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5章
ハルカとハルカ
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学校祭が終わり、いよいよ受験一色になってきた頃。
悠は唯と図書室で勉強していた。
2人とも、赤十字のマークに憧れて、同じ大学を目指して勉強していた。
唯は東京の赤十字大学を希望し、悠は秋田にある赤十字大学を目指していた。
「悠が、秋田に行くなら私もそっちに変更しようかな?」
唯はそう言った。
「唯の親は許してくれるの?」
「無理。だからさ、悠、頑張ろうよ。東京の同じ大学に入って、楽しくやろう。」
「私は家から離れたいの。それに、野球やってた事も隠したいし。」
「どうして?」
「女子を取り戻すため。」
唯は笑った。
「さすがにTシャツと短パンなら、学校に行けないよね。ワンピースとか着てる悠見たら、びっくりしちゃうかも。」
「でしょう?だから、私の事を知らない人しかいない所へ行きたいの。」
「もったいない。頼りになるキャッチャーの悠もかっこよかったのに。」
「ねえ、唯なら、医大の看護学部とかでも入れるでしょう?」
「だって、それなら赤十字のマークついてないじゃん。」
「そこまで、キャンディにハマってるんだ。」
「悠もでしょう?」
「今の看護師さんってさ、ナースキャップはしないでしょう。もう少し早く産まれてたら、頭に赤十字のマークをつけて働けたのにね。」
悠は唯にそう言った。
「あれは、あるんでしょう?なんていうの、あのろうそくを持つ儀式みたいな。」
唯が言った。
「どうだろうね。唯、あれはナイチンゲールでしょう。」
「ランプを持ってる像とか、有名よね。」
「唯は夜中に一人で見回りって平気?昔はろうそくだったって、途中で消えたらどうしようか。 」
「病院の中って怖いよね。私、できるかな。」
唯がそう言った。
学校を出て、唯と別れて一人で家まで歩いていると、
「瀧本!」
叶大が悠を追ってくる。
「おまえ、歩くの速いな。」
叶大は息を切らしていた。
「そう?」
「学校からついてきたけど、冴木がいたから、一人になるまで、待ってたよ。約束しただろう。ほら。」
叶大は悠にボールを渡した。
「これ、石尾投手の?」
「そう。兄ちゃんにたのんで、やっと手に入れたんだ。」
「そんな、悪いよ。お兄さんのものでしょう、これ。」
「いいよ。約束だから。それに兄ちゃんは、悠と同じクラブチームで野球に入ってて、悠の事、よく覚えてるみたいだよ。」
「そうなの?」
悠は記憶を巻き戻す。
「そうだ。ファーストの梶原くんっていた。」
「監督からキャッチャーやるように言われて、逃げ回ってたら、悠が入ってきて助かったって言ってた。」
「そう、あの時、みんなキャッチャーのポジションから逃げててね。」
「なんで、野球始めたの?」
「ピアノの練習に行きたくないなら、野球を選んだの。」
「本当に?」
「私、ピアノの先生苦手でね。ピアノを弾く前にリズムの練習とか言って、一緒に手を叩いて、間違えるとやり直し。ぜんぜんピアノ弾かないで帰る日もあって、家でお母さんに呆れられるし、もう嫌になって。」
「だから、野球って。」
「ボールがバットにあたるカーンって音が好きなの。いまでもそう。私はそれを一番近くで聞いてたの。バットが風を切る音も。」
悠は叶大の隣りを歩きながら、少し長くなった髪を耳にかけた。
「瀧本、髪伸びたな。」
叶大が髪を触ろうとしたので、悠は少し先を歩いた。
「遥とは大学の試験は一緒なの?」
「違うよ。俺、推薦で行かないから。」
「どうして?」
「俺はバレーの選手の中じゃ、背が小さいんだよ。本気でプロを目指してる人達とは、一緒にできない。」
「そう。じゃあ、どこの大学を目指してるの?」
「俺は神奈川の大学に行きたいと思ってる。顕微鏡を覗く仕事がやってみたいんだ。」
「それって、どんな仕事?」
「臨床検査技師っていうのやつ。」
「へぇー。大きな梶原くんに合う顕微鏡なんかあるの?」
「身長と顕微鏡は関係ないだろう。」
「そうだね。」
叶大は悠を見て笑った。
「遥はなんて?」
「あんまり、よく思ってない。」
「そっか。バレーしてる梶原くんが好きなんだろうしね。」
「そう言えば、瀧本、おまえもハルカって名前だったよな。」
「そうだよ。」
「手紙くれたのって、おまえかと思ってさ。」
「何言ってんの。」
「俺、うまく言えないと思って返事を書いてきたんだよ。野田はそれを見て、勘違いしてさ。」
それ以上の事は聞きたくない。
