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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
53 イーガの魔王⑥
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「おめえ……ほ、ホントにイズヴァルトか?」
セイン王は手を伸ばし、すっかり髪が銀色になってしまったイズヴァルトの手を握った。手袋越しだがイズヴァルトは、若き王の手を強く握り返す。
「拙者がおらぬ間に、ジュンケイン様は、身まかられたのでござるか、セイン様?」
「ああ、親父は一昨年突然死んじまった。ぴんぴんしてたが、ぽっくりとな。悪い病気がどこかに潜んでいたかもしれねえや」
それよりもだ。セイン王は涙を流しながら息子の再会を喜ぶシギサンシュタウフェン伯と、この痩せて髪の色が変わってしまったのに目をまあるくしているベートーベンとルッソに目を向けた。
俺はともかく、あいつらにイズヴァルトと話をさせてやらなくては。しかしベートーベンの目はイズヴァルトに注がれていなかった。彼の後ろにいた豊満な女エルフ・クリスタにじっと向けられていたのだ。
「……すげえ。どすけべが服着ている様なエルフだぜ」
(……あれ?)
ベートーベン。お前は親友の帰還を喜んでいたのではなかったのか。セイン王が問いかけようとするとルッソが進み出た。駆け寄ってイズヴァルトに抱き着き、会いたかったと泣き叫んだ。
「る、ルッソどの……」
「イズヴァルトさん! 長い間、そんな姿になってしまってまでどこにいたんだよ! トーリとマイヤが心配していたんだぞ!」
イズヴァルトはなんとも言えない。倒れてからこの2年以上、ずっと眠って来た様なものだった。なかなかに長い間会わなかったという実感が湧かなかった。
それよりも心配なのはマイヤだ。今はまだイーガにいるのだろうか。セイン王から2年程前に失踪し、その後にマイヤらしき少女が王の孫の妾になったと聞き出した。
(まさか、マイヤがそんなことを?)
何かの冗談だろう。マイヤはきっと、どこかで自分の子を育てながら生活しているに違いない。さらわれたのか別の理由があってそうしているのかはわからなかったが。
イズヴァルトは父とも語り合い、クリスタに欲情を抱いたままぼんやりとしていたベートーベンとも互いの再会を祝った。もっとも、ベートーベンはエルフの中で一番色気が凄まじいクリスタに惚れ始めていた。
それに気づかぬマルカスではなかった。とはいえ彼は嫉妬心はそれほどでもない。イズヴァルトの父や王の護衛にホーデンエーネンの話を聞かせてもらいたかったから、ちょっと相手してやれよ、とクリスタにささやいた。
「マルカス。おまん、ええずらか?」
「あのぐらいの年頃でああなっちまったガキは、一発抜いてすっきりしねえと落ち着かねえんだ。ていうかクリスタ、あのベートーベンってのは、イズヴァルトから聞いた話じゃ奴のダチ公の中じゃ、一番すげえ絶倫らしいぜ?」
まあ、たまには浮気もええずらな。クリスタは朗らかな笑みをベートーベンに見せて、空いている天幕で2人きりで話すずら、と誘いかけた。
「ほ、本当に!」
「ほうずらよ。ただ、カントニアのエルフはサキュバスみてえに浮気者ずら。おまんの奥さんにはなれんけど、それでもええずらか?」
もちろんだ。ベートーベンは近くの天幕から空いているのを見つけると、クリスタを連れて抱き合い始めた。
ベートーベンとともに急ぎ具足と衣類を脱いだクリスタは、とんでもなく大きく美しい乳房をつけていた。乳首は膨らんでいて柔らかい、大き目のそれにベートーベンが口づけをし、吸い始めると「くすぐったいずら!」と彼女はわらった。ベートーベンの下腹に手を伸ばす。
「元気いっぱいで、でっけえずらな?」
マルカスのそれに負けていない硬さだった。クリスタはしゃがみ、厚ぼったい唇でベートーベンのたくましいものをしゃぶり始めた。
自分が食われている様な感じと、思い切り甘えて放ちたい気持ちがベートーベンを襲った。彼はしこたま濃いのを彼女に飲ませ、それから牡汁を身体の奥にたっぷりと注ぎ込ませるような情交を開始した。、
