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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
20 呪いの序曲①
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「家庭教師の仕事はやめにするね……」
イズヴァルトとマイヤの会話は、アドルフに筒抜けだった。どうやら陰謀を早く完遂させなければ。その為の工作は密かに進めさせていた。
マイヤの拉致とイズヴァルトの暗殺。機会は早くに訪れる。深夜、妾との子づくりを終えたアドルフはすぐに人を呼んだ。
今回はオットーではない。彼が闇の仕事で信頼を置く、傭兵上がりの警備隊長だった。身体から妙に汗と精液のにおいを漂わせていたのは、屋敷の女召使いとセックスをした後だったからだ。
「ゲーンハルト。馬車を出せ。離れへ向かう」
「承知いたしました、閣下」
ゲーンハルトは人相こそ悪いが頼りになる男である。アドルフは護身用のミスリルのレイピアを携えて裏口から馬車に乗った。
彼の邸宅は郊外には無い。コーヅケーニッヒの北側にある。その屋敷の東にイーガ王が在する王城があった。
コーヅケーニッヒ城は城というより、中央政庁の建物を城壁状に四方に配して囲ませた3階建ての小さな館であった。人は城であり石垣というのがイーガの歴代国王考えであった。
アドルフが乗った馬車は夜の闇に紛れて都の北の郊外へ向かった。なだらかな丘陵地帯の森の中に、アドルフがひそかに建てていた離れの屋敷があった。
大きさはイーガの並みの貴族の邸宅と同じぐらい。所有者の名義はカントニアのウマヤーノ共和国在住の大商人。イーガの魔道具の輸入を取り扱っている王国のお得意様だ。
馬車が玄関の前に停まった。アドルフはゲーンハルトと共に屋敷の中に入る。部屋のあちこちで若い女の矯声が聞こえるのは、この屋敷の留守役達が彼女達と励んでいたからだった。
「あいもかわらずお盛んだな。ゲーンハルト。レグスを呼べ」
「はッ!」
ゲーンハルトは左手で印を切った。念じて呼びかけると彼より大柄で汗臭いにおいを放つ、上半身裸の腰布姿の男が現れた。
この男がレグスだ。元魔法騎士団所属で武勇抜群だったが、村の少女への強姦事件を起こして退団させられた。それからはアドルフの護衛兵となっている。
「レグス。ヒッポタルトは来ているか?」
ヒッポタルトはアドルフが、イズヴァルトを暗殺する為の薬を造らせていた。『プレセペの死に至る病』というのがそれだ。急性の臓器不全を起こす猛毒。シマナミスタンの病原菌を用いていた。
「はい。6日前からおりますが……2日であげて後の4日は自分の部屋に籠っております」
「報告が遅いな。で、きゃつは部屋に籠って何をしているのだ?」
「いちゃこらですよ……自分好みの娼婦と一緒です」
□ □ □ □ □
ヒッポタルトは魔道士である。ただしイーガの産まれではない。カントニアの南部・マリーヤから流れ着いた人物である。
歳は40ぐらいでそれまでは医者の真似事をやっていた。もっぱら仕事としていたのは病気と見せかけた毒殺の仕事だ。
彼が手がけた暗殺は、このイーガでも10件はある。対象はホーデンエーネンの技術スパイの女達ばかり。
著名な技術者に甘い言葉で近づいて、ベッドの上で語ってもらう美女達を闇で葬り続けた。アドルフが信頼を置く影の家臣達のうち1人である。
ヒッポタルトはその時、ベッドの上で1人の少女を組み敷いていた。顔立ちは整っているが、輪郭はやや膨れていてぽちゃぽちゃとしている。
娼婦ではない。イーガの地方都市にある貧民窟出身の少女だった。歳はマイヤとさして変わらない。身の回りの世話と性交の為に彼は彼女を買い取った。
歳に比べて色っぽく喘いでいるが、口臭がひどかった。歯槽膿漏のせいだ。この娘は虫歯だらけだった。顔や身体もよく見れば、吹き出物が目立つ。
