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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
55 イーガの魔王⑧
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それより2日後。イズヴァルトはイーガ国王と謁見する事となった。別ルートでコーヅケーニッヒ入りをしていたイナンナと合流した後の事だ。
イーガ王は王宮にイズヴァルトを招き、此度起こった事を謝罪するとともに低くかがんで彼の靴に口づけた。最大級の謝罪だ。イズヴァルトは戸惑う他無かった。
「ゆ、許すも何も……拙者はもうすっかり心を入れ替えたでござる」
とにもかくにもイーガを離れたい。イナンナが教えてくれたが、まだ身体が本調子ではないからエルフの里でもうしばらく療養が必要のようだ。とにもかくにもマイヤのことを忘れ、しばらくは孤独になりたいのが本心だった。
「済まぬな、イズヴァルト……」
国王は皆の前でもう一度イズヴァルトの靴に口づける。イズヴァルトは思った。いささか大げさすぎはしないか。貴族が、しかも国王と呼ばれる存在が田舎領主の息子にこれほど重く謝罪をするなどとは。
(何か、言いたくない裏があるかもしれぬでござるな……)
その夜、イズヴァルトはマルティンとの会合を蹴ってイナンナの部屋にやって来た。彼女がそうしろと言ったからだ。彼とて、恋人を奪った少年と顔を合わせたくもなかった。
「どうしたでござる?」
「おまんに話したいことがあったズラ」
別行動で隠密裏に、数日間イーガを回っていたイナンナはこう告げた。よろしくねえ医療魔法を扱う魔道士が、この国に入り込んでいたズラ。
「……なんでござる?」
「わからねえか。無理もねえズラ。オラたちエルフが禁忌と定めた医療魔法の使い手の存在を突き止めたズラよ」
その男。闇の社会ではそこそこの有名人。マリーヤ国の出身で薄暗い事に手を染めたということで、十年以上も前にカントニアから追い払われたという。
「ヒッポタルトっちゅうろくでなしがそいつの名前ズラ。一時期オラの友人が医術を学ばせてやってたらしいけど、その他の事にも手を染めたらしいズラ」
例えばである。病気に見せかけた毒殺の方法や切り離した手脚が腐ることなく自在に動く秘術だ。
「なんという恐ろしいことを……」
「で、昔語りにあるそいつを試したことがある奴が、古代ムサシノ帝国の頃に1人おったズラ……」
イナンナは自分を指さす。このオラだ。信じられぬとイズヴァルトは思った。何故そんなことに手を染めたのだ?
「……あの頃、オラはムサシノ帝国のあたりで医者だけでなく、暗殺やろくでもねえ依頼を受けた事があったズラ」
その時代、彼女は『森の蝮』という通り名で裏社会で活躍していた。とある貴族のお気に入りの女奴隷を達磨にする手術を請け負ったり、政敵の一家を毒殺する仕事も手がけた。
「イナンナどの……」
「勘違いしないで欲しいズラ。オラはそういう仕事は全て、ムサシノ帝国が滅んだ頃にきれいさっぱり足を洗ったズラよ。で、そのヒッポタルトだけど」
コーヅケーニッヒ近辺に出没していたという話を聞いた。それと、アノーヅという辺鄙な田舎にも。それはどういうことだかわかるか、とイズヴァルトに尋ねた。
「つ、つまりは……」
「怪しいのは、アドルフっちゅうイーガ王の倅ズラ。もうおっさんの歳らしいけれど顔を見せてねえ。でもなあ、そいつはとんでもねえろくでなし、って噂を聞いたことがあるズラ」
その噂。さる貴族の12にもならぬ幼い娘を無理やり妾にして初産で死なせた事。あるいは、各国に暗殺者を放ってイーガに敵対する者を殺して回らせた、とも。
「好色で残忍。裏の世界ではこう言われているらしいズラよ」
イーガの魔王。それこそがアドルフ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーに名づけられた通り名であった。ただし、この名前を知るのはごく限られたコミュニティのみだ。相当に優れたスパイたちである。
それ程までに、アドルフの秘密主義は徹底していた。諸外国の手練れが恐れるのが当たり前だ。自分を窮地に追い詰め、マイヤをあのようにしたのがまさか、その男ならば?
