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第二部 『呪いの序曲。イーガの魔王』 (少年編から青年編の間のエピソード。)
06 旅からの帰還
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※イズヴァルトとマイヤのお話です。時間軸的に言うと、少年編のウラスコーから戻ってきてからの話となります。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
イズヴァルトとマイヤが触手姫に連れてこられたのは、ナントブルグの南の門近くの茂みだ。3カ月にも及ぶ旅を続けたので、あたりはすっかり春の兆しを示していた。
春草がまばらに生え始め、時折温かい風が吹いた。とはいえ3月のナントブルグの最高気温は平均で12℃である。夜になればぐっと冷え込むはずだ。
「なかなかにいいところでちね。ナントブルグというのは」
マイヤに抱き着いていたブランカが言った。それから都をちらと見てつぶやいた。
「……サキュバスちんたちのおんねんをひしとかんじるでち」
「サキュバスどのらの? 何故でござる?」
「りゆうはわからんでちよ。おおざっぱにいえることは、おそとはとてもさわやかだけど、あのまちのほうはのろいみたいなものがぷんぷんするということでち」
触手姫は言った。あの街は悪い気が漂っている。ホーデンエーネンの王様には遷都を進言したほうがいいかもしれない。2日つきあってやるから王様に引き合わせて欲しいでち。
「王様、そんなことで聞くかなあ?」
「あたちをつれていってくれればせっとくしてみせるでちよ。ちなみに、まぞくはきにしないかたがたでちか?」
イズヴァルトとマイヤは考え込んだ。魔竜と敵対しているホーデンエーネン王国は、あまり魔族を好まなかった。いやしかし、王様がサキュバスの遊女を呼び寄せ、廷臣達とおっぱいもみもみパーティをしている噂ならば聞いている。
「ブランカどのは、確か身を隠す魔法が使えたでござるな?」
「はいでち!」
「それを用いるでござる。ついでに裸ではよろしくないゆえ、おべべも探すでござるよ。それから王様に拝謁するでござる」
□ □ □ □ □
「ほうほう! そのぷにぷにちゃんまぞくがヴィクトリアの友達だったのか! ほうほうほう!」
国王の声にイズヴァルトは「さようでござる」とうなずく。ここは王の執務室である。お目通りとなり、ブランカを伴ったが、ジュンケイン四世は愛らしいドレスと顔を隠すフードをまとった水魔に目が釘付けだ。
「たいへんにかわいいな」
「そうでちか?」
「たべちゃいたいぐらいにだよ……」
国王はとろけた笑みを浮かべて言った。ちょっときもちわるいでち、とぼそっと呟く。ブランカは魔竜と同じ魔族なのに、そんなことを家臣の前で言っていいのだろうかとイズヴァルトは首をかしげた。
「あのう、陛下。魔族はホーデンエーネンの……」
「いやいやいや、イズヴァルト。アカサカチハヤにいるあの連中と、他の大陸に住んでいる者は違う、のじゃよ」
ジュンケイン王は、ブランカの隣りにいたセイン王子に目を向けた。この雑でぶっきらぼうな息子も、ブランカには興味津々だった。
「なあ、ちょっと抱き上げてもいいか?」
「くるしゅうないでち!」
ブランカは魔界の大貴族の令嬢でもある。なのでその言い方もセインは受け入れられた。抱き上げて、目玉が無いのにニンゲンの様な顔つきの半透明の魔物の顔をのぞく。まるでお人形みたいだな、と言って大笑いした。
「おにんぎょうとはなんでち!」
「ははは! すまねえ! そう怒んなって!」
