクトラの説得 (青年編第二十二回の本当の続き。)
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※ここからは第三部『カツランダルク戦記』の序段階のエピソードとなります。聖騎士イズヴァルトの伝説の第三部、青年編の第二十二回から、第二十三回までのエピソードの続き。『語り部役』たるギルバート=カツランダルクも知らないか握りつぶされたお話が続きます。
サーガでは描かれなかった『本当の物語』となるのでご注意ください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ホーデンエーネン王国を裏切り、王となれ。魅惑というよりも劇毒の様なエレクトラの論に皆が凍り付いてた。
「……まかりならんでござるよ、そんな野望などは」
今はエルフの村に住まいを置いているが、そもそもはホーデンエーネンの家臣。聖騎士団の一員ゆえにかような話に乗ることはできない、とイズヴァルトは返した。
「野望? あっしにはこれが、キンキ大陸の平和に手っ取り早くつながる、一番の方法だと思うんですけどねぇ……」
エレクトラはホーデンエーネンの事について調べ上げていた。イズヴァルトの人気は本当に高い。独立した国が無理でも、北部の大総督として抜擢されるのではなかろうかと思っている。
「国王なんて飾りですよ、だんな。あくまでそこに住む皆さんにとっての良い政治をするだけ。北キンキを取ったら大陸制覇とか訳の分からんことをやらなきゃいいんでさぁ」
イズヴァルトをいただく王国をどんなものにしたいか、エレクトラは語った。宗教や人種の差別無く、誰もが安んじて暮せる大きく豊かな国。
「決して何かに偏らない、度量の大きなお方がこそが為せる王国でさぁ。イズヴァルトさんならきっと、それができるかもしれねえですよ?」
「ほう。王道楽土、五族協和の新天地……満州国の再現か、藤本峰子?」
問いかけたのはシゲニウスだ。満州国。そのスローガンでもって大日本帝国によって建てられた満州族の王国。しかし実態は日本の傀儡政権だった。
「おあいにくだな。満州国は僕も詳しいよ。実態は日本の植民地だった。決して元いた人々を奴隷の様に扱わなかったけれど、あれのせいで日本は狂ったんだ。満州という身の丈以上のものを得たからさ」
その後は中国大陸をものにしようと南に進軍し、次々と傀儡の国々を打ち立てた。その結果どうなったか。増長しすぎ、戦線を拡大しすぎて滅んだのだ。大日本帝国は。
「それは、マイヤが語ってくれた話でもござるな」
「そうだよ、イズヴァルト。藤本峰子の話には乗るな。きっと身を滅ぼすだろう。サガミニアぐらいならいいとは思うけど、でもキンキ大陸北部となると……」
「いえいえ。サガミニアの王になるよりかはキンキ大陸の北で国を作ったほうがいいでさぁ。サガミニアは半ばエルフのみなさんが治めている様なもんですからねえ」
「前世でお前が果たせなかった夢を人になすりつけるな、藤本峰子! ソビエトと日本どころか、中国共産党のスパイでもあったお前の考えなどわかっている。ホーデンエーネン王国の国力を半減させたいつもりだろうが!」
シゲニウスが剣を抜き、エレクトラに切っ先を向けた。今度はイズヴァルトが諌止する役目になった。落ち着くでござるよ。もっと話を聞いてみる事に致そう。
「しかしでござる。カントニアにいてキンキ大陸の話を、なにゆえそこまで詳しくご存じでござるか?」
「情報収集はあっしの得意分野でしてね。このカントニアに情報交換のネットワークがあるんでさぁ」
「ねっとわーく、でござるか?」
「とどのつまりは情報網という意味合いだよ、イズヴァルト」
「さ、さようでござったか……」
外国語どころか、違う世界の言語が飛び交っていて頭が混乱してくる。イズヴァルトは頭の中を必死に整理しながらエレクトラに話を続けさせた。
「それからですが、中部のアジールもそろそろまずい。モナファン海賊団にいるクリスぼっちゃんの話によりゃ……」
「そういえば……クリスどのは貴殿の親戚でござったな?」
「えっへへへ。話が早い。クリスぼっちゃんとも最近手紙をやり取りするようになったんでさぁ。で、話によるとパラッツォ教団は、北の海賊団を味方につけて航路を妨害し始めたそうですねえ」
北部の陸の戦いは劣勢。更には海までもが向こうのものとなりつつある。ホーデンエーネンは圧されている。交易が滞り始め、ホーデンエーネンは徐々に疲弊が始まっていた。
さて、そこがエレクトラの目の付け所だ。
「北部ホーデンエーネンは民間では割合と、パラッツォ教徒との宥和がなされているみたいです」
「うむ。百年近く前からそんな感じだと聞いたことがあるでござるよ?」
「北部諸侯の皆様も、基本的には見て見ぬふりを務めたいそうで。けど、致し方なく『ナントブルグ』と『マハラ教団』のご意向に従わざるをえない、みたいですねえ」
ホーデンエーネンのマハラ教団は、やや独特だ。基本はスオニアにある総本山の指示を受けて動いているが、やや独立した動きを見せている。