「……それが真実ならば、この手で斬る」
「今のおまんには無理な話ズラが……それでも本人に会うだけなら、もしかして出来るかもしれんズラ」
そしてイナンナは言った。このコーヅケーニッヒの郊外に、どうにもにおう館がある。サキュバスどもお菓子くっせえまんこのシミがついているような、妙な雰囲気を醸し出している館が、北の方角に。
□ □ □ □ □
この北の館を嗅ぎまわっているエルフくさい女がいた。その報告を受けていたアドルフは「そう来るか……」とつぶやき、笑っていた。
彼は今、寝台の上にいる。このところ気分がすぐれなかったからだ。ヒッポタルトが言うには病気が進行してこの1週間、治療にあたらねばアノーヅへは戻れないと診断された。
(大事な時に……つくづく運に恵まれておらぬな、俺は。)
イーガとホーデンエーネンが講和した話も耳にした。イズヴァルトが今、国王に謁見している事も。張り巡らせた策がどれも中途半端に終わっている。ここらが潮時か、とアドルフは思った。
(ふふ。でもいい。イズヴァルトとマイヤは別れる事になった。後はあいつをどこで、どう始末すれば良いかだ。)
ただ、それはとんでもなく至難の業となるだろう。果たしてエルフの村を襲撃するまでこぎつけられるだろうか。彼は現在、カントニアにいるというエレクトラに文を書く事にした。
「エレクトラ。一度相談したい……」
自分にとって生かしては置けない敵が、南のエルフの里にかくまわれている。それをどうやって暗殺すればよいだろうか。君ならばどう攻める?
前にも似たような手紙を書いたことがあった。カントニアの南側のエルフを滅ぼすにはどうすればいい。こう返ってきた。
カイロネイア=エルフの秘宝、『エルフ狩りの王の弾弓』を手に入れるか、『エルフ狩りの王の剣』を学んだ凄腕を1000人育てろ。特に、イズヴァルトみたいな天才がいい。
(不可能なこと、というわけだ。だがそれでも構わんよ。)
同じような手紙を寄越す。そうしてやって来る返事を読むのが一番の喜びであった。ただ、本当にやりたいことはエレクトラと再び会う事だ。
それまでに自分は生きていられるだろうか。手紙を書き部下に手渡した後、アドルフは激しく咳き込んだ。
一瞬だけ視界が真っ白くなった。気づくと血がシーツを汚していた。ははは、と彼は笑う。とうとう俺の命脈も尽き始めたという事か。
(エレクトラへの手紙の返事が、読める頃までには生きていたいものだな。)
果たして叶うのか。窓からの夕焼け空を眺めていたその時である、部下から報告が入った。
「イズヴァルトとエルフ達、ひそかに王宮を脱出していなくなった様です」
「北街区の飯屋でエルフの一団らしき者が、飯を喰っていたそうです」
この場所が割れてしまったか。サキュバスたちは騙せてもエルフ達は惑わせられない。しかも魔道にたけた南のエルフ達だ。
思いの他、終わりの時が早くなってしまった様だ。それなりの備えもちゃんとしてある。エルフの魔力を弱める魔法結界を巡らせろ、と魔道士たちに命じた。
それだけではない。最後の奥の手にしたかった彼に手を貸してもらう。倒さなくてもいい。しかし相手を退かせる程度までには頑張ってくれ。通信魔法の先にいた相手は、今すぐ向かいますと快くうなずいてくれた。
アドルフが目をかけていたホーデンエーネンの若き天才、アナキン=スカルファッカーである。彼はこの時、この邸の離れにあるサウナ風呂で汗をかいていた。
□ □ □ □ □
「ここに、そのアドルフというのがいるのでござるか?」
イズヴァルトはイナンナに問う。コーヅケーニッヒの魔法結界をいくつも潜り抜け、出来るだけ相手に悟られずにここまで来た。
もし不測の事態が起こりうるのなら、転移魔法を使うサキュバスを味方につけているかいないかだ。
「勘違いしてはいけねえズラ。これはおまんとアドルフの話し合いの席ズラ」
