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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
11 魔法王国・イーガ
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城とも大きな館とも思しき、四角形の白亜の建物だった。つるりとしたそれの東側には、大きな道路の様なものが伸びている。これこそが『えくすぷれす』の駅だった。
「ほう……!」
「こんなものが、この世界にあったんだね!」
大理石の板を張った外壁と神殿の祭壇の様な階段を見てイズヴァルトはため息をつく。その両脇にスロープがあった。荷車を持つ者用の通り道だ。
イズヴァルトとマイヤはなだらかな坂道を登り、駅の中に入った。駅の中は沢山の行商人や旅行客でごったがえしていた。駅のチケット売り場でイズヴァルトは駅員に旅券を求める。
「コーヅケーニッヒ行き。大人1枚と子供1枚でござる」
「その前に通行証を見せてください……ほう」
駅員の男は目を見張った。2人の顔をよく見る。英雄イズヴァルトと『おしゃぶり姫』じゃないか。
「……子供料金です。『えくすぷれす』では18になるまで子供割引が適用されます」
「なんと!」
「天下のイズヴァルトさんだからって大人扱いはしませんよ。まだ15歳ですからね」
『えくすぷれす』の子供料金は大人の6割である。この路線は王国の中心部にあるコーヅケーニッヒだけでなく、その東のマーツザーカや北部のガモーコヴィッツにまで及んでいた。
王国の東海岸地方以外、ほぼ全域にわたって巡らされているという。指定席つきのチケットを買い、次の列車が来る1時間後まで待合所で待っていることにした。
「すごいね……イーガは鉄道網みたいなものを完成させていたんだ……」
「マイヤが前世いた『にっぽん』にもあったと聞いたでござる。『たかつ』という街から『うえの』という駅に行くのと、ここからコーヅケーニッヒまで行くのはどちらが近いでござろうか?」
『たかつ』はマイヤが前世に暮らしていた街。『うえの』はマイヤが前世に通っていた大学にそこそこ近い街だった。
「うーん。全然違うよ。ここからコーヅケーニッヒは300キロ離れているから」
但し、路線の複雑さにかけては前世のほうがはるかに酷いとマイヤは答えた。直線距離で遥かに短いのに前世のほうは、そこまで行くのに1時間はかかったはずだと答えた。
「本当は別の駅で降りてたけど、帰りは『うえの』に寄ってから帰ってたかな」
「前世の旦那さんとほっつき歩いていたのでござるか?」
「そうだよ。ダンナとよく飲みにいってたなあ。上野には……」
マイヤの前世の夫は、小学校時代からの親友の、年の離れた兄だった。前世の彼女の6歳年上。近所でも有名な優等生だった。中学に入ったと同時に家庭教師となった。
しかし下半身の関係に関してはまさに不良。前世のマイヤは彼に処女を捧げた。その時は2度に及ぶ中出しを受けた。暫くの間妊娠に怯えたが、それでも、男女の悦びを知った身体は抑えきれなかった。手や口での愛撫をその男とやり続けた。
子どもができなかったことを知ると、ゴムありの用心深いセックスを頻繁に繰り返し、膣の深い悦び方を学んだ。それからは狂ったように性愛の実習を繰り返したが、前世の彼女はこの男しか知らなかった。
大学在学中の21歳の時に妊娠して結婚。休学して子供を産んだ。そして22の歳に、大学の助手となっていた夫の研究発表会を見に行くということで、子供を親に預けて飛行機に乗った。1985年8月12日の事である。
その日が彼女の前世での命日だった。飛行機事故により彼女はこの世界に生まれ変わったのだ。そうして今に至る。
「……コーヅケーニッヒってどんなところなんだろうな」
「少なくとも、『うえの』や『たかつ』や、『おおさか』という街に比べればひなびたところでござろう」
ところでどうして『えくすぷれす』という名前なのだろう。イズヴァルトがぼやくとマイヤが答えた。前世では特別急行列車という意味だと。誰が名づけたのかは知らない。
「ほほう。よくご存じですね?」
