聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第一部 少年騎士と幼き侍女(幼年編から少年編の間のお話)

23 女王の末裔

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「ひめさま。ひめさま……」

 眠っていたトーリはその声で目を覚ました。目隠しを外されて少しだけ前が見えるようになった。絶頂の余韻と今も眠っている相手の硬直したままのペニスを膣の中に入れられて、甘い快感を覚えていたがひりひりとしてもいた。

「略奪され、散々でございましたね?」
「ええそうね。カミラ」

 いつの間にか手足が自由になっていたトーリは、ゆっくりと起き上がって眠りにつくハーフリングの男を引き離した。身体全体がかゆい。股も精液による違和感が。

「眠っている間を好き勝手されていたのね。ちびっこなのにずいぶんとおっきなおちんちん……」
「この者らはハーフリング。エルフとドワーフのあいのこです。性根の良い者はサキュバスにとって良き恋人に。しかしこの者達はいささか……」

 殺しても忍びない類の様子ですわね。水色の髪を豊かに生やす女淫魔は、マイヤを抱きすくめたままうつらと眠る男を睨みつけた。

 小さなマイヤが彼等に犯されていた。その事実にトーリはわなわなと震えてうつむいていた。涙は出ない。カミラが助けに来てくれた今、この陵辱者達の生殺与奪はこちらにあった。

「……マイヤは眠ってくれている?」
「ええ。心を覗き込んでおりましたら、深く嘆き悲しんでおられでした」
「こんなひどいことは忘れさせるわ。カミラ。妹から記憶を消してあげて。それからルッソ達が来たら『きれいなまま』を取り繕いたいの」

 幸いなことにトーリとマイヤの衣服は小屋の中にあった。カミラはうなずいてトーリのへその下に手をあてる。

 トーリの子宮にはカミラが施した避妊の為の魔法が施されていた。オルフレッドが産まれてから約1年は、子供を作りたくないというトーリの意向でだった。

「魔法は解かれていないようです。魔術に詳しいハーフリングなら気づくと思っておりましたが、不出来な輩だったようですね」
「そうみたいね。この者達はあと何時間眠ったまま?」

 あと40分で起きるはずとカミラは答えた。彼女は眠っている男とマイヤを引き剥がし、幼な児の額に手を当ててよからぬ記憶を消し始めた。

 それを終えると彼女は2人を外に連れ出す。子供1人が入れる湯の球体を作る。その中にトーリが入り、身体や膣からハーフリング達の汗やよだれや精液を洗い落とした。

 カミラがもう一度印を切った。湯の中の汚れがまたたく間に消えた。トーリは湯の表面から腕を出し、マイヤを受け取った。

 妹の身を優しく清めた後、トーリは眠り続けるマイヤ胸に抱きながら降りた。しかし彼女の素足に泥はついていない。浮遊魔法がかかって少しだけ浮いていたのだ。

「カミラ、貴方の気づかい?」
「ではございません。マイヤさまが側にいらっしゃることで、トーリ様の身体にある魔の力によるものです。ひめさまは土で足が汚れてしまう、と思っていたから、自然と術式が働いたに違いございませぬ」

 念じなくても唱えなくても、印を切らなくても魔法が使える。それがトーリの真の力だとカミラは言った。

 但し、それも『依り代』となるマイヤが側にいてできる事だ。トーリには魔法を発動させる術式回路を繋げられない体質だった。魔力の含有量は魔族に匹敵するとカミラは見立てていたのだが。

「マイヤさまともども、身体もお乾きなのは感じていらっしゃいますか」
「ええ、そうね。それとマイヤの身体が……」

 トーリは乳房がやけに実っている幼い妹の、へその下のあたりに目を向けた。ピンク色の文様が輝いている。精気と魔力を得た淫魔が浮かび上がらせるものだった。

 淫紋、と淫魔達から言われるそれだが、実のところは魔力の残量と術式展開の発動準備を示すもの。

 おちんぽに屈してという話ではない。淫する魔族の体紋はその者の魔才を示すものである。

 マイヤのお腹で輝いていた、2羽の小鳥が翼を広げて互いのくちばしを合わせるそれの輝きと鮮明さを見てカミラはため息をつく。これで魔力を蓄える力があれば。

「マイヤのは……とても愛らしいのね?」

 トーリは自分の下腹では浮かんで来ない事に気がついた。魔力が多いハーフリングの精液を浴びるほど飲んだのに。

「ひめさま。嘆いてはなりませぬ。片割れたるマイヤさまがいらっしゃる今こそ、貴方さまの力を引き出すことができるのです」
「……ええ」

 トーリはマイヤをひし、と抱きしめる。マイヤの淫紋がますます輝き、全身に光る文様が広がった。

 それがトーリの腕や身体に広がる。姉妹は桃色の光の衣をまとっていた。トーリの血と肉は、遠い祖先の力を呼び覚まし、深紫色だったその瞳を、魔族と同じ真紅の色に変えさせた。