その間、ルッソとイズヴァルトの父は、オクタヴィアらカントニアのエルフからあちらの文化や事情を聞き出していた。おまんこよりも好奇心が勝る者達だからである。
「東のヒッターチとその南のツックバーは、しょっちゅう戦争をしているずら」
山深いカイロネイアからも、両陣営から参陣のお誘いがしょっちゅう来ると男のエルフが嘆く。オクタヴィアは腕を組んでうなずいていた。
「ほうずら。おらたちを味方につけると戦局がひっくり返るっちゅうことで、どっちも金貨をたっぷし寄越して来るずらよ」
けれどもそれが迷惑そのものである。何せカントニアの東部の戦争については、北部の金髪エルフのテリトリーだからだ。
カントニアは南と北にエルフがいる。大陸の北西部から北東の端にかけて定住する金色エルフが、一番の大勢力だ。ニンゲンの王国の傭兵として働いたり、彼等に混じって生活するのが多い。しかし魔力や武力はそれほどでもない。
対して南側には褐色エルフと白色エルフ、それから翼が生えて飛べるようになった有翼エルフが生息している。この者らはできるだけひっそりと暮らすようにしている。何故なら恐ろしく強く、そのせいでニンゲンの社会を混乱させる恐れがあるからだ。
「で、オクタヴィアさん。イーガにエルフがいると聞いたことがあるけど、貴方のともだちが暮らしているんですか?」
ルッソが尋ねる。違うとオクタヴィア達は答えた。褐色エルフはカイロネイアを離れる場合、大抵はシマナミスタン南西部か、大陸南東のアーワンで暮らすのが常だ。
「イーガは大体が金色の弟妹たちが暮らしているずら。それも純血はほとんどおらん。大抵は喰うのに困って魔道を磨いた『あいのこ』ばかりずら」
その『あいのこ』。つまりはハーフエルフがイーガに向かうのだとオクタヴィアは教えた。主な出身地はウマヤーノだ。ニンゲンの女とエルフの男との間の子。ほぼほぼ女の子である。
ウマヤーノのハーフエルフ、特に女は厳しい差別を受けていた。父と母が逆ならエルフの母の庇護のもと、ミナッカミニア山地でのんびりと暮らせるのだが逆だと違う。
ハーフエルフは寿命が200年以上で老けるのがとても遅い。ニンゲンでいうと50代ぐらいの容貌になるまで200年近くかかる。
しかも美男美女ばかりで身体が頑丈。そうなると身体を使った仕事ばかりを押し付けられる。男は力仕事で女は売春だ。
それと、金色エルフのハーフは高い確率で亜人としては非力で、魔法もからきし、というのが多かった。それが顕著なのはヌマタラシュク派と呼ばれる金色エルフの大派閥に属する、男エルフの子供達だ。
「長い寿命と頑丈な身体。それ以外にとりえがねえ、となるとそうなるずら。結構な数がいるからウマヤーノの連中は、若干持て余し気味らしいずら」
ツックイーのフィリッパからその話をよく聞いている。彼女は果実酒の原料酒とするため、ウマヤーノまで『こんにゃくいも酒』を買い付けに行く。この酒はそのままだとくそまずい。『すとぜろ』の凶悪劣化版みたいな悪酒だ。
フィリッパはかの国の首都・タカレストにも良く訪れている。そこに暮らす金色エルフの友人がいるからだ。その都には至る所に、ハーフエルフの娼婦が立っているという。
ただの娼婦なだけでなく、酒場の便所で横に穴をあけた箱に入り、自らの膣で男の相手をする『すっきり箱』という膣商売をやっていたり、膣を使った曲芸で通行人から投げ銭をせびる女もいる。
膣を使った商売をしても、せいぜいが銅貨5枚程度の小遣い程度。しかし彼女達はそうまでしないと暮らしていけない。魔法や剣術、学問も身に着けてこなかったからだ。
そもそも母親達のせいでもある。金色エルフの男の美貌にくらっとなり、ついつい子供を産むまで励んだのだが、どの女達も貧民階層だった。
「母親どもの教育程度が、無残きわまりねえもんずらよ。だからやる気のある『あいのこ』は、独学で魔道を学んでイーガに移住する、というのをしょっちゅう聞いているずら」
「ひどい話ですな。せめてホーデンエーネンに来てくれれば、強い戦士を産む母としてちやほやされたでしょうに……」
シギサンシュタウフェン公は本気で嘆いていた。ホーデンエーネンでは魔道戦の仕組みが整いつつある。しかし血脈にニンゲンばかりが続く国の民は、よそと比べて著しく魔力が弱い者ばかりであった。
