聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)

54 イーガの魔王⑦

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 この場で確かめる方法は1つある。遺伝子検査ではない。マイヤが得意だったそれをイズヴァルトに施すのがそれだ。

「マイヤが欲しがっていた、『おしゃぶり』を拙者に致せばよろしかろう!」

 つまりはフェラチオだ。マルティンは途端に気が重くなった。ローザのおしゃぶりは確かにうまい。最近彼女にくびったけになったマレーネのおまんこを舐める舌も凄まじかった。

 とはいえだ。伝説の少年騎士イズヴァルトのちんぽを数えきれないほどしゃぶったという、『おしゃぶり姫』の異名を誇るマイヤ=カモセンブルグ程でもないんじゃないか。

「あのう。マルティン様」

 どういうことなのかとオットーが尋ねてきた。自分、こんな話になるとは思いもよりませんでしたよ。彼女は何故かイズヴァルトの姿をちらちらと見ていた。

 抱えられたマイヤは、敵の首を狙うかの様な目つきでオットーを睨んでいた。
 
(イズヴァルトに色目を使わないで、おとこおんな!)

 この男装の令嬢が、イズヴァルトに恋心を抱いてしまったことを悟ったのだ。

「どうしてか、ローザから怖い視線が飛んでくるのですが、気のせいでしょうか?」
「オットー、イズヴァルトさんをあんまりじろじろと見てはいけないよ。ローザさん、イズヴァルトさんが『おしゃぶり』で確かめたいと言って来たけど、どうする?」

 もちろんそうしたいとマイヤの本心は思っていた。いや、おしゃぶりどころではない。尻穴エッチや肛門に顔を近づけてもらい、ぷっ、とおならを吹きかける事まで、ヘンタイさんのイズヴァルトにやってあげたい。

(イズヴァルト。おしゃぶりだけじゃ、嫌だよ?)

 いや、もうこの場で叫びたかった。さっさと私をさらって連れて行ってくれ。でも彼女の体はいまだ、アドルフの『傀儡魔法』にかかったままだった。

「殿下。私は決着をつけにここへ来たのです。漁村の娘などという話は嘘をつきました。私は病院に入った後、誰一人見受けが無かったのでとある富豪の男に見初められ、いろいろとあってアドルフ様の保護を受けたのです」

 これは魔法が言わせたことである。今のマイヤは内心でこう叫んでいた。

「ぜんぶアドルフのせいだよっ! マルティンくん、慰謝料寄越せオラ! イズヴァルトと私が一生遊んで暮らせるだけのお金を寄越せ! あと、ホーデンエーネンに大学を建てる資金もちょうだい?」

(そうやって、おどけないと正気が保てないよ……)

 目覚めた後のアドルフとの日々は、地獄の二番底も生易しいと思えるものだった。強姦と凌辱の限りを尽くされた。脳を破壊されてしまったぐらいに。

 沢山のならず者に犯された。進行した性病で全身があばたと膿だらけになった男に貪られた。その他にも沢山。

(私が犯されて貪られるのを、アドルフは楽しそうに見てたっけ……あんにゃろうっ!)

 マイヤは決してへこたれなかった。むしろ凌辱や気持ち悪さたっぷりの行いに、背筋がぞくぞくするような快感を覚えたりも。けれどもやはり、無理強いされた性行為であった。

 屈辱と怒りが心の中で燃え上がる。同時に吐き気を催す闇をまた経験したいとも。彼女の淫魔の血は開花してしまった。今も膣汁がどくどくと溢れている。

 けれどもやはり、アドルフ王子をこの手で討ち果たしたいと思ってもいた。知らぬうちに2人の子を産まされたし、何よりイズヴァルトの子を殺されたからだ。どうせならイーガを滅ぼしてやりたいくらいだ。

 でも、彼女はそこまで苛烈にはなれなかった。どこかで大目に見る、あるいは一歩引いて全体を俯瞰するという視点が頭の片隅に存在していた。

 前世の記憶があったからだろう。この世はあくまでひと時のもの、という達観も身についていた。

(……でも、許せない。)