 そして両目の水晶体にうっすらと、翼を広げる鳥の文様が浮かびあがっていた。3本脚の烏。それこそが魔界の、それも魔族の頂点の一族である証だ。

 では何をしよう。淫魔が得意な魔法ならばなんでも、とカミラはささやく。自分たちを拉致した4名のハーフリングの記憶を改ざんすればいい。

「……とうとうお目覚めになられましたね、ひめさま」

 しかしその力を発揮できるのは、マイヤが目覚めるほんの少しの間だけだとカミラは言う。もってあと15分。しかしすべてを為し終えるには十分な時間。

「淫魔の、それも選ばれし方々の力を、お使いくださいますよう……」

 それは。カミラに言われなくてもトーリにはわかっていた。彼女は何をどう仕掛けるか組み立てていた。

 『あるじ』の思考を確かめてカミラがささやく。

「ひめさま。まずはこの者達を目覚めさせましょう。ひめさまと交わった者であれば、より深く統べられる……相違ございませぬ」

 トーリは小さく、起きろとささやいた。小屋の中にいた2人と、入り口の前にいたセルゲイともう1人が目を覚ました。

「服を着て武器を取れ。おまえたちを討たんとする私の『まもりて』達が、もうすぐ来る」

 機先を制す為に討って出よ。思考は麻痺したまま、セルゲイらは服を着て武器を取った。重そうな大剣やハンマーが、彼等の得物である。

 トーリが言う『まもりて』達はどこに。彼女はその一団の居場所を知っていた。ここから南東に8キロ離れた森の中にいる。彼等の姿が脳裏で鮮明に映し出され、声がはっきりと聞こえていた。

 自分と妹の名を呼びかけながら馬を走らせるイズヴァルトとルッソ。じくじたる思いを抱えながらそれに倣うベートーベン。

 他の2人の騎乗の兵士も知っている。村にいた頃のマイヤによくおしゃぶりを受けていた警備兵だ。他の4名の徒歩の男たちは存じていない。

 徒歩の者を含めれば9名。イズヴァルトの背中と懐の剣に恐ろしいものを感じていたが、心を操る魔法に対する抵抗は無いと見受けられた。

 特に操りやすいのは、夫とイズヴァルトとベートーベン。3人とも彼女を抱いたから、なおさら淫魔の心理操作の魔法にかかりやすいだろう。

(ルッソ、イズヴァルトさん、ベートーベンさん。ごめんなさい……)

 トーリは彼等に謝りながら、びっしりと身体を埋め尽くす文様を輝かせた。桃色ではなく青白色。忌まわしげな輝き方を見せる彼女の身体から、心理操作の魔法が9人に仕掛けられる。

 それは即座に、何も感じさせずに彼等の心の奥底に染み込んだ。同時にかかるのは身体強化の魔法。9人全員にだ。

 続けてカミラが呼びかける。転移魔法をと。『ひめさま』の瞳に浮かぶ、三本足の烏の文様の輪郭が白色から青色に変わった。

 トーリの脳裏に転移魔法の術式が入り込んでくる。念じればそれはすぐに発動した。

 その時マイヤが奇声をあげた。目から血が滲んだ涙を流し始めた。それから狂ったように咳き込み始める。それから激しく痙攣をし始めた。

「マイヤ! いったいどうしちゃったの!」
「……転移魔法の発動が、『依り代』たるマイヤさまに負担をかけているのです」
「それだったらッ!」
「念じるのを止めてはなりません! 『まもりて』達は今すぐに現れます、ひめさま!」

 トーリの脳内に送られていた千里眼の魔法の映像は、イズヴァルト達がこの小屋の目の前に姿を現したことを知らせてくれた。

 馬に乗る彼等の全面と背後に、武器を構えたセルゲイらが茂みに隠れて待ち伏せている。挟撃を仕掛けるようだ。亜人に対して勝ち目はあるのだろうか?