ルッソもまた同じことを考えていた。そのハーフエルフの女の子達がホーデンエーネンに流れ込んで来たらどうなるだろう。美人で長生きだからちやほやされるだろうな。代わりにニンゲンの『純血種』が淘汰される事となるだろうが。
「……シギサンシュタウフェン様。俺、やっぱり生活がひと段落したらイズヴァルトさんの家宰になって、一緒に旅に出ようかと思います」
「どうしてだね、ルッソ君?」
「本物のエルフさん達を見て考えが変わったんですよ。世界は広いな。いろいろと魅力的なものがいっぱいありそうだな、と」
自分はさっさと若隠居して、牧場の仕事はオルフレッドとコリアンナに任せればいい。トーリはどうしよう。まあ、イズヴァルトさんのちんちん目当てについて来てくれるだろう。
(狭い国での天下争いより、そっちの方がいいと思うぜ、トーリ?)
既に滅んだサキュバスの王国の再興だの、カツランダルク家のお家再興なんかささいなことだ。どう生きてどう死ぬか。ルッソは好きな女の子と穏やかに暮らし、たまには長い旅をするのを望んでいた。
イズヴァルトはエルヴィンやライナーと会い、互いに再会を喜んでいる。近くの天幕ではベートーベンがクリスタの締りが良すぎるヴァギナに抱え込まれ、3度目の射精に向けて尻を振り動かしていた。
そんな時にである。イーガ側から和平の使者がやって来るとの伝えを早馬がもたらしたのは。果たして一刻後、その使者は2人の女を伴ってやって来た。
□ □ □ □ □
会談の席にて。マイヤは心の中で驚いていた。
(まさか、イズヴァルトがここに来ていたなんて!)
元から彼女は恋人の死を信じてはいなかった。どこかで女の子とイチャイチャしながら私を探してくれたと思っていた。
しかもであるドエロいエルフさん達と何人も。最初に思ったことがこれだった。
(イズヴァルト! こんなにきれいなエルフさん達と浮気ばっかりしていたんでしょ! わたしもまぜてよ!)
一緒にエルフの里で暮らしましょうよ。もういやだよ、自分を封じられてまでマルティンちゃんの奥さんの真似事をするなんて。しかし彼女は心に諦めと余裕が出てきたからか、その仮の夫婦生活にも愉しみを見出していた。
ともかくマルティンは優しい。いい子だ。造られた人格の自分に対して優しくしてくれるのが悲しかったけれども。
しかもである。12歳なのにちんちんが立派だった。腰遣いも抜群にうまい。仇の息子でなければという事と、イズヴァルトがいなければとっくに鞍替えしていたと思うぐらいだった。
そして自分のお腹には子供が宿っている。マルティンとの間の赤ちゃんだ。これでお腹の中に来てくれたのは4人目だ。最初の1人と永遠に別れてしまった事を思うと、胸が張り裂けそうだった。
そのイズヴァルトを含む、ホーデンエーネン側の者らは恐ろしいものを見たという目をしていた。それが自分に注がれている事がわかっていた。
(お願いだから、せめてそんな目では見ないでほしいよ。)
彼女は背の高いオットーに抱きかかえられていた。手足の無い姿で。義足をつけようにもまだ、身体の筋肉が治っていなかったのだ。
「ま、マイヤはそうなっちまったのか……事故でかい……?」
セイン王は恐る恐る尋ねる。マルティンはうなずいた。3年前、馬車にひかれて大けが負い、両腕と両脚を切り離す手術を行った。しかし行方知れずだったのは、長い間とある貴族に養われていたからだと。
「申し訳ございません。王国がもっとしっかりしていれば、マイヤさんの身柄を早くに見つけ出す事が出来たのに……」
マルティンは机に頭をついた。一国の王子がここまで頭を下げるのは滅多にないことだ。いいや、あってはいけないとセインは思っていた。
「頭をあげてくれ、マルティン王子」
俺はその不始末を咎めるつもりはない。娘の失踪はホーデンエーネンでもよくあることだった。貴族の娘でもたまにある。
マイヤはいずれ、王族衆に迎え入れられる身となる。しかしそうなったのは彼女が父王の血を引いているのを知る前だ。何より弟のジューンショーンと同じくらいの少年が、必死になっているのが痛々しかった。
「それで、マイヤは俺達の国に戻してくれる。それでいいな?」
「……それだけは、できません」
なんて言った。ホーデンエーネンの者がざわめき立つ。イズヴァルトは目に涙を浮かべていた。なにゆえでござるか、マルティンどの?
