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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
58 少年王子の決意
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卵巣摘出手術から半月後。ようやく話す気力を取り戻したマイヤは、マルティンとオットーにあらいざらい全てを語った。
自分はアドルフにさらわれ、あの男から数えきれないほどの乱暴をされた。それからもしかなうなら、今すぐにでもイズヴァルトに会いたい。子供はもうできないけれど添い遂げたい。
「……」
マルティンは胸が張り裂けそうだった。本当に操られていたのかはわからない。でも、これが彼女の本心だ。
心を操る魔法。サキュバスが得意だとオットーが教えてくれた。彼はマイヤとその脇で眠るフェアディナントにまた来るね、と呼びかけて部屋を出ていくと、話の一部始終を聞いていたオットーに尋ねた。
「父上は、私が思っていたお人ではなかったのですね?」
そんなことをはありません。オットーはそう言いたかった。あの非道な男でも良いところがあった。マルティンら子供らには愛情をかけてくれたではないか。
マイヤは確かにひどいことをされた。けれども、彼女は平民だ。こうなりうる可能性だってあった。大体、イーガ人の貴族や富豪で性根の悪い者は、マイヤぐらいの年頃の貧民の娘を性奴隷として飼っている事例が多かった。アドルフ以外にもあくどい趣味を持つ者はこの国にいたのだ。
程よく不細工で程よく発育しているその年頃の娘を、牛馬のごとく鞭打って虐めて心を折り、従順になったら酷い言葉をかけて慰みものにする。あるいは、幼い奴隷が苦しみの声をあげながら血まみれになって出産するのを楽しんだりも。趣味の悪い者の中には、映像水晶に記録してどちらが酷い分娩だったか優劣を競うやつだっていた。
オットーはアドルフの知り合いに数名、そういう悪趣味の持ち主がいる事を聞き及んでいた。その中には風紀に口うるさい『高名で清廉』な大貴族もいた。悪いことだが仕方が無い。イーガは平和だ。ゆえに、こうした秩序の中の犯罪がごろごろと転がっている。オットーの力ではどうにもならない、魔術に優れた者らが抱える重い病だ。
「……マイヤ様がおっしゃられた事は、本当でございます」
「オットー。君は知っていたかい。父上がどこまでやっていたのか。本当のところは?」
オットーは答えなかった。のぞき見やマイヤを己の妾にしようという目論みまでは知っていた。しかし汚らしいたくらみごとだと思って聞き流す事にしていた。
(市井の若い娘を騙して、己の愛人にする所業なんぞ貴族社会ではよくあることじゃないか。流石に四肢を斬るまでは思いも至らなかったが……。)
結果論で片づけていい。オットーは自分にそう言い聞かすことに決めた。アドルフや悪党どもと同じく、善良と呼べる貴族だって年端もいかない平民の娘を囲い物にしたりする。むしろそっちのほうが多かった。
しかもそっちは、平民の娘にとってはある種の出世とも言えた。中には貴族の後添えの正妻。あるいは、その息子の1人の妻となり幸せな生涯を送る者もいた。自分の意志は尊重されないが、富貴な生涯を送れるゆえに禁止する法律は必要無かった。
「こうお考え下さい。マイヤは……奥方様は成りあがったのです」
殿下の妾に。尊きお子の母親にだ。もう子供は産めないが、イーガ王族に連なる夫人として、歴史に残る事となるだろう。
「そうだろうね。でも、僕はマイヤさんとは離縁する必要があるのではないかと思っているよ? イズヴァルトさんと結婚させたい。今はそう思っている」
「離縁? その必要は無いと思われますが、殿下」
はてな。マルティンは耳を疑った。どういう事だろうか。
「離縁は駄目です。そうなればマイヤ様はイーガ王家の援助を受けにくくなってしまいます。けれども、この国は離縁をなさらずにマイヤ様とイズヴァルト様を、再び結び付けられる法律が備わっております」
オットーが語ったイーガ国の結婚法は、男尊女卑の色合いが濃いのだが、女の『強者』にもそれ相応の配慮が為されていた。
ある一定の地位や収入を持つ女は、複数の夫を持つ資格を得られる。己の遺産はその夫とそれぞれの胤で産まれた子に分与される。
