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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
43 瓦解の始まり
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カツランダルク御三家のうち1つ、ソーロー家の婿当主・ケノービが初めてその赤子を抱いたのは、マイヤの3番目の子の着床の日と同じ頃であった。
「なるほど。これがレーアとかいう娘か」
大事に預かって育てよう。きっと良い美姫になるだろう。ケノービは目の前のイーガ人の男に向けて笑顔を見せた。
「あのお方様は絶対に死なせてはならぬと申しておりました。くれぐれもご成人為される前にご薨去なされぬよう、お気をつけなさいませ」
「わかっておる。はるばるこんなに辺鄙なヨーシデンの港に来た甲斐があったな。ふふふ、イーガ王家とカツランダルク家の両方の血を継ぐ姫君か!」
ケノービはレーアを高々と抱き上げた。泣きもせずキャッキャと笑うこの娘にはとんでもない胆力があるようだな、とケノービは思った。
正妻のチュバッカとの間に産まれた子供達はとても聡明そうに見えたが、他の女達に産また庶子らにはいらいらさせられっぱなしだった。どの子も父の顔を見ると母親のほうに行ってしまう。懐いてくれない。
「でもこの子は懐きそうだな?」
「あと、精液を飲まないと病気にかかりやすいのでご注意ください」
「へえ。サキュバスみたいだな?」
「何せ私もこのおじょうちゃまに、道中でなんどもおちんぽでお世話していたものですから。いやはや……」
赤ん坊のくせに、ちんぽを見るとしゃぶりついてなかなか離してくれない。母乳よりも精液の方が飲んだ量が多かったのではないだろうか。
「それでは私は、これで……」
「世話になったな。あのお方には私の代わりに礼を言ってくれ」
イーガからの密使はその小屋を出て行った。あたりは砂浜だ。これから船に乗ってトーバコフの港を経由してアノーヅへと帰る。
この仕事が終わればきれいな女と数週間、酒を飲みながらの手厚い休暇がいただけると聞いていた。連れのうち1人が乗っていた小舟に乗り込むと漕ぎながらその話で盛り上がった。
「あのちんぽ大好きあかちゃんを、ここまで連れて来るだけでそんなご褒美をくれるとは、殿下も本当に大盤振る舞いだな!」
「ああ、まったくだ! 俺はでっかいおっぱいと入れやすいおまんこが恋しいよ!」
「ははっ。ザムザ。おめえはレーア様に一番懐かれていたからな! でっかいきんたまがおっぱいみたく見えたんだろ!」
「そうかもしれねえや。ははっ!」
船に近づいた。ザムザともう1人が舷から縄梯子が放たれたのを見て喜ぶ。もしかしたら置いてけぼりにされるのではないかと予想していたが違ったようだ。美女と酒の数週間が待っている……そのはずだった。
いつの間にかザムザは後ろに倒れていた。胸元に激しい痛みがあった。見れば喉に弩の矢が刺さっている。やはりそのつもりだったかと悟った。もう一人が倒れて水音を立てたのを耳にした。甘い言葉で誘ってたぶらかしたのだ。あの王太子は。
「かっ、かああ……アドルフ……きさま……」
もう1本の矢が彼の脳天を貫いた。ザムザは永久に口を封じられた。この臨海であった事に証言者があってはならない。もしもの事が無いようにと、アドルフは周到に仕掛けておいたのだ。
□ □ □ □ □
ホーデンエーネン王国暦347年12月の真夜中のことだ。アスカウの村にナントブルグからの騎馬の一団が現れた。近衛騎士団の旗を掲げる彼等は、アスカウの北側にある牧童の集落へと向かった。
突如として現れた王国騎士団の騎馬隊に、村の者達はおののいた。いったいお殿様たちがなにゆえこんなところに来たんだろうか。
「ルッソ=シュミットはどこにおるか! いたら返事をせい!」
