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周は優柔不断

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 十一月の夜ともなると、さすがに冷える。
 シャワーだけで済ませるのは良くない気がした。
 周は浴槽に湯を溜めつつ、シャワーヘッドをつかむ。
 温度の設定はしてあるので、下がっているレバーを引き上げて湯を出した。
 手に当て、水が湯に変わるのを確認する。

「湯が溜まるまで、これでかけとけ」

 シャワーヘッドを隆志に差し出した。
 受け取ったそれを隆志が周のほうへと向けてくる。

「いや、お前がかけとけっつー意味だよ」
「でも、それじゃがんちゃんが寒いだろ?」

 隆志の態度が元に戻ったようなので、少し安心した。
 無条件で懐いてくる隆志がいいと思う。
 不機嫌に黙りこくったり、硬い口調で話す隆志は隆志らしくない。

「んじゃ、交互にかけろ」

 言われるまま、隆志は交互に湯をかけ始めた。
 湯がお互いの体に水滴を作っては流れ落ちていく。

 隆志とは、男同士という以上に幼馴染みでもあり、しごきあう仲だ。
 当然のことながら裸なんて見慣れている。
 そういう意味で、恥ずかしさはまったくない。

 ただちょっぴり悔しくなるだけだ。
 服を脱ぐとよけいに自分の体が貧相に見える。
 同じように部活で体を鍛えているはずなのに隆志のほうががっしりしていた。
 身長差があるのだからしかたがないのだけれど、面白くはない。
 本当は「兄貴分」として、自分のほうがすべてにおいて上でありたかったのだ。

「がんちゃんの体っていいよな」
「は?」

 お互いにお互いの裸をじろじろと見ていたのに気づく。
 隆志が湯をかけつつ、周の体を眺め回していた。
 自分もそんなふうに隆志の体を見ていたのかもしれない。
 けれど、なんとなく気恥ずかしくなる。
 それでも恥ずかしがるのは違う気がして、周は平気なフリを装った。

「バランスいいって言うかさ。なんかオレって、ごつくてヤだな」

 隆志には隆志なりに思うところがあるらしい。
 本気で羨ましがっているような口調に、少し驚いている。
 かといって「いやいやお前のほうが」と褒め合うのもどうかと思った。
 だから、隆志の言葉は軽くスルーする。

「湯溜まったけど、先に体、洗っとくか」

 周は隆志の視線から逃げるように、体を返して浴槽側の湯を止めた。
 そして、振り向いてどきりとする。
 隆志の瞳に明らかな欲望が見えたからだ。
 まさかという予感を、隆志がすぐに肯定してきた。

「がんちゃん……オレ、したい」

 小学生以来、一緒に風呂に入るのは初めてだったし、こんなところでしたことはない。
 周の部屋ですると決めていたわけではないけれど、自然とそうなっている。
 階下には親がいるからだ。

 しごき合うようになった当初、隆志の声が大きくなるのが気になった。
 それで、一度、階下に降りて確認したことがある。
 隆志に適当に大声を出させ、どのくらい聞こえるのかわざわざ確認したのだ。
 携帯電話まで使って確認するだなんて馬鹿みたいだと思ったのはともかく。

 結果、二階の声はあまり聞こえないことが確認できた。
 だからこそ、安心してできる。
 周はちらりと浴室のドアに視線を投げた。
 ここでは安心してできそうもない。

「お前な……あっちに親いんだぞ」
「おばちゃんテレビ見てたし、離れてるし、シャワー出してるし……大丈夫じゃん」

 駄目だと言おうとしたのに拒否の言葉が出てこなかった。
 隆志の声に不穏なものを感じたからかもしれない。
 また不機嫌な隆志になったらとの思いが、周を折れさせていた。
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