イーガには女の領主、文官、魔道士や資産家が意外と多い。重婚する者も多かった。そもそも、力を持たぬ女なんか美醜問わずしょっちゅう不倫をする。
女は常に最後の人だと思って恋愛するなどという、貞操思想から来る恋愛観はイーガ人には皆無だった。何故ならホーデンエーネンよりも遥かに避妊の技術が優れていたし、何よりカントニアのエルフの気風が入り込んでいたからである。
「イーガでは不倫は文化、と呼ばれておりますよ。殿下」
「あは、あはは。僕もマイヤさんとたくさんしていたから、そろそろその手の事情も勉強しないとね……」
「それと、我が国では産まれた子の遺伝子検査を義務付けております。ゆえに安心して妻の浮気を許せるのですよ、男達は」
ちなみにだが結婚法では女房と間男との間に産まれた子は、基本的にその間男やその家族が、出産費用の肩代わりと引き取りを行うという一文が記されている。嫁はいらぬが子供が欲しい独身男にとって、素晴らしい法律である。
「マイヤ様を新たな貴族に、あるいは、富豪になっていただければ、この法律は効を発することでしょう」
「マイヤさんを富豪か貴族にか……わかった。僕がおじい様に掛け合ってみるよ。ところでオットー。君もそろそろ結婚を考える歳じゃないのかな?」
オットーの顔が凍り付いた。没落したとはいえ、オットーはオーズロー家の女当主であった。領地は王国の管理下。親戚が殆どいないから周囲から結婚と出産を急かされていた。
「たしか君、イズヴァルトさんをいつもちらちらと見ていたよね。いずれ君は僕の筆頭家宰になってもらうつもりだから、自分に正直にやっていいと思うよ?」
「そ、それはできません。マイヤ様のこともございますし……結婚相手についてはおいおい考えておきます」
そう告げたオットーの顔は、いつもの凛々しいものではなく、寝ている最中に見せる若い娘のそれであった。顔つきがころころと変わるなあ。マルティンは不思議に思う。
マルティンはオットーと父の妾の中でも一番学のあるクララを連れ、王宮へ向かった。マイヤが加わっていなかったので、老王は引き取ったロゼ抱いてマルティンに会った。
「マルティン。マイヤの調子はどうじゃ?」
「おかげさまで。手術の傷も治っております。ところで陛下。その子がロゼちゃんですか?」
「そうじゃ。儂の孫娘。そして儂の養女でもある」
マルティンにとってロゼとの面会はこれが初めてだ。それまでずっと会わせてくれなかった。あんなひどい悪事を為したアドルフの娘だが、マイヤの娘のうち1人でもあった。
紫色の瞳と蒼にも見える黒い髪。マイヤに似た大変愛らしい女の子だ。しかしどうにもやっぽちに見えてならなかった。
父親についてはわかるな。マルティンは気を張りながら笑顔を作ってうなずいた。幼い子供の目の前で悪い顔は出来ない。オットーもクララもそうだった。
ロゼは祖父の腕から離れると、マルティンに近づいて握手を求めた。母親違いの兄だと知らされていたのだ。
「はじめまして、マルティンおにいさま」
「君がロゼだね。これからよろしくね。気軽に僕のところに遊びに来てね」
愛らしくうなずくロゼに、クララはとても顔を緩ませていたが、オットーは複雑な心境だった。あんなことをしたとはいえ、アドルフは彼女にとって情交の相手であり愛すべき主君でもあった。マイヤへの嫉妬心を抱いた。
「おじいさま。アドルフお父様はまだ帰ってこられないの?」
ロゼが問う。老王はまだじゃよと笑った。アドルフは仕事で遠い外国に滞在している、という話になっていた。幼い子に父の死を伝えるのは難しい。処刑したなどとは尚更言えない。
マルティンの脚にロゼがしがみついた。何故か嬉しそうに手でしきりに股間を触ろうとする。それを気にも留めずにマルティンはロゼを抱き上げた。
「おじい様。マイヤさんをこの国の貴族として遇していただきたい。彼女は今、我が国では庶民の階級とみなされているでしょう」
「……イズヴァルトとの結婚させる為にだな? しかしマイヤはもう、あの男を諦めたと言っていたのではなかったのか?」
マルティンは事情を説明した。心理操作の魔道。そうつぶやいて老王はため息をついた。どこまでもえげつないことをやりおる。我が息子は。
「身分については申し分無い。マイヤはホーデンエーネンで王族衆にあたる事がわかった。先ほど、ホーデンエーネンからその為の書類を渡されたからな」
