強くて弱いキミとオレ

黒井かのえ

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エピローグ

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 ふぁあああと大きなあくびをする薫の隣で、公平は数学の問題集を広げていた。
 
 いつもの教室。
 いつもの席。
 
 違うのは、薫が朝イチから学校に来ていることだ。
 今にも机に突っ伏して眠ってしまうのではないかといったふうではあるが、一時間目から薫がその席に座っているのは珍しい。
 薫が裏音羽に来てから初めてのことかもしれない。
 
「コオくん、朝、早過ぎ。じいさん並み……」
 
 言われても公平はしれっとした顔で言った。
 
「じゃ、自分のベッドで寝れや」
 
 薫はむすくれて唇をとがらせる。
 
「どうせ起きるならよ。もっとこうじわっと……なんつーか、フランスの朝~みたいなヤツでお願いしますよ」
「お前、言ってる意味不明。アホ?」
 
 まるで相手にされていない。
 公平は薫を見もせず、せかせかと数式を解いている。
 
「どうせ、俺ぁ、アホですよ」
 
 ふんっと薫がそっぽを向いた時だった。
 
「カオちゃーーーーん!!」
 
 ガラッと教室の戸が開かれる。
 梅野が飛び込んできた。
 
「あ~~うるせえのがまた来た」
 
 薫はうんざりしたように机に突っ伏して寝たフリを始める。
 
「うるせえのってなんすか! 大変なんすよ、マジでっ」
 
 薫が手をぱたぱたと横に振った。
 
「松葉のこたぁ放っとけっつってんだろ。あいつぁ、自分のことは自分で……」
 
 と、言いかけた薫の言葉を梅野が遮る。
 
「表の連中が境界線、越えてきてんすよっ?!」
「なにい!!」
 
 がったーんとイスを蹴倒して薫が立ち上がった。
 
「あンの野郎~未練がましいにもほどがあらぁ!」
 
 ぱたん。
 
 公平が問題集を閉じて立ち上がる。
 
「行くか」
 
 歩き出そうとした公平の肩を薫がつかむ。
 
「コオくんはダメ」
 
 顔をしかめる公平に薫が笑った。
 
「勝っても負けても、コオくんは俺が守るんだからよ」
 
 やれやれという顔で公平も笑った。
 
「小梅、行くぜっ!!」
 
 机を蹴散らしながら教室を飛び出して行く薫。
 梅野はちょこんと公平に頭を下げてから、、薫を追いかけて教室を出て行った。
 
「待ってくれよ、カオちゃーーーん!」
 
 公平は教室の窓から外を見る。
 境界線のところに横一列で佐安治を始め、表音羽の連中が並んでいた。
 
「ホント、諦めワル……」
 
 つぶやいたところで、薫とグループのヤツらが校庭を走ってゆくのが視界に入ったのだろう、公平が微笑む。

「勝っても負けても、俺も、お前が好きだよ、薫」

 それから、うーんと思い切り伸びをする。
 机の上の問題集を取り上げ、公平は窓から外に放り投げた。
 理性的になるための数式はもういらない。

「今夜は覚悟決めるかぁ」

 問題集の飛んで行った先には薫が、いた。
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