「ルッソ=シュミットくん! 殺したりしないから出ておいで! 僕らはちょっと用事があるのだよ君に!」
ルッソはどこだ。ルッソはどこにいる。叫んでばかりの貴族騎士達に村人たちがこう告げた。もっと奥の集落にシュミットさんちがあるんでさあ。
「そうだったのか、ありがとう!」
「あとで家来にお礼のお菓子を持って来させるからな! いざ!」
騎馬隊は牧場沿いののどかな道を駆ける。古い石垣の残骸があちこちにあるのが夜目でもわかった。
「なんとも風情のあるところですな、副官殿!」
「そりゃそうだ。何せホーデンエーネン王家の創業の地であるからな、この牧童の村は!」
「……もしかして、ここの村のみなさん、みんな陛下とは遠縁にあたるかたがたばかりで?」
「かもしれん程度だよ。あっはっはっ!」
貴族騎士達はシュミット家の敷地に入った。先祖代々、村で一番の豊かな牧童だという。家はどこかぼろっちくも見えたが、大きかった。他の牧童の家に比べて確かに、格が違う様に思えた。
「シュミット! ルッソ=シュミットはおるか!」
怒鳴り声とともにルッソの父と母が出てきた。それとルッソとトーリの子供達もだ。しかし肝心のルッソの姿が見当たらなかった。
「ルッソの父ですが、せがれが何か?」
「今すぐルッソ君に会いたいのだ! 同行願いたいのだがどこにいるのかね?」
「でしたら……たぶん、牧場の羊小屋の近くにあるちいさな小屋に、やつの嫁のトーリと一緒に寝ているはずだと思いますが……」
「なるほど! 不粋なことをした! しっかし急な用事なのだ! いやがってもしょっぴかなければならんのだ!」
一隊は東にある小屋に向かった。確かに「あはん♡ あっはん♡」と若い女の声がする。若く手お盛んで羨ましい限りだ。もっともこの連中もナントブルグにいるときは、妻や妾や恋人たちと「あっはん♡」をしてばかりだが。
「ルッソ=シュミット! 出てこい!」
なんだようっせーな、という声がした。随分と生意気そうな若造の声だ。部隊の副官達が同行願いたいと呼びかけると、しばらくしてルッソが扉から出た。同時に小屋の中からトーリが流した汗のむわっとしたにおいが放たれた。
「うわっ。メスの汗くさいな!」
「でもちんぽにびんびんとくるいいにおいだ!」
「おさむらいさまがた、この牧童にどの様なお申し付けを?」
ルッソが地べたに膝をついて平伏すると、騎士達はアスカウの西にある砦まで行くのだと答えた。そこにトーリが顔を覗かせる。えらいべっぴんさんだな。騎士達は口笛を吹いた。
「この人たちは、ルッソ?」
「ちょっと用事があるんだ。しばらくしてから戻って来るよ」
「私も同行するわ、ルッソ」
しかし騎士達はだめ、とトーリに返した。ルッソはちょいちょいと騎士達のうち残る連中はいないかと尋ねた。
「どういうつもりだね?」
「ちょっと訳アリでしてね。できれば若くて女の子にあぶれている下男なんかが良いのですが……」
「ルッソ! 勝手に浮気の相談なんかしないで!」
トーリが怒鳴った。しかし浮気されても托卵される心配はなかった。彼女はまたも妊娠していたからだ。
「……どうする?」
隊長が副官達に尋ねた。トーリは凄い美少女である。そろそろ美女と呼ぶにふさわしい年頃となっているが。ルッソがねだるような目つきを送ると、仕方なく下っ端の女に恵まれていない3名を『警備』の名目で置く事にした。
「ふざけないでよ、ルッソ!」
馬に乗り込んだルッソを見てトーリは抗弁したが、期待に満ちた笑みを浮かべてやって来た男達が近づくと気持ちがへなへなになってしまった。
小屋の中で「ひゃああ~ん♡」と声が聞こえる様になると、ルッソは騎士達に守られて砦に向かった。トーリは燃え盛る牡獣達に蹂躙されて、たちまちそれにのめりこんでしまぅった。
おおよそ30分。その砦で待っていたのは以前から文通をしていた聖騎士団のエルヴィンだった。近衛騎士団のお偉いさんたちは隣の宿場町の宿で、村の女をあてがわれて宴会をやっている最中だという。