「セイン。儂にも抱かせてくれ。こんな可愛らしい魔族を見たのは初めてじゃ!」
ジュンケイン王はブランカを無理やり奪って腕に抱いた。おおよちよち。赤ん坊扱いされてブランカは偉く不機嫌だ。ふくれっ面をしてセインをもっと笑わせた。
その兄王子の隣で、小さな冠を頭にかぶせた小さな男の子が、マイヤとブランカの2人をまじまじと見つめていた。セインの弟、第二王子のジューンショーンだ。
彼はこの時6歳。歳が12離れた兄と同腹で、事あるごとに兄にくっついていた。セインもまた、ジューンショーンの事が大好きで、馬の遠乗りや狩りには必ず連れて行く。
「あにうえ。僕、おしゃぶり姫さまを初めてみますけど……なかなかに美人さんなのですね!」
「まあ!」
マイヤは嬉しそうにはしゃいで口元をかくした。おほほほ。しかしこういう時は口元を隠すものだ。セインは今度それ用のを贈っておこうとマイヤを見て思った。セインはイズヴァルトに目を向ける。
「ところでイズヴァルト。今回はえらく早かったな? てっきり1年ぐらい後になるかと思ってたぜ。マイヤの腹をでっかくさせて戻って来ると思ってたけどな?」
「大きなお腹を抱えたマイヤが、拙者が入った骨壺を抱えて戻って来るはずだったでござるよ?」
「あはは! イズヴァルトなら大丈夫だよ!」
マイヤはイズヴァルトの背中を思い切り叩いた。すぱん、といい音がした。なかなかのおかみさんになるぜ、とセインが笑うと、後でべートーベンにも顔を見せろよな、と言って弟とともに部屋から出て行った。
そうしてようやく本題に。ブランカは己の魔法で触手を出し、ジュンケイン王を驚かせながら遷都を論じた。
「この都はやけに悪い気配を感じるでち。おっぱいパーティにいつも呼んでいるサキュバスちん達もそうおっしゃったりしないでちか?」
国王の顔に、渋みがはしった。
「んん。まあ……このナントブルグはいわくつきの都である、と聞いたことはあるのう」
「いわくつき、でござるか? かような話は聞いたことがござらん」
「せいぜい歴代の王様が政治の敵や家督争いとかで兄弟を弑したぐらいでしょうけど……他に何かあるのですか?」
ジュンケイン王は「父から少しだけ聞いただけなのだが」と前置きして語った。キンキ大陸の戦国時代の初め頃、このナントブルグはまだ、ホーデンエーネン部族のものでは無かったらしい。
「そもそもが……我ら王家の先祖は、マイヤちゃんが住んでいたアスカウの近辺に拠っていたそうじゃ。平地は狭くて森林ばっかりじゃが、あっちのほうがキンキ大陸を治めるのに適してはいるじゃろう。北部はアカサカチハヤで邪魔されておるが……」
キンキ大陸はアカサカチハヤ山地で南北がぶった切られた格好となっている。王都は大陸の南側にあるから、もっぱら都をアスカウあたりにした方が交通の便が良い。
あるいは、ナガオカッツェ地方や海側に出る格好となるが、ヨーシデン地方に都を定めたほうがやりやすい。盆地は守備には良いが、なんとも交通の便が悪くなる事もあった。
「とはいえナントブルグ一帯は、この中部ホーデンエーネンでは屈指の穀倉地帯。戦国時代には別の国があったのじゃ。余の祖先らはそこを、だまし討ち同然の方法で奪い取ったという……」
その詳細はわからない。何故ならホーデンエーネンの王家の歴史の中で指折りの恥ずかしい行いだったという。汚い計略を使った国盗り劇だったらしいのは確かだが。
「しかし、サキュバスちんたちのおっぱいぷるんぷるんかんしょうかいとやらで、とうのサキュバスちんたちからなにもきいていないでちか? このまち、なんかふんいきわりぃーとか?」