「……わかっているでござる」
問い詰め、本当の犯人がアドルフならば国王に直訴する。裁くのはイーガ王だ。もし違うならそのままだ。マイヤが事故に遭ったと信じてやる。
しかし本当のことなら、あるいはイーガ王が息子をかばうなら。もしかしたら牢屋に忍び込んでアドルフを斬り殺す事もありうるかもしれないとイズヴァルトは思った。
「あんましむらっ気を起こすなずら?」
オクタヴィアが注意をかけた。今回同行してくれたのは足の速い彼女達だ。クリスタとマルカスは王宮でお留守番。彼等がいた方が心強かったが仕方が無かった。
「では、参るでござるよ?」
「気を引きしめるズラな!」
茂みからイズヴァルトが立ち上がる。もし結界魔法を施された場合、エルフのそれを使うに違いない。その為半分ニンゲンである彼が買って出た。
ゆっくりとした足取りで門へと向かう。この突然の来訪に相手は逃げる支度をしていないはず。そう思いながら門番の詰め所に近づいた。
その刹那。彼は鋭い剣風を右横に受けて飛び退く。まとっていた鎖帷子の腹が切れ、血が噴き出していた。相当深々と斬られたようだ。激痛が走った。
しかし『はんぶんエルフ』のこの身体なら、もう少し浅く斬られたはずでは。イズヴァルトはそう思いながらも背中の『覇王の剣』を引き抜いた。
首を向けて相手を見る。同い年ぐらいの若い男。優男だが、ただどこかがっしりとした顔つきに見えなくもない。特徴的なのは紫色の瞳だ。マイヤとトーリのそれと同じ色だが、彼女達よりもう少し黒に近かった。
「狼藉者、覚悟……」
初めて見る顔と声だ。カツランダルク党のうち1つ。スカルファッカー家の令息、アナキン=スカルファッカーである。
イーガ王は王宮にイズヴァルトを招き、此度起こった事を謝罪するとともに低くかがんで彼の靴に口づけた。最大級の謝罪だ。イズヴァルトは戸惑う他無かった。
「ゆ、許すも何も……拙者はもうすっかり心を入れ替えたでござる」
とにもかくにもイーガを離れたい。イナンナが教えてくれたが、まだ身体が本調子ではないからエルフの里でもうしばらく療養が必要のようだ。とにもかくにもマイヤのことを忘れ、しばらくは孤独になりたいのが本心だった。
「済まぬな、イズヴァルト……」
国王は皆の前でもう一度イズヴァルトの靴に口づける。イズヴァルトは思った。いささか大げさすぎはしないか。貴族が、しかも国王と呼ばれる存在が田舎領主の息子にこれほど重く謝罪をするなどとは。
(何か、言いたくない裏があるかもしれぬでござるな……)
その夜、イズヴァルトはマルティンとの会合を蹴ってイナンナの部屋にやって来た。彼女がそうしろと言ったからだ。彼とて、恋人を奪った少年と顔を合わせたくもなかった。
「どうしたでござる?」
「おまんに話したいことがあったズラ」
別行動で隠密裏に、数日間イーガを回っていたイナンナはこう告げた。よろしくねえ医療魔法を扱う魔道士が、この国に入り込んでいたズラ。
「……なんでござる?」
「わからねえか。無理もねえズラ。オラたちエルフが禁忌と定めた医療魔法の使い手の存在を突き止めたズラよ」
その男。闇の社会ではそこそこの有名人。マリーヤ国の出身で薄暗い事に手を染めたということで、十年以上も前にカントニアから追い払われたという。
「ヒッポタルトっちゅうろくでなしがそいつの名前ズラ。一時期オラの友人が医術を学ばせてやってたらしいけど、その他の事にも手を染めたらしいズラ」
例えばである。病気に見せかけた毒殺の方法や切り離した手脚が腐ることなく自在に動く秘術だ。
「なんという恐ろしいことを……」
「で、昔語りにあるそいつを試したことがある奴が、古代ムサシノ帝国の頃に1人おったズラ……」
イナンナは自分を指さす。このオラだ。信じられぬとイズヴァルトは思った。何故そんなことに手を染めたのだ?