2人の背後から声がした。振り返ると腹が突き出た太った中年男がいた。背中にいろいろと荷物を背負っていたので、行商人かとイズヴァルトは思った。
「この交通機関を作り出した大魔道士様が名付けたんだ」
「さようでござるか……このイーガにはいつぐらいからあったのでござる?」
「ちょうど100年前だよ。かの魔道士様は転生人だったのさ」
商人風の男が語った。その魔道士は前世、鉄道網を作る役人だったそうだ。前世での死因は軍用列車に乗っている途中、『すつーか』とかいう空飛ぶ乗り物に爆弾を落とされたかららしい。
「その大魔道士様もこの世界では60年前に、一番年若いお気に入りの妾の急降下爆撃とやらで亡くなったらしい」
「まあつまり腹上死というわけですね。自分の歳を考えずに励んじゃったんだろうな……」
「で、その時に出来た子が私の母親だったというわけだよ!」
嘘をいうなとマイヤは返した。本当のことさと商人は答えた。なにゆえ魔道士の孫が商人をしているのかと聞けば、自分は商人ではなく治癒魔道士だと彼は答えた。
「シュタイナー医療魔道伯と聞いて、まさかと驚く人はこのイーガにごまんといるはずなんだがね?」
「またまたあ。どうからどう見てもおじさんは商人っぽいじゃないですか?」
「あははは。やっぱりそう見える?」
シュタイナーと名乗った人物は笑い続けた。マイヤはいつもの癖で、彼の精気を確かめる。うん。なかなかにいいザーメンが搾り取れそうなおじさんだね。
「で、この交通機関が作られてからずっと、イーガの街々は『えくすぷれす』でつながっているのさ」
「なるほど。その当時から完成されていたのですね?」
「そういう事さ……君達はホーデンエーネン人だね。ふむ。これから留学か。だったら滞在中にイーガの各地を回るといいよ」
マイヤとシュタイナーはいろいろな話をし始めた。イーガはカントニアからエルフがしょっちゅう来るから仲良くなるといい。彼女達は気さくで執着しない、とても優しい人達だ。
「彼女達、ですか?」
「あ、口がすべっちゃった。まあでも別に変な意味は無いよ。大ありだけど君は気にしなくていい。ただ問題はそこの……」
君のお連れさんだね、とシュタイナーはイズヴァルトを見て言う。そういう事でござるかと少年は顔を曇らせた。マイヤが恋人をじろ、と睨む。
「イズヴァルトが種付けする前に、私が味見するんだからね!」
「……よくわからないことをいうね、君?」
「つまりはどっちもいける口という事でござるよ、シュタイナーどの」
そうかそうか、とシュタイナーは快活に笑いながら、もうそろそろ出発の時間だとマイヤに呼びかけた。彼等が乗る列車が駅のホームに入って来るのだ。
ホームは8番線まであった。ホームは入口が繋がっており、各島ホームに『えくすぷれす』が止まっていた。
「まるで『はんきゅう』の『うめだ』の駅みたい」
マイヤが訳のわからぬことを口にすると、5番線に乗る列車が止まっているとシュタイナーが言う。マイヤは車体を見た。栗色に塗られていて車輪が無く浮いている。二両編成だ。
「あんまり大きくないんですね。あとそれと、窓がない」
「この車両は特別快速だからね。速度重視で走るんだよ。このシガラーキの先にあるキーウの駅で3路線に分かれているんだ」
北の路線と中央のコーヅケーニッヒへ向かう路線。それから南のトーバコフへ向かう路線に。
「ふーん。まるで『うめだ』の次の駅の『じゅうぞう』みたいですね!」
「なんだいその名前は? わからないねえ?」
「マイヤは前世のことを思い出して混乱しているのでござるよ。確か、『たかつ』に近い『みぞのくち』も、3つの路線に分岐しているのでござったな?」
「『でんえんとしせん』と『なんぶせん』だけよ! 『みぞのくち』は!」
ますますわけがわからないとシュタイナーは苦笑いして聞き流した。この列車に乗る客は、貴族や商人ばかりである。
車内の座席は皆、相対式のリクライニングの皮張り。内装はそこそこ豪華である。他のトーバコフ線と北方路線の鈍行は木の椅子らしい。窓があるのだが。
「2時間もこの密室の中にいるのか。旅の風情が無いなあ……」
しかし座席はゆったりとしていて座り心地がいい。マイヤは持って来た本を読み始めた。学術書ではない。