異教徒への排斥を、ことさら強く王家に訴えていた。これは総本山の考えではなかった。世俗の政治への強い関与を目論んでいた。
教団の高位の聖職者は躍起だった。娘や孫娘を貴族の御曹司の妻や妾として嫁がせる。もう数百年もこの状態だ。
歴代の国王の中にはマハラ教の聖職者の娘が母だったり、側室だったりすることもあった。それぐらいにマハラ教は王国とべったりだったのだ。それと、王国の南部には敬虔なマハラ教徒が多かった。
「ゆえに、パラッツォ教団が必要以上にいじめられている、というわけにもなっているんですよ」
「そ、それはそうでござるが……」
「そこなんですよ、イズヴァルトさんが王様になったほうがいい理由ってのがね……」
エレクトラはイズヴァルトの目を凝視した。こうささやく。
「だんなの御母堂さまが、あの教団の出身者ってのもご存じですけどね」
「……!」
そこまで調べ上げていたのか。有名な話ですよ、イズヴァルトさん。西の小国スオニアだが、そこのキッカワンテスといえば名門の中の名門。
「セシリア=セーニャ=キッカワンテス。イズヴァルトさんのお母上様のご本名でしたっけねえ?」
「エレクトラどの!」
「……本当なのか?」
信じられない、といった顔でシゲニウスはイズヴァルトを見ていた。キッカワンテス家といえばサイゴークの覇王、アルグレイブの暗黒卿の大陸統一を、説得のみで押しとどめさせた姫を祖としていることは、カントニアでも有名な話だ。
「君はスオニア王家の流れをくんでいるのか! だったら北ホーデンエーネンでもサイゴークでも、自分の王国を作れるぐらいの血統だということなんだな!」
「そんなのはとっくに捨てたものでござるよ!」
そのことには絶対に触れてほしくなかった。イズヴァルトは嘆いていた。母セーニャにとってキッカワンテスは忌むべき実家だ。それから預けられて巫女として過ごした、マハラの総本山もである。
「母上は、母上は好きこのんで……」
「でもイズヴァルトさん。その事実は大いに利用するべきなんでさぁ」
「エレクトラどの!」
イズヴァルトが怒りを発する。しかしエレクトラはやめない、と返した。セシリア=セーニャ=キッカワンテスの血統を用いれば、マハラ教団だって牽制できる。キッカワンテス家が強力な後ろ盾になってくれるだろう。
「マハラに手出しさせないようにして、かつパラッツォとは仲良くする。但し、べったりになるのはいけませんぜ。信教の自由だけ認めて政教分離に徹するんです」
パラッツォとは中立を貫くだけでいい。迫害せず、教徒らが差別されずに暮せる国にすれば、コーザ=ストーンマウントは襲って来ない。
「そんな確約がどこにござるか!」
「イーガがそれですよ。あそこはパラッツォのみなさんを殺す様な領主さまや騎士さまはおられない。移民には同じように権利を与えている。ご存じじゃないですかね?」
その話は真実だ。まだ北東部ではあるが、ホーデンエーネン王国の迫害から逃れたパラッツォ教徒がイーガに逃れていた。
「……ここからは、真面目に説きふせさせてもらいますよ、イズヴァルト=シギサンシュタウフェン?」
エレクトラの声色が急に威厳を持った。彼女は姿勢を正し、イズヴァルトの目をまっすぐに見て言った。
「イズヴァルトさん、よく聞きなさい。北部諸侯はそもそもがホーデンエーネンの家来じゃなかったんですよ。それぞれが、1つの小さな国を作っていたのです」
「でもでござる。それは大昔の……」
「200年だか300年じゃ、そう簡単に心変わりしませんよ。彼等はしぶしぶホーデンエーネン王家に従っているだけ。そこに住む人たちも。何かあると北部で内乱が多発するのは、どう言う事かご存じではございませんかね?」
理由はこうだ。北部は南部に比べて税金が重い。それだけでなかった。北部諸侯は過剰な『忠義』を、王家や南部の大諸侯らに求められた。
「北は豊かになれるのに、銭も食い物も南に奪われている。南のやつらは自分達のことばかり考えている。挙句の果てには一度も成功した試しが無い、アカサカチハヤ攻めやイーガの攻略。こんなのが永遠に続くはずがありゃしませんよ、そろそろ転換の時なのです」
エレクトラはずばりと言った。イズヴァルトこそがキンキ大陸北部の人々を救う救世主となりうるだろう。
広く大きく豊かな国を作り、侵略と謀略とで身を焼き続ける、ナントブルグのホーデンエーネンの狂った時代を終わらせべきだ。
度が過ぎた広大な領土を得ているからこそ、ホーデンエーネン王国は愚かな行いを繰り返してばかりなのだ。
「今こそ立つべきでしょう。さいわい、エルフの皆さんやこのカントニアの各王家も、イズヴァルトさんをご存じ。力を貸してくれるかもしれません」
「ほざけ! 拙者はさようなことをせぬ!」
「……じゃあ、こんなのはどうです?」
エレクトラは目を見開いた。透き通る水色の瞳であった。
「マイヤさんを北キンキの女王にするっていうのは?」
マイヤを北部の王国の女王に! 恋に破れたとはいえ、未だマイヤを強く思うイズヴァルトにとって、なんと甘く聞こえた策謀か!
