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第一部 少年騎士と幼き侍女(幼年編から少年編の間のお話)
07 遠征行⑥
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ヨーシハルトス=ナガオカッツェ=ホーデンエーネン。
ジュンケイン4世の実弟で後の世の歴史家達に『愚物』と評された男だ。
美男で巨根で絶倫であったが、女と馬上槍試合にうつつを抜かし、武勲どころか優れた統治や文化的な業績や遺産も為さなかった。
常日頃、戦場こそが男の華だとほざくが、武勇に秀でているわけでもない。なおかつ人徳や統率力にも優れていない彼は、大規模な反乱になす術がなかった。
居城で王都からの救援をただただ待つのみ。滋養酒をちびりとやりながら、寝所で妾達の尻をぱんぱんぱん、と打ち付けるだけの行いを朝から晩まで続けるだけだ。来年には6人の赤子を腕に抱く事となる。
そして今もたくさんいる妾達のうち1人を慰みものにし、己の無能と怠惰を忘れる時を過ごしていた。周囲には『大公としての責務』という言葉で取り繕う、きんたまのイライラを解消する為だけの行いをだ。
「ひっ……あっ!」
ベッドの上で四つん這いになった少女がうめく。大公の一番若い妾だ。まだ13歳である、まるで子供みたいな体格の彼女の小さな尻にヨーシハルトスはしがみつき、激しく腰を振る。
娘は小柄だったが乳房は育っていた。村一番の美少女だけでなく、乳房の大きさも少女の中で一番だった。自慢でもあるそれが腰を叩きつけられ、身体が揺れるたびに重たく舞った。
「いあっ、あああっ!」
この妾は彼の妾の中で一番美しくもあった。去年の冬に、とある村から年貢代わりに献上された。彼が子宮に庶子を宿す女達の多くは、こうした『税金代わり』が多くいた。
肉砲が膣肉を穿ち、妾の奥肉に心地よい刺激を与え続ける。妾はのけぞって絶頂の涙をこぼした。膣洞のしゅん動が彼のペニスに異変を及ぼした。
「うおっ。おおおっ!」
彼は雄たけびをあげる。ペニスが限界に達し放精を施したのだ。尿道は激しく脈打ち、膣の中に精液が注ぎ込まれる。子宮は喜びに包まれながら、生育への欲をもたげていた。
この妾はこの時の交合で10か月後に初めての子を産む。それから初産で生命力を使い果たし、若くして死ぬ運命にあった。死してのち、『無能大公の美少女側女』という物語で語られる女となった。
「……ふう。一休みしよう」
「お、おとのさま……」
もっと欲しいです。妾がねだった。彼女はもうこの男の名物に身体が馴染んでしまっていた。しかしヨーシハルトスは用事があるからと言って妾を引きはがし、寝所を出て行った。
かいた汗を沐浴場で洗い流すと、召使と共に執務室へと入る。そこにはナントブルグからやって来た一団が待っていた。
総勢4名。誰もが金髪で10歳になるかならないかの顔立ちと背格好だ。皆、わりと顔立ちは整っている。特筆すべきなのは両手両足が少しばかり大きいのと、耳が尖っているということぐらいか。
「待たせたな。ハン=ソーローの遣いの者らよ……しかしだな」
あの男はエルフの子供を密使に使うようになったのか、とヨーシハルトスが口にする。一団の中の1人、黒いマントを肩にかけたままの少年が鼻で笑った。
「ホーデンエーネンのやつらは知らんのか? 俺たちは子供エルフじゃないぞ。おふくろは確かにミナッカミニアの金色エルフだが……」
何を言っているのだ、という顔をするヨーシハルトスに、傍にいた召使いが「ハーフリングですよ」とこっそり告げる。王子時代の講義の時間に女の裸のことばかり考えていたヨーシハルトスも、その名前は存じていた。
「ハーフリング……ああ。エルフとドワーフの混血児か!」
ハーフリング。異世界からの転生者のごく一部が『ホビット』と呼ぶ彼等は、人種ではなく混血による変異で誕生した存在だ。
サキュバス顔負けのどすけべな女エルフと、常日頃からちんぽがいらいらしっぱなしでいくら射精してもし足りないドワーフ男がぐっちょんぐっちょんとやりまくって生まれる存在。父と母の種族を逆にしても生産可能だが、エルフ男は淡泊なのでごくまれにしか無かった。
常日頃どんなにやりまくってもなかなか孕まない亜人同士の交合によるものだから、生まれる確率は極めて低い。しかし風の精霊の末裔であるエルフと、土の精霊の子孫たるドワーフのあいのこは恐るべき魔力と膂力を小さな身体に秘めていた。
亜人と呼ぶ人種の中で、一番最強といっても差し支えない。2つの精霊の加護を得ているから、1万年近く生きるエルフの数倍の寿命を約束されている。
死ぬまで子供みたいな顔かたちで生きる。思春期以降のニンゲンみたいななりになる者はいなかった。生まれた時から優れた力を持つ彼等に、身体の増築など必要なかった。ちんちんはドワーフ並みにでっかく育つのだが。
「ハーフリング……その優れた素質にあぐらをかき、努力をせず苦労を避け、結局はつまらん小銭稼ぎをして暮らしている連中だと、私は聞いたことがある……」
ヨーシハルトスがつぶやいた。彼が言っていることはほぼ当たっていた。ハーフリングは才能がありすぎるがゆえに、さぼり癖がひどく天下を狙えても途中で投げ出す怠け者ばかりなのだ。
「んあ? なんか言ったかナガオカッツェ公?」
黒マントのハーフリングがにらみつけた。可愛らしい男の子という身なりであるから迫力は全然無い。ヨーシハルトスは侮辱してやろうと口を開いたが、召使いに止められた。
「殿下、腐っても亜人ですぞ。彼等が本気になったら命はございません」
「ああ。そうだったな……で、室内で外套を羽織るお前はなんという名だ?」
「セルゲイだ。氏族はヌマタラシュク。ワレンコフという家名があるが、エルフはんなことこだわらん。セルゲイだけでいい」
セルゲイはおよそ3日、ナントブルグのソーロー公の館からここまで駆け抜けてきたと語った。ナガオカッツェ領に入ってから道が悪くなったな。宿屋もバカ高くて村人が追いはぎとなって襲い掛かって来る。
「泊めてくれた村の者は飯に毒を入れるなどというつまらんことをしてくれた事もあったな。なんなんだここは?」
「それがナガオカッツェ流の旅人の挨拶だ……家臣から聞いただけだがな。貴殿ら、最短で行けるからと山の街道を通ったのではないのか?」
大公に問われてセルゲイ達はうなずいた。地図を見て測ったのと山道に慣れているから決めた。大公の召使いが苦笑しながら言った。あの街道の村人は山賊と兼業なのですよ。この大陸の商人らはあそこを通り抜けませんよ、と。
「信じがたい。カントニアやシマナミスタンでもそこまでひどい民はいなかった。ナガオカッツェは悪鬼どもの土地か?」
「誹謗はそこまでにしていただきたい」
ヨーシハルトスは憮然とした。追いはぎの真似をする領民は他の領主の土地にもいる。しかし旅人を殺して金品を奪い、よその土地から娘を奪って村の男達の慰みものにするまでの所業は他の土地ではなかなか行われぬことを知らなかった。
「この乱を鎮めた後は儂自らが軍を率い、不埒な山賊どもを一人残らず滅ぼしてくれよう。では、この手紙を読もうではないか」
ヨーシハルトスは受け取った手紙を開いた。できの悪い詩文のようなそれは、ハン=ソーローの暗号文書だとわかった。書斎の引き出しから解読用の紙を出して読み進める。
10行ほど目を通すと顔を真っ赤にした。兄上はどこまでも甘いお方だ、と吐き捨てると、ハーフリング達をちらと見てこう言った。