旅のドワーフが行く先々の名所や温泉地で、宿の女将や人妻を口説いてガン掘りして行くエロ小説である。とはいえ自慢の腕力で立ち回りもやるので、時代劇の色もあった。
イズヴァルトはシュタイナーから渡された治癒魔法についての書を開いていた。自分が読み終わったばかりの書物と交換だ。
「冒険小説か。これは1巻だけ読んだことがあるな。冒険者集団を追い出された魔獣使いが、獣人族の女の子や女ドラゴンと仲良くなる話だったっけね?」
「さようでござる。それは最終巻でござるが、オチが微妙でござった」
「なになに? ふうん……」
シュタイナーはぱらぱらとめくって読み終えた。なるほどひどい。魔獣使いが獣人族の女の子と女ドラゴンを妻とせず、人間の女と結婚したという結末だ。
しかもその女が自分を捨てた一味の女魔道士だった。かつては彼を口汚く罵っていた彼女は、自分も落ち目のパーティに見切りをつけ、魔獣使いに色目を使って妻となった。
「そうして女魔道士を加えた魔獣使いは魔王を倒し、めでたし、めでたしかね……」
「4巻までのどきどきとわくわくが、すっかり台無しになったでござるよ」
「読者が求めたからそうしたんだろうね。他のはあるかね?」
他のならこれだ、とイズヴァルトは兵法書を渡した。戦争の学問はちょっと、とシュタイナーは苦笑い。とはいえそれなりに読めた。
外の景色が見えなかったから、全く味気ない列車の旅だった。魔法王国イーガの首都・コーヅケーニッヒの駅に着いた。
ここの駅は10番までホームがあり、人々でごった返していた。このコーヅケーニッヒには50万近い人々がいるという。
「……すごいでござるな」
「なあに。このコーヅケーニッヒだけだよ。他はナントブルグやアヅチハーゲンぐらいの人口しかいない」
「それ、10万人ぐらいの人口がいる街がいくつもあるんだっていう自慢ですよね?」
いやいやそうではないよ。シュタイナーは笑って去って行った。イズヴァルトは駅員に滞在許可書と国王からの親書を見せた。彼等が国賓級だと知った駅員らは驚いた。
「わ、わかりました! それでは今すぐホーデンエーネン大使館に使いを走らせますので、しばしお待ちください!」
駅員らは大慌て。普通の旅がとんだ大名旅行になりそうだとイズヴァルトとマイヤは笑いあった。通されたのは駅の5階にある貴賓室。茶や酒やお菓子が飲み放題のVIPルームだ。
「ほう……窓から外が良く見えるでござる」
見たこともないほどに高く大きな塔が連なっていていた。王都にはそうした高層の建物が多く存在する。
「すごいな……街としてはそんなに広くないみたいだけど、とにかくごちゃごちゃとしているね!」
「さ、さようでござるな……しかしこれがコーヅケーニッヒでござるか」
イズヴァルトは酒を入れたものをコップを口につける。対してマイヤはお茶を飲んでいた。いつもなら酒を注ぐはずなのに。
「イズヴァルト、すごいところに来ちゃったね?」
マイヤがしなだれかかり、イズヴァルトのズボンのボタンを外しにかかった。甘立ちしたペニスをつかむと口に含み、しゃぶり始めた。
「はあ……確かにそうでござるな……ううっ!」
連なる建物と大通りを行きかう人々や馬車を見て、イズヴァルトは喘ぐ。すぐにマイヤの口にごちそうした。それでも高ぶりは収まらなかった。
「まだまだ硬いままだね? つづきをしよっか?」
マイヤは甘えた響きの声をかけると、イズヴァルトは彼女を持ち上げた。むき出しになったマイヤの脚がからみつくと、スカートの中で待ち構えていた濡れ切った蜜壺に、勃起を差し込んだ。
「あうっ……い、いじゅばると……」
マイヤのヴァギナがうごめいて、盛んに精を吸いたいと欲している。彼はマイヤの顔と街を見て、ふわりとした気持ちに襲われながら盛んに動いた。
「私達を覗き見ている人がいるかもしれないね?」
「それでも、良いでござるよ!」
イズヴァルトは腰をゆっくりと動かし、マイヤの粘膜を余さず味わう。彼女のそこはいつもより熱かった。それから、いつものように濡れ切っている。
ぬめりと吸いつき、甘い香りと口づけの味を楽しみ、目を見張るコーヅケーニッヒの街に目を向けながら彼は果てた。子宮が彼の精を吸い始める。
2人が口づけをかわし、3度目の射精に向けて動き始める。ここで子供を孕ませたいでござるとイズヴァルトは思った。