「なぜだ、そいつは?」
「マイヤさんは……ホーデンエーネンにまだ戻れないとおっしゃっておりますので」
オットーに抱きかかえられたマイヤが口を開いた。かすれがちな痛々しい声でだ。たどたどしく魂の籠っていない声が、その満面の笑顔から放たれた。
「セイン王さま。みなさん。私は、マイヤ=カモセンブルグは、マルティン殿下を強くお慕い申しております」
なんだって。イズヴァルトは耳を疑った。それからマイヤは自分のお腹に目を向けた。ここにはマルティン様のお子がおりますの。セイン王が立ち上がった。
「マルティン! 騙しやがったな! そいつはマイヤじゃねえ! お前がこの前娶ったという、ローザっていうクリソツの娘だな!」
「いいえ、王様! 私こそがマイヤ=カモセンブルグ本人です!」
声を上げたのはマイヤだった。ローザというのは嘘の名前。自分こそがマイヤ=カモセンブルグ本人だと譲らなかった。
セイン王が剣を抜く。ローザを斬り捨てる為であった。そこへイズヴァルトとルッソが立ち上がる。
「ならば、拙者がそれを確かめて良いでござろうか?」
「……確かめるって。何をだよ?」
「そこにおられるローザ殿が本当にマイヤか否か。しかしマイヤであれば拙者は連れ帰りたいでござる。マルティン殿下には申し訳ござらぬが、それだけは……」
セイン王は手を伸ばし、すっかり髪が銀色になってしまったイズヴァルトの手を握った。手袋越しだがイズヴァルトは、若き王の手を強く握り返す。
「拙者がおらぬ間に、ジュンケイン様は、身まかられたのでござるか、セイン様?」
「ああ、親父は一昨年突然死んじまった。ぴんぴんしてたが、ぽっくりとな。悪い病気がどこかに潜んでいたかもしれねえや」
それよりもだ。セイン王は涙を流しながら息子の再会を喜ぶシギサンシュタウフェン伯と、この痩せて髪の色が変わってしまったのに目をまあるくしているベートーベンとルッソに目を向けた。
俺はともかく、あいつらにイズヴァルトと話をさせてやらなくては。しかしベートーベンの目はイズヴァルトに注がれていなかった。彼の後ろにいた豊満な女エルフ・クリスタにじっと向けられていたのだ。
「……すげえ。どすけべが服着ている様なエルフだぜ」
(……あれ?)
ベートーベン。お前は親友の帰還を喜んでいたのではなかったのか。セイン王が問いかけようとするとルッソが進み出た。駆け寄ってイズヴァルトに抱き着き、会いたかったと泣き叫んだ。
「る、ルッソどの……」
「イズヴァルトさん! 長い間、そんな姿になってしまってまでどこにいたんだよ! トーリとマイヤが心配していたんだぞ!」
イズヴァルトはなんとも言えない。倒れてからこの2年以上、ずっと眠って来た様なものだった。なかなかに長い間会わなかったという実感が湧かなかった。
それよりも心配なのはマイヤだ。今はまだイーガにいるのだろうか。セイン王から2年程前に失踪し、その後にマイヤらしき少女が王の孫の妾になったと聞き出した。
(まさか、マイヤがそんなことを?)
