「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

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ソラリス&地球編 第2章 鷹は舞い降りた

第10話 応急処置をしますから、少し離れて下さい。

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 愛するシヴァを襲った不幸、そしてその残酷さを目の当たりにしたクベーラは、立ち上がることも出来ないほどのひどいショックを受けた。

 その喪失感から抜け出し、再び立ち上がるまでに回復しているとはとうてい言えないクベーラを、再び地球へ送り込んだのは、ルドラ将軍だった。

 ルドラ将軍はクベーラに言った。
「シヴァさまがあなたのために秘かに築いた、新しい結界を見つけ出し護るのです。
 シヴァさまがその命と引き換えに助けた少年は、ただの結界ではないのです。
 その少年はたぶん、シヴァさまの霊力を受け継いでいるはずです」

 地球へ戻ったクベーラは、いまだ不安定な心をかかえたまま、変革への一歩を歩み始めた。不安定な心を鎮め、平常心を取り戻すためにクベーラが選んだ方法は、フォースだった。

 フォースを操る術は、結局のところ、フォースを操る者の精神力が鍵だった。フォースを操るには、精神を集中させることが必要不可欠であり、邪念が入るとフォースも乱れるものなのだった。そしてもちろん、闘争本能も必要だった。

 以前のクベーラには、その闘争に対する本能がまるでなかった。そもそもクベーラは闘争を好まない性格だった。
 幸せなことにクベーラは闘争せずとも、今まではすべての望みが叶う立場にあったのだ。
 
 愛するシヴァを襲った不幸を、防げなかったことで、初めてクベーラは挫折というものを知ったのだった。
 しかしその挫折が、クベーラの眠っていた闘争心を目覚めさせた。
 そしてクベーラは再び、フォースを操る練習を一から始めたのだった。

「おじさん、久しぶりだね」
と言う声に、振り向いたクベーラの目に飛び込んで来たのは、一人の青年の姿だった。

「あれから、ずいぶん経つのに、おじさん、ぜんぜん上手になってないね」

 すっかり青年に成長したハリーを見て、クベーラは驚いた。
 クベーラにとって少年と出会ったのは、わずか7日前のことなのだが、惑星ソラリスに帰っていた間に、地球では7年の歳月がすでに経っていたのだ。

 少年はすっかり大人になり、美しい青年に成長していた。
 とつぜん現れた青年に、クベーラを護るようにルドラ将軍から命じられ、地球ではクベーラと行動を共にしていた龍神ルーンの弟子カルキは、その鋭い視線をまだ子供っぽさを残すその青年に向けた。

 その日、カルキはクベーラのたっての願いにより、フォースの練習相手をしていた。
 カルキは惑星ソラリスでも、謎に包まれた戦士として有名だった。
 カルキのフォースは特別なもので、彼をどこからか連れ帰った龍神ルーンは別として、ほとんどの者が彼のフォースの前にはひれ伏した。

 しかしハリーはそのことを知るよしもなく、ふざけてフォースをクベーラの方に向かって放ってしまったのだ。クベーラを護ることが使命であったカルキは、とうぜん躊躇無くそのフォースをハリーに使った。
 カルキが放った反重力のフォースは、ハリーを直撃し、ハリーはその場に崩れ落ちた。
 
 
 驚いたクベーラは、まだ名前も知らない幼さが残る青年を抱きかかえ、ジャド師のもとへ運ぼうとしたのだが、カルキがそれを遮った。

「応急処置をしますから、少し離れて下さい」

 そう言うとカルキは少し離れた場所へ移動し、ハリーに向かってフォースを放ったのだが、先ほどとは違うフォースのようで、光の輪がハリーを包み、回転し出した。

 しばらくしてから、すっと光が消えたとき、カルキはクベーラに言った。
「たぶん、これで大丈夫なはずですが、一度、教団の医院の方へ連れていって、診察してもらって下さい」
と、カルキはクベーラに言った。



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