「……あの頃、オラはムサシノ帝国のあたりで医者だけでなく、暗殺やろくでもねえ依頼を受けた事があったズラ」
その時代、彼女は『森の蝮』という通り名で裏社会で活躍していた。とある貴族のお気に入りの女奴隷を達磨にする手術を請け負ったり、政敵の一家を毒殺する仕事も手がけた。
「イナンナどの……」
「勘違いしないで欲しいズラ。オラはそういう仕事は全て、ムサシノ帝国が滅んだ頃にきれいさっぱり足を洗ったズラよ。で、そのヒッポタルトだけど」
コーヅケーニッヒ近辺に出没していたという話を聞いた。それと、アノーヅという辺鄙な田舎にも。それはどういうことだかわかるか、とイズヴァルトに尋ねた。
「つ、つまりは……」
「怪しいのは、アドルフっちゅうイーガ王の倅ズラ。もうおっさんの歳らしいけれど顔を見せてねえ。でもなあ、そいつはとんでもねえろくでなし、って噂を聞いたことがあるズラ」
その噂。さる貴族の12にもならぬ幼い娘を無理やり妾にして初産で死なせた事。あるいは、各国に暗殺者を放ってイーガに敵対する者を殺して回らせた、とも。
「好色で残忍。裏の世界ではこう言われているらしいズラよ」
イーガの魔王。それこそがアドルフ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーに名づけられた通り名であった。ただし、この名前を知るのはごく限られたコミュニティのみだ。相当に優れたスパイたちである。
それ程までに、アドルフの秘密主義は徹底していた。諸外国の手練れが恐れるのが当たり前だ。自分を窮地に追い詰め、マイヤをあのようにしたのがまさか、その男ならば?
「……それが真実ならば、この手で斬る」
「今のおまんには無理な話ズラが……それでも本人に会うだけなら、もしかして出来るかもしれんズラ」
そしてイナンナは言った。このコーヅケーニッヒの郊外に、どうにもにおう館がある。サキュバスどもお菓子くっせえまんこのシミがついているような、妙な雰囲気を醸し出している館が、北の方角に。
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この北の館を嗅ぎまわっているエルフくさい女がいた。その報告を受けていたアドルフは「そう来るか……」とつぶやき、笑っていた。
彼は今、寝台の上にいる。このところ気分がすぐれなかったからだ。ヒッポタルトが言うには病気が進行してこの1週間、治療にあたらねばアノーヅへは戻れないと診断された。
(大事な時に……つくづく運に恵まれておらぬな、俺は。)
イーガとホーデンエーネンが講和した話も耳にした。イズヴァルトが今、国王に謁見している事も。張り巡らせた策がどれも中途半端に終わっている。ここらが潮時か、とアドルフは思った。
(ふふ。でもいい。イズヴァルトとマイヤは別れる事になった。後はあいつをどこで、どう始末すれば良いかだ。)
ただ、それはとんでもなく至難の業となるだろう。果たしてエルフの村を襲撃するまでこぎつけられるだろうか。彼は現在、カントニアにいるというエレクトラに文を書く事にした。
「エレクトラ。一度相談したい……」
自分にとって生かしては置けない敵が、南のエルフの里にかくまわれている。それをどうやって暗殺すればよいだろうか。君ならばどう攻める?