「反乱の首謀者達を不問とするらしい! 先に聖騎士団を急行させて和平交渉に持ち込むらしいな! いまいましい!」
ナガオカッツェ公軍は反乱軍を攻めあぐねている。むしろ劣勢。次々と砦や城市を落とされ、向こうの支配下となっていた。責められた側がむしろ喜んで開城した向きもちらほらとあった。
それほどまでに彼の支持は領民たちの間には無かったのである。忸怩たる思いでハン=ソーローの暗号解読文と照らしあわせながらしまいまで読み進めると、彼はセルゲイ達に尋ねた。
「……凄腕の魔道士と刺客をソーローは寄越したと書いてあるが、その者らはどこにおる?」
「俺達を見くびるな。魔道の心得は十分にある」
「そのほうらがか。では刺客は?」
それも兼ねているのかとヨーシハルトスが尋ねると、その分までの契約金は貰っていないと彼等は笑った。あくまで魔道士としての役目を追うのが自分達だ。首謀者らを暗殺する刺客は別にいる。
「ミナッカミニアの『ヤマネコ』と言えばわかるだろう。大陸をまたぐ有名人だぞ?」
「だれだそれは?」
「知らんのか。ハン=ソーローの旦那はご存じだったがな。幼い妾とのおまんこにばかり夢中の武辺者は耳にしないようだな?」
セルゲイと連れ達があざ笑った。憤りながら、その人物はどこにいるのかとヨーシハルトスが尋ねると、奥方に呼ばれた、と返事があった。
「あいつが? 何のためだ?」
「『やまねこ』の姿を見たからさ。館に来るまでフードで顔を隠していたが、飲み物を出されてそいつを取ってな。その時を奥様に見られたからえらく気に入られちまったのさ」
セルゲイが笑うとヨーシハルトスは気が気でならなくなった。妾遊びのせいで正室はすねたのか。子供を4人も授けてやったのに間男と見せつけの不倫をするつもりか、と心の中で嘆いた。
ヨーシハルトスの大叔父の孫であり彼の7歳年下の正妻は、美人ではあったが子供が生まれてから遠ざけられている。跡継ぎたるヨーシテルシウスを産んでからは用済みになったと、ヨーシハルトスでも考えていた。
「……ヨハンナが、こどもみたいな男と寝ようとしているのか」
「おいおい。『やまねこ』は女だぜ。ハーフリングのな。間違ってもそんな事にはならないだろうさ」
セルゲイはそう言って大公を安心させた。しかしだねえ、と心の中で苦笑いを。この男は沢山の妾とやりまくっているのに、正妻の不倫を恐れているんだろうな?
□ □ □ □ □
「あら、今度の着物もかわいい!」
ナガオカッツェ夫人は目の前で着替えたばかりの金髪の少女を見て、手を合わせて喜んでいた。侍女や彼女の2人の娘達も頬を緩ませて眺め見ている。
下の姉2人に抱き着かれていた、4歳になったばかりのヨーシテルシウスは一心不乱になって見つめている。むねのあたりがどきどきする。小さな男の子はそれを恋心だとは思ってもみなかった。
夫人を含め、かわいいかわいい、とほめそやされた少女は、照れくさそうにしてちょっとだけはにかみながら下をうつむいてしまった。
10才になるかならないかの少女の顔立ち。少々手と足が大きいが、可憐な美少女であることは間違いなかった。
雪の様に真っ白な肌に、頬にほんのりと赤みをさしている。唇はふっくらとしてばら色。金色の長い髪に隠れている耳が尖っているのをカントニア人が見れば、貴族の愛玩用の童女エルフだと思う事だろう。
「私が子供の頃に着ていた服がこんなにも似合うだなんて! 昔着ていたよそ行きの服はまだまだあるのよ! 上の子が着ていたものも大事にしまってあるわ!」
彼女が16の時に産んだ一番上の娘は嫁入りしていた。南西のイーモリハウゼン大公の後妻。15歳離れた夫との間に2人の子を得ていた。まだ若く、美人でもある彼女も祖母と呼ばれる立場であった。
「お、おくがたさま……」
