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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)

60 姉妹

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 アドルフの蔵書はかなりのものだった。王子らしくイーガ国内に関する本や政治の本が目立っていたが、魔道に関する書物も多かった。

 治癒魔法を得意としていたがゆえに、医療の本や人体の構造についての書も。マルティンが言うには、お父様はここにある魔道書と医療書以外、それほど読んでいないはず。

 書物の一部分のつまみ食いはよくあることだ。小説はあまりなかった。魔道書以外はホーデンエーネンの本屋にも置いてありそうなものばかりだ。

 試しにドラッカーという著者の『マネジメント』という名前の書物を手に取った。懐かしい名前だと彼女は思った。前世でも読んだことがある本だ。妊娠中、夫の本棚に見つけて読んだことがあった。

 内容をまとめている抄訳版のようだが、文字がぎっしりと詰まっており読みごたえがあった。記憶とは違う事が書いてあったりもするが、だいたいは合っている様に思えた。

(うん。ホーデンエーネンの本屋さんで売っているのと違う。あっちはドラッカーという『高校やきう』の女子マネージャーのお話だったわ。どうにも小説ぽかったし。)

 小説もあちらの世界で読んだ事があった様な題名のものがあった。『細雪』とか『痴人の愛』とか『鍵』など。『金閣寺』にいたってはなんじゃこりゃ、とこの世界の者は思うに違いない。

 原作には無い、えぐい性描写が描かれている改ざん版ばかりだ。女性器の描写や性交の快感がこれでもか、というぐらいに克明に書かれていた。

(うん。アドルフは耽美派ということか。)

 前世の名作文学を汚しおって、けしからん。そんな風に茶化しながらマルティンに尋ねた。

「明日行く『禁書図書館』はどんな書物が置いてあるのでしょう?」
「あまり入ったことが無いから僕にはわからないよ……でもマレーネはよくあるみたい。えっちな本がたくさんある、と喜んでたよ」

 マレーネは父のアドルフに連れられて、その図書館に行っていたという。とにかくエッチな本が沢山あるらしい。好奇心が俄然わいた。

 翌日。王宮の敷地内にある禁書図書館に初めて入った。王家の者でも入館証が無いと入れ無い。そこの蔵書数は10万3000冊ほど。

 どの本も装丁などを見るとかなり古いとわかる。ぼろぼろにならない様に魔法で保護していた。禁書図書館には禁断の魔法や禁忌の歴史、恐ろしい兵器の設計書などが所狭しと並べられていた。

(す、すごい……)

 手に取った本をめくりながらマイヤは息を呑む。無職の青年が魔道士の妹に飲まされた薬で、可愛い女の子になるという小説だ。

 女の子の身体は男の子の100倍の感度だと嘘をつかれ、はじめてオナニーをするという場面を読む。クリトリスをくりくりくり。

「あーっ♥ あーっ♥ へっ、へんになるー♥」

 果てた。100倍は大仰だが最低でも7倍以上快感が続く、と書かれていた。そこまで凄いかどうかは個人差があると思うが、主人公にはサキュバスの血が流れているのだなと思えばマイヤも理解できる。

 手淫でおまんこいじいじをマスターした後は、今度は妹の友人らに絡まれて責め苦に喘ぐ。同性愛地獄に叩きこまれた青年は壊れてしまった。

 もちろんその展開が続いた後は、『異性』にナンパされて挿入される。処女貫通の後にどちゅどちゅと男性器で己の膣をこねられている最中の、女の子になった青年の台詞がこれだ。

「い、イキ苦しいの♥ いっちゃう♥ いくいくいくー♥ イキすぎぃー♥♥」

(男の子って女の子になると、こんなに受け身になっちゃうの?)