「なんも。むしろ、余のちんぽ汁をちゅうちゅう吸うのに満足しておったわい。金玉の数だけ幸せがあるというのが、あの淫魔達が常日頃言う事じゃからな……」
国王はマイヤをちらと見た後に、かき抱いたブランカに目を向けた。かわいい。我が家の養女に迎えたいのだがうなずいてくれるじゃろうか。ところでこの魔族はあの魔竜と知り合いなのだろうか。
「ブランカちゃん。ひとつ、聞きたいのじゃが」
「あたちをおうさまのむすめにでちか? いやでち!」
頭の中で考えていることをのぞかれたらしい。国王はただただうなだれるしか他無かった。至極残念である。
□ □ □ □ □
遷都の話については宮廷で討議させる。しかし50年とか100年後のことになるだろうと国王は告げた。
それからヒッジランドまでの旅での事と、パラッツォ教がとうとうヒッジランドにまで侵略の手を伸ばしてきた事を伝えると、既に報告にあがっておるよ、と国王は返した。
「イーズモーからの使者より、トットリーブール陥落と教団の本格的な侵攻が始まったことを聞いておる。サイゴークへの出兵は難しいが、ツルーガニスクやアヅチハーゲンから海軍を出撃させようと計画があがっておるよ」
しかし軍費がかかるのと、出撃に時間が必要だ。資材や食料も蓄えないとならぬゆえ、どんなに早くても1年はかかるだろうと国王は答えた。
そうして拝謁を終えるとイズヴァルトとマイヤはブランカに、今晩だけでも我が家へ泊っていけと誘った。しかし彼女はホーデンエーネンの援軍があまり早く望めない事に焦りを覚えていた。
「このはなしをウラスコーのクロームウェルちんにつたえるでち!」
申し訳ない、と告げて城門前の広場で転移魔法の準備をする。これからちょくちょく顔を見に来るけれど、決してあたちのことを忘れないでほしいでち、と言い残してブランカは去った。
「ブランカどの……」
「感傷に浸るのはいいけどイズヴァルト、広場のみんなが驚いているよ?」
マイヤは周りに目を向けてイズヴァルトに注意した。丁度その時、城門から1人の大柄な若武者が、馬に乗ってイズヴァルトの元に駆けつけた。
イズヴァルトの親友。聖騎士のルートヴィッヒ=ベートベンだ。彼は馬から降りるとイズヴァルトを抱きしめた。
「イズヴァルト! マイヤちゃん! 随分と早かったじゃねえか!」
「お、おおう。く、苦しいでござるよ?」
「俺はてっきり1年ぐらい後に戻って来るかと思ったぜ! マイヤちゃんが赤ちゃんを連れて帰るとな!」
「あはは。ベートーベンさんったら!」
マイヤは屈託無く笑った。とはいえ彼女の腹には既に、イズヴァルトの百発百中の精子によって赤ん坊の胚が出来ていた。
10か月後には彼女は、大きな乳房を赤ん坊に含ませる12歳の母親になるはずだ。それから毎年の様にイズヴァルトの赤ん坊をぽこぽこと産み、同じぐらいに子宝に恵まれた姉のトーリと、子だくさん合戦をする予定だった。
「さて、再会を祝って飲みに行こうか!」
「あ、ごめん。私最近、お酒は控える事にしているんだよ?」
「そっか。まあ飯なら別にいいよな。いいレストランを見つけたんだ。そこで栄養をたっぷりつけて、今夜は2人でマイヤちゃんを啼かせまくろうぜ?」
ベートーベンがにひひと笑う。マイヤはどすけべな目を彼とイズヴァルトに向けながら、うひひと笑う。イズヴァルトはこの2人のある意味での気の合いっぷりに、とほほとため息をついてしまった。
「……それだけではなかろうて。ベートーベンどの。何か言伝があってやって来たのござるな?」
「そりゃそうさ! 旨い飯をもりもり食って、マイヤちゃんのしりあなをたくさんいじいじしてたっくさんぶりぶりひねる所を鑑賞するついでに、お前達についさっき決まったばかりの事を伝えるのさ!」