ヒッポタルトは下層民のこういう娘が好みだった。下賤の出身でかつ不摂生で堕落しがちな少女は、優越感に浸せてくれる。どんなにひどい扱いをしても気兼ねなく犯せるからだ。
「あうあ……ごしゅじんさま……」
娘は太っていたからほぞの中は柔らかく熱かった。彼は女陰をリズミカルに叩きつけ、幼い洞の中に精を流し込んだ。
「おつとめはしばらくお預けだ。ヒッポタルト」
魔道士はよく聞く声に驚いて後ろを振り向いた。雇い主であるアドルフと護衛のゲーンハルトが立っていた。
「この部屋は臭いな。お前の精液とそこの娘の臭いにおいのせいで息ができん」
「あははは……アドルフ様。しばらくお待ちを」
ヒッポタルトは立ち上がって窓を開けた。これならどうでしょう。冷たい夜風が吹き込んでくると、娘はへっくしょんと大きなくしゃみをした。
アドルフは粘液をたっぷりとつけているヒッポタルトのペニスをちらと見ながら、娘のたるんだ腹を見てほくそ笑む。
「頼んだものはもう出来ているな?」
「はい。『プレセペの死に至る病』は既に出来上がっております。あとはいつ、どこで誰に含ませるかでございましょう」
「もう決まった。明日にでもそれが出来るように手筈は整えてある。ところで……」
もう1つ薬を造ってほしい。『不死トカゲのしっぽ』という秘薬である。それを聞いてヒッポタルトはにひひひと笑った。
「これはまた、禁断にもほどがある薬をお求めですな。誰に用いるので?」
「お前の薬の知識であれば可能だろう。『不死トカゲのしっぽ』、出来るな?」
「もちろんですとも、殿下」
この魔道士は秘薬の製法を存じていた。材料さえそろえば1日で造ることが可能だ。ヒッポタルトは娘をちらと見た。これは丁度いい実験台になる。
『不死トカゲのしっぽ』。切り離した手足を300年間も腐らせることもなく保存させる秘薬である。しかも切り離されたそれはある程度の意思を持ち、動くことが出来る。
その理由は手足の中に魔道の力を秘めた腫れものを根付かせるから。自分で指を伸ばしたり足の関節をぐりぐりと回すぐらいなら朝飯前だ。
切り離した人間や動物の腕や脚を生かす魔道、それがであった。その起源は大昔にあったさる王国の、とある王とその寵姫の言い伝えにある。
とある大陸の古代王国のその王には、美しい腕と脚を持つ寵姫がいた。彼女は若くして臨終の床にあった。
命は助からない。けれども王はせめて、彼女の自慢だった腕と脚だけは生きたまま残したかった。そこでこの魔術に知悉する魔道士を呼んだ。
姫が死ぬ前に両手両脚を切り落とさせた。後生大事に意思を持って動くそれを愛で続けた。しかしある時、その姫の両腕に首を絞めあげられて王は息を引き取った
「そういういわくつきの話がございますが、よろしいので?」
「構わんよ。あともう1つだ。これはお前も知らないだろうから後で書物を送るつもりだが……『親思いのひな鳥の献身』を造ってほしい」
「はて……その様な薬はマリーヤでは聞いたことがございませんな?」
「我が国にはあるのだよ」
禁断の秘薬と呼ばれているがな。アドルフは笑いながら部屋を出て行った。
□ □ □ □ □
『親思いのひな鳥の献身』。
300年程前にイーガにいたという女魔道士が、その製法を本に記していた。魔道の中でも邪道とされるそれは、禁書図書館の中に封じられている。
(話によればその魔道士、前世は錬金術師だったらしいな。)
赤子や幼子を生きたまま錬成して蒸留し、若返りの美容液にしたのだとか。それを女優や女政治家達に高値で売り飛ばし、大儲けをしたらしい。
その『親思いのひな鳥の献身』という秘薬だが、若返りの力があるだけでなく、万病を治す効果もあるという。更には飲んだものの魔力の秘蔵量を飛躍的に上昇させる効果もあるのだとか。
アドルフはそれを知り合いの闇魔道士に造らせて病人に飲ませた事がある。その人物は死が間近に迫っていたが、書かれた書物通りに回復した。
ならば自分も試してみようと飲んだこともあったが、何故か彼自身には効かなかった。その薬にはどうにも相性というものがあるらしい。