前にも似たような手紙を書いたことがあった。カントニアの南側のエルフを滅ぼすにはどうすればいい。こう返ってきた。
カイロネイア=エルフの秘宝、『エルフ狩りの王の弾弓』を手に入れるか、『エルフ狩りの王の剣』を学んだ凄腕を1000人育てろ。特に、イズヴァルトみたいな天才がいい。
(不可能なこと、というわけだ。だがそれでも構わんよ。)
同じような手紙を寄越す。そうしてやって来る返事を読むのが一番の喜びであった。ただ、本当にやりたいことはエレクトラと再び会う事だ。
それまでに自分は生きていられるだろうか。手紙を書き部下に手渡した後、アドルフは激しく咳き込んだ。
一瞬だけ視界が真っ白くなった。気づくと血がシーツを汚していた。ははは、と彼は笑う。とうとう俺の命脈も尽き始めたという事か。
(エレクトラへの手紙の返事が、読める頃までには生きていたいものだな。)
果たして叶うのか。窓からの夕焼け空を眺めていたその時である、部下から報告が入った。
「イズヴァルトとエルフ達、ひそかに王宮を脱出していなくなった様です」
「北街区の飯屋でエルフの一団らしき者が、飯を喰っていたそうです」
この場所が割れてしまったか。サキュバスたちは騙せてもエルフ達は惑わせられない。しかも魔道にたけた南のエルフ達だ。
思いの他、終わりの時が早くなってしまった様だ。それなりの備えもちゃんとしてある。エルフの魔力を弱める魔法結界を巡らせろ、と魔道士たちに命じた。
それだけではない。最後の奥の手にしたかった彼に手を貸してもらう。倒さなくてもいい。しかし相手を退かせる程度までには頑張ってくれ。通信魔法の先にいた相手は、今すぐ向かいますと快くうなずいてくれた。
アドルフが目をかけていたホーデンエーネンの若き天才、アナキン=スカルファッカーである。彼はこの時、この邸の離れにあるサウナ風呂で汗をかいていた。
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「ここに、そのアドルフというのがいるのでござるか?」
イズヴァルトはイナンナに問う。コーヅケーニッヒの魔法結界をいくつも潜り抜け、出来るだけ相手に悟られずにここまで来た。
もし不測の事態が起こりうるのなら、転移魔法を使うサキュバスを味方につけているかいないかだ。
「勘違いしてはいけねえズラ。これはおまんとアドルフの話し合いの席ズラ」
「……わかっているでござる」
問い詰め、本当の犯人がアドルフならば国王に直訴する。裁くのはイーガ王だ。もし違うならそのままだ。マイヤが事故に遭ったと信じてやる。
しかし本当のことなら、あるいはイーガ王が息子をかばうなら。もしかしたら牢屋に忍び込んでアドルフを斬り殺す事もありうるかもしれないとイズヴァルトは思った。
「あんましむらっ気を起こすなずら?」
オクタヴィアが注意をかけた。今回同行してくれたのは足の速い彼女達だ。クリスタとマルカスは王宮でお留守番。彼等がいた方が心強かったが仕方が無かった。
「では、参るでござるよ?」
「気を引きしめるズラな!」
茂みからイズヴァルトが立ち上がる。もし結界魔法を施された場合、エルフのそれを使うに違いない。その為半分ニンゲンである彼が買って出た。
ゆっくりとした足取りで門へと向かう。この突然の来訪に相手は逃げる支度をしていないはず。そう思いながら門番の詰め所に近づいた。
その刹那。彼は鋭い剣風を右横に受けて飛び退く。まとっていた鎖帷子の腹が切れ、血が噴き出していた。相当深々と斬られたようだ。激痛が走った。
しかし『はんぶんエルフ』のこの身体なら、もう少し浅く斬られたはずでは。イズヴァルトはそう思いながらも背中の『覇王の剣』を引き抜いた。
首を向けて相手を見る。同い年ぐらいの若い男。優男だが、ただどこかがっしりとした顔つきに見えなくもない。特徴的なのは紫色の瞳だ。マイヤとトーリのそれと同じ色だが、彼女達よりもう少し黒に近かった。
「狼藉者、覚悟……」
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