「……女王に。マイヤを?」
「そう。女王にです。もし、スオニアのキッカワンテス家という他国の大貴族もつばを飲み込む家柄では足りないのなら、それならいっそマイヤさんを奪い返しなさい。そして王冠を彼女の額に載せてあげるのです。本当の夫として」
「本当の夫? ばかな! 今やマイヤは……貴殿の子息たるマルティン王子の愛妾ではござらぬか?」
拙者は知っている。エレクトラ=ガモーコヴィッツ。貴殿こそがイーガ王太子マルティン=トードヴェル=キョウゴクマイヤーの実母。
「そんな人物の妄言など聞いていられる訳がなかろう! まさに甘言でござる!」
「甘言だの戯言だの考えてから申しなさい! 聖騎士イズヴァルト。今の時代にあなたの様な英雄が梟雄となり、天下万民のための国を打ち立てるのです!」
その剣こそが何よりの証拠。暗黒卿の遺品、『ソード=オブ=ブロント』こそが覇王の宿命を持つ者の為の、王者の剣である、と。
「イズヴァルト! もはやキンキ大陸は新たな局面に向かいつつあります。ホーデンエーネンは老い始め、かつての勢いがなくなりつつある!」
「痴れたことを!」
「イーガはあれ以上大きくはなれない。大陸の端にあるという立地的な弱点もある。北部諸侯が不満を抱き、イーガに鞍替えしようともアカサカチハヤが邪魔をして上手く治める事は無理でしょう! ゆえに、王国を作るのです! 大きな、大きな国を!」
その国のあるじにマイヤを。イズヴァルトは後見役でいい。傍で聞いていたシゲニウスはわからなかった。
「……カツランダルク? なんだ、それは?」
「キンキ大陸戦国時代のナントブルグ一帯にあった国の王家の名前ですよ……前世では何てお名前でしたっけねえ?」
「忘れたか、藤本峰子? 渋川啓介だ。関東軍参謀本部第二部の渋川啓介。最終的な階級は大尉だよ」
「ふふ。本当は『辻機関』の工作員だったんじゃあ? 特務機関と共産スパイの仇敵の名前を忘れてませんかねえ?」
「……忘れちゃいない。蒋介石との和平工作を踏みつぶしやがって。ソビエトの淫らな混血児め」
シゲニウスは汚く罵ったが、エレクトラは動じなかった。エレクトラの前世、藤本峰子の母親はロシア革命から逃げてきた貴族の娘だった。とある好色な日本人実業家に飼われ、16の歳で峰子を産んだという。
「そのカツランダルクに、ホーデンエーネン王家の血が混じっている」
「……聞いたでござるよ。1年前に。イーガで」
「つまりはですよ、イズヴァルトさんの奥方のマイヤさんと、その姉のトーリさんならば錦の御旗となる資格がある……これについては急がねばなりません」
こんな話を仕入れたとエレクトラは言った。セイン王の側近や廷臣らは、トーリ=カツランダルクを国王の正妻に据え置こうと画策しているらしい。
「な……に……!」
「これはあくまで計画段階だそうです。カツランダルク御三家が強く推しているらしいですよ、この案は。あの人たちも王族みたいなものですが、どうやら本当の王家に入りたがっているようですね」
トーリと国王セインとの婚儀が成れば、今度は次の段階としてマイヤを何らかの方法でホーデンエーネンに呼び戻し、そのままセインの第二夫人にするかもしれない。
そうなれば錦の御旗として担ぎにくくなる。その前にマイヤだけでも手中におさめ、この建国の計画に担ぎ上げたい。エレクトラはそう告げた。
「し、しかしマイヤは今……」
「気にすることはありません。マルティンぼうやにはもう子供がいます。その子だけでもイーガにとどめてくれれば、母である私としてはなにも言いませんよ」
「エレクトラどのではなく、マルティンどののお心がどうかと気になっているのでござるよ」
あの場、イズヴァルトは確かにマイヤの意志を聞いた。
「もうマルティン王子と一緒にいたい。イズヴァルトとはもうお別れだよ?」
馬車による事故で両腕両脚を喪い、お腹の赤子も亡くしてしまった。そんな辛い出来事があったから、彼女は自分を遠ざけたのだろう、ともイズヴァルトは考えていた。
マルティン王子は、彼女を救ってくれたのだろう。ああそうだ。だからこそマイヤは自分を捨てて、マルティンにすがったのだ。
「マイヤは馬車の事故で身体を……」
「違います」
「なに?」
「それはあくまで、イーガ王国の公式発表。真実ではございません。イズヴァルトさん、本当のところは……」
エレクトラは知っている限りを全て話した。元夫であるアドルフが懸想し、暴走して為した事。3年間ずっとマイヤを囲い物にしたのだと。
「……で、ござるか?」
イズヴァルトの冷え切った声。
「はい。これはあくまで、知っている限りですが」
「決めたでござる。拙者はマイヤを奪い返すでござるよ……よくぞお申しくだされた、エレクトラどの」
