たかが、青

小谷野 天

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6章

青いマフラー

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深夜勤の職場に行くと、具合の悪そうな優芽がいた。
「優芽、大丈夫?」
「うん。」
「今日は家で休んだら?」
「だって代わりいないじゃん。」
「主任さんもいるし、なんとかなるよ。」
「ねぇ、蓮見。明日、ついてきてほしいところがあるんだけど。」
「いいよ。どこ?」
「予約入れたの、ここ。」
 優芽は小さな産婦人科の病院を携帯で見せた。
「優芽……。」
「誰にも知られたくないから。」
「もしかして、彼の?」
「ずっと、生理がこないから……。そんなの、この仕事始めてからよくあることなんだけど、やっぱりおかしいなって調べたら……。」
「彼、知ってるの?」
「あいつとはこの前、別れたの。もう会うつもりもないし、この事は言ってない。だけど私一人で育てられないし、残念だけどあきらめるかなって。」
「優芽……。」
「ごめん、一人で行くの嫌でさ。ついてきて。」
「わかった。それより、今日は休んで。」
「大丈夫。仕事すれば、気分が悪いのも忘れるから。」
「見回りは私が行くよ。」
「ありがとう、蓮見。」

 次の日、職場を出た二人は蓮見の家にいた。
「タクシー、呼ぶね。」
 蓮見は優芽をベッドに横にさせた。
 玄関のチャイムがなり、覗き窓を見ると龍が立っていた。
「あっ、龍さん。」
「今日は休みだろう?」
「うん。休みだけど、友達がきてて。」
「あっ、ごめん。店、手伝ってほしかったけど、無理だったかな。」
 アパートの階段を上ってくる足音が聞こえる。
「ここで話すと人が見てるから、中に入って。」
 部屋にきた龍は、ベッドで横になっている優芽を見て
「なんか、体調悪そうだけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。蓮見、やっぱり私、一人で行くわ。」
 フラフラと一人で歩き出した優芽を龍が支えた。
「大丈夫じゃないでしょう? 病院行こう。俺、車取って来るから待ってて。」
 龍は走っていった。
「ごめん、蓮見。」
「優芽。頼もうよ。」
 龍の車に蓮見と優芽が乗る。蓮見は龍に行き先を告げた。何も言わず走り出した龍。
「俺、近くにいるから、終ったら電話して。」
「わかった。ありがとう。」
「じゃあ。」

 診察室から出てきた優芽は、エコー写真を持っていた。
「優芽?」
「3ヶ月だって。しかも双子。」
「産む事にしたんでしょう。」
 泣いてる優芽に、蓮見は言った。
「強い子達だね。座る暇もないくらい働いても、優芽にしがみついてるんだから。」
「蓮見……。」
「師長に話そう。わかってくれるよ。それに、彼にもちゃんと言ったら?」
「そうだね。いろいろありがとう。ここからタクシーで帰るから、蓮見は彼と帰って。」
「ダメだよ。」
「蓮見の彼、優しい人だね。最初は少し怖かったけど、蓮見の事が本当に好きなんだね。」
「かっこいいでしょう。」
「私にちょうだい。」
「へっ?」
「さっき、支えてくれた時、ちょっとドキドキした。男性恐怖症の蓮見なのに、あんな素敵な人とよく一緒にいられるね。」
「私とは釣り合わない人なの。いつか冷めるだろうなって思ってる。」
「そうかな。あの人はみんなに優しいけど、蓮見とは違う空気なんだよね。」