しかし既にマイヤの子宮の中には先客がいた。まぎれもないイズヴァルトの子。ウラスコーの街の温泉場で触手姫にさいなまれた後、湯の中で交わった時に芽生えたものだ。
「ほう……!」
「こんなものが、この世界にあったんだね!」
大理石の板を張った外壁と神殿の祭壇の様な階段を見てイズヴァルトはため息をつく。その両脇にスロープがあった。荷車を持つ者用の通り道だ。
イズヴァルトとマイヤはなだらかな坂道を登り、駅の中に入った。駅の中は沢山の行商人や旅行客でごったがえしていた。駅のチケット売り場でイズヴァルトは駅員に旅券を求める。
「コーヅケーニッヒ行き。大人1枚と子供1枚でござる」
「その前に通行証を見せてください……ほう」
駅員の男は目を見張った。2人の顔をよく見る。英雄イズヴァルトと『おしゃぶり姫』じゃないか。
「……子供料金です。『えくすぷれす』では18になるまで子供割引が適用されます」
「なんと!」
「天下のイズヴァルトさんだからって大人扱いはしませんよ。まだ15歳ですからね」
『えくすぷれす』の子供料金は大人の6割である。この路線は王国の中心部にあるコーヅケーニッヒだけでなく、その東のマーツザーカや北部のガモーコヴィッツにまで及んでいた。
王国の東海岸地方以外、ほぼ全域にわたって巡らされているという。指定席つきのチケットを買い、次の列車が来る1時間後まで待合所で待っていることにした。
「すごいね……イーガは鉄道網みたいなものを完成させていたんだ……」
「マイヤが前世いた『にっぽん』にもあったと聞いたでござる。『たかつ』という街から『うえの』という駅に行くのと、ここからコーヅケーニッヒまで行くのはどちらが近いでござろうか?」
『たかつ』はマイヤが前世に暮らしていた街。『うえの』はマイヤが前世に通っていた大学にそこそこ近い街だった。
「うーん。全然違うよ。ここからコーヅケーニッヒは300キロ離れているから」
但し、路線の複雑さにかけては前世のほうがはるかに酷いとマイヤは答えた。直線距離で遥かに短いのに前世のほうは、そこまで行くのに1時間はかかったはずだと答えた。
「本当は別の駅で降りてたけど、帰りは『うえの』に寄ってから帰ってたかな」
「前世の旦那さんとほっつき歩いていたのでござるか?」
「そうだよ。ダンナとよく飲みにいってたなあ。上野には……」
マイヤの前世の夫は、小学校時代からの親友の、年の離れた兄だった。前世の彼女の6歳年上。近所でも有名な優等生だった。中学に入ったと同時に家庭教師となった。
しかし下半身の関係に関してはまさに不良。前世のマイヤは彼に処女を捧げた。その時は2度に及ぶ中出しを受けた。暫くの間妊娠に怯えたが、それでも、男女の悦びを知った身体は抑えきれなかった。手や口での愛撫をその男とやり続けた。
子どもができなかったことを知ると、ゴムありの用心深いセックスを頻繁に繰り返し、膣の深い悦び方を学んだ。それからは狂ったように性愛の実習を繰り返したが、前世の彼女はこの男しか知らなかった。
大学在学中の21歳の時に妊娠して結婚。休学して子供を産んだ。そして22の歳に、大学の助手となっていた夫の研究発表会を見に行くということで、子供を親に預けて飛行機に乗った。1985年8月12日の事である。
その日が彼女の前世での命日だった。飛行機事故により彼女はこの世界に生まれ変わったのだ。そうして今に至る。
「……コーヅケーニッヒってどんなところなんだろうな」
「少なくとも、『うえの』や『たかつ』や、『おおさか』という街に比べればひなびたところでござろう」
ところでどうして『えくすぷれす』という名前なのだろう。イズヴァルトがぼやくとマイヤが答えた。前世では特別急行列車という意味だと。誰が名づけたのかは知らない。
「ほほう。よくご存じですね?」
2人の背後から声がした。振り返ると腹が突き出た太った中年男がいた。背中にいろいろと荷物を背負っていたので、行商人かとイズヴァルトは思った。
「この交通機関を作り出した大魔道士様が名付けたんだ」
「さようでござるか……このイーガにはいつぐらいからあったのでござる?」
「ちょうど100年前だよ。かの魔道士様は転生人だったのさ」
