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11章
雨上がり
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大学生活も残り少なくなり、学校へもほとんど行くことがなくなった。
遥は幼い頃育った町で、保育士になる事に決めた。
叶太も遥と過ごしたこの町で、たまたま募集のあった消防署に勤務する事が決まった。
いつも家で1人でご飯を食べていた叶太の母の澄子は、2人が一緒に住むことになって、本当に嬉しがった。
「遥ちゃん、なんで教師にならなかったの?」
澄子がそう聞いた。
「私、どうしても泳げなくて。」
「試験の時はどうしたの?」
「脚が浮いてる様にごまかしました。」
「最悪だな、それ。」
叶太はそう言った。
「あと、ピアノね、」
3人はいつまでも笑っていた。
すっかり雪が溶けたと思ったら、また少し雪が降った。
叶太と高校に、バドミントンの練習に行っていたある日。
遥のガッドが切れた。
「明日、張り替えに行こうか。」
「そうだね。」
叶太の車で、小さなラケットショップにきた。
ガッドを張り替えるために店長と話していると、徹也が彼女と一緒に入って来た。
徹也の彼女の長くキレイな爪についているビーズに、電気の光があたってキラキラしている。徹也が遥に気がつくと、遥も徹也に気がついて軽く会釈をした。
「徹也の知り合い?」
隣りの女性がそう言うと
「知らない人。」
徹也はそう言った。
「遥、14時にはできるって。取りにくる?送ってもらう?」
叶太がそう言った。
「取りにくるよ。」
遥がそう言うと、叶太は店長と話し、遥を連れて店を出た。
「どこかで時間を潰す?」
叶太はそう言った。
「今、何時?」
「11時。」
「ゆっくりご飯食べたら、すぐに2時になるよ。」
「焼き肉でも行こうか。遥、誕生日過ぎたから、飲んでもいいよ。」
ラケットショップからそう離れていない場所にある焼き肉屋に入ると、平日のお昼なのに、店は混んでいた。
「何でも食べれるんだっけ?」
叶太は遥に聞いた。
「うん。」
遥が頼んだ瓶ビールは、叶太の前に置かれた。
「みんな、女の人が昼間から飲むイメージってないんだろうね。叶太が飲んだら?帰りは私が運転していく。」
「いいよ。俺は飲まないから。ほら、どんな味がするか、飲んでみたら?」
コップに口をつけた遥は、苦い苦いと言ってコップを遠ざけた。そう言いながらも、もったいないと1瓶飲み干した遥は、少し酔っている様だった。
「食べないと、焦げちゃうよ。」
「叶太が食べたら?」
「遥、ぜんぜん食べてないでしょう。」
「食べてるよ。もうお腹いっぱい。これ、舌でしょう?」
「舌って言うなよ。」
「みんな嘘ついて、抜かれたのかな。」
「そんな事が言うと、食べれなくなるだろう。それに、牛は喋れないし。」
「叶太、アイス食べてもいい?」
「食べればいいだろう。」
「叶太は?」
「俺はいいよ。」
「今度、澄子さんと来よう。」
「遥、酔っ払ってるのか。」
「そんな事ないよ。」
叶太の車に乗ると、遥は体を横に向けて眠った。
「おい、気持ちに悪くなったら、早めに言うんだぞ。」
「わかった。」
ラケットを受け取りに叶太が店へ行った。助手席で1人で寝ていると、車の窓を誰かが叩いた。
叶太、何か忘れ物でもしたのかな?
遥が目を開けると、徹也が立っていた。
遥に車から降りるように言うと、叶太がラケットも持って戻ってきた。
徹也は叶太に何かを言っている。
遥がドアを開けて外に出る。
「遥ちゃんの彼氏?」
徹也は叶太を指差した。
「そうです。」
「あれから練習にこないから、どうしてるか気になって。」
「今は、別のところで練習をしているの。」
「彼のところ?」
「そうです。」
「俺さ、年甲斐もなく遥ちゃんに一目惚れしちゃって、ひどいことしたから、ちゃんと謝りたくて…。」
「もう、いいです。それに、家に帰りたくなかったから、林さんと一緒にいたんだし。」
「なぁ、遥ちゃん。彼氏と別れて、俺と付き合わない?遥ちゃんじゃなきゃダメなんだ。」
遥は首を振った。
「彼女がいるじゃないですか。」
「いろんな子と付き合っても、遥ちゃんじゃないと、心が埋まらないんだ。」
「林さん、私もずっと心が埋まらなかった。だけど、今は隙間がないくらいに埋まってるの。」
遥は叶太の隣りに並んだ。
「そっか。わかったよ。」
徹也はそう言うと、車に乗って消えていった。
「遥?」
叶太が遥の顔を覗いた。
「もう、昔の事。」
遥はそう言って車に乗った。
その夜。
渉から遥に電話があった。
「渋谷、林さんが死んだって。」
徹也は彼女を乗せて家に帰る途中、対向車線をはみ出して、大型トラックに衝突した。
彼女も徹也も即死だった。
運転していた徹也は、少しお酒が入っていたようだった。
塞ぎ込む遥のそばに叶太がきた。
「遥。大丈夫か?」