(頑強な身体が手に入るかと思ったのだがな、な……)
その薬を彼は、とある人物の『土産物』として与える事を考えていた。潜ませた者によると、当人が最近養う事になった赤子が、どうにも身体の調子を悪くしているらしい。
(下痢やひきつけをしょっちゅう起こしているらしいな。仕方あるまい。旅続きで身体を弱めてしまったのだろう。『神の子』でもできぬことがある。)
3日後。アドルフは『不死トカゲのしっぽ』が出来たことを知らされて離れ向かった。出来上がった薬の試験が丁度、行われていた最中に訪れた。
少女が泣き叫ぶ声がした。血なまぐさいにおいを放つ奥の一室に入ると、ヒッポタルトが召使いとして側に置いていた太った少女が、手術台の上で全身を縛られ、もがいていた。
彼女の右の二の腕の真ん中から先は、ばっさりと斬り落とされていた。止血の為に腕は縛られていたが、流れる血の量が尋常では無い。このままでは死ぬだろう。
斬り落としたのはレグスだ。彼は血だらけの大鉈を持っていた。見学をしていた者によると、一撃でばっさりとやれたらしい。流石は元魔法騎士団の猛者である。
「……しかしあの娘はうるさいな。眠らせなかったのは何故だ?」
「麻酔無しに手術をすれば、なかなかに面白いものが見れるのではないかとヒッポタルトが言ってましてな。きゃつのいう通りに我々はそうしただけです」
「残酷なマリーヤ人が考えそうな趣向だ。ばかばかしい」
アドルフは娘に近づき、印を切った後に彼女の右の肩を掴んだ。みるみるうちに血が止まり、傷口が乾いてかさぶただらけになった。
3分して彼女の腕の断面から、新たな肉と皮膚が出来上がった。代わりに彼女はいささかやつれて寝込んでしまった。
「ほう。流石はイーガ最高の治癒術式の使い手とございますな!」
喜んで叫んだのは、この少女を可愛がっているヒッポタルトだった。彼は太い右腕を掴んで、『不死トカゲのしっぽ』を溶け込ませた水槽に漬け込んでいた。
「趣味が悪すぎるぞ、ヒッポタルト。麻酔ぐらい打ってやれ」
「あははは。痛い目にあわせようと思ってたので。こいつ、子供が出来たとぬかして甘えて来だしたから、ちょっと折檻してやろうと思ってましたからね」
アドルフはうなずきもしなかった。ヒッポタルトは孫もいるご身分だが、1年前に別の女に赤ん坊を産ませている。この男の子供は10人はいるはずだ。
「老後の事を思えば、少しは口減らしを考えておかないとならないだろうな?」
「もちろん、次の薬の実験台に使う事に致しますよ。丁度良い材料がこの小娘の腹の中におりますゆえ……」
ヒッポタルトが嫌な笑みをうかべる。周囲の者はぞっとした。少女の右腕を無慈悲に斬り落としたレグスでさえも、顔が引きつっていた。
□ □ □ □ □
「これまでそんな話が無かったのに。解せぬでござる……」
大使館を通し、とある大商人からお誘いがかかった。イズヴァルトを招いて宴会を行いたいと。予定は明日の夜。
大商人には16と15になる年頃の娘がいるらしい。ついでだけど種付けしていってくれるかな。彼女達はイズヴァルトに恋をしていた。父が書いた手紙とともに、自分達の陰毛を繋げた指輪も送って来た。
「どういたそう?」
「そりゃあつまり……いよいよこのイーガにも『べびーぶーむ』を担う仕事が舞い込んだと思えばいいんだよ!」
マイヤは抱き着いてイズヴァルトの頬にキスをした。こういう目論みもあるんだよ。イズヴァルトがお金持ちや貴族の娘さんに赤ちゃんを授けてあげれば、こっちでのコネクションを築ける。
「何の為にでござる?」
「そりゃあ資金を援助してもらう為だよ! イズヴァルトの将来のこともあれば、私の総合大学を建てる夢の為にも!」
「とほほ……愛や義理よりもお金や夢を重んじるおなごほど、怖いものはござらんよ」
悩むイズヴァルトの左手を掴み、マイヤは自分のお腹に当てた。この子が寂しがらないためにも、たっくさんの弟や妹たちを作ってあげてね!
