173 / 234
マルデク&地球編 第1章 想い遙かに
第20話 アシュラは前世の記憶をすべて失っていた。
しおりを挟む
「どうして君は、こんなところで泣いているのだ・・・」
一人でビルの屋上に出て、下を見下ろし泣いていたプリンス・チャーミングは、声をかけてきた紳士に驚いた。
「何がそんなに悲しくて泣いている?」
紳士はさっき、プリンス・チャーミングとチャールズを助けてくれた青年の連れだった。案の定、プリンス・チャーミングは会場でムハンマド王子に絡まれ、それを止めに入ったチャールズとジュンスがムハンマド王子のSPともめたのだ。
ジュンスが王子のSPによって最初に投げ飛ばされた。
しかしジュンスには武術の心得があり、受け身というものを知っていたので、大きく怪我をすることはなかった。しかしチャールズは、そうではなかった。
そしてその様子を見ていた、来場者のなかからプリンス・チャーミングに危害が及ぼうとしたとき、そのSPを投げ飛ばし、プリンス・チャーミングとチャールズを救った青年がいたのだ。
プリンス・チャーミングは意識を失い倒れているチャールズを抱きかかえながら泣いていた。
しかし二人を助けてくれた青年に、
「どうもありがとうございます。あなたのおかげで私も大切な友だちも、命を失わずにすみました」と言い、礼を言った。
そしてプリンス・チャーミングは、青年を見て、こう尋ねた。
「すみません。あなたのお名前は何と言うのですか?」
ヨハネはその言葉に、ショックを受け、悲しくなったが、
「ヨハネです」
と、一縷の望みを持ちながらすぐに答えた。
しかしその名前を聞いても、プリンス・チャーミングはヨハネとの過去生を思い出すことはなかった。紳士はその、ヨハネと名乗った青年の連れだった。
見ると、ヨハネと言いう青年も少し離れたところから、ふたりを見ていた。
「あまりに悲しくて・・・」
と言い、プリンス・チャーミングは大きな美しい瞳に、大粒の涙をためて、今度は声を出さずに泣いた。
「僕を愛してくれた人は、みんな、不幸になるんだ」
泣いているプリンス・チャーミングは、泣いている姿も美しく魅惑的だった。
憐れを感じる前に、彼は見る者の心に、陶酔にも似た不思議な感情をもたらしていた。
「僕といることで、なぜだかみんな、不幸に見舞われるんです。
それなのに僕は愛する人の姿を見たくて、今日もあんな騒ぎを起こしてしまった」
そう言い、必死で涙をこらえようとする姿は、あまりに痛々しかった。
ミカエルの言った通り、アシュラと思われる青年は、前世の記憶をすべて失っていた。今、話している紳士が、遠い昔の前世で自分の婚約者であったことに全く気づかないし、ヨハネのことも全く覚えていなかった。それなのに、ミトラの生まれ代わりと思われる青年には、前世と同じく結ばれることのない恋へと突き進んでいたのだ。
一人でビルの屋上に出て、下を見下ろし泣いていたプリンス・チャーミングは、声をかけてきた紳士に驚いた。
「何がそんなに悲しくて泣いている?」
紳士はさっき、プリンス・チャーミングとチャールズを助けてくれた青年の連れだった。案の定、プリンス・チャーミングは会場でムハンマド王子に絡まれ、それを止めに入ったチャールズとジュンスがムハンマド王子のSPともめたのだ。
ジュンスが王子のSPによって最初に投げ飛ばされた。
しかしジュンスには武術の心得があり、受け身というものを知っていたので、大きく怪我をすることはなかった。しかしチャールズは、そうではなかった。
そしてその様子を見ていた、来場者のなかからプリンス・チャーミングに危害が及ぼうとしたとき、そのSPを投げ飛ばし、プリンス・チャーミングとチャールズを救った青年がいたのだ。
プリンス・チャーミングは意識を失い倒れているチャールズを抱きかかえながら泣いていた。
しかし二人を助けてくれた青年に、
「どうもありがとうございます。あなたのおかげで私も大切な友だちも、命を失わずにすみました」と言い、礼を言った。
そしてプリンス・チャーミングは、青年を見て、こう尋ねた。
「すみません。あなたのお名前は何と言うのですか?」
ヨハネはその言葉に、ショックを受け、悲しくなったが、
「ヨハネです」
と、一縷の望みを持ちながらすぐに答えた。
しかしその名前を聞いても、プリンス・チャーミングはヨハネとの過去生を思い出すことはなかった。紳士はその、ヨハネと名乗った青年の連れだった。
見ると、ヨハネと言いう青年も少し離れたところから、ふたりを見ていた。
「あまりに悲しくて・・・」
と言い、プリンス・チャーミングは大きな美しい瞳に、大粒の涙をためて、今度は声を出さずに泣いた。
「僕を愛してくれた人は、みんな、不幸になるんだ」
泣いているプリンス・チャーミングは、泣いている姿も美しく魅惑的だった。
憐れを感じる前に、彼は見る者の心に、陶酔にも似た不思議な感情をもたらしていた。
「僕といることで、なぜだかみんな、不幸に見舞われるんです。
それなのに僕は愛する人の姿を見たくて、今日もあんな騒ぎを起こしてしまった」
そう言い、必死で涙をこらえようとする姿は、あまりに痛々しかった。
ミカエルの言った通り、アシュラと思われる青年は、前世の記憶をすべて失っていた。今、話している紳士が、遠い昔の前世で自分の婚約者であったことに全く気づかないし、ヨハネのことも全く覚えていなかった。それなのに、ミトラの生まれ代わりと思われる青年には、前世と同じく結ばれることのない恋へと突き進んでいたのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
女子高生探偵:千影&柚葉
naomikoryo
ミステリー
【★◆毎朝6時更新◆★】名門・天野家の令嬢であり、剣道と合気道の達人——天野千影。
彼女が会長を務める「ミステリー研究会」は、単なる学園のクラブ活動では終わらなかった。
ある日、母の失踪に隠された謎を追う少女・相原美咲が、
不審な取引、隠された地下施設、そして国家規模の陰謀へとつながる"闇"を暴き出す。
次々と立ちはだかる謎と敵対者たち。
そして、それをすべて見下ろすように動く謎の存在——「先生」。
これは、千影が仲間とともに"答え"を求め、剣を抜く物語。
学園ミステリー×クライムサスペンス×アクションが交錯する、極上の戦いが今、始まる——。

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
猫の探偵社
久住岳
ミステリー
北海道で育った野上尚樹は不思議な特性?がある事に気づく。それは動物の意思や想いを読み取る能力…彼は富良野の草原で動物達と意識を共有して育った。成長した尚樹は千葉の叔母と暮らす事になった。
大学卒業を控えやりたい仕事が見つからない尚樹、彼の選んだ道は『迷子猫の捜索だ』だった。尚樹は半径300メートル程度まで探す猫の意識とコンタクトできる。その事を知っている妹が猫の探偵になる事を進めた。
猫の捜索依頼から人が絡む事件や謎、神がかり的なサスペンスが尚樹を待っている。事件の中で出会う事になる探偵社の副所長、本条尚子…卒業度同時に探偵社の副所長になった空手の達人、そして優秀な探偵。彼女は猫の捜索ではなくミステリアスな案件を好む
そして…探偵社の所長・黒猫のノアール
漆黒の毛並みとつぶらな瞳の生後三カ月の子猫は、不思議な能力を持つ《進化した猫》だった。
二人と一匹のミステリーな旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる