「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

文字の大きさ
上 下
106 / 234
マルデク編 第1章 オスカー・フォン・ブラウンの恋

第15話 男装の麗人アメリア

しおりを挟む
 やがて、アメリアが帰ってきた。そして嬉しそうにオスカーに言った。
「オスカーさま、わざわざ会いに来てくださるなんて、とても光栄ですわ」
 しかしアメリアは言葉とは裏腹に、あまり感動しているようには見えなかった。

 オスカーは男らしい容貌をした美青年だったので、名門の跡取り息子ということもあり、いつも女性からは熱い視線で見つめられていた。だから、女性の熱い視線には慣れていた。しかしアメリアの視線は、言葉とは裏腹に、かなり冷めたものだった。

「折り入ってあなたに、お話ししたいことがあって、今日は参りました」

 その日、アメリアは男のような服装に身を包み、あまり女らしいとは言えなかった。

「驚きましたか? 私はドレスが嫌いなのです。
 あんな窮屈で、走りづらいものは大嫌い! 
 ドレスは私たちから自由を奪うものです」
と、アメリアは言った。

 この間、両親と共にブラウン家を訪れたアメリアは、ドレスを着ていた。
 あまりの似合わなさに、ブラウン家の者たちは皆、驚き、ため息をついたのだが、男のような服装をしたアメリアは、新鮮で美しくさへあった。

「私の部屋へ、参りましょう。
 私たちは婚約しているのだから、誰にも文句は言わせません」

 オスカーはアメリアの豹変ぶりに、驚いた。
 それで理解したのだった。

 クラウスは初めから、オスカーがアメリアとの婚約を受けるはずがなく、この結婚話は破談となり、ブラウン家はルカを差し出すと踏んでいたのだ。
 しかしオスカーがアメリアとの婚約を承諾し、もくろみが外れたクラウスは、秘密裏に父に接近し、誰にも知られないうちに、ルカとの電撃結婚を実行した。
 そういうことだったのだ。
 自分が甘かったことを、オスカーはつくづく感じていた。

 オスカーは学生時代から、どんなことにでも秀でていて、負けたことが無かったから、負かした相手からの反撃を、考えたことが無かった。特に、クラウスに関してはそうだった。

 アメリアの部屋は、予想に反して、男の部屋のような簡素なものだった。
 まるで女らしさが無かった。
 驚いたことに、クラウスの言葉通り、アメリアは本当に武器を集めることが趣味らしく、古代から現代までの様々な武器を、部屋のいたるところにそれは綺麗に飾っていた。

「武器に驚かないのですね? 大概の場合、殿方は、驚きます」
と、アメリアはオスカーに平然と言ってのけた。

 軍人であるオスカーは、その珍しいコレクションに目を奪われた。
「なぜこんな物を?」

「こんな時代です。自分の身は、自分で守らねば」
とアメリアは事も無げに答えた。

「総統の側近であるあなたならば、おわかりになると思うのですが、総統は狂っています。あんな狂人を総統に任命した元老院も、狂っています。
 民衆もそういつまでも、あの狂人の圧政に耐えられるとは思えません。
 宇宙連合軍との戦いに敗れて滅びるか、さもなければ民衆が蜂起してあの総統を排除するか、どちらかでしょう」

 あまりの冷静な分析にオスカーは驚いた。
 彼女は王家の血を引いていて、王位を継ぐことになっているが、しかし彼女はお飾りに過ぎない。実権を握るのは、彼女の夫になり王位を継ぐ者であり、元老院なのだ。

 彼女は首相候補の兄クラウスよりもずっと、権力を継ぐ者としてふさわしい、とオスカーは思った。しかしそれでも、女性ということで、彼女は絶対に実権は握れない。オスカーはその時、その仕組みに苛立つアメリアの絶望を、痛いほど感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪い冗談

鷲野ユキ
ミステリー
「いい加減目を覚ませ。お前だってわかってるんだろう?」

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ヘリオポリスー九柱の神々ー

soltydog369
ミステリー
古代エジプト 名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。 しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。 突如奪われた王の命。 取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。 それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。 バトル×ミステリー 新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。

処理中です...