というわけで。イズヴァルトとマイヤはベートーベンが見つけた新しいレストランに向かい、美味ではあるけれど「脂っこい……」と言わしめる料理で難しい顔をしながら、この3カ月で何がどうなったのかをベートーベンから聞き出した。
「……ライナーの親父が、とうとうナガオカッツェの殿様に口説かれちまった」
聖騎士団屈指の指揮官で軍略家のライナーを、ナガオカッツェ公に引き抜かれた。理由は彼が未だに独身だったという事にあった。
女エルフやサキュバスのおまんこやおっぱいは大好きなライナーだったが、ニンゲンになると淡泊になる。これまで貴族達から縁談や言い寄って来る女はひっきりなしだったが、断って来た。
しかし流石に40を超えるとそうも言っていられなくなった。王族会議でナガオカッツェ公は、ライナーが独身のままなのは国の損失だと声高に論じて、自分の娘との結婚をこぎつけさせた。
大公の次女がライナーの嫁に選ばれた。いや、3番目の娘も第二夫人としてつけるという。次女は子供を産んだことがあるという噂があった。
「で、ライナーの親父はいきなり王族よ。しかも娘みたく歳が離れたお姫様を2人、お嫁さんに貰ったのさ」
「ヨハンナ様のお子さまを、まるで厄介払いするような手口ね……」
ナガオカッツェ公は妾を沢山囲い、次々と孕ませて産ませていた。どれも姫君ばかりだが男児も1人産まれている。今年1歳になったばかりの次男、ヨーシアキレウスだ。
「というわけでライナーの親父の退団が、この6月となった。顔を合わせてやってくれ。ああもちろん、今すぐじゃなくて明日にしろよな?」
それから聖騎士団がらみで決まった事はもう1つ。いよいよ亜人の登用枠を設けるという。魔法戦士がとにかく欲しいのだとか。亜人でなくても魔法の才能があるニンゲンを知っていれば、是非とも紹介してくれ。
「……その話でござるが」
イズヴァルトは海賊団に婿入りしたイーガ人のカイル=グリーヴァスと、彼と縁が深いらしいエレクトラ=ガモーコヴィッツの名をあげた。
エレクトラはスパイの真似事をしている様だ。カルカド公とトマス海洋公の殺害の嫌疑もある。いろいろと前科はあるが、イーガでは最強の女魔法戦士と言われていたそうだ。
「よせやい。むしろその女、ホーデンエーネンじゃお尋ね者になっているぜ?」
エレクトラとエイオンに関しては、捕らえたら即、国王に報告せよと各地の領主達に命令が行っている。なんでもイーガのアドルフ王太子の昔の妾だというから、かの金持ち王国から保釈金をたっぷりとせしめる算段らしい。
「あと、カイル=グリーヴァスもやめとけ。あそこの海賊団から後継者に指名したと王様に報告があがっているよ。次の海賊王はカイルだ……で、イズヴァルト」
ものすげえ美少女みたいな男だと聞いたが本当か? 身を乗り出して尋ねるベートーベンの顔は脂ぎっていて臭いにおいがした。
「べ、ベートベンどの……」
「イズヴァルト、そいつのけつあなに種付けを確定したんだろ? なあ?」
「だめだよベートーベンさん。イズヴァルトはね、カイルさんとけつあなえっちをしないようにと逃げてたんだから!」
その代わりに自分がけつあなでご奉仕をしていたとマイヤは答えた。カイルはペニスがずる剥けでばかでかい男の娘だ。掘られるより掘る方が得意に思えた。
「ちっ。攻めのほうかよ? 俺好みじゃねえなあ……」
「てへ♥ ということはイズヴァルトって、受けが大好きってことかな♥」
「気持ちの悪い笑みを浮かべてはならぬでござるよ、マイヤ?」
たしなめるイズヴァルトの肩を、男色もする仲の親友は抱えて頬ずりした。こいつは攻守柔軟だぜ。マイヤちゃんはよく存じているだろうに?