「お久しぶりです。エルヴィン様」
「すまないね、ルッソ。とうとう決まったよ」
「何をですか?」
「『おしゃぶり姫』の救出作戦だよ」
とうとうその時が来たか。ルッソの胸は高鳴った。しかし手紙を出したのは半年ほど前だ。これが決まるのにどうしてこんなにも時間がかかったのだ。
「俺が預けたトーリとマイヤの毛と爪を調べるの、そんなに時間がかかったのですか?」
「いいや。遺伝子検査自体は半月ほどで終わったんだ。ただなあ……」
秘密裡に討議されていたイーガへの進軍という行為は大臣ほか、近衛騎士団と大貴族たちの猛反発を喰らった。外交ルートを通して抗議して身柄引き渡しが出来れば良いのではないのか。
セイン王は勇猛かつ暴れん坊であったが、さすがに大貴族からの抗議に対して自重せざるを得なかった。王家の姫ぐらいなんだ。跡継ぎ様が囚われたのなら全軍を率いて取り返しにかかるならまだしも、先代の陛下の愛妾の孫ぐらい、くれてやっても良いではないかという声も。
「ひどいですね。そこまで男尊女卑がはげしいとは思いもよりませんでしたよ」
「そうではない。イーガとはあまり事を構えたくなかったんだ。戦争ではいつも負けているし。しかし今回はようやく大臣たちの腹も決まった」
セイン王がしつこいぐらいにイズヴァルトを死なせたことと『おしゃぶり姫』が行方不明になった事が、我が国にとっての侮辱であると声高に叫んでくれたからとうとうこぎつけたのだ。
に、しても半年もかかったのは残念だった。イズヴァルトとマイヤはこのホーデンエーネンの宝みたいなものなのに。ルッソは貴族たちが意外と薄情なのが悲しかった。
「ルッソ。君にも参陣してほしい」
「俺がですか?」
「戦いに加わらなくていい。それと、この件はシギサンシュタウフェン卿にも伝えている。卿も手勢を率いて参陣してくれるそうだ」
何せ息子を失い、将来の嫁も行方知れずだから気がやきもきしていたのだ。シギサンシュタウフェンが私費でマイヤの捜索を行っていたのをルッソは知らされていた。
(できれば死んだというイズヴァルトさんが、生きて戻ってくれたらいいんだけどな。)
イーガ入りは新年になるだろう。ルッソはエルヴィンとともに向かう事に決めた。
「なるほど。これがレーアとかいう娘か」
大事に預かって育てよう。きっと良い美姫になるだろう。ケノービは目の前のイーガ人の男に向けて笑顔を見せた。
「あのお方様は絶対に死なせてはならぬと申しておりました。くれぐれもご成人為される前にご薨去なされぬよう、お気をつけなさいませ」
「わかっておる。はるばるこんなに辺鄙なヨーシデンの港に来た甲斐があったな。ふふふ、イーガ王家とカツランダルク家の両方の血を継ぐ姫君か!」
ケノービはレーアを高々と抱き上げた。泣きもせずキャッキャと笑うこの娘にはとんでもない胆力があるようだな、とケノービは思った。
正妻のチュバッカとの間に産まれた子供達はとても聡明そうに見えたが、他の女達に産また庶子らにはいらいらさせられっぱなしだった。どの子も父の顔を見ると母親のほうに行ってしまう。懐いてくれない。
「でもこの子は懐きそうだな?」
「あと、精液を飲まないと病気にかかりやすいのでご注意ください」
「へえ。サキュバスみたいだな?」
「何せ私もこのおじょうちゃまに、道中でなんどもおちんぽでお世話していたものですから。いやはや……」
赤ん坊のくせに、ちんぽを見るとしゃぶりついてなかなか離してくれない。母乳よりも精液の方が飲んだ量が多かったのではないだろうか。
「それでは私は、これで……」
「世話になったな。あのお方には私の代わりに礼を言ってくれ」
イーガからの密使はその小屋を出て行った。あたりは砂浜だ。これから船に乗ってトーバコフの港を経由してアノーヅへと帰る。
この仕事が終わればきれいな女と数週間、酒を飲みながらの手厚い休暇がいただけると聞いていた。連れのうち1人が乗っていた小舟に乗り込むと漕ぎながらその話で盛り上がった。