「貴殿は拙者に、10人以上も赤ちゃんをこさせさせようと考えているのにでござるか?」
「イズヴァルト。にぎやかなほうがきっといいよ。私の前世はそうもいかないけれど、今の人生ではそういうのが許されているんだ。この世界の価値観に毒され切っているとも言えるけれど……」
自分は前世、一人っ子だったからそう思えてしまうのかもしれないね。マイヤは寂しそうに笑いかけた。イズヴァルトは彼女を抱きしめて唇を奪った。
「んぐ……」
「マイヤ。この人生ではそなたがやきもちを焼くほどににぎやかにして見せるでござるよ!」
イズヴァルトはマイヤの乳房に手を振れて揉みしだく。彼女のヴァギナが露をこぼし始めた。
イズヴァルトとマイヤの会話は、アドルフに筒抜けだった。どうやら陰謀を早く完遂させなければ。その為の工作は密かに進めさせていた。
マイヤの拉致とイズヴァルトの暗殺。機会は早くに訪れる。深夜、妾との子づくりを終えたアドルフはすぐに人を呼んだ。
今回はオットーではない。彼が闇の仕事で信頼を置く、傭兵上がりの警備隊長だった。身体から妙に汗と精液のにおいを漂わせていたのは、屋敷の女召使いとセックスをした後だったからだ。
「ゲーンハルト。馬車を出せ。離れへ向かう」
「承知いたしました、閣下」
ゲーンハルトは人相こそ悪いが頼りになる男である。アドルフは護身用のミスリルのレイピアを携えて裏口から馬車に乗った。
彼の邸宅は郊外には無い。コーヅケーニッヒの北側にある。その屋敷の東にイーガ王が在する王城があった。
コーヅケーニッヒ城は城というより、中央政庁の建物を城壁状に四方に配して囲ませた3階建ての小さな館であった。人は城であり石垣というのがイーガの歴代国王考えであった。
アドルフが乗った馬車は夜の闇に紛れて都の北の郊外へ向かった。なだらかな丘陵地帯の森の中に、アドルフがひそかに建てていた離れの屋敷があった。
大きさはイーガの並みの貴族の邸宅と同じぐらい。所有者の名義はカントニアのウマヤーノ共和国在住の大商人。イーガの魔道具の輸入を取り扱っている王国のお得意様だ。
馬車が玄関の前に停まった。アドルフはゲーンハルトと共に屋敷の中に入る。部屋のあちこちで若い女の矯声が聞こえるのは、この屋敷の留守役達が彼女達と励んでいたからだった。
「あいもかわらずお盛んだな。ゲーンハルト。レグスを呼べ」
「はッ!」
ゲーンハルトは左手で印を切った。念じて呼びかけると彼より大柄で汗臭いにおいを放つ、上半身裸の腰布姿の男が現れた。
この男がレグスだ。元魔法騎士団所属で武勇抜群だったが、村の少女への強姦事件を起こして退団させられた。それからはアドルフの護衛兵となっている。
「レグス。ヒッポタルトは来ているか?」
ヒッポタルトはアドルフが、イズヴァルトを暗殺する為の薬を造らせていた。『プレセペの死に至る病』というのがそれだ。急性の臓器不全を起こす猛毒。シマナミスタンの病原菌を用いていた。
「はい。6日前からおりますが……2日であげて後の4日は自分の部屋に籠っております」
「報告が遅いな。で、きゃつは部屋に籠って何をしているのだ?」
「いちゃこらですよ……自分好みの娼婦と一緒です」
□ □ □ □ □
ヒッポタルトは魔道士である。ただしイーガの産まれではない。カントニアの南部・マリーヤから流れ着いた人物である。
歳は40ぐらいでそれまでは医者の真似事をやっていた。もっぱら仕事としていたのは病気と見せかけた毒殺の仕事だ。
彼が手がけた暗殺は、このイーガでも10件はある。対象はホーデンエーネンの技術スパイの女達ばかり。
著名な技術者に甘い言葉で近づいて、ベッドの上で語ってもらう美女達を闇で葬り続けた。アドルフが信頼を置く影の家臣達のうち1人である。
ヒッポタルトはその時、ベッドの上で1人の少女を組み敷いていた。顔立ちは整っているが、輪郭はやや膨れていてぽちゃぽちゃとしている。
娼婦ではない。イーガの地方都市にある貧民窟出身の少女だった。歳はマイヤとさして変わらない。身の回りの世話と性交の為に彼は彼女を買い取った。
歳に比べて色っぽく喘いでいるが、口臭がひどかった。歯槽膿漏のせいだ。この娘は虫歯だらけだった。顔や身体もよく見れば、吹き出物が目立つ。
