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小梅の予感
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竹沢が薫のグループに入ってから、すでに一週間が経過していたが、特に変わったことはなにもなかった。
梅野が思っていたよりもはるかに竹沢はフレンドリーにメンバーと接している。
が、松葉の言う「人恋しさ」が竹沢にあるとはどうしても思えない梅野は、きっとそのうち「ボロ」を出すと決め付け、竹沢からマークを外していない。
竹沢も微妙にそれを感じているのか、居心地が悪いらしく、梅野のそばには寄ってこない。
それも妙だと思ってしまう。
後ろめたいことがないのなら、居心地の悪さなど感じる必要はないはずだ。
偏見があるのかもしれないが、自分の勘は嫌な時ほどよく当たる。
梅野は高二になる少し前、離婚前の両親のどちらもが引き取りたくないと言ったため、強制的に裏音羽に放り込まれた。
裏に入れられるほど「やんちゃ」なんてしていなかったが、表に入れるほど優秀ではなかったからだ。
いっそ奨学金制度を使って、自ら表に編入しようかとも思った。
けれど、やはり梅野は高校生で、まだ十五歳の子供だった。
親が離婚するだろうことも、その時に自分はいらないと言われるだろうことも予測していたのに、それでもショックだったのだ。
親に捨てられた。
予測を超えたそのショックに、梅野はありがちな方法を取った。
「グレてやる」と思い、そのまま裏音羽に居ついてやることにしたのだ。
校内で暴れてやろうとふらついていて出会ったのが、公平で。
今思えば、あの時に薫がいたら、きっとボコボコにされていたに違いない。
が、公平は一人だった。
一大決心をし、険しい顔で喧嘩を売りつけようとした梅野の顔を見て、にこっと笑った公平の顔。
一大決心もどこへやら、小さく頭を下げてしまっていた。
そんな梅野にあっさりと公平は、言ったのだ。
『お前さ、ウチのグループ入らん?』
わけもわからず頷いた。
裏音羽に居つくというよりも、そのまま薫のグループに居ついて現在に至っている。
公平にかわいがられているので、誰も梅野に手を出そうとはしない。
甘んじているわけではなかったが、梅野は単純に公平のことも薫のことも好きなのだ。
好きだからそばにいる。
それだけだった。
周りから公平の「稚児」扱いされても気にはならない。
薫は気にしていて、ちょっと不機嫌になったりもするが、梅野自身は自分がそうではないことを知っていたし、公平にそんなつもりがないことも知っていたので、気にはならないのだ。
ただ。
自分が薫のグループにとって、あまり戦力になれていないことは気にしていた。
せめて自分にも戦力になれることはないかと思い、情報を集め始めたのだ。
それから半年弱。
今なら校内の噂やグループのカラー、リーダーや周りにいる人間の性格までを、聞かれればすぐに答えられるほどになった。
どこまで役に立つかわからない情報だったが、少なくとも喧嘩や喧嘩になりそうな気配の時に、軍師的なことをやっている公平の役には立てている。
公平も薫に直接的な喧嘩をさせてもらえないので、戦い方や戦術で役に立とうとしているようだった。
薫と公平のことを詮索して、梅野に聞いてくるヤツもいたが、二人はそんな関係ではない。
先のことはわからないにしても、今は。
色艶のある関係ではなかった。
知っていながら、梅野の答えはいつも同じ。
『直接、聞いてみれば?』
たいていの相手はそれで黙り込む。
直接、聞く勇気がないのなら好奇心など寄せなければいいのにと思う。
腹立ちさえ感じるほど梅野は二人のことが好きなのだ。
たとえどんなことでも脅かそうとするヤツは許さない。
竹沢をマークしているのも、そんな気持ちからだった。
土曜日の夜。
外出自由の日。
竹沢は他のヤツらとは一緒に出かけなかった。
薫はメンバー数人と一緒にいつものゲームセンターだ。
公平は一人で部屋にいるに違いない。
で。
梅野は正門ではなく、裏門を影から見張っていた。
竹沢がこちらから外に出て行くのではないかと思ったからだ。
梅野の立っている場所からは竹沢の寮部屋も見える。
電気はついていた。
時折、窓の向こうを横切る影も見えたりするので、きっと中に竹沢はいるのだろう。
一晩中でも見張るつもりだった。
「なんもなけりゃ……」
つぶやきが聞こえたのかと思えるようなタイミングで部屋の明かりが消える。