金髪の美少女が申し訳なさそうに告げる。そろそろ戻らないと大公さまとのお顔あわせに遅れてしまいます。夫人は途端に嫌そうな顔で、ふん、と鼻息を鳴らして愚痴った。
「どうせ悪だくみの相談か何かでしょう? 王様の意向を背くようなことを考えているんでしょうね、あの人は」
ヨハンナは忌々しそうにぼやいた。彼女は反乱軍を滅ぼそうとする夫の意向を嫌っていた。実は彼女は国王と反乱軍の頭目に何度も文を送っていた。
自分が和議の席と場所を設ける。反乱軍の罪は問わない。国王のお認めの下で和を講じる。その後のだまし討ちも一切しない。
頭お花畑な提案だったが、大公の逆らったやつは皆殺しという腹よりかはだいぶまともだと言えなくもない。
ヨハンナはこの娘がきっと、近衛騎士団から何か密命を持たされているのではないのかと考えた。
瞳がとても透き通っていて邪心など無いように思えたから、抱き上げてこう呼びかけた。
「マリベーラちゃんはそんなことに手をよごしちゃだめよ?」
美少女の名前はマリベーラ。偽名ではなく本名だと本人からも聞いているからその名で呼びかけた。
「こんなにかわいいんだから、お仕事はお連れさんたちに任せればいいじゃない?」
「おくがたさま。で、でもわたし……」
「いいじゃない。それよりもこんなのはどう? この館で暮らさない?」
この反乱と国王のお咎めとで領地の半分近くを奪われ、財政が今後貧しくなるだろうがつましく暮せばなんとかなる、とヨハンナは言った。ドレスは多く持っているが、それ以外はつましい暮らしをしている。
マリベーラは悩む。難しい顔をして顔をのぞき込んで来る奥方を見ると、ますます顔を見てもっと頬を赤く染めてしまう。
「そ、それはやまやまですけど、おくがたさま……もうすこし考えさせていただけませんか?」
ジュンケイン4世の実弟で後の世の歴史家達に『愚物』と評された男だ。
美男で巨根で絶倫であったが、女と馬上槍試合にうつつを抜かし、武勲どころか優れた統治や文化的な業績や遺産も為さなかった。
常日頃、戦場こそが男の華だとほざくが、武勇に秀でているわけでもない。なおかつ人徳や統率力にも優れていない彼は、大規模な反乱になす術がなかった。
居城で王都からの救援をただただ待つのみ。滋養酒をちびりとやりながら、寝所で妾達の尻をぱんぱんぱん、と打ち付けるだけの行いを朝から晩まで続けるだけだ。来年には6人の赤子を腕に抱く事となる。
そして今もたくさんいる妾達のうち1人を慰みものにし、己の無能と怠惰を忘れる時を過ごしていた。周囲には『大公としての責務』という言葉で取り繕う、きんたまのイライラを解消する為だけの行いをだ。
「ひっ……あっ!」
ベッドの上で四つん這いになった少女がうめく。大公の一番若い妾だ。まだ13歳である、まるで子供みたいな体格の彼女の小さな尻にヨーシハルトスはしがみつき、激しく腰を振る。
娘は小柄だったが乳房は育っていた。村一番の美少女だけでなく、乳房の大きさも少女の中で一番だった。自慢でもあるそれが腰を叩きつけられ、身体が揺れるたびに重たく舞った。
「いあっ、あああっ!」
この妾は彼の妾の中で一番美しくもあった。去年の冬に、とある村から年貢代わりに献上された。彼が子宮に庶子を宿す女達の多くは、こうした『税金代わり』が多くいた。
肉砲が膣肉を穿ち、妾の奥肉に心地よい刺激を与え続ける。妾はのけぞって絶頂の涙をこぼした。膣洞のしゅん動が彼のペニスに異変を及ぼした。
「うおっ。おおおっ!」
彼は雄たけびをあげる。ペニスが限界に達し放精を施したのだ。尿道は激しく脈打ち、膣の中に精液が注ぎ込まれる。子宮は喜びに包まれながら、生育への欲をもたげていた。