敵対もしてかつ捕虜として目の前にいるエレクトラだが、よく申されたとイズヴァルトは思った。彼女も覚悟はできているのだろう。亡き元夫の、息子の落とし前をつける為に。
肚は決まった。イズヴァルトは口にこそ出さなかったがこう思った。奪還の折にマルティン王子と、マイヤが産んだ赤ん坊を討ち滅ぼしてやる。
この女を絶望させ、嘆かせた後で斬り殺してやる。それでマイヤの悲しみが癒える事は無いだろう。むしろ、産んだ子を殺されて恨みに思うはずである。
□ □ □ □ □
コーガでのこの一幕と同じ頃、いいや、それよりもう少し前。イーガ東部にあるその港町の、パラッツォ教徒ばかりが住む内陸側の北の街区での出来事である。
その日の夜明け前である。まだ町は寝静まっていた。とはいえこんな朝早くに起きて、子供達が寝ている横で本日最初のセックスに明け暮れる夫婦もちらほらといたが。
それは突然起こった。各家屋の中に何かが次々と投げ込まれ、瞬く間に燃え上がった。炎は家の中にいた者らを残らず焼き払った。
悲鳴も物音も無かった。ただただ次々と投げ込まれては焼くだけ。その処理は驚くほど手早く、淡々と行われていった。
中には全身を焼かれながらも家から出た者もいた。しかし外に出た瞬間、刃が急所を貫いた。子供にも容赦無かった。
夜明けになると、街区の全てが炎に包まれていた。港町の他の地区の者達は、その時になってようやく気が付いた。
鐘が鳴り、消防の任に就いた兵士や魔道士達が馬に乗って向かって行った。その時には既に襲撃者の姿は無かった。
この事件の2日後。ホーデンエーネン中南部にあるナガオカッツェ公領のヨーシハルトスの館にて。
大公・ヨーシハルトスは来訪した1人の若者の顔を見た。カツランダルク党のうち1つ、ソーロー家の当主のケノービである。
「作戦は大成功だ。ゾウズジャヤのシャジとマァジによれば、町の住民全員を殺しつくしたそうだ」
「おめでとうございます。これでイーガは申し開きが出来なくなりましたね?」
「宣伝の手も打ってある。アヅチハーゲンにイーガ王の仕業だと広める者を向かわせた。コーザは騙せんだろうが、教団幹部らは信じるだろう」
若者はテーブルに置いてある焼き菓子を手に取り取った。ヨーシハルトスの手作りだが上手に焼けていてうまかった。
「なんという美味! 名のある職人に作らせたかと思う程でございますよ!」
「ふふ。シャジとマァジに学んだのだ。ゾウズジャヤのエルフは焼き菓子も得意だからな」
「サトウキビがございますからな。さて、私からも……」
ホーデンエーネンの廷臣のうち何名かが計画しているトーリ姫とセインの婚姻の事と、『おしゃぶり姫』の拉致奪還計画について。
廷臣らは国王とトーリの長子・オルフレッドの仲がとても良い事を利用し、王の養子にしようと謀っている。
アスカウ公でもあるトーリから物言いが来るだろうが、強引に取り決める。さらにトーリは築城での縄張り決めもなかなか得意な才人でもあると知った。
「あの美貌。王家に近い血筋ということで、陛下の正妻にして欲しいそうです。陛下は笑ってはねつけておりますがね」
「知っておる。何なら、俺の妾にならどうだ?」
「……難しいところですな。それともう一つ。マイヤ様もいずれは陛下の第二夫人に、と考えているそうですよ」
イズヴァルトはフラれたのだから気にしなくていいだろう。拉致奪還計画はトーリを国王の正妻にと願っていた廷臣らから持ち掛けられた。
「で、マイヤのほうの首尾は?」
「コーヅケーニッヒに潜入させました。弟のアナキンに手伝わせております。もっとも、あいつはイズヴァルトをイーガに定住させる計画だと信じているようですがね」
ケノービの弟・アナキン=スカルファッカーはまだ、イーガの魔道学問所で学んでいた。そろそろホーデンエーネンに帰らせたい。自分の手としてやって欲しい事がいっぱいあったからだ。
「マイヤの奪取はいつぐらいになるだろうな?」
「早くても今年の9月には。きっとホーデンエーネンの皆に喜んで迎え入れられる事でしょう。ふふふ……」
ケノービはほくそ笑みながら焼き菓子をもう1枚。うまい。ナガオカッツェ公にこの様な才能があったとは。
そのホーデンエーネンであるが、今やマイヤの人気はがた落ちだ。理由はイズヴァルトを振り、マルティン王子に嫁いでなおかつ子供も産んだからであった。あの『おしゃぶり姫』は苦労するに違いない。
サーガでは描かれなかった『本当の物語』となるのでご注意ください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ホーデンエーネン王国を裏切り、王となれ。魅惑というよりも劇毒の様なエレクトラの論に皆が凍り付いてた。
