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地球編 第3章 新興宗教「光の泉」と光の戦士たち
第27話 夢は語りかける
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その日、エルフィンは朝から様子が変だった。
『どうしたのだろう?』
とハンネスは思ったが、言葉に出すことはなかった。
エルフィンは珍しく、何かに悩んでいるようだった。
助け船を出そうとして、ハンネスが言葉をかけようとしたとき、エルフィンは後ろを振り向きハンネスに言った。
「ジャド師に相談したいことがあるのだが、ジャド師は今、どこにいるだろう?」
と言った。
ハンネスはなぜか、自分に悩みを打ち明けようとしないエルフィンに、少しばかり怒りを覚えたが、ジャド師に比べたら、自分が未熟であることは分かっていたので、自分の気持ちを押し殺し、
「今日は研究室にいるはずだ」
とだけエルフィンに言うと、部屋から出て行ってしまった。
エルフィンはハンネスを怒らせてしまったことを、敏感に感じ取っていたが、今はジャド師以外の者にその悩みを打ち明けることは出来ないと感じていた。
エルフィンは最近、不思議な夢を、連日のように見ていた。
何と表現したら良いのだろう?
深い悲しみと絶望が伝わってくる夢だった。
ハンネスと女性がその夢には出てきた。
ハンネスは自由を奪われた状態で獄舎につながれ、女性は涙を流しハンネスに何かを訴えていた。
顔は見えなかったが、若い女性のようだった。
しかしもっと驚き、恐怖に震えたのは・・・。
その日、研究室をとつぜん訪れたエルフィンの様子がいつもと違うことは、ジャド師にも一目見ただけで分かった。
「どうした、エルフィン。いつも冷静な君らしくないな」
と、いつもの柔和な笑みを浮かべながら、師はエルフィンに尋ねた。
しばらくエルフィンは思い詰めた表情で、ジャド師の顔を見たまま、何も言えずにたたずんでいたのだが、ついに重い口を開いた。
「ジャド師さま、最近、とても不吉な夢を毎日のように見るのです」
「どのような夢をかね?」
「私は特殊な遺伝子を持っていて、変性することはないと聞いていたのですが、この頃、毎日のように女性になった自分の姿を夢に見るのです」
「ハンネスの想いがそのような夢を、お前に見せるのかもしれない。
ハンネスにあとで、私から良く注意しておこう」
とジャド師は笑いながら言った。
しかしその言葉にエルフィンは首を振りながら言った。
「違うのです。私も相手がハンネスならば、悩んだりはしません。
でも夢の中で、私の傍らにいつもいるのは、マルデク総統なのです」
「総統はお前たちに懸賞金をかけ、いまだに追っているらしいことは、私も知っている。
だからそのような夢を見るのだろう。
しかしこの星にいる限り、お前たちは安全だ。
心配しなくて良い」
とジャド師は言った。
しかしその言葉に、うなずきながらもエルフィンは続けた。
「その夢の内容が、あまりに怖くて、昨日は一睡も出来ませんでした。
私はフォースを失い、赤子を身もごっていたのです」
その言葉には、ジャド師も驚いた。
それは決して、許されたこともなく、実行されたことも無い、そういう領域のことだったのだが、意図的に遺伝子操作をして、変性をさせることは高度に発展した文明世界では、もはや決して不可能なことではなく可能なことだった。
そして総統の統治下にあるマルデクは、数少ない、それが可能な文明を持つ星だった。
ただエルフィンが持つシャンバラの特別な遺伝子を変えることはご法度であり、今までにその禁を破ったものはいなかった。しかしあの狂人のようなマルデクの総統ならば、やりかねないことでもあった。
総統の宇宙制覇への野望は、枯渇することがない夢であり、あのシャンバラとアトランティス王家の血、そしてマルデク王家ともつながる総統の血が混じったならば、その子供はそれだけでこの世界を受け継ぐ資格を持つことになる。
エルフィンの母親があの稀有な予知能力を持っていたヨシュアであったことを考えると、あながちただの夢ともいえず、ジャド師も心臓が凍り付くほどの恐怖と衝撃に震えた。
『どうしたのだろう?』
とハンネスは思ったが、言葉に出すことはなかった。
エルフィンは珍しく、何かに悩んでいるようだった。
助け船を出そうとして、ハンネスが言葉をかけようとしたとき、エルフィンは後ろを振り向きハンネスに言った。
「ジャド師に相談したいことがあるのだが、ジャド師は今、どこにいるだろう?」
と言った。
ハンネスはなぜか、自分に悩みを打ち明けようとしないエルフィンに、少しばかり怒りを覚えたが、ジャド師に比べたら、自分が未熟であることは分かっていたので、自分の気持ちを押し殺し、
「今日は研究室にいるはずだ」
とだけエルフィンに言うと、部屋から出て行ってしまった。
エルフィンはハンネスを怒らせてしまったことを、敏感に感じ取っていたが、今はジャド師以外の者にその悩みを打ち明けることは出来ないと感じていた。
エルフィンは最近、不思議な夢を、連日のように見ていた。
何と表現したら良いのだろう?