「あのちんぽ大好きあかちゃんを、ここまで連れて来るだけでそんなご褒美をくれるとは、殿下も本当に大盤振る舞いだな!」
「ああ、まったくだ! 俺はでっかいおっぱいと入れやすいおまんこが恋しいよ!」
「ははっ。ザムザ。おめえはレーア様に一番懐かれていたからな! でっかいきんたまがおっぱいみたく見えたんだろ!」
「そうかもしれねえや。ははっ!」
船に近づいた。ザムザともう1人が舷から縄梯子が放たれたのを見て喜ぶ。もしかしたら置いてけぼりにされるのではないかと予想していたが違ったようだ。美女と酒の数週間が待っている……そのはずだった。
いつの間にかザムザは後ろに倒れていた。胸元に激しい痛みがあった。見れば喉に弩の矢が刺さっている。やはりそのつもりだったかと悟った。もう一人が倒れて水音を立てたのを耳にした。甘い言葉で誘ってたぶらかしたのだ。あの王太子は。
「かっ、かああ……アドルフ……きさま……」
もう1本の矢が彼の脳天を貫いた。ザムザは永久に口を封じられた。この臨海であった事に証言者があってはならない。もしもの事が無いようにと、アドルフは周到に仕掛けておいたのだ。
□ □ □ □ □
ホーデンエーネン王国暦347年12月の真夜中のことだ。アスカウの村にナントブルグからの騎馬の一団が現れた。近衛騎士団の旗を掲げる彼等は、アスカウの北側にある牧童の集落へと向かった。
突如として現れた王国騎士団の騎馬隊に、村の者達はおののいた。いったいお殿様たちがなにゆえこんなところに来たんだろうか。
「ルッソ=シュミットはどこにおるか! いたら返事をせい!」
「ルッソ=シュミットくん! 殺したりしないから出ておいで! 僕らはちょっと用事があるのだよ君に!」
ルッソはどこだ。ルッソはどこにいる。叫んでばかりの貴族騎士達に村人たちがこう告げた。もっと奥の集落にシュミットさんちがあるんでさあ。
「そうだったのか、ありがとう!」
「あとで家来にお礼のお菓子を持って来させるからな! いざ!」
騎馬隊は牧場沿いののどかな道を駆ける。古い石垣の残骸があちこちにあるのが夜目でもわかった。
「なんとも風情のあるところですな、副官殿!」
「そりゃそうだ。何せホーデンエーネン王家の創業の地であるからな、この牧童の村は!」
「……もしかして、ここの村のみなさん、みんな陛下とは遠縁にあたるかたがたばかりで?」
「かもしれん程度だよ。あっはっはっ!」
貴族騎士達はシュミット家の敷地に入った。先祖代々、村で一番の豊かな牧童だという。家はどこかぼろっちくも見えたが、大きかった。他の牧童の家に比べて確かに、格が違う様に思えた。
「シュミット! ルッソ=シュミットはおるか!」
怒鳴り声とともにルッソの父と母が出てきた。それとルッソとトーリの子供達もだ。しかし肝心のルッソの姿が見当たらなかった。
「ルッソの父ですが、せがれが何か?」
「今すぐルッソ君に会いたいのだ! 同行願いたいのだがどこにいるのかね?」
「でしたら……たぶん、牧場の羊小屋の近くにあるちいさな小屋に、やつの嫁のトーリと一緒に寝ているはずだと思いますが……」
「なるほど! 不粋なことをした! しっかし急な用事なのだ! いやがってもしょっぴかなければならんのだ!」
一隊は東にある小屋に向かった。確かに「あはん♡ あっはん♡」と若い女の声がする。若く手お盛んで羨ましい限りだ。もっともこの連中もナントブルグにいるときは、妻や妾や恋人たちと「あっはん♡」をしてばかりだが。
「ルッソ=シュミット! 出てこい!」
なんだようっせーな、という声がした。随分と生意気そうな若造の声だ。部隊の副官達が同行願いたいと呼びかけると、しばらくしてルッソが扉から出た。同時に小屋の中からトーリが流した汗のむわっとしたにおいが放たれた。
「うわっ。メスの汗くさいな!」
「でもちんぽにびんびんとくるいいにおいだ!」