「ひめさま。ご安心ください。ひめさまの支配を受け、あのハーフリングどもは必ずへまをやらかします」

 背後にいた1人が印を切る。発動すれば一団を炎嵐の渦に巻き込む魔法だ。『紅蓮竜巻』と呼ばれるそれは、セルゲイらカントニアのハーフリングなら誰でも使えるものだった。

 しかしいくら印を切っても発動しない。どういうことだ、と鋭い叫び声をあげてしまった。ルッソと兵士2人が後ろを振り向き、矢を番えた。

 ルッソは威嚇の為の矢ではなく、殺傷力のある大鏃に変えていた。夫の腕はよく知っている。牧童の村の少年の中では、2番目ぐらいの腕前だ。

「そこにいるのは誰だ!」

 兵士のうち1人が叫ぶ。イズヴァルトとベートーベン、徒歩の男たちが身構える。

「ひめさま。あの者達は魔法が使えないことに焦らせて、武器を持って出るように呼びかけましょう……マイヤさまのお身体に負担をかけぬ、ほんの少しの魔力で可能な事ですから」

 セルゲイらが茂みから姿を現した。大剣を、手斧を、ハンマーを持ってにじり寄る。セルゲイがイズヴァルトとベートーベンを見て大声で笑った。

「なんだ。おまえらはヨーシデンで会った見習い騎士どもだな!」
「セルゲイという名前……あの黒装束の5人のうちの1人でござるか? なにゆえ拙者らを襲わんとする?」
「俺達の姿を見られたからさ。それと仕事がうまくいかなかったんで、せめてお前らをぶっ殺してうさを晴らそうと考えたのさ」

 大事なちっちゃいお姫様と、その姉貴を餌にして呼び寄せたのさとセルゲイは笑う。他の3人もおかしそうに笑った。

「ここまでまんまとやって来てくれたとはな。運の神様に感謝するぜ。あるいはマハーヴァラさまにってところかな」
「……逆恨みとは大概にしていただきたいものでござる」

 イズヴァルトは馬から降り、『覇王の剣』を抜いた。槍を持ったベートーベンが騎乗したままセルゲイに突きかかった。

「だったら存分にお礼をさせてやるぜ! 死ねやあ!」

 ベートーベンの鋭い突き。いつものセルゲイであれば難なくかわせるはずだった。しかし足腰が緩慢でうまく避けられない。

 ベートーベンの渾身の一撃に、セルゲイはこめかみを突かれてすっころんだ。しかし貫かれる事は無かった。

「……ちっ!」

 ベートーベンは槍を捨てて剣を抜く。振り回しながらセルゲイに襲いかかると大きく跳躍した彼に蹴りを食らわされて馬から倒された。

「ベートーベンどの!」

 倒された悪友の胴体を大剣でぶった切ろうとするセルゲイに、イズヴァルトは体当たりを食らわせた。受け身を取れなかったセルゲイがふっとばされる。

「このやろう!」

 セルゲイと共に前方にいたもう1人が、手斧を握りしめてイズヴァルトに飛びかかった。しかしリーチはイズヴァルトが上。

 前に踏み込んだ。飛びかかる相手に1メートル半近くある『覇王の大剣』で横薙ぎの一撃を食らわせた。

 けれども感触がいささかよろしくない。深く入った一撃で本来ならば真っ二つに斬れるはずだったのに、硬いものをぶん殴った感触だけが残っただけ。手斧を持ったハーフリングは弾き飛ばされただけで斬られていなかった。

「これが亜人の身体でござるか?」

 ゆっくりと起き上がりながらセルゲイが返す。

「へっ。そのとおりよ。見習い騎士、その切れ味が尖そうな剣でもよほどの力が無い限り、俺達の身体は切り飛ばせないよ」

 とんだ宝の持ち腐れだよなあ。そう言おうとした時におかしい、とセルゲイはつぶやいた。背後を襲っている仲間2人が、イズヴァルトどころかベートーベンにも劣る兵士2人と徒歩の盗賊に押されっぱなしだったからだ。

(おいおいなんだよ? あんな雑魚どもをどうして殺せない?)

 ルッソが巧みに間隔をあけながら、次々と矢を射かけて援護する。彼の矢ぐらい見切ってよける動体視力があるはずなのに、仲間達は身体に矢を生やしていった。

(あんなチョロ矢を……いったい何がどうなっているのさ?)