 この生では快楽が大好きなこの身体に悩まされて楽しい浮気をしつつも、イズヴァルトと一生添い遂げたかった。なれど身体は、自分の本心とは違う事を言ってマルティンを騙してしまう。

 控えの天幕に入ると彼女はマルティンにこう答えた。もう既に、私はマルティン様に身も心も捧げております。

「イズヴァルトは結局、私のことを助けられなかった。守ってくれませんでした。だから私、見限ったのです。彼のことを……」

 やめて。本心が悲痛な叫びをあげる。私の心はイズヴァルトの15歳以上年上なんだから。もっと力があれば彼を守ってあげたかった。なのにこの身体はますます非力になってしまった。

「だから殿下。この『おしゃぶり』を彼との最後の思い出にさせてください。それ以上もそれ以下もございません。私は、貴方様こそ生涯の伴侶と望んでおります……」

 そしてこのお腹の子も。


□ □ □ □ □


 イズヴァルトは介添え人にルッソを選んだ。彼もまた幼い頃にマイヤのおしゃぶりを散々に受けた1人だ。舌遣いをよく存じている。

 マイヤの付き添いはオットーだ。「はじめまして」そう挨拶した彼女の声は冷え冷えとしていた。一瞬惚れかかったが甲斐性無しのろくでなし、とマイヤ本人から聞かされ、彼女がイズヴァルトを見る目には、侮蔑の色が浮かんでいた。

「はじめるで、ござる……」

 イズヴァルトはズボンのベルトを降ろした。30センチあるペニスがだらんとこぼれた。でかい。オットーは目を丸くしてしまう。

 そのペニスが、椅子に座ったマイヤの前に出された。彼女は小さな口を半開きにし、亀頭に唇をつけて一心不乱にしゃぶり始めた。

「うう……マイヤ……」

 マイヤの口は滑らかに動く。口の中で亀頭を愛で、それが硬くなると今度は肉軸に舌を這わせた。愛おしむように、じっくりと味わう口遣い。

 見ていたオットーは発情し、クリトリスを勃起させてしまった。膣裂から愛液がどろりとこぼれてしまう。それよりもイズヴァルトの巨大なペニスに釘付けになってしまっていた。