ホーデンエーネン王国は既に、トーリとマイヤの2人を王族衆として認めていた。トーリ=カモセンブルグは早速王宮に召しだされ、どこを領地にするか話し合っているという。
「ゆえに我が国も彼女を貴族と認めた。異論を言う者はどこにおろう?」
「なら、早くカントニアのエルフの里に使者を。イズヴァルトさんを連れて来なければなりません」
「それはならん」
国王は目をつむった。マイヤは寝たきりが続き、身体が弱ってしまった。フェアディナントの事もある。そこにイズヴァルトが来れば、彼女はイーガから出たがるだろう。
せめて1年。いや、2年。そのぐらいの養生とリハビリが必要だと思っていた。フェアディナントを母親から引き離す羽目になると辛い。イズヴァルトがイーガへの定住を誓ってくれるのなら。
「おじい様?」
「イズヴァルトは英雄になりうる人物だ。ホーデンエーネンのな。このイーガにとどめ置くと、きっとホーデンエーネンとひと悶着を起こすかもしれん」
更に。ホーデンエーネン国内の貴族の間では、マイヤを取り戻そうという運動が起き始めていたのも外交官を通して聞いていた。事はそう単純ではなかった。
「マルティン。一番の良き策はイズヴァルトとマイヤをホーデンエーネンに戻すことだ」
王子の顔がこわばった。彼とてマイヤと離れたくなかった。何せ初恋の相手だ。彼女の幼い頃の『ぶりぶり動画』を見て、手淫に励んでいたぐらいである。
それと、彼女はその体質がそうさせるのか、意識を取り戻した後はマルティンに『おしゃぶり』を楽しませてくれるようにせがんだ。1日2回も。あのフェラチオの魅力をこらえるのは、第二次成長期真っ只中の少年にとって酷な話だった。
「お前にはできるか?」
「……ぼ、僕は」
「マルティン。儂もそうだった。お前と同じぐらいの歳に女人と仲良くするようになった。最初に得た妾や仲良くなった侍女から離れられなかった」
自分よりも好色で漁色趣味のアドルフは、尚更だった。節制が必要なのに生殖に励んで寿命を縮めてしまった。その焦りで謀略と悪事に手を染め、ついには父親の手によって処刑されたのだ。
「マルティン。しばらくは様子を見ろ。諦めがつき、覚悟ができるまでそのままでいろ」
「で、ですが、おじい様……」
「ホーデンエーネンの事なら儂がなんとかする。セイン王と密に手紙を交わし、こののちどうするのかを決めていくつもりじゃ」
異論は許さぬ。国王がそう告げるとマルティンは従うしか無かった。国王の言葉は絶対だ。例え孫でも従わなければならないのだ
自分はアドルフにさらわれ、あの男から数えきれないほどの乱暴をされた。それからもしかなうなら、今すぐにでもイズヴァルトに会いたい。子供はもうできないけれど添い遂げたい。
「……」
マルティンは胸が張り裂けそうだった。本当に操られていたのかはわからない。でも、これが彼女の本心だ。
心を操る魔法。サキュバスが得意だとオットーが教えてくれた。彼はマイヤとその脇で眠るフェアディナントにまた来るね、と呼びかけて部屋を出ていくと、話の一部始終を聞いていたオットーに尋ねた。
「父上は、私が思っていたお人ではなかったのですね?」
そんなことをはありません。オットーはそう言いたかった。あの非道な男でも良いところがあった。マルティンら子供らには愛情をかけてくれたではないか。
マイヤは確かにひどいことをされた。けれども、彼女は平民だ。こうなりうる可能性だってあった。大体、イーガ人の貴族や富豪で性根の悪い者は、マイヤぐらいの年頃の貧民の娘を性奴隷として飼っている事例が多かった。アドルフ以外にもあくどい趣味を持つ者はこの国にいたのだ。
程よく不細工で程よく発育しているその年頃の娘を、牛馬のごとく鞭打って虐めて心を折り、従順になったら酷い言葉をかけて慰みものにする。あるいは、幼い奴隷が苦しみの声をあげながら血まみれになって出産するのを楽しんだりも。趣味の悪い者の中には、映像水晶に記録してどちらが酷い分娩だったか優劣を競うやつだっていた。
オットーはアドルフの知り合いに数名、そういう悪趣味の持ち主がいる事を聞き及んでいた。その中には風紀に口うるさい『高名で清廉』な大貴族もいた。悪いことだが仕方が無い。イーガは平和だ。ゆえに、こうした秩序の中の犯罪がごろごろと転がっている。オットーの力ではどうにもならない、魔術に優れた者らが抱える重い病だ。
「……マイヤ様がおっしゃられた事は、本当でございます」