「と、言うわけで飯を食ったら2人でイズヴァルトを可愛がってやろうぜ?」
親友がにひ、と笑い、恋人がにちゃあ、という気持ち悪く微笑んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
イズヴァルトとマイヤが触手姫に連れてこられたのは、ナントブルグの南の門近くの茂みだ。3カ月にも及ぶ旅を続けたので、あたりはすっかり春の兆しを示していた。
春草がまばらに生え始め、時折温かい風が吹いた。とはいえ3月のナントブルグの最高気温は平均で12℃である。夜になればぐっと冷え込むはずだ。
「なかなかにいいところでちね。ナントブルグというのは」
マイヤに抱き着いていたブランカが言った。それから都をちらと見てつぶやいた。
「……サキュバスちんたちのおんねんをひしとかんじるでち」
「サキュバスどのらの? 何故でござる?」
「りゆうはわからんでちよ。おおざっぱにいえることは、おそとはとてもさわやかだけど、あのまちのほうはのろいみたいなものがぷんぷんするということでち」
触手姫は言った。あの街は悪い気が漂っている。ホーデンエーネンの王様には遷都を進言したほうがいいかもしれない。2日つきあってやるから王様に引き合わせて欲しいでち。
「王様、そんなことで聞くかなあ?」
「あたちをつれていってくれればせっとくしてみせるでちよ。ちなみに、まぞくはきにしないかたがたでちか?」
イズヴァルトとマイヤは考え込んだ。魔竜と敵対しているホーデンエーネン王国は、あまり魔族を好まなかった。いやしかし、王様がサキュバスの遊女を呼び寄せ、廷臣達とおっぱいもみもみパーティをしている噂ならば聞いている。
「ブランカどのは、確か身を隠す魔法が使えたでござるな?」
「はいでち!」
「それを用いるでござる。ついでに裸ではよろしくないゆえ、おべべも探すでござるよ。それから王様に拝謁するでござる」
□ □ □ □ □
「ほうほう! そのぷにぷにちゃんまぞくがヴィクトリアの友達だったのか! ほうほうほう!」
国王の声にイズヴァルトは「さようでござる」とうなずく。ここは王の執務室である。お目通りとなり、ブランカを伴ったが、ジュンケイン四世は愛らしいドレスと顔を隠すフードをまとった水魔に目が釘付けだ。
「たいへんにかわいいな」
「そうでちか?」
「たべちゃいたいぐらいにだよ……」
国王はとろけた笑みを浮かべて言った。ちょっときもちわるいでち、とぼそっと呟く。ブランカは魔竜と同じ魔族なのに、そんなことを家臣の前で言っていいのだろうかとイズヴァルトは首をかしげた。
「あのう、陛下。魔族はホーデンエーネンの……」
「いやいやいや、イズヴァルト。アカサカチハヤにいるあの連中と、他の大陸に住んでいる者は違う、のじゃよ」
ジュンケイン王は、ブランカの隣りにいたセイン王子に目を向けた。この雑でぶっきらぼうな息子も、ブランカには興味津々だった。
「なあ、ちょっと抱き上げてもいいか?」
「くるしゅうないでち!」
ブランカは魔界の大貴族の令嬢でもある。なのでその言い方もセインは受け入れられた。抱き上げて、目玉が無いのにニンゲンの様な顔つきの半透明の魔物の顔をのぞく。まるでお人形みたいだな、と言って大笑いした。
「おにんぎょうとはなんでち!」
「ははは! すまねえ! そう怒んなって!」
「セイン。儂にも抱かせてくれ。こんな可愛らしい魔族を見たのは初めてじゃ!」
ジュンケイン王はブランカを無理やり奪って腕に抱いた。おおよちよち。赤ん坊扱いされてブランカは偉く不機嫌だ。ふくれっ面をしてセインをもっと笑わせた。
