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竹沢の弱味
しおりを挟む「で?」
体の熱とは違い、冷たい声に竹沢はうっすらと目を開く。
表音羽の更衣室。
もうここで何度となく佐安治に抱かれた。
今まで誰かを求めたこともなく、誰かに求められたこともなかった竹沢はすっかり佐安治に溺れきっている。
佐安治の目的が若狭公平であることを知っていても、振り切ることができなかった。
言うなりに体を開いてしまう。
なぜなら。
竹沢は佐安治の質問を無視して唇を重ねた。
自分から舌を差し込むとすぐに絡め取られる。
こんなふうに、竹沢が求めれば、佐安治はそれに応えてくれるからだ。
答えを後回しにさえしてくれる。
瞳の色も声もいつでも冷たかったが、触れられると竹沢のほうが熱くなってしまう。
膝の上に座ることにも、もう慣れた。
足元の床には竹沢の服が散らばっている。
最初は脱げと言われて脱いでいたのだが、竹沢が佐安治に脱がしてほしいと頼んでからは、いつもそうしてくれるようになった。
佐安治は誰にでもこうなのだろうか。
強引に抱かれた時に抵抗し切れなかったのは、ふれてくる手や囁かれる言葉が優しかったからだ。
舌を絡ませながら、佐安治が竹沢の背中を上から下へと撫でおろしてゆく。
ぞわぞわとした感覚に竹沢の体が反応していた。
次になにをされるのか、体はすでに知っていて、期待している。
佐安治の節くれた指が自分の中に入ってきた。
実際にはまだ入ってもいないのに、竹沢の前から雫が漏れはじめる。
「先に前をやってやろうか?」
聞かれ、竹沢は首を横に振った。
「両方か?」
小さく頷く。
頬に口づけられた。
「いつから、そんなにかわいくなったんだ」
佐安治が竹沢のものを優しく手で包む。
もう片方の手は後ろに回され、竹沢の期待通り、その節くれた指を内側にもぐらせてきた。
「……んんっ」
前をこすられる感覚と後ろをかき回される感覚に竹沢は乱れる。
「あ、あ……っ!」
「気持ちいいか?」
こくこくと何度も頷いた。
自分の内側で佐安治の指をくっきりと感じる。
動きはゆっくりでもどかしいほどだ。
「急ぐと苦しいだろう」
言いながら、佐安治は手にした竹沢のものの先だけをクリクリとしごく。
「やっ……んぁ……っ……」
毎回、体を重ねる時、佐安治は竹沢の感じる場所を覚えていくようだ。
後ろもゆっくりとした動きで、けれど確実に感じる場所をなぞっている。
「あ、そこ、い、イイ……っ!」
自分がオトコに抱かれ、こんなふうに乱れてしまうなど思ってもみなかった。
恥ずかしさも消し飛ぶほどの快楽。
佐安治に抱きつき、キスを求める。
「こら。キスしてたら、お前の声が聞こえないじゃないか」
甘い言葉。
望まれるまま、声を出した。
「も、イく……っ! 出していい……っ?」
後ろも前も感じる部分を刺激され続け、勝手に腰が揺れる。
それでも佐安治の許可を求めた。
竹沢を許す時の声が聞きたい。
そのために竹沢はいつもイく直前、佐安治に尋ねるのだ。
「あ! あ! も、イってもいい? イってもい……っ?」
佐安治の手の動きが早まる。
「出していいぞ」
ああ。
声にならない言葉。
先端の敏感な部分をこすられ、割れ目に指を入れられて竹沢は体を強張らせた。
「も、イく……ッ!」
後ろに入れられた指は一本から複数に変わっていたが、もう何本入れられているのかわからない。
出し入れを繰り返しながら、内側をこすられていた。
「あッ! も、ダメ、だ……っ!…………ん、く……ッ……」
竹沢の体が大きく震えた。
はあはあと荒い息をつく。
目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
佐安治の首に両手を回してしがみつく。
「ごめん……前、汚した……」
佐安治が竹沢を抱きしめ返した。
「かまうな。あとで洗えばすむ」
どんな気持ちもないくせに、佐安治は竹沢をどこまでも優しく扱う。
抱きついたまま、泣きたくなる気持ちを抑えた。
「話、する?」
聞いた竹沢の耳に佐安治が囁いた。
「本番前にか? 話ならあとでいい」
ひどいヤツだ。
そう思った。
佐安治の本命は若狭公平。
コレは自分をいいように操るための作戦。
溺れずにはいられないように仕向けられている。
わかっていた。
わかっていたが。
竹沢は戻れないほど佐安治に溺れていた。
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