「……まかりならんでござるよ、そんな野望などは」
今はエルフの村に住まいを置いているが、そもそもはホーデンエーネンの家臣。聖騎士団の一員ゆえにかような話に乗ることはできない、とイズヴァルトは返した。
「野望? あっしにはこれが、キンキ大陸の平和に手っ取り早くつながる、一番の方法だと思うんですけどねぇ……」
エレクトラはホーデンエーネンの事について調べ上げていた。イズヴァルトの人気は本当に高い。独立した国が無理でも、北部の大総督として抜擢されるのではなかろうかと思っている。
「国王なんて飾りですよ、だんな。あくまでそこに住む皆さんにとっての良い政治をするだけ。北キンキを取ったら大陸制覇とか訳の分からんことをやらなきゃいいんでさぁ」
イズヴァルトをいただく王国をどんなものにしたいか、エレクトラは語った。宗教や人種の差別無く、誰もが安んじて暮せる大きく豊かな国。
「決して何かに偏らない、度量の大きなお方がこそが為せる王国でさぁ。イズヴァルトさんならきっと、それができるかもしれねえですよ?」
「ほう。王道楽土、五族協和の新天地……満州国の再現か、藤本峰子?」
問いかけたのはシゲニウスだ。満州国。そのスローガンでもって大日本帝国によって建てられた満州族の王国。しかし実態は日本の傀儡政権だった。
「おあいにくだな。満州国は僕も詳しいよ。実態は日本の植民地だった。決して元いた人々を奴隷の様に扱わなかったけれど、あれのせいで日本は狂ったんだ。満州という身の丈以上のものを得たからさ」
その後は中国大陸をものにしようと南に進軍し、次々と傀儡の国々を打ち立てた。その結果どうなったか。増長しすぎ、戦線を拡大しすぎて滅んだのだ。大日本帝国は。
「それは、マイヤが語ってくれた話でもござるな」
「そうだよ、イズヴァルト。藤本峰子の話には乗るな。きっと身を滅ぼすだろう。サガミニアぐらいならいいとは思うけど、でもキンキ大陸北部となると……」
「いえいえ。サガミニアの王になるよりかはキンキ大陸の北で国を作ったほうがいいでさぁ。サガミニアは半ばエルフのみなさんが治めている様なもんですからねえ」
「前世でお前が果たせなかった夢を人になすりつけるな、藤本峰子! ソビエトと日本どころか、中国共産党のスパイでもあったお前の考えなどわかっている。ホーデンエーネン王国の国力を半減させたいつもりだろうが!」
シゲニウスが剣を抜き、エレクトラに切っ先を向けた。今度はイズヴァルトが諌止する役目になった。落ち着くでござるよ。もっと話を聞いてみる事に致そう。
「しかしでござる。カントニアにいてキンキ大陸の話を、なにゆえそこまで詳しくご存じでござるか?」
「情報収集はあっしの得意分野でしてね。このカントニアに情報交換のネットワークがあるんでさぁ」
「ねっとわーく、でござるか?」
「とどのつまりは情報網という意味合いだよ、イズヴァルト」
「さ、さようでござったか……」
外国語どころか、違う世界の言語が飛び交っていて頭が混乱してくる。イズヴァルトは頭の中を必死に整理しながらエレクトラに話を続けさせた。
「それからですが、中部のアジールもそろそろまずい。モナファン海賊団にいるクリスぼっちゃんの話によりゃ……」
「そういえば……クリスどのは貴殿の親戚でござったな?」
「えっへへへ。話が早い。クリスぼっちゃんとも最近手紙をやり取りするようになったんでさぁ。で、話によるとパラッツォ教団は、北の海賊団を味方につけて航路を妨害し始めたそうですねえ」
北部の陸の戦いは劣勢。更には海までもが向こうのものとなりつつある。ホーデンエーネンは圧されている。交易が滞り始め、ホーデンエーネンは徐々に疲弊が始まっていた。
さて、そこがエレクトラの目の付け所だ。
「北部ホーデンエーネンは民間では割合と、パラッツォ教徒との宥和がなされているみたいです」
「うむ。百年近く前からそんな感じだと聞いたことがあるでござるよ?」
「北部諸侯の皆様も、基本的には見て見ぬふりを務めたいそうで。けど、致し方なく『ナントブルグ』と『マハラ教団』のご意向に従わざるをえない、みたいですねえ」
ホーデンエーネンのマハラ教団は、やや独特だ。基本はスオニアにある総本山の指示を受けて動いているが、やや独立した動きを見せている。
異教徒への排斥を、ことさら強く王家に訴えていた。これは総本山の考えではなかった。世俗の政治への強い関与を目論んでいた。
教団の高位の聖職者は躍起だった。娘や孫娘を貴族の御曹司の妻や妾として嫁がせる。もう数百年もこの状態だ。