深い悲しみと絶望が伝わってくる夢だった。
ハンネスと女性がその夢には出てきた。
ハンネスは自由を奪われた状態で獄舎につながれ、女性は涙を流しハンネスに何かを訴えていた。
顔は見えなかったが、若い女性のようだった。
しかしもっと驚き、恐怖に震えたのは・・・。
その日、研究室をとつぜん訪れたエルフィンの様子がいつもと違うことは、ジャド師にも一目見ただけで分かった。
「どうした、エルフィン。いつも冷静な君らしくないな」
と、いつもの柔和な笑みを浮かべながら、師はエルフィンに尋ねた。
しばらくエルフィンは思い詰めた表情で、ジャド師の顔を見たまま、何も言えずにたたずんでいたのだが、ついに重い口を開いた。
「ジャド師さま、最近、とても不吉な夢を毎日のように見るのです」
「どのような夢をかね?」
「私は特殊な遺伝子を持っていて、変性することはないと聞いていたのですが、この頃、毎日のように女性になった自分の姿を夢に見るのです」
「ハンネスの想いがそのような夢を、お前に見せるのかもしれない。
ハンネスにあとで、私から良く注意しておこう」
とジャド師は笑いながら言った。
しかしその言葉にエルフィンは首を振りながら言った。
「違うのです。私も相手がハンネスならば、悩んだりはしません。
でも夢の中で、私の傍らにいつもいるのは、マルデク総統なのです」
「総統はお前たちに懸賞金をかけ、いまだに追っているらしいことは、私も知っている。
だからそのような夢を見るのだろう。
しかしこの星にいる限り、お前たちは安全だ。
心配しなくて良い」
とジャド師は言った。
しかしその言葉に、うなずきながらもエルフィンは続けた。
「その夢の内容が、あまりに怖くて、昨日は一睡も出来ませんでした。
私はフォースを失い、赤子を身もごっていたのです」
その言葉には、ジャド師も驚いた。
それは決して、許されたこともなく、実行されたことも無い、そういう領域のことだったのだが、意図的に遺伝子操作をして、変性をさせることは高度に発展した文明世界では、もはや決して不可能なことではなく可能なことだった。
そして総統の統治下にあるマルデクは、数少ない、それが可能な文明を持つ星だった。
ただエルフィンが持つシャンバラの特別な遺伝子を変えることはご法度であり、今までにその禁を破ったものはいなかった。しかしあの狂人のようなマルデクの総統ならば、やりかねないことでもあった。
総統の宇宙制覇への野望は、枯渇することがない夢であり、あのシャンバラとアトランティス王家の血、そしてマルデク王家ともつながる総統の血が混じったならば、その子供はそれだけでこの世界を受け継ぐ資格を持つことになる。
エルフィンの母親があの稀有な予知能力を持っていたヨシュアであったことを考えると、あながちただの夢ともいえず、ジャド師も心臓が凍り付くほどの恐怖と衝撃に震えた。
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