この妾はこの時の交合で10か月後に初めての子を産む。それから初産で生命力を使い果たし、若くして死ぬ運命にあった。死してのち、『無能大公の美少女側女』という物語で語られる女となった。
「……ふう。一休みしよう」
「お、おとのさま……」
もっと欲しいです。妾がねだった。彼女はもうこの男の名物に身体が馴染んでしまっていた。しかしヨーシハルトスは用事があるからと言って妾を引きはがし、寝所を出て行った。
かいた汗を沐浴場で洗い流すと、召使と共に執務室へと入る。そこにはナントブルグからやって来た一団が待っていた。
総勢4名。誰もが金髪で10歳になるかならないかの顔立ちと背格好だ。皆、わりと顔立ちは整っている。特筆すべきなのは両手両足が少しばかり大きいのと、耳が尖っているということぐらいか。
「待たせたな。ハン=ソーローの遣いの者らよ……しかしだな」
あの男はエルフの子供を密使に使うようになったのか、とヨーシハルトスが口にする。一団の中の1人、黒いマントを肩にかけたままの少年が鼻で笑った。
「ホーデンエーネンのやつらは知らんのか? 俺たちは子供エルフじゃないぞ。おふくろは確かにミナッカミニアの金色エルフだが……」
何を言っているのだ、という顔をするヨーシハルトスに、傍にいた召使いが「ハーフリングですよ」とこっそり告げる。王子時代の講義の時間に女の裸のことばかり考えていたヨーシハルトスも、その名前は存じていた。
「ハーフリング……ああ。エルフとドワーフの混血児か!」
ハーフリング。異世界からの転生者のごく一部が『ホビット』と呼ぶ彼等は、人種ではなく混血による変異で誕生した存在だ。
サキュバス顔負けのどすけべな女エルフと、常日頃からちんぽがいらいらしっぱなしでいくら射精してもし足りないドワーフ男がぐっちょんぐっちょんとやりまくって生まれる存在。父と母の種族を逆にしても生産可能だが、エルフ男は淡泊なのでごくまれにしか無かった。
常日頃どんなにやりまくってもなかなか孕まない亜人同士の交合によるものだから、生まれる確率は極めて低い。しかし風の精霊の末裔であるエルフと、土の精霊の子孫たるドワーフのあいのこは恐るべき魔力と膂力を小さな身体に秘めていた。
亜人と呼ぶ人種の中で、一番最強といっても差し支えない。2つの精霊の加護を得ているから、1万年近く生きるエルフの数倍の寿命を約束されている。
死ぬまで子供みたいな顔かたちで生きる。思春期以降のニンゲンみたいななりになる者はいなかった。生まれた時から優れた力を持つ彼等に、身体の増築など必要なかった。ちんちんはドワーフ並みにでっかく育つのだが。
「ハーフリング……その優れた素質にあぐらをかき、努力をせず苦労を避け、結局はつまらん小銭稼ぎをして暮らしている連中だと、私は聞いたことがある……」
ヨーシハルトスがつぶやいた。彼が言っていることはほぼ当たっていた。ハーフリングは才能がありすぎるがゆえに、さぼり癖がひどく天下を狙えても途中で投げ出す怠け者ばかりなのだ。
「んあ? なんか言ったかナガオカッツェ公?」
黒マントのハーフリングがにらみつけた。可愛らしい男の子という身なりであるから迫力は全然無い。ヨーシハルトスは侮辱してやろうと口を開いたが、召使いに止められた。
「殿下、腐っても亜人ですぞ。彼等が本気になったら命はございません」
「ああ。そうだったな……で、室内で外套を羽織るお前はなんという名だ?」
「セルゲイだ。氏族はヌマタラシュク。ワレンコフという家名があるが、エルフはんなことこだわらん。セルゲイだけでいい」
セルゲイはおよそ3日、ナントブルグのソーロー公の館からここまで駆け抜けてきたと語った。ナガオカッツェ領に入ってから道が悪くなったな。宿屋もバカ高くて村人が追いはぎとなって襲い掛かって来る。
「泊めてくれた村の者は飯に毒を入れるなどというつまらんことをしてくれた事もあったな。なんなんだここは?」