何かの冗談だろう。マイヤはきっと、どこかで自分の子を育てながら生活しているに違いない。さらわれたのか別の理由があってそうしているのかはわからなかったが。
イズヴァルトは父とも語り合い、クリスタに欲情を抱いたままぼんやりとしていたベートーベンとも互いの再会を祝った。もっとも、ベートーベンはエルフの中で一番色気が凄まじいクリスタに惚れ始めていた。
それに気づかぬマルカスではなかった。とはいえ彼は嫉妬心はそれほどでもない。イズヴァルトの父や王の護衛にホーデンエーネンの話を聞かせてもらいたかったから、ちょっと相手してやれよ、とクリスタにささやいた。
「マルカス。おまん、ええずらか?」
「あのぐらいの年頃でああなっちまったガキは、一発抜いてすっきりしねえと落ち着かねえんだ。ていうかクリスタ、あのベートーベンってのは、イズヴァルトから聞いた話じゃ奴のダチ公の中じゃ、一番すげえ絶倫らしいぜ?」
まあ、たまには浮気もええずらな。クリスタは朗らかな笑みをベートーベンに見せて、空いている天幕で2人きりで話すずら、と誘いかけた。
「ほ、本当に!」
「ほうずらよ。ただ、カントニアのエルフはサキュバスみてえに浮気者ずら。おまんの奥さんにはなれんけど、それでもええずらか?」
もちろんだ。ベートーベンは近くの天幕から空いているのを見つけると、クリスタを連れて抱き合い始めた。
ベートーベンとともに急ぎ具足と衣類を脱いだクリスタは、とんでもなく大きく美しい乳房をつけていた。乳首は膨らんでいて柔らかい、大き目のそれにベートーベンが口づけをし、吸い始めると「くすぐったいずら!」と彼女はわらった。ベートーベンの下腹に手を伸ばす。
「元気いっぱいで、でっけえずらな?」
マルカスのそれに負けていない硬さだった。クリスタはしゃがみ、厚ぼったい唇でベートーベンのたくましいものをしゃぶり始めた。
自分が食われている様な感じと、思い切り甘えて放ちたい気持ちがベートーベンを襲った。彼はしこたま濃いのを彼女に飲ませ、それから牡汁を身体の奥にたっぷりと注ぎ込ませるような情交を開始した。、
その間、ルッソとイズヴァルトの父は、オクタヴィアらカントニアのエルフからあちらの文化や事情を聞き出していた。おまんこよりも好奇心が勝る者達だからである。
「東のヒッターチとその南のツックバーは、しょっちゅう戦争をしているずら」
山深いカイロネイアからも、両陣営から参陣のお誘いがしょっちゅう来ると男のエルフが嘆く。オクタヴィアは腕を組んでうなずいていた。
「ほうずら。おらたちを味方につけると戦局がひっくり返るっちゅうことで、どっちも金貨をたっぷし寄越して来るずらよ」
けれどもそれが迷惑そのものである。何せカントニアの東部の戦争については、北部の金髪エルフのテリトリーだからだ。
カントニアは南と北にエルフがいる。大陸の北西部から北東の端にかけて定住する金色エルフが、一番の大勢力だ。ニンゲンの王国の傭兵として働いたり、彼等に混じって生活するのが多い。しかし魔力や武力はそれほどでもない。
対して南側には褐色エルフと白色エルフ、それから翼が生えて飛べるようになった有翼エルフが生息している。この者らはできるだけひっそりと暮らすようにしている。何故なら恐ろしく強く、そのせいでニンゲンの社会を混乱させる恐れがあるからだ。
「で、オクタヴィアさん。イーガにエルフがいると聞いたことがあるけど、貴方のともだちが暮らしているんですか?」
ルッソが尋ねる。違うとオクタヴィア達は答えた。褐色エルフはカイロネイアを離れる場合、大抵はシマナミスタン南西部か、大陸南東のアーワンで暮らすのが常だ。
「イーガは大体が金色の弟妹たちが暮らしているずら。それも純血はほとんどおらん。大抵は喰うのに困って魔道を磨いた『あいのこ』ばかりずら」
その『あいのこ』。つまりはハーフエルフがイーガに向かうのだとオクタヴィアは教えた。主な出身地はウマヤーノだ。ニンゲンの女とエルフの男との間の子。ほぼほぼ女の子である。