「オットー。君は知っていたかい。父上がどこまでやっていたのか。本当のところは?」
オットーは答えなかった。のぞき見やマイヤを己の妾にしようという目論みまでは知っていた。しかし汚らしいたくらみごとだと思って聞き流す事にしていた。
(市井の若い娘を騙して、己の愛人にする所業なんぞ貴族社会ではよくあることじゃないか。流石に四肢を斬るまでは思いも至らなかったが……。)
結果論で片づけていい。オットーは自分にそう言い聞かすことに決めた。アドルフや悪党どもと同じく、善良と呼べる貴族だって年端もいかない平民の娘を囲い物にしたりする。むしろそっちのほうが多かった。
しかもそっちは、平民の娘にとってはある種の出世とも言えた。中には貴族の後添えの正妻。あるいは、その息子の1人の妻となり幸せな生涯を送る者もいた。自分の意志は尊重されないが、富貴な生涯を送れるゆえに禁止する法律は必要無かった。
「こうお考え下さい。マイヤは……奥方様は成りあがったのです」
殿下の妾に。尊きお子の母親にだ。もう子供は産めないが、イーガ王族に連なる夫人として、歴史に残る事となるだろう。
「そうだろうね。でも、僕はマイヤさんとは離縁する必要があるのではないかと思っているよ? イズヴァルトさんと結婚させたい。今はそう思っている」
「離縁? その必要は無いと思われますが、殿下」
はてな。マルティンは耳を疑った。どういう事だろうか。
「離縁は駄目です。そうなればマイヤ様はイーガ王家の援助を受けにくくなってしまいます。けれども、この国は離縁をなさらずにマイヤ様とイズヴァルト様を、再び結び付けられる法律が備わっております」
オットーが語ったイーガ国の結婚法は、男尊女卑の色合いが濃いのだが、女の『強者』にもそれ相応の配慮が為されていた。
ある一定の地位や収入を持つ女は、複数の夫を持つ資格を得られる。己の遺産はその夫とそれぞれの胤で産まれた子に分与される。
イーガには女の領主、文官、魔道士や資産家が意外と多い。重婚する者も多かった。そもそも、力を持たぬ女なんか美醜問わずしょっちゅう不倫をする。
女は常に最後の人だと思って恋愛するなどという、貞操思想から来る恋愛観はイーガ人には皆無だった。何故ならホーデンエーネンよりも遥かに避妊の技術が優れていたし、何よりカントニアのエルフの気風が入り込んでいたからである。
「イーガでは不倫は文化、と呼ばれておりますよ。殿下」
「あは、あはは。僕もマイヤさんとたくさんしていたから、そろそろその手の事情も勉強しないとね……」
「それと、我が国では産まれた子の遺伝子検査を義務付けております。ゆえに安心して妻の浮気を許せるのですよ、男達は」
ちなみにだが結婚法では女房と間男との間に産まれた子は、基本的にその間男やその家族が、出産費用の肩代わりと引き取りを行うという一文が記されている。嫁はいらぬが子供が欲しい独身男にとって、素晴らしい法律である。
「マイヤ様を新たな貴族に、あるいは、富豪になっていただければ、この法律は効を発することでしょう」
「マイヤさんを富豪か貴族にか……わかった。僕がおじい様に掛け合ってみるよ。ところでオットー。君もそろそろ結婚を考える歳じゃないのかな?」
オットーの顔が凍り付いた。没落したとはいえ、オットーはオーズロー家の女当主であった。領地は王国の管理下。親戚が殆どいないから周囲から結婚と出産を急かされていた。
「たしか君、イズヴァルトさんをいつもちらちらと見ていたよね。いずれ君は僕の筆頭家宰になってもらうつもりだから、自分に正直にやっていいと思うよ?」
「そ、それはできません。マイヤ様のこともございますし……結婚相手についてはおいおい考えておきます」
そう告げたオットーの顔は、いつもの凛々しいものではなく、寝ている最中に見せる若い娘のそれであった。顔つきがころころと変わるなあ。マルティンは不思議に思う。
マルティンはオットーと父の妾の中でも一番学のあるクララを連れ、王宮へ向かった。マイヤが加わっていなかったので、老王は引き取ったロゼ抱いてマルティンに会った。
「マルティン。マイヤの調子はどうじゃ?」
「おかげさまで。手術の傷も治っております。ところで陛下。その子がロゼちゃんですか?」
「そうじゃ。儂の孫娘。そして儂の養女でもある」
マルティンにとってロゼとの面会はこれが初めてだ。それまでずっと会わせてくれなかった。あんなひどい悪事を為したアドルフの娘だが、マイヤの娘のうち1人でもあった。