「それがナガオカッツェ流の旅人の挨拶だ……家臣から聞いただけだがな。貴殿ら、最短で行けるからと山の街道を通ったのではないのか?」
大公に問われてセルゲイ達はうなずいた。地図を見て測ったのと山道に慣れているから決めた。大公の召使いが苦笑しながら言った。あの街道の村人は山賊と兼業なのですよ。この大陸の商人らはあそこを通り抜けませんよ、と。
「信じがたい。カントニアやシマナミスタンでもそこまでひどい民はいなかった。ナガオカッツェは悪鬼どもの土地か?」
「誹謗はそこまでにしていただきたい」
ヨーシハルトスは憮然とした。追いはぎの真似をする領民は他の領主の土地にもいる。しかし旅人を殺して金品を奪い、よその土地から娘を奪って村の男達の慰みものにするまでの所業は他の土地ではなかなか行われぬことを知らなかった。
「この乱を鎮めた後は儂自らが軍を率い、不埒な山賊どもを一人残らず滅ぼしてくれよう。では、この手紙を読もうではないか」
ヨーシハルトスは受け取った手紙を開いた。できの悪い詩文のようなそれは、ハン=ソーローの暗号文書だとわかった。書斎の引き出しから解読用の紙を出して読み進める。
10行ほど目を通すと顔を真っ赤にした。兄上はどこまでも甘いお方だ、と吐き捨てると、ハーフリング達をちらと見てこう言った。
「反乱の首謀者達を不問とするらしい! 先に聖騎士団を急行させて和平交渉に持ち込むらしいな! いまいましい!」
ナガオカッツェ公軍は反乱軍を攻めあぐねている。むしろ劣勢。次々と砦や城市を落とされ、向こうの支配下となっていた。責められた側がむしろ喜んで開城した向きもちらほらとあった。
それほどまでに彼の支持は領民たちの間には無かったのである。忸怩たる思いでハン=ソーローの暗号解読文と照らしあわせながらしまいまで読み進めると、彼はセルゲイ達に尋ねた。
「……凄腕の魔道士と刺客をソーローは寄越したと書いてあるが、その者らはどこにおる?」
「俺達を見くびるな。魔道の心得は十分にある」
「そのほうらがか。では刺客は?」
それも兼ねているのかとヨーシハルトスが尋ねると、その分までの契約金は貰っていないと彼等は笑った。あくまで魔道士としての役目を追うのが自分達だ。首謀者らを暗殺する刺客は別にいる。
「ミナッカミニアの『ヤマネコ』と言えばわかるだろう。大陸をまたぐ有名人だぞ?」
「だれだそれは?」
「知らんのか。ハン=ソーローの旦那はご存じだったがな。幼い妾とのおまんこにばかり夢中の武辺者は耳にしないようだな?」
セルゲイと連れ達があざ笑った。憤りながら、その人物はどこにいるのかとヨーシハルトスが尋ねると、奥方に呼ばれた、と返事があった。
「あいつが? 何のためだ?」
「『やまねこ』の姿を見たからさ。館に来るまでフードで顔を隠していたが、飲み物を出されてそいつを取ってな。その時を奥様に見られたからえらく気に入られちまったのさ」
セルゲイが笑うとヨーシハルトスは気が気でならなくなった。妾遊びのせいで正室はすねたのか。子供を4人も授けてやったのに間男と見せつけの不倫をするつもりか、と心の中で嘆いた。
ヨーシハルトスの大叔父の孫であり彼の7歳年下の正妻は、美人ではあったが子供が生まれてから遠ざけられている。跡継ぎたるヨーシテルシウスを産んでからは用済みになったと、ヨーシハルトスでも考えていた。
「……ヨハンナが、こどもみたいな男と寝ようとしているのか」
「おいおい。『やまねこ』は女だぜ。ハーフリングのな。間違ってもそんな事にはならないだろうさ」
セルゲイはそう言って大公を安心させた。しかしだねえ、と心の中で苦笑いを。この男は沢山の妾とやりまくっているのに、正妻の不倫を恐れているんだろうな?