梅野はもたれかかっていた壁からゆっくりと体を起こした。
「やっぱ当たり、かな」
梅野が思っていたよりもはるかに竹沢はフレンドリーにメンバーと接している。
が、松葉の言う「人恋しさ」が竹沢にあるとはどうしても思えない梅野は、きっとそのうち「ボロ」を出すと決め付け、竹沢からマークを外していない。
竹沢も微妙にそれを感じているのか、居心地が悪いらしく、梅野のそばには寄ってこない。
それも妙だと思ってしまう。
後ろめたいことがないのなら、居心地の悪さなど感じる必要はないはずだ。
偏見があるのかもしれないが、自分の勘は嫌な時ほどよく当たる。
梅野は高二になる少し前、離婚前の両親のどちらもが引き取りたくないと言ったため、強制的に裏音羽に放り込まれた。
裏に入れられるほど「やんちゃ」なんてしていなかったが、表に入れるほど優秀ではなかったからだ。
いっそ奨学金制度を使って、自ら表に編入しようかとも思った。
けれど、やはり梅野は高校生で、まだ十五歳の子供だった。
親が離婚するだろうことも、その時に自分はいらないと言われるだろうことも予測していたのに、それでもショックだったのだ。
親に捨てられた。
予測を超えたそのショックに、梅野はありがちな方法を取った。
「グレてやる」と思い、そのまま裏音羽に居ついてやることにしたのだ。
校内で暴れてやろうとふらついていて出会ったのが、公平で。
今思えば、あの時に薫がいたら、きっとボコボコにされていたに違いない。
が、公平は一人だった。
一大決心をし、険しい顔で喧嘩を売りつけようとした梅野の顔を見て、にこっと笑った公平の顔。
一大決心もどこへやら、小さく頭を下げてしまっていた。
そんな梅野にあっさりと公平は、言ったのだ。
『お前さ、ウチのグループ入らん?』
わけもわからず頷いた。
裏音羽に居つくというよりも、そのまま薫のグループに居ついて現在に至っている。
公平にかわいがられているので、誰も梅野に手を出そうとはしない。
甘んじているわけではなかったが、梅野は単純に公平のことも薫のことも好きなのだ。
好きだからそばにいる。
それだけだった。
周りから公平の「稚児」扱いされても気にはならない。
薫は気にしていて、ちょっと不機嫌になったりもするが、梅野自身は自分がそうではないことを知っていたし、公平にそんなつもりがないことも知っていたので、気にはならないのだ。
ただ。
自分が薫のグループにとって、あまり戦力になれていないことは気にしていた。
せめて自分にも戦力になれることはないかと思い、情報を集め始めたのだ。
それから半年弱。
今なら校内の噂やグループのカラー、リーダーや周りにいる人間の性格までを、聞かれればすぐに答えられるほどになった。
どこまで役に立つかわからない情報だったが、少なくとも喧嘩や喧嘩になりそうな気配の時に、軍師的なことをやっている公平の役には立てている。
公平も薫に直接的な喧嘩をさせてもらえないので、戦い方や戦術で役に立とうとしているようだった。
薫と公平のことを詮索して、梅野に聞いてくるヤツもいたが、二人はそんな関係ではない。
先のことはわからないにしても、今は。
色艶のある関係ではなかった。
知っていながら、梅野の答えはいつも同じ。
『直接、聞いてみれば?』
たいていの相手はそれで黙り込む。
直接、聞く勇気がないのなら好奇心など寄せなければいいのにと思う。
腹立ちさえ感じるほど梅野は二人のことが好きなのだ。
たとえどんなことでも脅かそうとするヤツは許さない。
竹沢をマークしているのも、そんな気持ちからだった。
土曜日の夜。
外出自由の日。
竹沢は他のヤツらとは一緒に出かけなかった。
薫はメンバー数人と一緒にいつものゲームセンターだ。
公平は一人で部屋にいるに違いない。
で。
梅野は正門ではなく、裏門を影から見張っていた。
竹沢がこちらから外に出て行くのではないかと思ったからだ。
梅野の立っている場所からは竹沢の寮部屋も見える。
電気はついていた。
時折、窓の向こうを横切る影も見えたりするので、きっと中に竹沢はいるのだろう。
一晩中でも見張るつもりだった。
「なんもなけりゃ……」
つぶやきが聞こえたのかと思えるようなタイミングで部屋の明かりが消える。
梅野はもたれかかっていた壁からゆっくりと体を起こした。
「やっぱ当たり、かな」
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