聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第一部 少年騎士と幼き侍女(幼年編から少年編の間のお話)

03 遠征行②

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 イズヴァルトが稽古仲間の慌ただしい性処理をのぞき見ていた時と同じ頃、マイヤはとある貴族の邸宅を訪れていた。ナントブルグの南方にそこそこ広い領地を持つ貴族・スカルファッカー家の別宅である。

 そこにあるじとして椅子に座るのは、若干14歳の御曹司であるケノービ=スカルファッカー。

 金髪で碧眼。背が高くやせていて、険のある顔立ちをしていたから人を遠ざけるきらいがあった。いや、性格もあまりよろしくないとは聞いている。

 とりわけ、4歳離れた弟に意地悪ばかりをして冷たく接しているらしいと屋敷の小間使いから聞いた。アナキンという名前のケノービの実弟は、才能も人格も兄を軽く凌駕するという評判だった。

 マイヤが招かれたのはイズヴァルトの事でだった。トンダバヤシでの戦いを語って欲しいという。来年、ケノービは近衛騎士団に入団する。ナントブルグ周辺の貴族の子息は騎士団にも入る決まりがあった。

 しかもそこそこ位の高いお家の特権により、かなりの良い地位につくという。小間使いはこうも言っていた。ケノービぼっちゃまは騎士よりも行政官向きですよ。

(そりゃそうよね。武官向きの人だったらイズヴァルトの話を聞くんじゃなくて、剣や弓の稽古をつけてもらったりするはずだもの。)

 しかしこのケノービはどこからどう見ても騎士向きでない体格だ。将来が楽しみだと皆から言われている弟も文官向きらしい。

 会合の席で、脚を右に組み偉そうにふんぞり返りながら知恵者然と座っていたケノービは、幼い頃から兵学や自然学を学んでいる。優れた指揮官の素質があるのだからイズヴァルトみたいな武者を側近に取り立てればホーデンエーネン最強の部隊を作れる、などとほざいた。

「私は転生人が著した『くらうぜびぃっつ』や『そんし』を暗唱するほど読み込んだし、この大陸の地理書で沢山のことを学んだ。それから叔父上と共に方々を旅して、その土地の気候も肌で学んでいるんだ」

 なるほど、とマイヤはケノービが暗記しているという『そんし』の一節を尋ねてみた。兵が奮起するように死地に追いやる方法もある、などとケノービはすらすらと唱えた。

「ではその節の死地は、どういう局面をいうものでしょうか?」
「多くの犠牲を払っても絶対に負けられぬ戦いというもの。王や将軍がそう見ている決戦こそがそれだ」
「その戦いはいかなる戦いでなぜ多くの犠牲を払う必要があるのでしょうか」
「王や将軍がそうと定めたからだ。国の威信と誇りにかけて、決して負けられぬ戦がまさにそれである」

 それ以外は考えられないだろう。ケノービが言い放つとマイヤはイズヴァルトに軍学を教えていた聖騎士団のライナー副団長の言ったことを思い出して語った。国の威信と誇りにかけてのところの補足である。

「死地と呼ばれる合戦は王都や主な城市、行軍や物資の輸送における重要拠点を守る戦いで相手側に比べて劣勢になった時に生じるものだと。籠城戦にあたっては敵と味方の戦力差が隔絶してかつ、開城や和議に持ち込めぬ事情であった場合に……」
「もういい。わかった。7歳の子供に知った口を叩かれるのは不愉快だ。お前、可愛げがないぞ」
 
 賢いというよりこざかしいな、と吐き捨ててケノービはマイヤを睨んだ。マイヤもこの人物はどうにも好きになれないと思った。やっぱり家柄だけだわ、この人。

「しかしイズヴァルトも気持ちが悪い。こんな娘を召使いにするとは、趣味が悪過ぎる。マイヤ=カモセンブルグ、お前は確か孤児だか貧しい村の出身だったな?」

 ごみを見るような目でケノービはマイヤに向ける。女は愚かで無邪気なほうが愛されやすいぞ、としょうもない忠告をする。マイヤはこの男にはイズヴァルトを引き合わせられないと考えて椅子から降りた。