ウマヤーノのハーフエルフ、特に女は厳しい差別を受けていた。父と母が逆ならエルフの母の庇護のもと、ミナッカミニア山地でのんびりと暮らせるのだが逆だと違う。
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しかも美男美女ばかりで身体が頑丈。そうなると身体を使った仕事ばかりを押し付けられる。男は力仕事で女は売春だ。
それと、金色エルフのハーフは高い確率で亜人としては非力で、魔法もからきし、というのが多かった。それが顕著なのはヌマタラシュク派と呼ばれる金色エルフの大派閥に属する、男エルフの子供達だ。
「長い寿命と頑丈な身体。それ以外にとりえがねえ、となるとそうなるずら。結構な数がいるからウマヤーノの連中は、若干持て余し気味らしいずら」
ツックイーのフィリッパからその話をよく聞いている。彼女は果実酒の原料酒とするため、ウマヤーノまで『こんにゃくいも酒』を買い付けに行く。この酒はそのままだとくそまずい。『すとぜろ』の凶悪劣化版みたいな悪酒だ。
フィリッパはかの国の首都・タカレストにも良く訪れている。そこに暮らす金色エルフの友人がいるからだ。その都には至る所に、ハーフエルフの娼婦が立っているという。
ただの娼婦なだけでなく、酒場の便所で横に穴をあけた箱に入り、自らの膣で男の相手をする『すっきり箱』という膣商売をやっていたり、膣を使った曲芸で通行人から投げ銭をせびる女もいる。
膣を使った商売をしても、せいぜいが銅貨5枚程度の小遣い程度。しかし彼女達はそうまでしないと暮らしていけない。魔法や剣術、学問も身に着けてこなかったからだ。
そもそも母親達のせいでもある。金色エルフの男の美貌にくらっとなり、ついつい子供を産むまで励んだのだが、どの女達も貧民階層だった。
「母親どもの教育程度が、無残きわまりねえもんずらよ。だからやる気のある『あいのこ』は、独学で魔道を学んでイーガに移住する、というのをしょっちゅう聞いているずら」
「ひどい話ですな。せめてホーデンエーネンに来てくれれば、強い戦士を産む母としてちやほやされたでしょうに……」
シギサンシュタウフェン公は本気で嘆いていた。ホーデンエーネンでは魔道戦の仕組みが整いつつある。しかし血脈にニンゲンばかりが続く国の民は、よそと比べて著しく魔力が弱い者ばかりであった。
ルッソもまた同じことを考えていた。そのハーフエルフの女の子達がホーデンエーネンに流れ込んで来たらどうなるだろう。美人で長生きだからちやほやされるだろうな。代わりにニンゲンの『純血種』が淘汰される事となるだろうが。
「……シギサンシュタウフェン様。俺、やっぱり生活がひと段落したらイズヴァルトさんの家宰になって、一緒に旅に出ようかと思います」
「どうしてだね、ルッソ君?」
「本物のエルフさん達を見て考えが変わったんですよ。世界は広いな。いろいろと魅力的なものがいっぱいありそうだな、と」
自分はさっさと若隠居して、牧場の仕事はオルフレッドとコリアンナに任せればいい。トーリはどうしよう。まあ、イズヴァルトさんのちんちん目当てについて来てくれるだろう。
(狭い国での天下争いより、そっちの方がいいと思うぜ、トーリ?)
既に滅んだサキュバスの王国の再興だの、カツランダルク家のお家再興なんかささいなことだ。どう生きてどう死ぬか。ルッソは好きな女の子と穏やかに暮らし、たまには長い旅をするのを望んでいた。
イズヴァルトはエルヴィンやライナーと会い、互いに再会を喜んでいる。近くの天幕ではベートーベンがクリスタの締りが良すぎるヴァギナに抱え込まれ、3度目の射精に向けて尻を振り動かしていた。
そんな時にである。イーガ側から和平の使者がやって来るとの伝えを早馬がもたらしたのは。果たして一刻後、その使者は2人の女を伴ってやって来た。
□ □ □ □ □
会談の席にて。マイヤは心の中で驚いていた。
(まさか、イズヴァルトがここに来ていたなんて!)