歴代の国王の中にはマハラ教の聖職者の娘が母だったり、側室だったりすることもあった。それぐらいにマハラ教は王国とべったりだったのだ。それと、王国の南部には敬虔なマハラ教徒が多かった。
「ゆえに、パラッツォ教団が必要以上にいじめられている、というわけにもなっているんですよ」
「そ、それはそうでござるが……」
「そこなんですよ、イズヴァルトさんが王様になったほうがいい理由ってのがね……」
エレクトラはイズヴァルトの目を凝視した。こうささやく。
「だんなの御母堂さまが、あの教団の出身者ってのもご存じですけどね」
「……!」
そこまで調べ上げていたのか。有名な話ですよ、イズヴァルトさん。西の小国スオニアだが、そこのキッカワンテスといえば名門の中の名門。
「セシリア=セーニャ=キッカワンテス。イズヴァルトさんのお母上様のご本名でしたっけねえ?」
「エレクトラどの!」
「……本当なのか?」
信じられない、といった顔でシゲニウスはイズヴァルトを見ていた。キッカワンテス家といえばサイゴークの覇王、アルグレイブの暗黒卿の大陸統一を、説得のみで押しとどめさせた姫を祖としていることは、カントニアでも有名な話だ。
「君はスオニア王家の流れをくんでいるのか! だったら北ホーデンエーネンでもサイゴークでも、自分の王国を作れるぐらいの血統だということなんだな!」
「そんなのはとっくに捨てたものでござるよ!」
そのことには絶対に触れてほしくなかった。イズヴァルトは嘆いていた。母セーニャにとってキッカワンテスは忌むべき実家だ。それから預けられて巫女として過ごした、マハラの総本山もである。
「母上は、母上は好きこのんで……」
「でもイズヴァルトさん。その事実は大いに利用するべきなんでさぁ」
「エレクトラどの!」
イズヴァルトが怒りを発する。しかしエレクトラはやめない、と返した。セシリア=セーニャ=キッカワンテスの血統を用いれば、マハラ教団だって牽制できる。キッカワンテス家が強力な後ろ盾になってくれるだろう。
「マハラに手出しさせないようにして、かつパラッツォとは仲良くする。但し、べったりになるのはいけませんぜ。信教の自由だけ認めて政教分離に徹するんです」
パラッツォとは中立を貫くだけでいい。迫害せず、教徒らが差別されずに暮せる国にすれば、コーザ=ストーンマウントは襲って来ない。
「そんな確約がどこにござるか!」
「イーガがそれですよ。あそこはパラッツォのみなさんを殺す様な領主さまや騎士さまはおられない。移民には同じように権利を与えている。ご存じじゃないですかね?」
その話は真実だ。まだ北東部ではあるが、ホーデンエーネン王国の迫害から逃れたパラッツォ教徒がイーガに逃れていた。
「……ここからは、真面目に説きふせさせてもらいますよ、イズヴァルト=シギサンシュタウフェン?」
エレクトラの声色が急に威厳を持った。彼女は姿勢を正し、イズヴァルトの目をまっすぐに見て言った。
「イズヴァルトさん、よく聞きなさい。北部諸侯はそもそもがホーデンエーネンの家来じゃなかったんですよ。それぞれが、1つの小さな国を作っていたのです」
「でもでござる。それは大昔の……」
「200年だか300年じゃ、そう簡単に心変わりしませんよ。彼等はしぶしぶホーデンエーネン王家に従っているだけ。そこに住む人たちも。何かあると北部で内乱が多発するのは、どう言う事かご存じではございませんかね?」
理由はこうだ。北部は南部に比べて税金が重い。それだけでなかった。北部諸侯は過剰な『忠義』を、王家や南部の大諸侯らに求められた。
「北は豊かになれるのに、銭も食い物も南に奪われている。南のやつらは自分達のことばかり考えている。挙句の果てには一度も成功した試しが無い、アカサカチハヤ攻めやイーガの攻略。こんなのが永遠に続くはずがありゃしませんよ、そろそろ転換の時なのです」
エレクトラはずばりと言った。イズヴァルトこそがキンキ大陸北部の人々を救う救世主となりうるだろう。
広く大きく豊かな国を作り、侵略と謀略とで身を焼き続ける、ナントブルグのホーデンエーネンの狂った時代を終わらせべきだ。
度が過ぎた広大な領土を得ているからこそ、ホーデンエーネン王国は愚かな行いを繰り返してばかりなのだ。
「今こそ立つべきでしょう。さいわい、エルフの皆さんやこのカントニアの各王家も、イズヴァルトさんをご存じ。力を貸してくれるかもしれません」
「ほざけ! 拙者はさようなことをせぬ!」
「……じゃあ、こんなのはどうです?」
エレクトラは目を見開いた。透き通る水色の瞳であった。
「マイヤさんを北キンキの女王にするっていうのは?」
マイヤを北部の王国の女王に! 恋に破れたとはいえ、未だマイヤを強く思うイズヴァルトにとって、なんと甘く聞こえた策謀か!