ヒッポタルトは下層民のこういう娘が好みだった。下賤の出身でかつ不摂生で堕落しがちな少女は、優越感に浸せてくれる。どんなにひどい扱いをしても気兼ねなく犯せるからだ。
「あうあ……ごしゅじんさま……」
娘は太っていたからほぞの中は柔らかく熱かった。彼は女陰をリズミカルに叩きつけ、幼い洞の中に精を流し込んだ。
「おつとめはしばらくお預けだ。ヒッポタルト」
魔道士はよく聞く声に驚いて後ろを振り向いた。雇い主であるアドルフと護衛のゲーンハルトが立っていた。
「この部屋は臭いな。お前の精液とそこの娘の臭いにおいのせいで息ができん」
「あははは……アドルフ様。しばらくお待ちを」
ヒッポタルトは立ち上がって窓を開けた。これならどうでしょう。冷たい夜風が吹き込んでくると、娘はへっくしょんと大きなくしゃみをした。
アドルフは粘液をたっぷりとつけているヒッポタルトのペニスをちらと見ながら、娘のたるんだ腹を見てほくそ笑む。
「頼んだものはもう出来ているな?」
「はい。『プレセペの死に至る病』は既に出来上がっております。あとはいつ、どこで誰に含ませるかでございましょう」
「もう決まった。明日にでもそれが出来るように手筈は整えてある。ところで……」
もう1つ薬を造ってほしい。『不死トカゲのしっぽ』という秘薬である。それを聞いてヒッポタルトはにひひひと笑った。
「これはまた、禁断にもほどがある薬をお求めですな。誰に用いるので?」
「お前の薬の知識であれば可能だろう。『不死トカゲのしっぽ』、出来るな?」
「もちろんですとも、殿下」
この魔道士は秘薬の製法を存じていた。材料さえそろえば1日で造ることが可能だ。ヒッポタルトは娘をちらと見た。これは丁度いい実験台になる。
『不死トカゲのしっぽ』。切り離した手足を300年間も腐らせることもなく保存させる秘薬である。しかも切り離されたそれはある程度の意思を持ち、動くことが出来る。
その理由は手足の中に魔道の力を秘めた腫れものを根付かせるから。自分で指を伸ばしたり足の関節をぐりぐりと回すぐらいなら朝飯前だ。
切り離した人間や動物の腕や脚を生かす魔道、それがであった。その起源は大昔にあったさる王国の、とある王とその寵姫の言い伝えにある。
とある大陸の古代王国のその王には、美しい腕と脚を持つ寵姫がいた。彼女は若くして臨終の床にあった。
命は助からない。けれども王はせめて、彼女の自慢だった腕と脚だけは生きたまま残したかった。そこでこの魔術に知悉する魔道士を呼んだ。
姫が死ぬ前に両手両脚を切り落とさせた。後生大事に意思を持って動くそれを愛で続けた。しかしある時、その姫の両腕に首を絞めあげられて王は息を引き取った
「そういういわくつきの話がございますが、よろしいので?」
「構わんよ。あともう1つだ。これはお前も知らないだろうから後で書物を送るつもりだが……『親思いのひな鳥の献身』を造ってほしい」
「はて……その様な薬はマリーヤでは聞いたことがございませんな?」
「我が国にはあるのだよ」
禁断の秘薬と呼ばれているがな。アドルフは笑いながら部屋を出て行った。
□ □ □ □ □
『親思いのひな鳥の献身』。
300年程前にイーガにいたという女魔道士が、その製法を本に記していた。魔道の中でも邪道とされるそれは、禁書図書館の中に封じられている。
(話によればその魔道士、前世は錬金術師だったらしいな。)
赤子や幼子を生きたまま錬成して蒸留し、若返りの美容液にしたのだとか。それを女優や女政治家達に高値で売り飛ばし、大儲けをしたらしい。
その『親思いのひな鳥の献身』という秘薬だが、若返りの力があるだけでなく、万病を治す効果もあるという。更には飲んだものの魔力の秘蔵量を飛躍的に上昇させる効果もあるのだとか。
アドルフはそれを知り合いの闇魔道士に造らせて病人に飲ませた事がある。その人物は死が間近に迫っていたが、書かれた書物通りに回復した。
ならば自分も試してみようと飲んだこともあったが、何故か彼自身には効かなかった。その薬にはどうにも相性というものがあるらしい。
(頑強な身体が手に入るかと思ったのだがな、な……)
その薬を彼は、とある人物の『土産物』として与える事を考えていた。潜ませた者によると、当人が最近養う事になった赤子が、どうにも身体の調子を悪くしているらしい。
(下痢やひきつけをしょっちゅう起こしているらしいな。仕方あるまい。旅続きで身体を弱めてしまったのだろう。『神の子』でもできぬことがある。)