□ □ □ □ □
「あら、今度の着物もかわいい!」
ナガオカッツェ夫人は目の前で着替えたばかりの金髪の少女を見て、手を合わせて喜んでいた。侍女や彼女の2人の娘達も頬を緩ませて眺め見ている。
下の姉2人に抱き着かれていた、4歳になったばかりのヨーシテルシウスは一心不乱になって見つめている。むねのあたりがどきどきする。小さな男の子はそれを恋心だとは思ってもみなかった。
夫人を含め、かわいいかわいい、とほめそやされた少女は、照れくさそうにしてちょっとだけはにかみながら下をうつむいてしまった。
10才になるかならないかの少女の顔立ち。少々手と足が大きいが、可憐な美少女であることは間違いなかった。
雪の様に真っ白な肌に、頬にほんのりと赤みをさしている。唇はふっくらとしてばら色。金色の長い髪に隠れている耳が尖っているのをカントニア人が見れば、貴族の愛玩用の童女エルフだと思う事だろう。
「私が子供の頃に着ていた服がこんなにも似合うだなんて! 昔着ていたよそ行きの服はまだまだあるのよ! 上の子が着ていたものも大事にしまってあるわ!」
彼女が16の時に産んだ一番上の娘は嫁入りしていた。南西のイーモリハウゼン大公の後妻。15歳離れた夫との間に2人の子を得ていた。まだ若く、美人でもある彼女も祖母と呼ばれる立場であった。
「お、おくがたさま……」
金髪の美少女が申し訳なさそうに告げる。そろそろ戻らないと大公さまとのお顔あわせに遅れてしまいます。夫人は途端に嫌そうな顔で、ふん、と鼻息を鳴らして愚痴った。
「どうせ悪だくみの相談か何かでしょう? 王様の意向を背くようなことを考えているんでしょうね、あの人は」
ヨハンナは忌々しそうにぼやいた。彼女は反乱軍を滅ぼそうとする夫の意向を嫌っていた。実は彼女は国王と反乱軍の頭目に何度も文を送っていた。
自分が和議の席と場所を設ける。反乱軍の罪は問わない。国王のお認めの下で和を講じる。その後のだまし討ちも一切しない。
頭お花畑な提案だったが、大公の逆らったやつは皆殺しという腹よりかはだいぶまともだと言えなくもない。
ヨハンナはこの娘がきっと、近衛騎士団から何か密命を持たされているのではないのかと考えた。
瞳がとても透き通っていて邪心など無いように思えたから、抱き上げてこう呼びかけた。
「マリベーラちゃんはそんなことに手をよごしちゃだめよ?」
美少女の名前はマリベーラ。偽名ではなく本名だと本人からも聞いているからその名で呼びかけた。
「こんなにかわいいんだから、お仕事はお連れさんたちに任せればいいじゃない?」
「おくがたさま。で、でもわたし……」
「いいじゃない。それよりもこんなのはどう? この館で暮らさない?」
この反乱と国王のお咎めとで領地の半分近くを奪われ、財政が今後貧しくなるだろうがつましく暮せばなんとかなる、とヨハンナは言った。ドレスは多く持っているが、それ以外はつましい暮らしをしている。
マリベーラは悩む。難しい顔をして顔をのぞき込んで来る奥方を見ると、ますます顔を見てもっと頬を赤く染めてしまう。
「そ、それはやまやまですけど、おくがたさま……もうすこし考えさせていただけませんか?」
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