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二人のパンチェン・ラマ11世 ①

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 世界には、パンチェン・ラマの生まれ変わりと言われる人物が二人いる。

 ひとりは亡命チベット政府が認めた少年。そしてもうひとりは中国政府が認めた少年である。
 ひとりは6歳で行く不明となり、ひとりは現在、チベットのゲルク派の最大の寺院であるタシルンポ寺の主になっている。

 中国政府は亡命チベット政府が生まれ代わりと認めた少年をその存在もろとも否定していたが、チベットの民は、彼のことをみんな知っていた。

 チベットの民に二人の少年の写真を見せ、どちらが本当のパンチェン・ラマか尋ねると、ほとんどの民が、行方不明の少年の写真を指差すと云う。



「あなたが来ることはわかっていました」
 チベットの聖なる寺の主は振り向くと、リー・ルイにそう言った。

 彼はリー・ルイに静かに歩み寄り、膝まづくリー・ルイの肩に片方の手を置いた。そしてリー・ルイに顔を近づけ、リー・ルイの瞳をじっと覗き込むように見つめた。

「もうひとりの私は、元気なようですね」
と、彼は少し笑いながら言った。しかしその瞳は冷たく、青白い炎が揺らめいているようだった。

 彼から伝わってくるその感触は氷の鋭い剣のようだった。
 鋼と柔、二人のパンチェン・ラマに実際に会ってみて、リー・ルイが感じる印象はそうだった。

「そうです、私と彼は正反対」
 なおもチベットのパンチェン・ラマはリー・ルイに顔を近づけた。

「でも彼は私の一部であり、私も彼の一部なのです」

 そしてリー・ルイの耳元へ顔をちかづけ囁くように言った。
「わたしたちはツイン・ソウルなのだから」

 彼の唇がかすかに耳に触れた。
「認めれば良いのです。あなたは私の分身、もう一人のパンチェン・ラマを愛していると・・・。それだけでずっと心が楽になるはずです」
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