「……女王に。マイヤを?」
「そう。女王にです。もし、スオニアのキッカワンテス家という他国の大貴族もつばを飲み込む家柄では足りないのなら、それならいっそマイヤさんを奪い返しなさい。そして王冠を彼女の額に載せてあげるのです。本当の夫として」
「本当の夫? ばかな! 今やマイヤは……貴殿の子息たるマルティン王子の愛妾ではござらぬか?」
拙者は知っている。エレクトラ=ガモーコヴィッツ。貴殿こそがイーガ王太子マルティン=トードヴェル=キョウゴクマイヤーの実母。
「そんな人物の妄言など聞いていられる訳がなかろう! まさに甘言でござる!」
「甘言だの戯言だの考えてから申しなさい! 聖騎士イズヴァルト。今の時代にあなたの様な英雄が梟雄となり、天下万民のための国を打ち立てるのです!」
その剣こそが何よりの証拠。暗黒卿の遺品、『ソード=オブ=ブロント』こそが覇王の宿命を持つ者の為の、王者の剣である、と。
「イズヴァルト! もはやキンキ大陸は新たな局面に向かいつつあります。ホーデンエーネンは老い始め、かつての勢いがなくなりつつある!」
「痴れたことを!」
「イーガはあれ以上大きくはなれない。大陸の端にあるという立地的な弱点もある。北部諸侯が不満を抱き、イーガに鞍替えしようともアカサカチハヤが邪魔をして上手く治める事は無理でしょう! ゆえに、王国を作るのです! 大きな、大きな国を!」
その国のあるじにマイヤを。イズヴァルトは後見役でいい。傍で聞いていたシゲニウスはわからなかった。
「……カツランダルク? なんだ、それは?」
「キンキ大陸戦国時代のナントブルグ一帯にあった国の王家の名前ですよ……前世では何てお名前でしたっけねえ?」
「忘れたか、藤本峰子? 渋川啓介だ。関東軍参謀本部第二部の渋川啓介。最終的な階級は大尉だよ」
「ふふ。本当は『辻機関』の工作員だったんじゃあ? 特務機関と共産スパイの仇敵の名前を忘れてませんかねえ?」
「……忘れちゃいない。蒋介石との和平工作を踏みつぶしやがって。ソビエトの淫らな混血児め」
シゲニウスは汚く罵ったが、エレクトラは動じなかった。エレクトラの前世、藤本峰子の母親はロシア革命から逃げてきた貴族の娘だった。とある好色な日本人実業家に飼われ、16の歳で峰子を産んだという。
「そのカツランダルクに、ホーデンエーネン王家の血が混じっている」
「……聞いたでござるよ。1年前に。イーガで」
「つまりはですよ、イズヴァルトさんの奥方のマイヤさんと、その姉のトーリさんならば錦の御旗となる資格がある……これについては急がねばなりません」
こんな話を仕入れたとエレクトラは言った。セイン王の側近や廷臣らは、トーリ=カツランダルクを国王の正妻に据え置こうと画策しているらしい。
「な……に……!」
「これはあくまで計画段階だそうです。カツランダルク御三家が強く推しているらしいですよ、この案は。あの人たちも王族みたいなものですが、どうやら本当の王家に入りたがっているようですね」
トーリと国王セインとの婚儀が成れば、今度は次の段階としてマイヤを何らかの方法でホーデンエーネンに呼び戻し、そのままセインの第二夫人にするかもしれない。
そうなれば錦の御旗として担ぎにくくなる。その前にマイヤだけでも手中におさめ、この建国の計画に担ぎ上げたい。エレクトラはそう告げた。
「し、しかしマイヤは今……」
「気にすることはありません。マルティンぼうやにはもう子供がいます。その子だけでもイーガにとどめてくれれば、母である私としてはなにも言いませんよ」
「エレクトラどのではなく、マルティンどののお心がどうかと気になっているのでござるよ」
あの場、イズヴァルトは確かにマイヤの意志を聞いた。
「もうマルティン王子と一緒にいたい。イズヴァルトとはもうお別れだよ?」
馬車による事故で両腕両脚を喪い、お腹の赤子も亡くしてしまった。そんな辛い出来事があったから、彼女は自分を遠ざけたのだろう、ともイズヴァルトは考えていた。
マルティン王子は、彼女を救ってくれたのだろう。ああそうだ。だからこそマイヤは自分を捨てて、マルティンにすがったのだ。
「マイヤは馬車の事故で身体を……」
「違います」
「なに?」
「それはあくまで、イーガ王国の公式発表。真実ではございません。イズヴァルトさん、本当のところは……」
エレクトラは知っている限りを全て話した。元夫であるアドルフが懸想し、暴走して為した事。3年間ずっとマイヤを囲い物にしたのだと。
「……で、ござるか?」
イズヴァルトの冷え切った声。
「はい。これはあくまで、知っている限りですが」