紫色の瞳と蒼にも見える黒い髪。マイヤに似た大変愛らしい女の子だ。しかしどうにもやっぽちに見えてならなかった。
父親についてはわかるな。マルティンは気を張りながら笑顔を作ってうなずいた。幼い子供の目の前で悪い顔は出来ない。オットーもクララもそうだった。
ロゼは祖父の腕から離れると、マルティンに近づいて握手を求めた。母親違いの兄だと知らされていたのだ。
「はじめまして、マルティンおにいさま」
「君がロゼだね。これからよろしくね。気軽に僕のところに遊びに来てね」
愛らしくうなずくロゼに、クララはとても顔を緩ませていたが、オットーは複雑な心境だった。あんなことをしたとはいえ、アドルフは彼女にとって情交の相手であり愛すべき主君でもあった。マイヤへの嫉妬心を抱いた。
「おじいさま。アドルフお父様はまだ帰ってこられないの?」
ロゼが問う。老王はまだじゃよと笑った。アドルフは仕事で遠い外国に滞在している、という話になっていた。幼い子に父の死を伝えるのは難しい。処刑したなどとは尚更言えない。
マルティンの脚にロゼがしがみついた。何故か嬉しそうに手でしきりに股間を触ろうとする。それを気にも留めずにマルティンはロゼを抱き上げた。
「おじい様。マイヤさんをこの国の貴族として遇していただきたい。彼女は今、我が国では庶民の階級とみなされているでしょう」
「……イズヴァルトとの結婚させる為にだな? しかしマイヤはもう、あの男を諦めたと言っていたのではなかったのか?」
マルティンは事情を説明した。心理操作の魔道。そうつぶやいて老王はため息をついた。どこまでもえげつないことをやりおる。我が息子は。
「身分については申し分無い。マイヤはホーデンエーネンで王族衆にあたる事がわかった。先ほど、ホーデンエーネンからその為の書類を渡されたからな」
ホーデンエーネン王国は既に、トーリとマイヤの2人を王族衆として認めていた。トーリ=カモセンブルグは早速王宮に召しだされ、どこを領地にするか話し合っているという。
「ゆえに我が国も彼女を貴族と認めた。異論を言う者はどこにおろう?」
「なら、早くカントニアのエルフの里に使者を。イズヴァルトさんを連れて来なければなりません」
「それはならん」
国王は目をつむった。マイヤは寝たきりが続き、身体が弱ってしまった。フェアディナントの事もある。そこにイズヴァルトが来れば、彼女はイーガから出たがるだろう。
せめて1年。いや、2年。そのぐらいの養生とリハビリが必要だと思っていた。フェアディナントを母親から引き離す羽目になると辛い。イズヴァルトがイーガへの定住を誓ってくれるのなら。
「おじい様?」
「イズヴァルトは英雄になりうる人物だ。ホーデンエーネンのな。このイーガにとどめ置くと、きっとホーデンエーネンとひと悶着を起こすかもしれん」
更に。ホーデンエーネン国内の貴族の間では、マイヤを取り戻そうという運動が起き始めていたのも外交官を通して聞いていた。事はそう単純ではなかった。
「マルティン。一番の良き策はイズヴァルトとマイヤをホーデンエーネンに戻すことだ」
王子の顔がこわばった。彼とてマイヤと離れたくなかった。何せ初恋の相手だ。彼女の幼い頃の『ぶりぶり動画』を見て、手淫に励んでいたぐらいである。
それと、彼女はその体質がそうさせるのか、意識を取り戻した後はマルティンに『おしゃぶり』を楽しませてくれるようにせがんだ。1日2回も。あのフェラチオの魅力をこらえるのは、第二次成長期真っ只中の少年にとって酷な話だった。
「お前にはできるか?」
「……ぼ、僕は」
「マルティン。儂もそうだった。お前と同じぐらいの歳に女人と仲良くするようになった。最初に得た妾や仲良くなった侍女から離れられなかった」
自分よりも好色で漁色趣味のアドルフは、尚更だった。節制が必要なのに生殖に励んで寿命を縮めてしまった。その焦りで謀略と悪事に手を染め、ついには父親の手によって処刑されたのだ。
「マルティン。しばらくは様子を見ろ。諦めがつき、覚悟ができるまでそのままでいろ」
「で、ですが、おじい様……」
「ホーデンエーネンの事なら儂がなんとかする。セイン王と密に手紙を交わし、こののちどうするのかを決めていくつもりじゃ」
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