 まごまごとするセルゲイに、イズヴァルトは容赦なく襲いかかった。固くて斬り落とせない。ならば叩けばいい。とっさにひらめいたことがあった。

「ソード=オブ=ブロントの底力、なめるなでござる!」

 叫びながら念じる。刃に重圧の力を込めるのだ。それなら斬れる事は出来ずとも、強い力でぶっ叩く事はできるはず。ただ、イズヴァルトはいささか己の魔剣を信用し無さ過ぎていた。

「ふん! まだ同じことをやろうってのかよ! あほらしい」

 セルゲイは持っていた大剣を盾代わりにして斜め右上からの一撃を防ぎきろうとした。が、己の剣と相手の刃がかちあったところで重い衝撃を受けた。

 地面がめり込む。それだけではない。剣が捻じ曲げられてついには斬られ、その直後に自分の身体に魔剣がめり込んでいく様をその目で見ていた。

 激しい痛みが彼を襲い、畜生と罵って咆哮する。イズヴァルトの刃はもっと奥深くに進み、セルゲイの心の臓までたどり着いた。

「がはっ……!」

 血を吐いた直後、セルゲイの身体は一瞬にして塵となり、風と運ばれて消えていった。

(手応え、ありでござるな!)

 にやりと笑うイズヴァルト。彼はついに、戦う機械へと変貌した。こうなると敵を殺し尽くすまで剣を振るうのを止めない。

 スイッチが切り替わったかの様に攻勢に移り、またたく間に残る3人を討ち取ってしまった。千里眼の魔法でその戦いぶりを見たカミラは、素晴らしい戦士だと褒め称えた。

「身体強化の魔法をかけておいたとはいえですが、素晴らしい。まだ幼いのにあれほどの剣の使い手は……けれどもあの者はきっと、ひめさまとその祖たるカツランダルクの女王の宿願を、果たしうるに違いないでしょう」

 もし、もう一度立ち上がる気でいてくれるのなら。カミラはそうトーリに問いかける。

「……今回だけよ。この魔法を使うのは。見て、カミラ」

 トーリはマイヤに目を向ける。彼女は口の周りを血で汚していた。『依り代』としての役目は幼い彼女に荷が重すぎたのだ。

「マイヤさまのおからだはご心配なく。治癒の魔法をかけておきますゆえ……」
「そういう事じゃないわ。もちろんお願いするけど、でも私は……」

 それ以上は言うつもりは無かった。それよりも早く小屋の中にある服を着て、皆に助けを求めなければ。どうやってごまかすかちゃんと考えてある。

 隙きを盗んでマイヤと共に森の中に隠れていたと答えるのだ。この力のことは誰にも知られてはならない。穏やかな一生を過ごす為にはどうしても隠し通さなければならないのだ。

 イズヴァルト達が再び姉妹の名前を叫び始めた頃、服を着終えたトーリは昏々と眠りにつくマイヤを背負いながら、彼等の前に姿を現した。

 怖かったと叫んで涙を流し、飛び出してきたルッソにしがみつく。

「ルッソ! 助けに来てくれてありがとう! とてもこわかったわ!」
「トーリ……」

 自分の胸に顔を埋め、泣き叫ぶ妻の髪を撫でながらルッソは、どこか引っかかる様な感覚を覚えていた。

(トーリの身体、いつもにも増して甘い花の様な香りがする。)

 そのにおいは、彼女が長い時間性交をし、沢山の精液を身体に取り入れたぐらいから漂うにおいだった。甘い花と蜜の香りと、精液のカルキくさいにおいが混じった様な。

 それからこの小屋の周囲は、色街でよく嗅いだにおいに似ていると思った。娼婦たちが願掛けの神として奉る、アプサラーの百姉妹の祭壇がそれだ。

 花びらと蜜を乾燥させて抹香としたものを燃やした時に出る煙のにおいによく似ていた。鼻につくような花弁のにおいにも似ているが、もう少し乾いている。

(忘れちゃいないさ……初めて色街に遊びに行った時に抱いた女の子のにおいだよ、これ。)

 筆おろしからしばらく後の、『度胸づけの遊郭遊び』で選んだ娘が開いた股ぐらから漂うにおいのそれだった。

 その娼婦はニンゲンに化けたサキュバスだった。その事を彼は相手の膣口を舐めながら問いかけた事があった。

 塩気や酢をしゃぶった様な刺激ではなく、とても甘いはちみつのようなヴァギナ。連れて来てくれた親戚に語ると、それこそがサキュバスだと教えられたのだ。
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