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マルデク編 第1章 オスカー・フォン・ブラウンの恋
第16話 私には心に決めた方がいるのです。
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アメリアは思っていたよりも、知的で楽しい女性だった。
ハンネスとエルフィンが帝国軍を去ってからというもの、知的で楽しい会話とは無縁だったオスカーは、アメリアとの語らいを大いに楽しんだ。
それゆえ、婚約解消の申し出を、どう切り出すべきかオスカーは悩んでいた。
しかし驚いたことに、婚約解消の話を先に切り出したのは、アメリアの方だった。
「申し訳ないが、私には心に決めた方がいる。
婚約を解消してはもらえまいか?」
と彼女は突然、オスカーに言った。
それはオスカーにとって願ったり叶ったりの提案だったのだが、アメリアの思い人のことがやはり気になった。
「あなたの気持ちは、分かりました。
そうおっしゃるのなら、婚約は解消しても構いません」
とオスカーはアメリアに言った。
「でもあなたの心を射止めた幸せな殿方は誰なのかぐらいは、教えてくれませんか?
それが婚約解消の条件です」
と付け加えた。
それに対してアメリアは、
「実はまだ、その方のことは、家族にも話していないのです」
と言った。
「5年前に一度、お会いしたきりで、その方が今、どこにいるのかも分かりません。
でも、その方のことが、忘れられないのです」
と言った。
なぜかわからないが、オスカーはアメリアが恋する相手が気になった。
「どこでお会いした方なのですか?」
「祭りでにぎわう、街中で偶然、お会いしました。
あの時、私は、兄と二人で、お忍びで祭りを見に行っておりました。
付き人は数名おりましたが、護衛のものは不在でした。
そしてその時、反帝国の反乱分子が、そのすきをついて、王族の血を引く私を誘拐しようとして、襲いかかってきたのです。兄は私を置き去りにして、一人、自分だけ逃げました。連れのものは身をはって私を守ろうとして、次々と殺されて行きました。
そんな時、群衆の中から、素手でその暴漢に立ち向かい、私を救出してくれた方たちがいたのです。
暴漢たちは卑怯にも、私の顔にナイフを切りつけ、私は顔に大きな傷を負っていました。私は血だらけになって、泣いていたわけです。しかし私を助けてくれた方は、それは優しい声で言ったのです。
『大丈夫です。泣かないで。
私の友は医官です。
あなたの傷を、必ず直してくれます』
と・・・。
そしてその方は、もう一人の方に、
「ハンネス、このお嬢さんの傷を直してやってくれ」
と言ったのです。そして驚いたことに、そのハンネスというかたは、そのひどい傷を、本当にきれいに治してくださったのです」
その話を聞いて、オスカーはすぐに彼女を助けたのは、エルフィンとハンネスに違いないと思った。
「二人ともそれは美しい方でした。
そして私は一目で、そのハンネスという方に、恋をしたのです」
ハンネスとエルフィンが帝国軍を去ってからというもの、知的で楽しい会話とは無縁だったオスカーは、アメリアとの語らいを大いに楽しんだ。
それゆえ、婚約解消の申し出を、どう切り出すべきかオスカーは悩んでいた。
しかし驚いたことに、婚約解消の話を先に切り出したのは、アメリアの方だった。
「申し訳ないが、私には心に決めた方がいる。
婚約を解消してはもらえまいか?」
と彼女は突然、オスカーに言った。
それはオスカーにとって願ったり叶ったりの提案だったのだが、アメリアの思い人のことがやはり気になった。
「あなたの気持ちは、分かりました。
そうおっしゃるのなら、婚約は解消しても構いません」
とオスカーはアメリアに言った。
「でもあなたの心を射止めた幸せな殿方は誰なのかぐらいは、教えてくれませんか?
それが婚約解消の条件です」
と付け加えた。
それに対してアメリアは、
「実はまだ、その方のことは、家族にも話していないのです」
と言った。
「5年前に一度、お会いしたきりで、その方が今、どこにいるのかも分かりません。
でも、その方のことが、忘れられないのです」
と言った。
なぜかわからないが、オスカーはアメリアが恋する相手が気になった。
「どこでお会いした方なのですか?」
「祭りでにぎわう、街中で偶然、お会いしました。
あの時、私は、兄と二人で、お忍びで祭りを見に行っておりました。
付き人は数名おりましたが、護衛のものは不在でした。
そしてその時、反帝国の反乱分子が、そのすきをついて、王族の血を引く私を誘拐しようとして、襲いかかってきたのです。兄は私を置き去りにして、一人、自分だけ逃げました。連れのものは身をはって私を守ろうとして、次々と殺されて行きました。
そんな時、群衆の中から、素手でその暴漢に立ち向かい、私を救出してくれた方たちがいたのです。
暴漢たちは卑怯にも、私の顔にナイフを切りつけ、私は顔に大きな傷を負っていました。私は血だらけになって、泣いていたわけです。しかし私を助けてくれた方は、それは優しい声で言ったのです。
『大丈夫です。泣かないで。
私の友は医官です。
あなたの傷を、必ず直してくれます』
と・・・。
そしてその方は、もう一人の方に、
「ハンネス、このお嬢さんの傷を直してやってくれ」
と言ったのです。そして驚いたことに、そのハンネスというかたは、そのひどい傷を、本当にきれいに治してくださったのです」
その話を聞いて、オスカーはすぐに彼女を助けたのは、エルフィンとハンネスに違いないと思った。
「二人ともそれは美しい方でした。
そして私は一目で、そのハンネスという方に、恋をしたのです」
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