その兄王子の隣で、小さな冠を頭にかぶせた小さな男の子が、マイヤとブランカの2人をまじまじと見つめていた。セインの弟、第二王子のジューンショーンだ。
彼はこの時6歳。歳が12離れた兄と同腹で、事あるごとに兄にくっついていた。セインもまた、ジューンショーンの事が大好きで、馬の遠乗りや狩りには必ず連れて行く。
「あにうえ。僕、おしゃぶり姫さまを初めてみますけど……なかなかに美人さんなのですね!」
「まあ!」
マイヤは嬉しそうにはしゃいで口元をかくした。おほほほ。しかしこういう時は口元を隠すものだ。セインは今度それ用のを贈っておこうとマイヤを見て思った。セインはイズヴァルトに目を向ける。
「ところでイズヴァルト。今回はえらく早かったな? てっきり1年ぐらい後になるかと思ってたぜ。マイヤの腹をでっかくさせて戻って来ると思ってたけどな?」
「大きなお腹を抱えたマイヤが、拙者が入った骨壺を抱えて戻って来るはずだったでござるよ?」
「あはは! イズヴァルトなら大丈夫だよ!」
マイヤはイズヴァルトの背中を思い切り叩いた。すぱん、といい音がした。なかなかのおかみさんになるぜ、とセインが笑うと、後でべートーベンにも顔を見せろよな、と言って弟とともに部屋から出て行った。
そうしてようやく本題に。ブランカは己の魔法で触手を出し、ジュンケイン王を驚かせながら遷都を論じた。
「この都はやけに悪い気配を感じるでち。おっぱいパーティにいつも呼んでいるサキュバスちん達もそうおっしゃったりしないでちか?」
国王の顔に、渋みがはしった。
「んん。まあ……このナントブルグはいわくつきの都である、と聞いたことはあるのう」
「いわくつき、でござるか? かような話は聞いたことがござらん」
「せいぜい歴代の王様が政治の敵や家督争いとかで兄弟を弑したぐらいでしょうけど……他に何かあるのですか?」
ジュンケイン王は「父から少しだけ聞いただけなのだが」と前置きして語った。キンキ大陸の戦国時代の初め頃、このナントブルグはまだ、ホーデンエーネン部族のものでは無かったらしい。
「そもそもが……我ら王家の先祖は、マイヤちゃんが住んでいたアスカウの近辺に拠っていたそうじゃ。平地は狭くて森林ばっかりじゃが、あっちのほうがキンキ大陸を治めるのに適してはいるじゃろう。北部はアカサカチハヤで邪魔されておるが……」
キンキ大陸はアカサカチハヤ山地で南北がぶった切られた格好となっている。王都は大陸の南側にあるから、もっぱら都をアスカウあたりにした方が交通の便が良い。
あるいは、ナガオカッツェ地方や海側に出る格好となるが、ヨーシデン地方に都を定めたほうがやりやすい。盆地は守備には良いが、なんとも交通の便が悪くなる事もあった。
「とはいえナントブルグ一帯は、この中部ホーデンエーネンでは屈指の穀倉地帯。戦国時代には別の国があったのじゃ。余の祖先らはそこを、だまし討ち同然の方法で奪い取ったという……」
その詳細はわからない。何故ならホーデンエーネンの王家の歴史の中で指折りの恥ずかしい行いだったという。汚い計略を使った国盗り劇だったらしいのは確かだが。
「しかし、サキュバスちんたちのおっぱいぷるんぷるんかんしょうかいとやらで、とうのサキュバスちんたちからなにもきいていないでちか? このまち、なんかふんいきわりぃーとか?」
「なんも。むしろ、余のちんぽ汁をちゅうちゅう吸うのに満足しておったわい。金玉の数だけ幸せがあるというのが、あの淫魔達が常日頃言う事じゃからな……」
国王はマイヤをちらと見た後に、かき抱いたブランカに目を向けた。かわいい。我が家の養女に迎えたいのだがうなずいてくれるじゃろうか。ところでこの魔族はあの魔竜と知り合いなのだろうか。