 まさか鈍感な膣で絶頂を覚えるとは。確かにヴァギナ開発の場面と大型の動くハリガタを挿れて悶える場面があったが、ここまで感じるのはサキュバスか亜人ぐらいなものだ。うん。きっとこの子はサキュバスの血が流れている設定だよ。

「マイヤさん……それ、マレーネが読んでましたよ」

 マルティンが横で言う。マレーネはこの変わった官能小説を熱心に読んだという。禁書図書館に置いてあるのは、女体についていろいろと間違った記述が多いから、らしい。

「あ、いや。あははは……マルティンさん。何かこう、面白い技術書とか無いかな。なんていうか、まだ商品化していないもののアイデアになる様な本とか」
「よくわからないけど、技術書の棚にはあるんじゃないかな」

 そこへ行くと、確かにそれはあった。『たぶれっとぱっと』と呼ばれる道具について記した書物だ。著者は300年前ぐらいの魔道士で転生人。前世では『てくにかるらいたー』という仕事をやっていたという。

「タブレットはその世界では、『りんご』と『ドロイドくん』という二大勢力によって支配された。そこに『ぴーしー』の覇者である『窓』が殴り込みをかけたが、せいぜいが小さな領土を得たぐらいであった……なんじゃこりゃ?」

 そんな出だしから始まる書物には、『たぶれっとぱっど』の構造と出来ることについて事細かに記されていた。数千もの書物を納め、音楽の記録も封じ込めて鳴らせることが出来て、尚且つゲームや動画も楽しめる。

(ゆ、夢の様な機械だわ。これだよ。これ。これこれ!)

 マイヤはこの書物と魔法による記録蓄積、駆動についての書物を借りて読み込んだ。その他にも禁書図書館にあった『たぶれっとぱっど』に言及している書物を読み漁って簡単な書物を作ると、マルティンにあることを頼んだ。

「私、ちょっと面白い魔道具を作ってみたいの。魔法工房の技師さんを集めてくれませんか?」

 果たして技師達は集められた。マイヤは書いたノートを彼等に手渡し、『たぶれっとぱっど』の試作品を作って欲しいと頼んだ。今ある魔法技術で再現できるはずだ。

 イーガでは書物を映像水晶に納める試みが為され、魔法が使える者が魔力を注ぐことによって魔道具を動かす仕組みが発展していた。技術者達はおおよそ1000冊程の書物を入れられるとマイヤに告げた。

 それから1か月。出来上がった試作品にマイヤは歓喜した。木の板にはめ込まれたガラス版に、納められた書物のページが写った。動きもだいぶ滑らかだし使い勝手もいい。

 音楽やゲーム、音声通話こそ出来なかったがそれは確かに彼女の前世の世界の、その死後に産まれたタブレットに似ていた。これを量産できないかしら。マイヤが尋ねると魔法工房の者達はうなずいた。

 この時マイヤが彼等に作らせたその魔道具は、後の世にも末永く使われるものとなった。音楽を鳴らせたり遠くの者と音声通話ができる機能は、試作品が完成してから数年後に追加。

 写真や動画が撮れたり、ゲームを楽しめていろいろな通信機能が追加されるのは、その数十年後。最初は富裕層の道具であったが、一般家庭にも普及した頃でもある。

 近い未来、彼女はイーガ国内で名声を得る事となる。碩学姫、というのがその異名だ。彼女はマルティンの協力で自分用の工房も作った。『マイア=テクニカ』と名づけられた。マイアとはマイヤという女性名のイーガでの読み方だ。

 『マイア=テクニカ』は数百年後のイーガでも、最高の国営魔道具工房として君臨し続けている。意外と早くにホーデンエーネンに帰国し、短い生涯を終えてしまった彼女と比べて、末永く。


□ □ □ □ □


 マイヤがイーガの王子の妾となり、その立場の力を借りて才能を発揮させようとしていた頃。ホーデンエーネンにいるトーリは、王国からのやかましい催促に悩まされていた。

「貴殿はすでに王家の者である。ルッソとともにナントブルグへ移住し、毎日王宮に出仕せよ」

 住まいはナントブルグだが、新たに建てられた館に入るのではない。王宮にある部屋に住まわされるのだ。等親が近いため、親族衆でも破格の待遇であったが。

 トーリはルッソとともに、未だにシュミット家に住んでいる。沢山の兵士が護衛についている様になったが。彼等は村の子供達と遊んでくれたり、家畜の世話をしてくれる頼れる者ばかりだが、いささか煩わしい。

「お願いしますトーリ姫様! 是非ともナントブルグに御移りになっていただきたい!」

 椅子に座るトーリの前に、近衛騎士団の重職が床にはいつくばって頭を下げる。この光景はもう100回ぐらい見ただろう。子供達が不思議そうに眺めていた。

「お願いします! お願いします! セイン王陛下はルッソ様と仲良しになりたいとおっしゃってましたし! お願いします!」
「……何度言ったらわかるのかしら? 私は今のところ、ナントブルグに住むつもりはございません」