3日後。アドルフは『不死トカゲのしっぽ』が出来たことを知らされて離れ向かった。出来上がった薬の試験が丁度、行われていた最中に訪れた。
少女が泣き叫ぶ声がした。血なまぐさいにおいを放つ奥の一室に入ると、ヒッポタルトが召使いとして側に置いていた太った少女が、手術台の上で全身を縛られ、もがいていた。
彼女の右の二の腕の真ん中から先は、ばっさりと斬り落とされていた。止血の為に腕は縛られていたが、流れる血の量が尋常では無い。このままでは死ぬだろう。
斬り落としたのはレグスだ。彼は血だらけの大鉈を持っていた。見学をしていた者によると、一撃でばっさりとやれたらしい。流石は元魔法騎士団の猛者である。
「……しかしあの娘はうるさいな。眠らせなかったのは何故だ?」
「麻酔無しに手術をすれば、なかなかに面白いものが見れるのではないかとヒッポタルトが言ってましてな。きゃつのいう通りに我々はそうしただけです」
「残酷なマリーヤ人が考えそうな趣向だ。ばかばかしい」
アドルフは娘に近づき、印を切った後に彼女の右の肩を掴んだ。みるみるうちに血が止まり、傷口が乾いてかさぶただらけになった。
3分して彼女の腕の断面から、新たな肉と皮膚が出来上がった。代わりに彼女はいささかやつれて寝込んでしまった。
「ほう。流石はイーガ最高の治癒術式の使い手とございますな!」
喜んで叫んだのは、この少女を可愛がっているヒッポタルトだった。彼は太い右腕を掴んで、『不死トカゲのしっぽ』を溶け込ませた水槽に漬け込んでいた。
「趣味が悪すぎるぞ、ヒッポタルト。麻酔ぐらい打ってやれ」
「あははは。痛い目にあわせようと思ってたので。こいつ、子供が出来たとぬかして甘えて来だしたから、ちょっと折檻してやろうと思ってましたからね」
アドルフはうなずきもしなかった。ヒッポタルトは孫もいるご身分だが、1年前に別の女に赤ん坊を産ませている。この男の子供は10人はいるはずだ。
「老後の事を思えば、少しは口減らしを考えておかないとならないだろうな?」
「もちろん、次の薬の実験台に使う事に致しますよ。丁度良い材料がこの小娘の腹の中におりますゆえ……」
ヒッポタルトが嫌な笑みをうかべる。周囲の者はぞっとした。少女の右腕を無慈悲に斬り落としたレグスでさえも、顔が引きつっていた。
□ □ □ □ □
「これまでそんな話が無かったのに。解せぬでござる……」
大使館を通し、とある大商人からお誘いがかかった。イズヴァルトを招いて宴会を行いたいと。予定は明日の夜。
大商人には16と15になる年頃の娘がいるらしい。ついでだけど種付けしていってくれるかな。彼女達はイズヴァルトに恋をしていた。父が書いた手紙とともに、自分達の陰毛を繋げた指輪も送って来た。
「どういたそう?」
「そりゃあつまり……いよいよこのイーガにも『べびーぶーむ』を担う仕事が舞い込んだと思えばいいんだよ!」
マイヤは抱き着いてイズヴァルトの頬にキスをした。こういう目論みもあるんだよ。イズヴァルトがお金持ちや貴族の娘さんに赤ちゃんを授けてあげれば、こっちでのコネクションを築ける。
「何の為にでござる?」
「そりゃあ資金を援助してもらう為だよ! イズヴァルトの将来のこともあれば、私の総合大学を建てる夢の為にも!」
「とほほ……愛や義理よりもお金や夢を重んじるおなごほど、怖いものはござらんよ」
悩むイズヴァルトの左手を掴み、マイヤは自分のお腹に当てた。この子が寂しがらないためにも、たっくさんの弟や妹たちを作ってあげてね!
「貴殿は拙者に、10人以上も赤ちゃんをこさせさせようと考えているのにでござるか?」
「イズヴァルト。にぎやかなほうがきっといいよ。私の前世はそうもいかないけれど、今の人生ではそういうのが許されているんだ。この世界の価値観に毒され切っているとも言えるけれど……」
自分は前世、一人っ子だったからそう思えてしまうのかもしれないね。マイヤは寂しそうに笑いかけた。イズヴァルトは彼女を抱きしめて唇を奪った。
「んぐ……」
「マイヤ。この人生ではそなたがやきもちを焼くほどににぎやかにして見せるでござるよ!」
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