 舌と唇での愛撫は続く。イズヴァルトの息遣いがせわしなくなった。それにあわせてマイヤの唇は尿道のあたりの肉を吸い、たまには甘く噛んで彼を増々発情させた。

 びくん、びくんとペニスが動く。ルッソはそろそろかなと思った。マイヤはオットーの助けを受けてイズヴァルトの亀頭を吸い、口の中に入れてしゃぶり立てた。

「こ、この舌遣いはまさしくマイヤの……!」

 イズヴァルトのペニスが暴発した。勢いよく濃いザーメンがマイヤの口の中に注がれた。彼女はそれをごくんと飲むと、舌を絡ませながらおしゃぶりを続けた。

「ローザ様。も、もうよろしいのではございませぬか?」
「もちゅ、もちゅもちゅもちゅ…… (まだですよ、オットー。)」

 射精をした後もイズヴァルトのペニスは硬いままだった。久方ぶりの恋人のフェラチオに、彼のペニスは猛り狂ってしまった。

 このまま抱きかかえてヴァギナと肛門を失神しかけるまで舐め続け、両方の穴に精液を注ぎ込みたかった。

 でも、彼女はそれを許さないかの様に、イズヴァルトのペニスを咥えて離さなかった。

「ま、マイヤどの……!」

 またもイズヴァルトは精液を放った。今度出されたものをマイヤは舌で転がし、丹念に清めながら味わって飲み込んだ。

 イズヴァルトのペニスから彼女の口が離れた。判定はどうかね。オットーが問いかけるとイズヴァルトはこう答えた。

「疑いもなくこの娘さんは、マイヤでござる……」

 ルッソもうなずいた。これで彼女とはお別れか。オットーはそう思いながらマイヤを抱きかかえる。彼女の目に少しだけ涙がにじんでいたのに気がついた。

「どうする? マルティン様にお子を授けた後、離縁をするという手もあると思うが?」
「オットーさん。もう私は決めたのです」

 マイヤはまっすぐにイズヴァルトを見て呼びかけた。
 
「さようなら、私のイズヴァルト」

 違う。『本心』は抗っていた。今すぐ私を連れ去って。お願いだから。けれども、身体はアドルフにかけられた魔法によって制御されていた。

「……なにを、言っているのでござる?」
「イズヴァルト。私はさよならを言いにここに来たんだよ? ねえ。私たちの赤ちゃんはどうなったか、知りたい?」

 オットーは耳を疑った。何を言っているのだこの娘は?

 本心が金切り声をあげていた。やめて。そのことだけは言わないで。でも意志を支配された身体は、この時にだけ、アドルフの『命令』どおりにしゃべる様に仕込まれていた。

(嫌だ! それは……!)

「ま、マイヤ……赤ちゃんとは……」

 イズヴァルトは四肢を失う過酷な運命を受けた身体から、自分を拒絶するような気配を感じた。鼻をつまみたくなる様な臭いにおいとなって放たれる。サキュバスの幻覚魔法ではないのかとオットーは思った。

「あの事故で死んじゃったの。あなたとの素敵な思い出と一緒にだよ? 貴方はみんなを救えるけど、私を全然救ってくれなかったね?」

 本心でも常々思っていた事がそれだった。肩を落として泣き崩れるイズヴァルトと、彼を抱えながらマイヤを睨むルッソがいた。

「私の少女時代の素敵な人、イズヴァルト。私はマルティン君と幸せに暮らすよ。もうなにもかもおしまい。あなたに語った夢のこととか、いろんなことは全部、なんにもわかっていなかった頃の、くだらない妄想だったんだよ」

 オットーも耳を疑っていた。これは、昔の恋人に対する侮辱だ。こんな発言はしてはならない。怒りに燃えた彼女は、この場でこの娘を投げ捨ててやろうかと思った。
 
「マイヤ様! それ以上は!」
「だめだよ、オットー。この男には死んじゃった赤ちゃんのぶんまで苦しんでもらわなくちゃいけなんだよ?」
「さ、さようでござったか……マイヤと拙者のあかちゃんは……」
「死んじゃった。ごめんね。でもイズヴァルト。あなただけはそんなに気に病まなくていいんだよ?」

 オットーはマイヤの肩の肉を強く握りしめていた。もうやめろ。君を憎むことになる。言わないでやってくれ、この青年に。

「だって、イズヴァルトはいくらでもあかちゃんを作り放題なんですもの。男の子っていいよね。数秒の快楽で女の子を10カ月以上も束縛できるんだから。ふふっ」
「さ、さようでござるな。はは……ははは……」
 
 オットーは怒りに燃えた。このだるまをこの場で縊り殺してやる。けれども腕が動かなかった。あることに気が付いていたからだ。

 イズヴァルトの距離からだと見えなかったが、マイヤの体が震えきっていた。オットーは怜悧に見えたけれども、人一倍情が厚い。でもこの場合、どちらの味方をすればいいのかがわからなかった。だから黙ることにした。

「拙者は、どう赦しを乞えばよいのでざるか?」
「そんなもの、いらないよ。むしろ私は感謝しているよ、イズヴァルト」

 マイヤは邪気の無い笑みを浮かべたまま、いつも通りの快活で愛らしい声でイズヴァルトに言った。

「散々利用させてくれてありがとうね。あなたのざあめんみるく、とってもおいしかったよ? もし浮気の相談をしたかったらいつでもイーガに遊びに来てね?」

 イズヴァルトはうなだれたままだった。嗚咽し、涙がとめどなくこぼれて身動きが取れなかった。

 しかしルッソは違う。オットーが抱いていた様な怒りを顕わにして、マイヤをにらみつけていた。

「……なあマイヤ。イズヴァルトさんに諦めてもらうにもさ、もっと言い方ってものがあるだろうよ?」
「ルッソ。あなたもイーガに来たら顔を見せにおいでよ? あのわがままなトーリに嫌気がさしたらさ、わたしがおしゃぶりとおしりのあなでたーっぷり、相手してあげるから!」

 ルッソは耳を疑った。トーリを悪く言ったところでだ。
 
(マイヤはこんな罵り方はしない。)

 もうちょっと違う言い方になるはずだ。たとえば、トーリが嫌になって逃げても、トーリはぜったい追いかけて来るよ、残念だったね、とかだ。姉がどれだけ『依存体質』なのかを『義妹』なら存じているはず。

(ひょっとして……操られているのか?)