「それでは、この話は無かった事に致しましょう。我が主イズヴァルトからは家来が侮辱されたら貴族であろうと富豪であろうと、気にせずすぐに戻ってきていいと言伝られておりますゆえ」
「……国王陛下の寵愛を受けているからその態度か? いまいましい」
「では、私はこれにて……」
「待て。お前はまだここでやっておく事があるだろう?」

 ケノービはにんまりとしながら扉の前に控える護衛に目を向ける。その男は呆れていたのか鼻息を鳴らして出入口を阻んだ。

「なんでしょう? 私はあるじの元に戻るつもりです。扉を開けていただけないのですか?」
「他の貴族から聞いているぞ。お前はイズヴァルトと仲良くしてもらうのと小銭稼ぎの為に、あることもついでにしてくれるそうだな?」

 ケノービは膝までの長さの半ズボンの前のボタンを開け、それを引っ張り出した。なまっちろいペニスだ。特徴といえば彼の様に細くて亀頭が小さい。切って間もないと思われる手術痕も。極度の真性包茎だったのだろう。

「これをしゃぶれ。『おしゃぶり姫』だとかいう変なあだ名で呼ばれているんだよな、マイヤ=カモセンブルグ?」

 この頃から、マイヤは自分の夢を叶える為に、イズヴァルト公認のもと貴族や富豪相手に『アルバイト』を始めていた。速い話が自慢のフェラチオによる小銭稼ぎである。


□ □ □ □ □


 いやに生臭いにおいを放つペニスだった。雁の周囲に恥垢が溜まっており、洗っていないのかと尋ねれば「そこまで洗う必要は無いだろう」とすげなく返された。

 1度抜いてくれるまでは絶対にこの部屋から出さない。そう言われてマイヤは仕方なく手に取って口に入れた。むせかえると形容するには不潔なそれを丹念にしゃぶりたてて精を口に含んだ。

(まずい。くっそまずい。なんだかとても渋みがきつくておなかを下しそうな嫌な刺激がある。)

 これまで飲み込んだ中で最低の味、と形容されるそれでもごくりと飲み込み、彼女は満足そうにするケノービの顔を見上げた。
 
「ご苦労。お前、よく見ると可愛いな?」
「お褒めいただき光栄です」
「しかし知識のひけらかしはやはり可愛くない。イズヴァルトもいずれ、どういう女が良いものかわかるだろう」

 思わずふくれっ面になるマイヤ。ケノービは財布から銀貨1枚を投げて寄越した。貴族から得られるものとしてはやけに少なかった。最低でも銀貨5枚はくれるものだが。

「スカルファッカーさま……」
「これ以上は出せない。僕はお前の股座の穴を貫いたわけじゃないからな。そっちなら銀貨3枚ぐらい出してやるが、お前みたいな小童を抱く趣味は持ち合わせてなんかいないよ」

 さあ、とっとと去れとケノービは促した。マイヤは嫌な気分で扉の前にいた護衛と共に部屋を出た。男は大変申し訳なさそうな顔でマイヤに謝った。

「うちの坊ちゃんが無礼なことを、申し訳ございません」
「いえ。あなたが謝る事は無いと思います。でもケノービ様は、どうしてあんな感じなのですか?」
「……アナキン坊ちゃまが地元で評判になってから、ずっとああなのですよ。いや、元からでしたけど」

 違う部屋で口直しの茶と菓子を馳走されながらマイヤは聞いた。スカルファッカー家の次男、アナキンはそれはそれは出来た子供であった。

「シマナミスタンの黒髪エルフの血をひく幼馴染の村娘と、すけべえなことばかりやってとうとうおめかけにしてしまったんですがね、それはそれはお優しい方で頭も良いんですよ」

 領民にも優しい。勉学もできる。正直、スカルファッカーの当主は気位だけが高い長男よりもこの次男のほうを後継者にしたがっていた。

 内縁の妻にした1歳年上の幼馴染の娘もなかなかにしっかりした娘さんで、将来はアナキンの正式な妻としてスカルファッカー公は承認する意向なのだとか。

 対してケノービはぱっとしない。蔵書は確かにあるが読んでいるかがうたがわしい。読んでも理解できているのかできていないのかもあやふや。剣や弓の腕は鍛錬はしているが、別に光ったところは見受けられない。