「梶原くん、私の家、そこだから。ボールありがとう。」
悠は走って家に帰った。
悠は唯と図書室で勉強していた。
2人とも、赤十字のマークに憧れて、同じ大学を目指して勉強していた。
唯は東京の赤十字大学を希望し、悠は秋田にある赤十字大学を目指していた。
「悠が、秋田に行くなら私もそっちに変更しようかな?」
唯はそう言った。
「唯の親は許してくれるの?」
「無理。だからさ、悠、頑張ろうよ。東京の同じ大学に入って、楽しくやろう。」
「私は家から離れたいの。それに、野球やってた事も隠したいし。」
「どうして?」
「女子を取り戻すため。」
唯は笑った。
「さすがにTシャツと短パンなら、学校に行けないよね。ワンピースとか着てる悠見たら、びっくりしちゃうかも。」
「でしょう?だから、私の事を知らない人しかいない所へ行きたいの。」
「もったいない。頼りになるキャッチャーの悠もかっこよかったのに。」
「ねえ、唯なら、医大の看護学部とかでも入れるでしょう?」
「だって、それなら赤十字のマークついてないじゃん。」
「そこまで、キャンディにハマってるんだ。」
「悠もでしょう?」
「今の看護師さんってさ、ナースキャップはしないでしょう。もう少し早く産まれてたら、頭に赤十字のマークをつけて働けたのにね。」
悠は唯にそう言った。
「あれは、あるんでしょう?なんていうの、あのろうそくを持つ儀式みたいな。」
唯が言った。
「どうだろうね。唯、あれはナイチンゲールでしょう。」
「ランプを持ってる像とか、有名よね。」
「唯は夜中に一人で見回りって平気?昔はろうそくだったって、途中で消えたらどうしようか。 」
「病院の中って怖いよね。私、できるかな。」
唯がそう言った。
学校を出て、唯と別れて一人で家まで歩いていると、
「瀧本!」
叶大が悠を追ってくる。
「おまえ、歩くの速いな。」
叶大は息を切らしていた。
「そう?」
「学校からついてきたけど、冴木がいたから、一人になるまで、待ってたよ。約束しただろう。ほら。」
叶大は悠にボールを渡した。
「これ、石尾投手の?」
「そう。兄ちゃんにたのんで、やっと手に入れたんだ。」
「そんな、悪いよ。お兄さんのものでしょう、これ。」
「いいよ。約束だから。それに兄ちゃんは、悠と同じクラブチームで野球に入ってて、悠の事、よく覚えてるみたいだよ。」
「そうなの?」
悠は記憶を巻き戻す。
「そうだ。ファーストの梶原くんっていた。」
「監督からキャッチャーやるように言われて、逃げ回ってたら、悠が入ってきて助かったって言ってた。」
「そう、あの時、みんなキャッチャーのポジションから逃げててね。」
「なんで、野球始めたの?」
「ピアノの練習に行きたくないなら、野球を選んだの。」
「本当に?」
「私、ピアノの先生苦手でね。ピアノを弾く前にリズムの練習とか言って、一緒に手を叩いて、間違えるとやり直し。ぜんぜんピアノ弾かないで帰る日もあって、家でお母さんに呆れられるし、もう嫌になって。」
「だから、野球って。」
「ボールがバットにあたるカーンって音が好きなの。いまでもそう。私はそれを一番近くで聞いてたの。バットが風を切る音も。」
悠は叶大の隣りを歩きながら、少し長くなった髪を耳にかけた。
「瀧本、髪伸びたな。」
叶大が髪を触ろうとしたので、悠は少し先を歩いた。
「遥とは大学の試験は一緒なの?」
「違うよ。俺、推薦で行かないから。」
「どうして?」
「俺はバレーの選手の中じゃ、背が小さいんだよ。本気でプロを目指してる人達とは、一緒にできない。」
「そう。じゃあ、どこの大学を目指してるの?」
「俺は神奈川の大学に行きたいと思ってる。顕微鏡を覗く仕事がやってみたいんだ。」
「それって、どんな仕事?」
「臨床検査技師っていうのやつ。」
「へぇー。大きな梶原くんに合う顕微鏡なんかあるの?」
「身長と顕微鏡は関係ないだろう。」
「そうだね。」
叶大は悠を見て笑った。
「遥はなんて?」
「あんまり、よく思ってない。」
「そっか。バレーしてる梶原くんが好きなんだろうしね。」
「そう言えば、瀧本、おまえもハルカって名前だったよな。」
「そうだよ。」
「手紙くれたのって、おまえかと思ってさ。」
「何言ってんの。」
「俺、うまく言えないと思って返事を書いてきたんだよ。野田はそれを見て、勘違いしてさ。」
それ以上の事は聞きたくない。
「梶原くん、私の家、そこだから。ボールありがとう。」
悠は走って家に帰った。
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