商人風の男が語った。その魔道士は前世、鉄道網を作る役人だったそうだ。前世での死因は軍用列車に乗っている途中、『すつーか』とかいう空飛ぶ乗り物に爆弾を落とされたかららしい。
「その大魔道士様もこの世界では60年前に、一番年若いお気に入りの妾の急降下爆撃とやらで亡くなったらしい」
「まあつまり腹上死というわけですね。自分の歳を考えずに励んじゃったんだろうな……」
「で、その時に出来た子が私の母親だったというわけだよ!」
嘘をいうなとマイヤは返した。本当のことさと商人は答えた。なにゆえ魔道士の孫が商人をしているのかと聞けば、自分は商人ではなく治癒魔道士だと彼は答えた。
「シュタイナー医療魔道伯と聞いて、まさかと驚く人はこのイーガにごまんといるはずなんだがね?」
「またまたあ。どうからどう見てもおじさんは商人っぽいじゃないですか?」
「あははは。やっぱりそう見える?」
シュタイナーと名乗った人物は笑い続けた。マイヤはいつもの癖で、彼の精気を確かめる。うん。なかなかにいいザーメンが搾り取れそうなおじさんだね。
「で、この交通機関が作られてからずっと、イーガの街々は『えくすぷれす』でつながっているのさ」
「なるほど。その当時から完成されていたのですね?」
「そういう事さ……君達はホーデンエーネン人だね。ふむ。これから留学か。だったら滞在中にイーガの各地を回るといいよ」
マイヤとシュタイナーはいろいろな話をし始めた。イーガはカントニアからエルフがしょっちゅう来るから仲良くなるといい。彼女達は気さくで執着しない、とても優しい人達だ。
「彼女達、ですか?」
「あ、口がすべっちゃった。まあでも別に変な意味は無いよ。大ありだけど君は気にしなくていい。ただ問題はそこの……」
君のお連れさんだね、とシュタイナーはイズヴァルトを見て言う。そういう事でござるかと少年は顔を曇らせた。マイヤが恋人をじろ、と睨む。
「イズヴァルトが種付けする前に、私が味見するんだからね!」
「……よくわからないことをいうね、君?」
「つまりはどっちもいける口という事でござるよ、シュタイナーどの」
そうかそうか、とシュタイナーは快活に笑いながら、もうそろそろ出発の時間だとマイヤに呼びかけた。彼等が乗る列車が駅のホームに入って来るのだ。
ホームは8番線まであった。ホームは入口が繋がっており、各島ホームに『えくすぷれす』が止まっていた。
「まるで『はんきゅう』の『うめだ』の駅みたい」
マイヤが訳のわからぬことを口にすると、5番線に乗る列車が止まっているとシュタイナーが言う。マイヤは車体を見た。栗色に塗られていて車輪が無く浮いている。二両編成だ。
「あんまり大きくないんですね。あとそれと、窓がない」
「この車両は特別快速だからね。速度重視で走るんだよ。このシガラーキの先にあるキーウの駅で3路線に分かれているんだ」
北の路線と中央のコーヅケーニッヒへ向かう路線。それから南のトーバコフへ向かう路線に。
「ふーん。まるで『うめだ』の次の駅の『じゅうぞう』みたいですね!」
「なんだいその名前は? わからないねえ?」
「マイヤは前世のことを思い出して混乱しているのでござるよ。確か、『たかつ』に近い『みぞのくち』も、3つの路線に分岐しているのでござったな?」
「『でんえんとしせん』と『なんぶせん』だけよ! 『みぞのくち』は!」
ますますわけがわからないとシュタイナーは苦笑いして聞き流した。この列車に乗る客は、貴族や商人ばかりである。
車内の座席は皆、相対式のリクライニングの皮張り。内装はそこそこ豪華である。他のトーバコフ線と北方路線の鈍行は木の椅子らしい。窓があるのだが。
「2時間もこの密室の中にいるのか。旅の風情が無いなあ……」
しかし座席はゆったりとしていて座り心地がいい。マイヤは持って来た本を読み始めた。学術書ではない。
旅のドワーフが行く先々の名所や温泉地で、宿の女将や人妻を口説いてガン掘りして行くエロ小説である。とはいえ自慢の腕力で立ち回りもやるので、時代劇の色もあった。
イズヴァルトはシュタイナーから渡された治癒魔法についての書を開いていた。自分が読み終わったばかりの書物と交換だ。