「決めたでござる。拙者はマイヤを奪い返すでござるよ……よくぞお申しくだされた、エレクトラどの」
敵対もしてかつ捕虜として目の前にいるエレクトラだが、よく申されたとイズヴァルトは思った。彼女も覚悟はできているのだろう。亡き元夫の、息子の落とし前をつける為に。
肚は決まった。イズヴァルトは口にこそ出さなかったがこう思った。奪還の折にマルティン王子と、マイヤが産んだ赤ん坊を討ち滅ぼしてやる。
この女を絶望させ、嘆かせた後で斬り殺してやる。それでマイヤの悲しみが癒える事は無いだろう。むしろ、産んだ子を殺されて恨みに思うはずである。
□ □ □ □ □
コーガでのこの一幕と同じ頃、いいや、それよりもう少し前。イーガ東部にあるその港町の、パラッツォ教徒ばかりが住む内陸側の北の街区での出来事である。
その日の夜明け前である。まだ町は寝静まっていた。とはいえこんな朝早くに起きて、子供達が寝ている横で本日最初のセックスに明け暮れる夫婦もちらほらといたが。
それは突然起こった。各家屋の中に何かが次々と投げ込まれ、瞬く間に燃え上がった。炎は家の中にいた者らを残らず焼き払った。
悲鳴も物音も無かった。ただただ次々と投げ込まれては焼くだけ。その処理は驚くほど手早く、淡々と行われていった。
中には全身を焼かれながらも家から出た者もいた。しかし外に出た瞬間、刃が急所を貫いた。子供にも容赦無かった。
夜明けになると、街区の全てが炎に包まれていた。港町の他の地区の者達は、その時になってようやく気が付いた。
鐘が鳴り、消防の任に就いた兵士や魔道士達が馬に乗って向かって行った。その時には既に襲撃者の姿は無かった。
この事件の2日後。ホーデンエーネン中南部にあるナガオカッツェ公領のヨーシハルトスの館にて。
大公・ヨーシハルトスは来訪した1人の若者の顔を見た。カツランダルク党のうち1つ、ソーロー家の当主のケノービである。
「作戦は大成功だ。ゾウズジャヤのシャジとマァジによれば、町の住民全員を殺しつくしたそうだ」
「おめでとうございます。これでイーガは申し開きが出来なくなりましたね?」
「宣伝の手も打ってある。アヅチハーゲンにイーガ王の仕業だと広める者を向かわせた。コーザは騙せんだろうが、教団幹部らは信じるだろう」
若者はテーブルに置いてある焼き菓子を手に取り取った。ヨーシハルトスの手作りだが上手に焼けていてうまかった。
「なんという美味! 名のある職人に作らせたかと思う程でございますよ!」
「ふふ。シャジとマァジに学んだのだ。ゾウズジャヤのエルフは焼き菓子も得意だからな」
「サトウキビがございますからな。さて、私からも……」
ホーデンエーネンの廷臣のうち何名かが計画しているトーリ姫とセインの婚姻の事と、『おしゃぶり姫』の拉致奪還計画について。
廷臣らは国王とトーリの長子・オルフレッドの仲がとても良い事を利用し、王の養子にしようと謀っている。
アスカウ公でもあるトーリから物言いが来るだろうが、強引に取り決める。さらにトーリは築城での縄張り決めもなかなか得意な才人でもあると知った。
「あの美貌。王家に近い血筋ということで、陛下の正妻にして欲しいそうです。陛下は笑ってはねつけておりますがね」
「知っておる。何なら、俺の妾にならどうだ?」
「……難しいところですな。それともう一つ。マイヤ様もいずれは陛下の第二夫人に、と考えているそうですよ」
イズヴァルトはフラれたのだから気にしなくていいだろう。拉致奪還計画はトーリを国王の正妻にと願っていた廷臣らから持ち掛けられた。
「で、マイヤのほうの首尾は?」
「コーヅケーニッヒに潜入させました。弟のアナキンに手伝わせております。もっとも、あいつはイズヴァルトをイーガに定住させる計画だと信じているようですがね」
ケノービの弟・アナキン=スカルファッカーはまだ、イーガの魔道学問所で学んでいた。そろそろホーデンエーネンに帰らせたい。自分の手としてやって欲しい事がいっぱいあったからだ。
「マイヤの奪取はいつぐらいになるだろうな?」
「早くても今年の9月には。きっとホーデンエーネンの皆に喜んで迎え入れられる事でしょう。ふふふ……」
ケノービはほくそ笑みながら焼き菓子をもう1枚。うまい。ナガオカッツェ公にこの様な才能があったとは。
そのホーデンエーネンであるが、今やマイヤの人気はがた落ちだ。理由はイズヴァルトを振り、マルティン王子に嫁いでなおかつ子供も産んだからであった。あの『おしゃぶり姫』は苦労するに違いない。
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