「ブランカちゃん。ひとつ、聞きたいのじゃが」
「あたちをおうさまのむすめにでちか? いやでち!」
頭の中で考えていることをのぞかれたらしい。国王はただただうなだれるしか他無かった。至極残念である。
□ □ □ □ □
遷都の話については宮廷で討議させる。しかし50年とか100年後のことになるだろうと国王は告げた。
それからヒッジランドまでの旅での事と、パラッツォ教がとうとうヒッジランドにまで侵略の手を伸ばしてきた事を伝えると、既に報告にあがっておるよ、と国王は返した。
「イーズモーからの使者より、トットリーブール陥落と教団の本格的な侵攻が始まったことを聞いておる。サイゴークへの出兵は難しいが、ツルーガニスクやアヅチハーゲンから海軍を出撃させようと計画があがっておるよ」
しかし軍費がかかるのと、出撃に時間が必要だ。資材や食料も蓄えないとならぬゆえ、どんなに早くても1年はかかるだろうと国王は答えた。
そうして拝謁を終えるとイズヴァルトとマイヤはブランカに、今晩だけでも我が家へ泊っていけと誘った。しかし彼女はホーデンエーネンの援軍があまり早く望めない事に焦りを覚えていた。
「このはなしをウラスコーのクロームウェルちんにつたえるでち!」
申し訳ない、と告げて城門前の広場で転移魔法の準備をする。これからちょくちょく顔を見に来るけれど、決してあたちのことを忘れないでほしいでち、と言い残してブランカは去った。
「ブランカどの……」
「感傷に浸るのはいいけどイズヴァルト、広場のみんなが驚いているよ?」
マイヤは周りに目を向けてイズヴァルトに注意した。丁度その時、城門から1人の大柄な若武者が、馬に乗ってイズヴァルトの元に駆けつけた。
イズヴァルトの親友。聖騎士のルートヴィッヒ=ベートベンだ。彼は馬から降りるとイズヴァルトを抱きしめた。
「イズヴァルト! マイヤちゃん! 随分と早かったじゃねえか!」
「お、おおう。く、苦しいでござるよ?」
「俺はてっきり1年ぐらい後に戻って来るかと思ったぜ! マイヤちゃんが赤ちゃんを連れて帰るとな!」
「あはは。ベートーベンさんったら!」
マイヤは屈託無く笑った。とはいえ彼女の腹には既に、イズヴァルトの百発百中の精子によって赤ん坊の胚が出来ていた。
10か月後には彼女は、大きな乳房を赤ん坊に含ませる12歳の母親になるはずだ。それから毎年の様にイズヴァルトの赤ん坊をぽこぽこと産み、同じぐらいに子宝に恵まれた姉のトーリと、子だくさん合戦をする予定だった。
「さて、再会を祝って飲みに行こうか!」
「あ、ごめん。私最近、お酒は控える事にしているんだよ?」
「そっか。まあ飯なら別にいいよな。いいレストランを見つけたんだ。そこで栄養をたっぷりつけて、今夜は2人でマイヤちゃんを啼かせまくろうぜ?」
ベートーベンがにひひと笑う。マイヤはどすけべな目を彼とイズヴァルトに向けながら、うひひと笑う。イズヴァルトはこの2人のある意味での気の合いっぷりに、とほほとため息をついてしまった。
「……それだけではなかろうて。ベートーベンどの。何か言伝があってやって来たのござるな?」
「そりゃそうさ! 旨い飯をもりもり食って、マイヤちゃんのしりあなをたくさんいじいじしてたっくさんぶりぶりひねる所を鑑賞するついでに、お前達についさっき決まったばかりの事を伝えるのさ!」
というわけで。イズヴァルトとマイヤはベートーベンが見つけた新しいレストランに向かい、美味ではあるけれど「脂っこい……」と言わしめる料理で難しい顔をしながら、この3カ月で何がどうなったのかをベートーベンから聞き出した。