 龍が病院の前にやってくる。
「大丈夫? 家まで送るよ。」
 龍が優芽にそう言うと、
「それなら、区役所まで送ってください。あとは一人で大丈夫だから。蓮見、また明日。せっかくの休みなのにごめんね。師長もあいつにも、ちゃんと自分で話すから。」
 区役所の前に着くと、龍は本当に大丈夫なのかと何度も優芽聞いたが、優芽はどうしても一人で行くというので、仕方なくその場で別れた。
 二人っきりになった車の中で、
「ごめんなさい。」
 蓮見は龍に謝った。
「こういう時は謝らないでお礼を言ってよ。今日は仕入れた服が届くから、店にキレイに並べてほしいんだけど。」
「私、あんまり器用じゃないですよ。」
「ゆっくりやって。俺は蓮見をずっと見てるから。」
「不器用だし、あんまり見ないください。」
 蓮見がそう言うと、
「じゃあ、ずっと俺の方を見てれば?」
 そう言って龍は笑った。
 店の前に着くと、龍を目当てに女の子達が待っている。
 女の子達が龍を囲んだ。
「蓮見、こっち。この段ボールがみんなそうだから。」
 龍は蓮見に積み上げられた段ボールを指さした。
「何、新しいバイト?」
 女の子の一人にそう言われた蓮見は、バイトです、そう答えた。
 段ボールから服を出しては畳み、棚に並べていた蓮見は、時間の事も龍の事も忘れていた。
「蓮見!」
「あっ、どうしたの?」
「もうお昼にしよう。」
「この段ボールが終わったら……。」
「一度休憩しようよ。ゆっくりやるように言ったはずだよ。」
 龍は蓮見にサンドイッチを渡した。
「さっき、コンビニで買っておいたんだ。」
「ありがとう。」
「それ食べたら、続きをやって。」
 蓮見は頷いた。
「そうだ、これ。」
 龍は蓮見に鍵を渡した。
「これは?」
「俺の家の鍵。今日はバーに行くから、帰って先に寝てなよ。今、地図書くから。」
 龍はメモ用紙に地図を書いた。
「わかった?」
 蓮見はメモの向きを上下にひっくり返し見ていた。龍は蓮見の後ろに座ると、蓮見の右肩に顎を乗せ、両手を包んだ。
「いい? こっちの道が右だよ。」  
 蓮見は窓を見た。
「左は反対。このままの向きで持って帰るんだよ。」
 蓮見の頬に龍がキスをする。
「今日は遅くなるかもしれないから、先に休んでて。明日の朝は、ちゃんと送って行くから。」
「龍さん。」
「何?」
「私、めんどくさいでしょう。」
「何が?」
「生活はぐちゃぐちゃだし、右と左を間違えるし。」
「そんな事、心配しなくていいって。」
 龍は笑っていたが、蓮見は下を向いた。
「蓮見と会ってから毎日楽しいよ。」
 蓮見は龍の言葉に少しホッとした。
「またバイトに戻る。」
「わかった。頼んだよ。」
 最後の段ボールを開くと、中から青いマフラーが出てきた。
「あっ、これ。あの手袋とお揃いの物だ。」
 龍はマフラーを蓮見の首に巻いた。
「今日のバイト代。もう帰って休みな。寝てないだろうし、疲れだろう。あとは俺がやるからもういいよ。」
「ううん。これを終わらせてから帰る。」
 蓮見はマフラーを大切に畳み、龍がくれた部屋の鍵をその横に置いた。そして、段ボールの中の服を取り出して、また畳み始めた。
「けっこう頑固だよな。」 
 龍はそう言うと、女子高生達が集団で入ってきた。
 蓮見は段ボールを奥に引っ張ると、女子高生達の邪魔にならないように服を畳んだ。
「ねぇ、龍。あの青いマフラーほしいんだけど。」
 一人の子がさっきのマフラーを指さす。
「あれは、あの人の私物だよ。」
「なーんだ。あの人バイト?」
「えっ?」
 話しをはぐらかす龍。
「ねぇ、私も雇ってよ。」
「うちは面接、めっちゃ厳しいよ。」
「あの人はどうして採用されたの?」
「あの人はね、俺を一瞬で落とす薬を持ってる。」
「ヤバッ。」
 龍と女子高生は笑っていた。
「お姉さん、こんな時間にバイトして、夜の人?」
 女子高生の一人が蓮見に話し掛ける。
「そう。夜働いてる。」
「それにしては地味だよね。もう一つの顔があるとか?」
「ないよ。これが自分。」
 女子高生は蓮見が手にしているピンク色のパーカーを見て、これちょうだい、と言った。
「どうぞ。」
「ありがとう。龍、これいくら?」
 女子高生はそれを持って龍の所へ向う。
 
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