「冒険小説か。これは1巻だけ読んだことがあるな。冒険者集団を追い出された魔獣使いが、獣人族の女の子や女ドラゴンと仲良くなる話だったっけね?」
「さようでござる。それは最終巻でござるが、オチが微妙でござった」
「なになに? ふうん……」
シュタイナーはぱらぱらとめくって読み終えた。なるほどひどい。魔獣使いが獣人族の女の子と女ドラゴンを妻とせず、人間の女と結婚したという結末だ。
しかもその女が自分を捨てた一味の女魔道士だった。かつては彼を口汚く罵っていた彼女は、自分も落ち目のパーティに見切りをつけ、魔獣使いに色目を使って妻となった。
「そうして女魔道士を加えた魔獣使いは魔王を倒し、めでたし、めでたしかね……」
「4巻までのどきどきとわくわくが、すっかり台無しになったでござるよ」
「読者が求めたからそうしたんだろうね。他のはあるかね?」
他のならこれだ、とイズヴァルトは兵法書を渡した。戦争の学問はちょっと、とシュタイナーは苦笑い。とはいえそれなりに読めた。
外の景色が見えなかったから、全く味気ない列車の旅だった。魔法王国イーガの首都・コーヅケーニッヒの駅に着いた。
ここの駅は10番までホームがあり、人々でごった返していた。このコーヅケーニッヒには50万近い人々がいるという。
「……すごいでござるな」
「なあに。このコーヅケーニッヒだけだよ。他はナントブルグやアヅチハーゲンぐらいの人口しかいない」
「それ、10万人ぐらいの人口がいる街がいくつもあるんだっていう自慢ですよね?」
いやいやそうではないよ。シュタイナーは笑って去って行った。イズヴァルトは駅員に滞在許可書と国王からの親書を見せた。彼等が国賓級だと知った駅員らは驚いた。
「わ、わかりました! それでは今すぐホーデンエーネン大使館に使いを走らせますので、しばしお待ちください!」
駅員らは大慌て。普通の旅がとんだ大名旅行になりそうだとイズヴァルトとマイヤは笑いあった。通されたのは駅の5階にある貴賓室。茶や酒やお菓子が飲み放題のVIPルームだ。
「ほう……窓から外が良く見えるでござる」
見たこともないほどに高く大きな塔が連なっていていた。王都にはそうした高層の建物が多く存在する。
「すごいな……街としてはそんなに広くないみたいだけど、とにかくごちゃごちゃとしているね!」
「さ、さようでござるな……しかしこれがコーヅケーニッヒでござるか」
イズヴァルトは酒を入れたものをコップを口につける。対してマイヤはお茶を飲んでいた。いつもなら酒を注ぐはずなのに。
「イズヴァルト、すごいところに来ちゃったね?」
マイヤがしなだれかかり、イズヴァルトのズボンのボタンを外しにかかった。甘立ちしたペニスをつかむと口に含み、しゃぶり始めた。
「はあ……確かにそうでござるな……ううっ!」
連なる建物と大通りを行きかう人々や馬車を見て、イズヴァルトは喘ぐ。すぐにマイヤの口にごちそうした。それでも高ぶりは収まらなかった。
「まだまだ硬いままだね? つづきをしよっか?」
マイヤは甘えた響きの声をかけると、イズヴァルトは彼女を持ち上げた。むき出しになったマイヤの脚がからみつくと、スカートの中で待ち構えていた濡れ切った蜜壺に、勃起を差し込んだ。
「あうっ……い、いじゅばると……」
マイヤのヴァギナがうごめいて、盛んに精を吸いたいと欲している。彼はマイヤの顔と街を見て、ふわりとした気持ちに襲われながら盛んに動いた。
「私達を覗き見ている人がいるかもしれないね?」
「それでも、良いでござるよ!」
イズヴァルトは腰をゆっくりと動かし、マイヤの粘膜を余さず味わう。彼女のそこはいつもより熱かった。それから、いつものように濡れ切っている。
ぬめりと吸いつき、甘い香りと口づけの味を楽しみ、目を見張るコーヅケーニッヒの街に目を向けながら彼は果てた。子宮が彼の精を吸い始める。
2人が口づけをかわし、3度目の射精に向けて動き始める。ここで子供を孕ませたいでござるとイズヴァルトは思った。
しかし既にマイヤの子宮の中には先客がいた。まぎれもないイズヴァルトの子。ウラスコーの街の温泉場で触手姫にさいなまれた後、湯の中で交わった時に芽生えたものだ。
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