「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

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マルデク&地球編 第1章 想い遙かに

第21話 悪夢の追体験

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 その時、総統ユリウスとエルフィンは同じ夢を見ていた。
 それは悪夢のような出来事の追体験だった。
 ユリウスが妹アンジェリーナと親友テセウスを、正義の名の下にその手で粛正した時の夢だった。

 あの悪夢の始まりは、王家の長女ヘレナがユリウスに恋をし、結婚を望んだことにあった。
 ユリウスには相思相愛の許嫁がいたうえに、心に秘めた志があった。ユリウスはシャンバラへ行くことをずっと夢見ていたのだ。だから王女ヘレナとの結婚を断ったのだが、ヘレナは決して諦めなかった。

 そして最後に持ち上がったのが、ユリウスの妹アンジェリーナとヘレナの父との縁談だった。
 王家はユリウスとヘレナの結婚か、さもなくばアンジェリーナと妻を亡くしたばかりの王との結婚を提示し、結婚をせまったのだった。そして最終的に、アンジェリーナと王の婚儀が決まったのだが、アンジェリーナは王との婚儀が嫌で、毎日泣き暮らしていた。その様子を見て、ユリウスはいたたまれなくなり、アンジェリーナを他の星へ逃がすことを考え、他の星系の出身であったテセウスに相談したのだった。

 ユリウスはアンジェリーナを伴い、テセウスが住む下町の小さな下宿へ行った。
 ユリウスが軽率だったのは、妹アンジェリーナがある舞踏会でテセウスに出会い、秘かにテセウスに恋をしていたことにを知らなかったことだった。
 テセウスの住居を知ったアンジェリーナは、それからときどきユリウスに内緒でテセウスに会いに行くようになった。そしてアンジェリーナの一途な思いに、テセウスは結局、負けてしまったのだった。
 そしてアンジェリーナは子どもを身もごったのだが、アンジェリーナは、子供の父親が誰かをけっして明かそうとはしなかった。

 すでに王との婚儀の日も決まっており、ユリウスは困り果て、ついに大学校の教官であったウィルヘルム卿に相談した。大学校の教官の中に、シャンバラからの使いの者がいるらしい、という噂が学生たちの間では広まっていたのだ。白魔術の教官であったウィルヘルム卿がそうではないかと、噂する学生が多かった。
 シャンバラの使者であるならば、何か良い知恵をくれるかもしれない。ユリウスはそう思ったのだ。

 ジャド師は、父親が白魔術の研究をしたせいで黒魔術信奉者として断罪され、辺境の星へ追放されたことを知っていたので、白魔術も黒魔術もかなりくわしく知っていたが、その教壇に立つことは決して無かった。
 ジャド師はその時も、医官として教壇に立っていた。

 ウィルヘルム卿は、ユリウスの謝った認識をそのまま利用した。
 シャンバラの使いのふりをして、ユリウスに妹とその恋の相手であるシャンバラの武官を粛正させたのだ。

 シャンバラに招待されたものは、一生独身で過ごすのが常で、掟のようなものであった。
 それを破ったテセウスは断罪に値し、彼を粛正することは正義を行うことであると、ウィルヘルム卿はユリウスに吹き込んだ。

 そしてふたりは死んだわけだが、しかしアンジェリーナは、ユリウスが殺した訳ではなかった。
 アンジェリーナが死んだのは、子供を産んだことによる結果であり、ある意味、自然な死でもあった。
 アンジェリーナは体が弱く、赤子を産むことは、初めから命と引き換えの行為だったのだ。
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