 12歳の時に都に住むようになったが、寂しさを紛らわせる為に始めた娼婦遊びにはまってしまった。週に3度も通う。それどころか貴族の子息がよくやるように、平民の少女2人を愛人にしていた。

「顔は存じておりますが……同い年ぐらいで美人ですが、どうもおつむのほうが物足らない。あれならスカルファッカー領の村娘達のほうがマシ、と言いたいぐらいでしたなあ」

 ちなみにだがその愛人2人は数か月後に出産だ。しかしケノービは今年の冬には祝言をあげる予定だ。5歳年上で貴族界屈指のブスで、人格的にも下から数えるべきぐらいの不良品、と言われているそうな。

「つまりは……政略結婚ですね?」
「みたいなものですよ。ソーロー家のご令嬢ですからね。同じ一族を祖に持つスカルファッカー家とソーロー家ともう一つ、オルガスムナ家は代々、姫を嫁入りさせているのです」

 スカルファッカー家当代のクワイガジンの妻はオルガスムナ家。当主の妹はソーロー家の妻である。ソーロー家の当代の姉がオルガスムナ家の正室。

 三家が互いに強く結びつく結婚はかれこれ、500年近く続いている。遺伝病などが起きない様にと当主に嫁がせる姫は、彼等が妾にした家来や小さな領主の娘の腹から出させた。

 この御三家は南ホーデンエーネンでは大封を得ていた。江戸大名で言えば30万石相当の。王国のナントブルグへの『遷都』の頃からの貴族である。

「この御三家を通称、カツランダルク党と王家や他の殿様がたは呼ぶのらしいですが……」
「カツランダルク党? どういった出自なのでしょう?」
「すみません。存じておりません。街の本屋や図書館にある歴史書にも、それらしい事を記しているものは見当たりません。ただ、もともとはこのナントブルグに居を構えていた豪族の分家の様ですな」

 それ以上をマイヤは聞き出す事は出来なかった。門前の詰所で待っていた供の者と共に家へと向かう。この同行者は国王がマイヤとイズヴァルトにつけてくれた護衛だ。彼等は常に好待遇であった。


□ □ □ □ □


 イズヴァルトに召集令状が届いたのは、マイヤがスカルファッカー家の御曹司におしゃぶりを施してから3日後の事だった。

 ホーデンエーネン南部中央のヨーシデン地方とその北のナガオカッツェ地方の境目で起きていた反乱の勢いが強くなったからである。

 両地方とも国王の弟、ヨーシハルトスが領土としていた。ヨーシデンは土地だけは肥えたただの田舎だが、ナガオカッツェは山がちで土質が貧しい。

 ナガオカッツェは数百年後は酪農で栄える未来が待っているのだが、この当時は領主の政治のまずさでもって、国内屈指の貧困地帯となっていた。

 その責はヨーシハルトスにあった。彼は国王への忠誠心のあまりに、この前の魔竜退治に必要以上の労力とお金をかけすぎ、住民達に多大な負担をかけてしまったからだ。

 凄惨な同士討ちが行われたトンダバヤシ退き口の戦いで、兵士と従者に一番の被害を受けたのはヨーシハルトスの軍団だった。彼等は反乱側にあった。およそ3分の2が国王の騎士団に討ち取られたという。

 反乱側の生き残りの多くが、アカサカチハヤの方角へ逃げて行った。それを国王は彼等はもともと魔竜にそそのかされて謀反を起こした、とみなし、これ以上は不問に付すとした。

 なのにヨーシハルトスは反乱に加わった者の家族を取り調べ、中には反逆に加担させたと罪をなすりつけて投獄や処刑をしてしまった。彼の裁可により500人以上の者が処刑された。それが反乱の火をつけたのだ。

 その様な振舞いを王都の貴族や騎士の中には、忠誠心の現れであると好意的に見る者が多くいた。しかし国王は弟の行き過ぎたおこないに嘆いた。もっと早くに気づけばよかったと。