 ルッソは備わり始めた魔の力を意識してみた。マイヤの身体にはほんのりと、それとなく疑わしいものがかかっているように見えた。

 けれども何の魔法かはわからなかった。しかもこれが魔法だという確証も無い。黙ることにした。嘆いて嗚咽するばかりのイズヴァルトをなだめ、慰めるしか出来なかった。


□ □ □ □ □


「なんだって俺達はイズヴァルトを置いて撤収するんだ、ルッソ?」
「イーガの王さまが会って直々に謝罪したいらしいよ」
「マイヤちゃんは結局、イズヴァルトと別れるのか。寂しいなあ……」
「俺もあんな事に立ち会うなら、オクタヴィアさんあたりと浮気でもしたかったよ」

 2人の会話を聞いて並んで馬に乗っていたライナーが、無言でうなずいていた。オクタヴィアとは少しだけだが面識があった。彼が築城の師として仰いだ、ミレイユ=キョーライの親友こそが彼女だった。

「ライナー様。オクタヴィアさんとはしなかったんですか?」

 なれなれしくルッソが問う。ライナーはこほん、と咳をしてそんな暇が無かったと嘆いた。

「そもそも半日も無かっただろう。それと、イズヴァルトは随分と難儀だったな。突然病に倒れて2年以上、エルフの里で療養していたのか」

 あそこはとんでもないところだぞ。美人なエルフ全員と性交をしないと出られない村だ。子供達にもちんちんを提供しなければならない。

 そう脅すライナーの顔はゆるんでいた。亜人が大好きだという噂は本当だったのだな、とルッソは思った。だからついこの間まで庶子もおらず、独身だったというわけか。

「で、イズヴァルトの野郎はこっちに戻って来るんですかね、副団長?」
「わからん。もしかしたらマイヤを守るとか言って、イーガの魔法騎士団に加わるやもしれん」

 しかも最精鋭の第三軍あたりになるかもしれない。そこの騎士達は聖騎士よりも収入が多い。与えられる土地こそ狭く、貨幣が主な支給になる。けれども聖騎士団よりも倍以上の収入を得られるだろう。

「そうなると我が国は、ますますイーガに手を出しづらくなる」
「嫌ですよ俺は。もうイーガなんぞに攻め込みたくもない」

 今回のいくさで、ベートーベンはホーデンエーネンの地方の武人がどれだけ残酷か思い知らされた。今通りかかっている村にも、数多くの死体が転がり、カラスやネズミたちに喰われている。

 明らかに強姦されて殺されたと思われる、下半身を丸出しにした若い娘の遺体もあった。中には小さな女の子の輪姦死体さえも。他国への戦争は獣性を開放してしまう。国内の戦いでもそんなものがあったのに、その数はぐっと増えていた。

「ライナー副団長。俺、絶対に聖騎士団の団長、いいや、この国の元帥になって見せます」

 こんなバカげた戦争をやらせない為に偉くなりたい。ベートーベンは熱く語った。ライナーとルッソは頼もしいと思ってうなずく。

 でもこの青年はそこまで出世することは、ついぞ叶わなかった。この後のホーデンエーネンでは、ますます血筋が尊ばれるようになった。聖騎士団の中でも生まれた身分で出世ができる、できないの様にもだ。

 ベートーベンは晩年になる頃、大貴族の三男坊四男坊が要職に就き、軽佻浮薄がはびこり堕落した聖騎士団を見て、大いに悔しがる事となる。
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