元から彼女は恋人の死を信じてはいなかった。どこかで女の子とイチャイチャしながら私を探してくれたと思っていた。
しかもであるドエロいエルフさん達と何人も。最初に思ったことがこれだった。
(イズヴァルト! こんなにきれいなエルフさん達と浮気ばっかりしていたんでしょ! わたしもまぜてよ!)
一緒にエルフの里で暮らしましょうよ。もういやだよ、自分を封じられてまでマルティンちゃんの奥さんの真似事をするなんて。しかし彼女は心に諦めと余裕が出てきたからか、その仮の夫婦生活にも愉しみを見出していた。
ともかくマルティンは優しい。いい子だ。造られた人格の自分に対して優しくしてくれるのが悲しかったけれども。
しかもである。12歳なのにちんちんが立派だった。腰遣いも抜群にうまい。仇の息子でなければという事と、イズヴァルトがいなければとっくに鞍替えしていたと思うぐらいだった。
そして自分のお腹には子供が宿っている。マルティンとの間の赤ちゃんだ。これでお腹の中に来てくれたのは4人目だ。最初の1人と永遠に別れてしまった事を思うと、胸が張り裂けそうだった。
そのイズヴァルトを含む、ホーデンエーネン側の者らは恐ろしいものを見たという目をしていた。それが自分に注がれている事がわかっていた。
(お願いだから、せめてそんな目では見ないでほしいよ。)
彼女は背の高いオットーに抱きかかえられていた。手足の無い姿で。義足をつけようにもまだ、身体の筋肉が治っていなかったのだ。
「ま、マイヤはそうなっちまったのか……事故でかい……?」
セイン王は恐る恐る尋ねる。マルティンはうなずいた。3年前、馬車にひかれて大けが負い、両腕と両脚を切り離す手術を行った。しかし行方知れずだったのは、長い間とある貴族に養われていたからだと。
「申し訳ございません。王国がもっとしっかりしていれば、マイヤさんの身柄を早くに見つけ出す事が出来たのに……」
マルティンは机に頭をついた。一国の王子がここまで頭を下げるのは滅多にないことだ。いいや、あってはいけないとセインは思っていた。
「頭をあげてくれ、マルティン王子」
俺はその不始末を咎めるつもりはない。娘の失踪はホーデンエーネンでもよくあることだった。貴族の娘でもたまにある。
マイヤはいずれ、王族衆に迎え入れられる身となる。しかしそうなったのは彼女が父王の血を引いているのを知る前だ。何より弟のジューンショーンと同じくらいの少年が、必死になっているのが痛々しかった。
「それで、マイヤは俺達の国に戻してくれる。それでいいな?」
「……それだけは、できません」
なんて言った。ホーデンエーネンの者がざわめき立つ。イズヴァルトは目に涙を浮かべていた。なにゆえでござるか、マルティンどの?
「なぜだ、そいつは?」
「マイヤさんは……ホーデンエーネンにまだ戻れないとおっしゃっておりますので」
オットーに抱きかかえられたマイヤが口を開いた。かすれがちな痛々しい声でだ。たどたどしく魂の籠っていない声が、その満面の笑顔から放たれた。
「セイン王さま。みなさん。私は、マイヤ=カモセンブルグは、マルティン殿下を強くお慕い申しております」
なんだって。イズヴァルトは耳を疑った。それからマイヤは自分のお腹に目を向けた。ここにはマルティン様のお子がおりますの。セイン王が立ち上がった。
「マルティン! 騙しやがったな! そいつはマイヤじゃねえ! お前がこの前娶ったという、ローザっていうクリソツの娘だな!」
「いいえ、王様! 私こそがマイヤ=カモセンブルグ本人です!」
声を上げたのはマイヤだった。ローザというのは嘘の名前。自分こそがマイヤ=カモセンブルグ本人だと譲らなかった。
セイン王が剣を抜く。ローザを斬り捨てる為であった。そこへイズヴァルトとルッソが立ち上がる。
「ならば、拙者がそれを確かめて良いでござろうか?」
「……確かめるって。何をだよ?」
「そこにおられるローザ殿が本当にマイヤか否か。しかしマイヤであれば拙者は連れ帰りたいでござる。マルティン殿下には申し訳ござらぬが、それだけは……」
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