実はお互いさまでした。

黒井かのえ

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周の焦り

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　週明け、いつものごとく隆志が部屋に来ている。
　けれど、なんだかいつもと違う気がした。
　口数も少なく、部屋で二人になっているのに「しよう」と言ってこない。

　いつもは、夕食を周の家で済ませ、部屋に上がるなりしたがる。
　笑ってしまうぐらい隆志は素直にせがんでくるのだ。
　それが今日はない。
　話しかけてもパッとしない反応しか返ってこなかった。

　あぐらをかいて床に座り、両手を体の前で組んでいる。
　視線はさっきからずっと指先に向けられていた。
　今まで一度もこんなことはなかったので、なにか気になる。

　悩みがあっても、隆志はなんでも周に打ち明けてきたのだ。
　一人で抱え込んだりはしなかった。
　もし悩みがあったとして、自分には言えないようなことなのだろうか。
　思うと、ひどくに気になってくる。

　お互いに黙っていてもしかたがない。
　周は問いただすつもりで口を開きかけた。
　が、それよりも先に隆志が口を開く。

「がんちゃん、一緒に風呂入ろ」
「はあ？　いい歳ぶっこいて、ヤだよ」

　悩みでもあるのかと思っていたところにきた言葉がこれだ。
　心配したのが間違いだったのかもしれないと思える。
　とはいえ、落ち着かない空気を感じたのも確かだった。
　しかも、隆志はまだこっちを見ようとしない。
　どうにも判然としない状況に、周は眉をひそめる。

「いいじゃん。前は一緒に入ってただろ」
「いつの話だ、それ。小学生の時のこと持ちだしてくんな」

　むうっと隆志が口をとがらせた。
　そして、不機嫌にまた黙りこむ。
　なにが気に入らないのかわからない。

　隆志は基本的に周の言いなりだった。
　周が嫌だと言えばやめるし、周がやらないことはやらない。
　同じことをしたがり、真似ばかりする。
　周が不機嫌になると不安そうにして、泣いてすがりついてきさえした。

　隆志が相手だと口喧嘩にもならない。
　険悪な雰囲気になったことも、いまだかつてなかった。
　およそ隆志は我を張るということがない。
　いつだってすぐに謝ってくる。
　逆の立場になることなんてないまま育ってきたのだ。

　そのせいなのか、なんなのか。

　ほんの少し心配になっていた。
　単純に拒否できなくなり、言い聞かせるように言う。

「オレら高校生なんだぞ。一緒に風呂入って遊ぶような歳じゃねぇだろ」
「歳なんか関係ねーもん。遊ぼうと思ってるわけでもないし」

　顔をうつむけ、やはり隆志は不機嫌そうな口調で言う。
　いつものように甘えてくる様子もない。
　ぶっきらぼうともとれる態度を取り続けていた。
　本当にこんな隆志は初めてで、なにを考えているのか知りたくなる。

「じゃあ、なんで一緒に入りてぇんだよ」

　聞くと、隆志がわずかにうろたえたように視線を泳がせた。
　けれど、すぐに口をとがらせる。

「もういい」

　ひどくそわそわした気分になった。
　隆志が自分を突き放している。
　硬い口調にそれを感じて、胸がざわざわしてきた。

　いつも、いつだって隆志は笑っていたからだ。
　大きな犬のように、周にじゃれついてくる隆志が当たり前になっている。
　態度の変化に戸惑わずにはいられない。
　甘えてすがってこない姿に、なんだか距離を感じていた。

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