家族を不幸にした母を許せないように、誰かを不幸にした自分は、幸せになる資格なんてない。世の中なんて、本当はそんな人で溢れている。
「叶太、ごめん。家に帰る。」
遥は幼い頃育った町で、保育士になる事に決めた。
叶太も遥と過ごしたこの町で、たまたま募集のあった消防署に勤務する事が決まった。
いつも家で1人でご飯を食べていた叶太の母の澄子は、2人が一緒に住むことになって、本当に嬉しがった。
「遥ちゃん、なんで教師にならなかったの?」
澄子がそう聞いた。
「私、どうしても泳げなくて。」
「試験の時はどうしたの?」
「脚が浮いてる様にごまかしました。」
「最悪だな、それ。」
叶太はそう言った。
「あと、ピアノね、」
3人はいつまでも笑っていた。
すっかり雪が溶けたと思ったら、また少し雪が降った。
叶太と高校に、バドミントンの練習に行っていたある日。
遥のガッドが切れた。
「明日、張り替えに行こうか。」
「そうだね。」
叶太の車で、小さなラケットショップにきた。
ガッドを張り替えるために店長と話していると、徹也が彼女と一緒に入って来た。
徹也の彼女の長くキレイな爪についているビーズに、電気の光があたってキラキラしている。徹也が遥に気がつくと、遥も徹也に気がついて軽く会釈をした。
「徹也の知り合い?」
隣りの女性がそう言うと
「知らない人。」
徹也はそう言った。
「遥、14時にはできるって。取りにくる?送ってもらう?」
叶太がそう言った。
「取りにくるよ。」
遥がそう言うと、叶太は店長と話し、遥を連れて店を出た。
「どこかで時間を潰す?」
叶太はそう言った。
「今、何時?」
「11時。」
「ゆっくりご飯食べたら、すぐに2時になるよ。」
「焼き肉でも行こうか。遥、誕生日過ぎたから、飲んでもいいよ。」
ラケットショップからそう離れていない場所にある焼き肉屋に入ると、平日のお昼なのに、店は混んでいた。
「何でも食べれるんだっけ?」
叶太は遥に聞いた。
「うん。」
遥が頼んだ瓶ビールは、叶太の前に置かれた。
「みんな、女の人が昼間から飲むイメージってないんだろうね。叶太が飲んだら?帰りは私が運転していく。」
「いいよ。俺は飲まないから。ほら、どんな味がするか、飲んでみたら?」
コップに口をつけた遥は、苦い苦いと言ってコップを遠ざけた。そう言いながらも、もったいないと1瓶飲み干した遥は、少し酔っている様だった。
「食べないと、焦げちゃうよ。」
「叶太が食べたら?」
「遥、ぜんぜん食べてないでしょう。」
「食べてるよ。もうお腹いっぱい。これ、舌でしょう?」
「舌って言うなよ。」
「みんな嘘ついて、抜かれたのかな。」
「そんな事が言うと、食べれなくなるだろう。それに、牛は喋れないし。」
「叶太、アイス食べてもいい?」
「食べればいいだろう。」
「叶太は?」
「俺はいいよ。」
「今度、澄子さんと来よう。」
「遥、酔っ払ってるのか。」
「そんな事ないよ。」
叶太の車に乗ると、遥は体を横に向けて眠った。
「おい、気持ちに悪くなったら、早めに言うんだぞ。」
「わかった。」
ラケットを受け取りに叶太が店へ行った。助手席で1人で寝ていると、車の窓を誰かが叩いた。
叶太、何か忘れ物でもしたのかな?
遥が目を開けると、徹也が立っていた。
遥に車から降りるように言うと、叶太がラケットも持って戻ってきた。
徹也は叶太に何かを言っている。
遥がドアを開けて外に出る。
「遥ちゃんの彼氏?」
徹也は叶太を指差した。
「そうです。」
「あれから練習にこないから、どうしてるか気になって。」
「今は、別のところで練習をしているの。」
「彼のところ?」
「そうです。」
「俺さ、年甲斐もなく遥ちゃんに一目惚れしちゃって、ひどいことしたから、ちゃんと謝りたくて…。」
「もう、いいです。それに、家に帰りたくなかったから、林さんと一緒にいたんだし。」
「なぁ、遥ちゃん。彼氏と別れて、俺と付き合わない?遥ちゃんじゃなきゃダメなんだ。」
遥は首を振った。
「彼女がいるじゃないですか。」
「いろんな子と付き合っても、遥ちゃんじゃないと、心が埋まらないんだ。」
「林さん、私もずっと心が埋まらなかった。だけど、今は隙間がないくらいに埋まってるの。」
遥は叶太の隣りに並んだ。
「そっか。わかったよ。」
徹也はそう言うと、車に乗って消えていった。
「遥?」
叶太が遥の顔を覗いた。
「もう、昔の事。」
遥はそう言って車に乗った。
その夜。
渉から遥に電話があった。
「渋谷、林さんが死んだって。」
徹也は彼女を乗せて家に帰る途中、対向車線をはみ出して、大型トラックに衝突した。
彼女も徹也も即死だった。
運転していた徹也は、少しお酒が入っていたようだった。
塞ぎ込む遥のそばに叶太がきた。
「遥。大丈夫か?」
家族を不幸にした母を許せないように、誰かを不幸にした自分は、幸せになる資格なんてない。世の中なんて、本当はそんな人で溢れている。
「叶太、ごめん。家に帰る。」
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