 代わりにオルフレッドを出仕させるのはどうか。そんな事を言うとオルフレッドが嫌な顔をしてコリアンナが彼女を罵った。

「にいちゃんは村の女の子といちゃいちゃしたいから、ナントブルグに行きたくないって言っているじゃない!」

 そうだった。最近オルフレッドについて嫌な話を聞いている。お隣さんのロッテンマイヤーさんところのお姉ちゃんや、運送屋のご令嬢と下半身を用いたイチャイチャをし続けているらしい。

 そもそも村に帰ってきた1年前から、同年代の女の子達と下半身の触りあいっこをしていたという話を聞いていた。よくある事だがオルフレッドについては問題があった。この息子はとっくに精通を為していたのである。

 一緒に風呂に入ったりするが、どうにも下半身が立派過ぎた。きんたまも同年代の子のものではない。大人のそれと同じ大きさだった。

 陰茎は使い込まれている様な感じですぐに皮がむける。亀頭は大きくて雁が深い。シギサンシュタウフェンとこの村で、オルフレッドは何を経験したのだろう?

「……この話は考えさせてください」
「しかしですな、トーリ姫様!」
「しばらくはこの村で子供達を育てたいのです。機が熟したらナントブルグに向かいましょう。それまでは……」

 トーリは誘いの魔法をかけて説得しようとする騎士を離れの小屋に連れ込んだ。素っ裸になって馬乗りになり、男どもを魅了する清楚な美貌と淫らで貪欲極まりない膣とで散々に果てさせた。

 すっかりめろめろになってしまったその騎士は、説得の時に感じさせた威厳や男らしさが皆無になった。ただただ、トーリの薄い乳房に顔をうずめて、だらけた表情で喜んでいた。

「というわけで、まだ待ってねと王様に伝えておいてくださいね?」
「ふ、ふあーい♥ セイン王しゃまにつたえときまーしゅ♥」

 説得する一向は帰った。魔法の効果が切れた数日後、またあの男は来るだろう。すまし顔で家に戻ったトーリは、心配するルッソの父母と呆れた目をするコリアンナに笑顔を振りまいた。

「これでうるさいのは帰ったわ。夕食の支度をしましょう」
「おかあちゃん。またあのおっさんをおまんこで黙らせたの?」

 大人は好きな時におまんこができていいなあ、とコリアンナがぼやく。とはいえ彼女は幼いながらも処女膜が無い。牧場の犬とで致していたからだ。わんこのちんちん、きもちいい。コリアンナにもサキュバスの血が流れていたのだ。

 夕食が終わり、ルッソが宿場から戻って来た。彼はこの近辺に建てる館の建築の手伝いをやっていた。

「どうだった、館のほうは?」
「完成はもうそろそろというころだよ。でも、どうせ住まないんだろ?」
「まあそうね。平和なときは旅人も立ち寄って休憩もできる公民館にするつもりよ。アスカウの村のね」
「しかし……騎士様がたが褒めてたよ。トーリは城の設計の才能があるってさ」
 
 ヤマート大河の川沿い、アスカウの村の西の北の丘に造られているその館は、もとは小さな番所と物見櫓があった。それを居住用に拡張し、街道をまたいで南側にある砦と連結するようにした。

 街道の両側には堀を造った。ヤマート大河の水を入れて北側の堀を流れ、街道の真下にトンネルを堀って水を通し、南側の堀からまた大河へ出る仕組みだ。東から責められた時のことを想定している。

 館を置く丘は、川に面した箇所と北側に切り立った崖が続いている。戦時、東から攻められた場合はヤマート大橋をめぐる戦いで役立つだろう。

 この縄張りはトーリが考えたものだ。父親のポンタ―が築城にも興味を持っていたのもあったが、彼女も軍記物や築城の書籍が好きだったから、意外とその手の知識があった。

 ただただ、エッチでビッチな子だくさんなだけでなく、要塞を造る為の知識や才能も彼女は持ち合わせていた。いや、彼女は戦う事を想定していた。

 ホーデンエーネン王国で天下取りの大戦があった時、彼女はアスカウ周辺も戦場になることを計算の内に入れていたのだ。
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