 ヨーシハルトスは忠義心や兄弟愛でもって過剰なまでの徴発や弾圧を為したので無かった。彼は国王に大きな負い目があった。

 若い頃に兄の妻や妾を寝取り、不義の子を産ませた事が多々あったからだ。その代表格が国王の最初の妻であり、15歳で王国にやって来たゲルダ=サンジオネである。エチウ諸島でまだその頃にあったエチゴニア公国から嫁いだ姫。

 おっぱいが大層に大きくて美人でもあったが、どちらかというと悪人顔で国王の好みでは無かった。幼い頃から巨根と苛烈な腰遣いが得意な亜人との性交に明け暮れ、あそこの締りがガバガバだったのもある。国王のは精巣こそ大きいが、竿はそんなでもなかった。

 好色ゆえの婚前性交は、ジュンケイン王は全く気にしていなかった。世界中の王族や貴族の娘というのは、大抵結婚前に小姓やナニ自慢の小姓とやってしまうものだったからである。中には出産する姫もいた。生まれた子は『弟妹』とされる。

 むしろ子供を産んでいる実績がある姫のほうが好まれた。跡継ぎを宿しやすいという事で喜んで迎え入れられた。ただゲルダは幼い頃から巨根に貫かれて緩やかだったけれど、出産の経験は無かった。

 その嫁いだばかりのゲルダに、ヨーシハルトスは懸想した。15の歳なのに搾乳できそうなぼいんぼいんのおっぱいが実っていた。しかも美貌。その虜となり、ちんちんをおっきさせ、彼女の風呂やオナニーをこっそりのぞいた。

 最初は彼女にうざがられたが、とうとうゲルダを自分のものにしてしまう。夫である国王よりも王様然とした股間のものに気が付いたからだ。

 貴族や王族の女性の結婚前の乱交は黙認されていたが、結婚後はそれなりに貞淑を求められる。その頃ゲルダは夫が結婚前から囲っている妾に愛情を独占され、とてもさみしい思いをしていた。

 ゆえに2人はつながりあった。身体の相性は抜群だった。妻の不倫を知った王が弟に譲り渡そうかと考えたぐらいに。でも諸々の事情があって離縁はできなかった。とうとうゲルダは孕んでしまった。病とその死よって中絶となったが。

 ただ、ヨーシハルトスが兄から寝取ったのはゲルダだけでは無かった。愛妾に死なれた後に囲った妾や正妻とした妃ともである。国王が彼好みのおっぱいがでっかくて尻から脚がむっちりとした安産型体型の美女ばかりを選んだのが良くなかった。

 政治や軍事に関しては超えられない壁があるかのごとく、ジュンケインの方が上である。しかしヨーシハルトスは貴族としての才能が乏しい割に、女性を性的に篭絡する術には長けていた。

 娘ばかりの国王の子供のうち、上の4人ほどは実の父親がヨーシハルトスである。ジュンケインはイーガの医療魔導士に頼んで遺伝子検査をこっそりとやっていたので存じていた。

「自分の子じゃないけど弟の子だから、自分の娘として育てよう」

 王がなかなか子宝に恵まれないから王家の親族衆が頑張って子孫を増やす、そういうことは往々にあった。ジュンケインもそうなることは許容していた。

 しかしこの頃からジュンケインの胤による子も生まれ始めていたから、ヨーシハルトスを不問に付す事は出来なかった。王は信頼できる近臣とともに弟に上4人の娘のことを話してびびらせた。

 王城にいて国王の補佐役だったヨーシハルトスは、自分の領地に帰って行った。王都で兵の訓練以外は碌な仕事をしていなかった彼は、領主としても失格と評される残念な人物だった。

 そうした負い目もあるため、国王の非常の招集にもいち早く駆けつけ、領民から搾り取った税金で他よりも多い騎士や兵士を抱えた。ただ、好色さは相変わらず。領民や娼婦の館からお気に入りの美人を取り上げて妾にした。

 おまけに子宝にも恵まれている。館には10人もの妻妾と20人近くの我が子が住んでいた。正妻以外の女ども派手好きで浪費家。館には沢山の美術品や高いドレスが積まれているという。

 『忠義心』はさることながら彼の国元での生活もまた、軍費に負けず劣らずの蕩尽ぶり。彼を知る王や近臣らはこの反乱を実に苦々しい思いで見ていた。でもそのままにすることは王家としては出来なかった。
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