「おさむらいさまがた、この牧童にどの様なお申し付けを?」
ルッソが地べたに膝をついて平伏すると、騎士達はアスカウの西にある砦まで行くのだと答えた。そこにトーリが顔を覗かせる。えらいべっぴんさんだな。騎士達は口笛を吹いた。
「この人たちは、ルッソ?」
「ちょっと用事があるんだ。しばらくしてから戻って来るよ」
「私も同行するわ、ルッソ」
しかし騎士達はだめ、とトーリに返した。ルッソはちょいちょいと騎士達のうち残る連中はいないかと尋ねた。
「どういうつもりだね?」
「ちょっと訳アリでしてね。できれば若くて女の子にあぶれている下男なんかが良いのですが……」
「ルッソ! 勝手に浮気の相談なんかしないで!」
トーリが怒鳴った。しかし浮気されても托卵される心配はなかった。彼女はまたも妊娠していたからだ。
「……どうする?」
隊長が副官達に尋ねた。トーリは凄い美少女である。そろそろ美女と呼ぶにふさわしい年頃となっているが。ルッソがねだるような目つきを送ると、仕方なく下っ端の女に恵まれていない3名を『警備』の名目で置く事にした。
「ふざけないでよ、ルッソ!」
馬に乗り込んだルッソを見てトーリは抗弁したが、期待に満ちた笑みを浮かべてやって来た男達が近づくと気持ちがへなへなになってしまった。
小屋の中で「ひゃああ~ん♡」と声が聞こえる様になると、ルッソは騎士達に守られて砦に向かった。トーリは燃え盛る牡獣達に蹂躙されて、たちまちそれにのめりこんでしまぅった。
おおよそ30分。その砦で待っていたのは以前から文通をしていた聖騎士団のエルヴィンだった。近衛騎士団のお偉いさんたちは隣の宿場町の宿で、村の女をあてがわれて宴会をやっている最中だという。
「お久しぶりです。エルヴィン様」
「すまないね、ルッソ。とうとう決まったよ」
「何をですか?」
「『おしゃぶり姫』の救出作戦だよ」
とうとうその時が来たか。ルッソの胸は高鳴った。しかし手紙を出したのは半年ほど前だ。これが決まるのにどうしてこんなにも時間がかかったのだ。
「俺が預けたトーリとマイヤの毛と爪を調べるの、そんなに時間がかかったのですか?」
「いいや。遺伝子検査自体は半月ほどで終わったんだ。ただなあ……」
秘密裡に討議されていたイーガへの進軍という行為は大臣ほか、近衛騎士団と大貴族たちの猛反発を喰らった。外交ルートを通して抗議して身柄引き渡しが出来れば良いのではないのか。
セイン王は勇猛かつ暴れん坊であったが、さすがに大貴族からの抗議に対して自重せざるを得なかった。王家の姫ぐらいなんだ。跡継ぎ様が囚われたのなら全軍を率いて取り返しにかかるならまだしも、先代の陛下の愛妾の孫ぐらい、くれてやっても良いではないかという声も。
「ひどいですね。そこまで男尊女卑がはげしいとは思いもよりませんでしたよ」
「そうではない。イーガとはあまり事を構えたくなかったんだ。戦争ではいつも負けているし。しかし今回はようやく大臣たちの腹も決まった」
セイン王がしつこいぐらいにイズヴァルトを死なせたことと『おしゃぶり姫』が行方不明になった事が、我が国にとっての侮辱であると声高に叫んでくれたからとうとうこぎつけたのだ。
に、しても半年もかかったのは残念だった。イズヴァルトとマイヤはこのホーデンエーネンの宝みたいなものなのに。ルッソは貴族たちが意外と薄情なのが悲しかった。
「ルッソ。君にも参陣してほしい」
「俺がですか?」
「戦いに加わらなくていい。それと、この件はシギサンシュタウフェン卿にも伝えている。卿も手勢を率いて参陣してくれるそうだ」
何せ息子を失い、将来の嫁も行方知れずだから気がやきもきしていたのだ。シギサンシュタウフェンが私費でマイヤの捜索を行っていたのをルッソは知らされていた。
(できれば死んだというイズヴァルトさんが、生きて戻ってくれたらいいんだけどな。)
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