「……ライナーの親父が、とうとうナガオカッツェの殿様に口説かれちまった」
聖騎士団屈指の指揮官で軍略家のライナーを、ナガオカッツェ公に引き抜かれた。理由は彼が未だに独身だったという事にあった。
女エルフやサキュバスのおまんこやおっぱいは大好きなライナーだったが、ニンゲンになると淡泊になる。これまで貴族達から縁談や言い寄って来る女はひっきりなしだったが、断って来た。
しかし流石に40を超えるとそうも言っていられなくなった。王族会議でナガオカッツェ公は、ライナーが独身のままなのは国の損失だと声高に論じて、自分の娘との結婚をこぎつけさせた。
大公の次女がライナーの嫁に選ばれた。いや、3番目の娘も第二夫人としてつけるという。次女は子供を産んだことがあるという噂があった。
「で、ライナーの親父はいきなり王族よ。しかも娘みたく歳が離れたお姫様を2人、お嫁さんに貰ったのさ」
「ヨハンナ様のお子さまを、まるで厄介払いするような手口ね……」
ナガオカッツェ公は妾を沢山囲い、次々と孕ませて産ませていた。どれも姫君ばかりだが男児も1人産まれている。今年1歳になったばかりの次男、ヨーシアキレウスだ。
「というわけでライナーの親父の退団が、この6月となった。顔を合わせてやってくれ。ああもちろん、今すぐじゃなくて明日にしろよな?」
それから聖騎士団がらみで決まった事はもう1つ。いよいよ亜人の登用枠を設けるという。魔法戦士がとにかく欲しいのだとか。亜人でなくても魔法の才能があるニンゲンを知っていれば、是非とも紹介してくれ。
「……その話でござるが」
イズヴァルトは海賊団に婿入りしたイーガ人のカイル=グリーヴァスと、彼と縁が深いらしいエレクトラ=ガモーコヴィッツの名をあげた。
エレクトラはスパイの真似事をしている様だ。カルカド公とトマス海洋公の殺害の嫌疑もある。いろいろと前科はあるが、イーガでは最強の女魔法戦士と言われていたそうだ。
「よせやい。むしろその女、ホーデンエーネンじゃお尋ね者になっているぜ?」
エレクトラとエイオンに関しては、捕らえたら即、国王に報告せよと各地の領主達に命令が行っている。なんでもイーガのアドルフ王太子の昔の妾だというから、かの金持ち王国から保釈金をたっぷりとせしめる算段らしい。
「あと、カイル=グリーヴァスもやめとけ。あそこの海賊団から後継者に指名したと王様に報告があがっているよ。次の海賊王はカイルだ……で、イズヴァルト」
ものすげえ美少女みたいな男だと聞いたが本当か? 身を乗り出して尋ねるベートーベンの顔は脂ぎっていて臭いにおいがした。
「べ、ベートベンどの……」
「イズヴァルト、そいつのけつあなに種付けを確定したんだろ? なあ?」
「だめだよベートーベンさん。イズヴァルトはね、カイルさんとけつあなえっちをしないようにと逃げてたんだから!」
その代わりに自分がけつあなでご奉仕をしていたとマイヤは答えた。カイルはペニスがずる剥けでばかでかい男の娘だ。掘られるより掘る方が得意に思えた。
「ちっ。攻めのほうかよ? 俺好みじゃねえなあ……」
「てへ♥ ということはイズヴァルトって、受けが大好きってことかな♥」
「気持ちの悪い笑みを浮かべてはならぬでござるよ、マイヤ?」
たしなめるイズヴァルトの肩を、男色もする仲の親友は抱えて頬ずりした。こいつは攻守柔軟だぜ。マイヤちゃんはよく存じているだろうに?
「と、言うわけで飯を食ったら2人でイズヴァルトを可愛がってやろうぜ?」
親友がにひ、と笑い、恋人がにちゃあ、という気持ち悪く微笑んだ。
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