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マルデク編 第1章 オスカー・フォン・ブラウンの恋
第14話 オスカーはマイヤー家を訪れ、驚いた。
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「父上、あまりでございます。
父上は、私がクラウスの妹と結婚すればルカとクラウスの婚約は、破棄してくださるとおっしゃいました。だから私は、アメリアとの婚約を承知したのです」
「わかっておる。だから婚約を破棄してもかまわぬ。
ただ自分で、アメリアの両親に会い、自分で婚約解消を申し込むように。
あちらの両親が納得するなら、婚約解消を許そう」
その日、オスカーは婚約解消を願い出るために、マイヤー家を訪れた。
そしていつになく警備厳重なマイヤー家の様子に、驚いた。
「妹と両親は、今、あいにく出かけている。
悪いが、いつ戻るか、わからない。
でもせっかく来たのだから、ゆっくりしていけ」
クラウスはそう言って、オスカーを屋敷へ招き入れた。
「何かあったのか?」
「ああ、ちょっとした出来事がな」
とクラウスは言った。
「私の妻、ルカに恋をしていたものがいて、そいつの部下がルカを連れ去ろうとしたのだ。事件が起きたとき、私は不在だった。しかし運良くアメリアが家にいた。
婚約者の君には本当は伏せておくべき話なのだが、アメリアは武器を集めるのが趣味でな。
たまたま購入したばかりの銃を持っていたんだ。それで試し撃ちをしたらしい」
「それでは、アメリア嬢が賊を撃退したのか?」
「そうなんだ。犯人を捕らえることはできなかったのだが、妹が賊を撃退した。
それで今、警備を強化している」
とクラウスは言った。
そしてその日、オスカーは久しぶりにルカに会った。
ルカは美しいドレスをまとい、まるで美しい花が咲いているかのようだった。
「きれいだろう? 変性が進むにつれて、ますます美しくなっている」
「儀式はもう済んだのか?」
「いや、まだだ。変性が終わるまで待つように医官から言われている。
子供がほしければ、完全に変性が終わるまで待つようにと言われた」
と、クラウスはオスカーに言った。
それを聞いてオスカーはうなづきながらも、まだルカを取り戻すことができるかもしれないと、心のどこかで思っていた。
オスカーはひざまずき、すっかり美しいレディーになったルカに微笑みかけた。
そしてルカの手をとり、挨拶のキスをしようとしたとき、ルカの指に光る、美しい指輪に目が行った。それは見たことがある指輪だった。総統愛用の、特別な指輪と同じデザインだった。それは疑り深い総統が自分のお気にいりに、必ず送る贈り物だった。
それはロック付きの指輪で、指から外すには、暗証番号が必要だった。そしてそれはGPS機能付きの盗聴器でもあった。オスカーは驚いて、クラウスを見た。
「あの指輪を、どこで手にいれた? あの指輪は総統が、いつも特注で作らせる、特別な指輪だ」
「総統からのプレゼントだよ。結婚祝いでいただいた贈り物だ」
とクラウスは言った。
「凄い指輪だよな。離れていても、妻の動向が良くわかる」
それはクラウスが、四六時中、ルカを監視していることを意味していた。
父上は、私がクラウスの妹と結婚すればルカとクラウスの婚約は、破棄してくださるとおっしゃいました。だから私は、アメリアとの婚約を承知したのです」
「わかっておる。だから婚約を破棄してもかまわぬ。
ただ自分で、アメリアの両親に会い、自分で婚約解消を申し込むように。
あちらの両親が納得するなら、婚約解消を許そう」
その日、オスカーは婚約解消を願い出るために、マイヤー家を訪れた。
そしていつになく警備厳重なマイヤー家の様子に、驚いた。
「妹と両親は、今、あいにく出かけている。
悪いが、いつ戻るか、わからない。
でもせっかく来たのだから、ゆっくりしていけ」
クラウスはそう言って、オスカーを屋敷へ招き入れた。
「何かあったのか?」
「ああ、ちょっとした出来事がな」
とクラウスは言った。
「私の妻、ルカに恋をしていたものがいて、そいつの部下がルカを連れ去ろうとしたのだ。事件が起きたとき、私は不在だった。しかし運良くアメリアが家にいた。
婚約者の君には本当は伏せておくべき話なのだが、アメリアは武器を集めるのが趣味でな。
たまたま購入したばかりの銃を持っていたんだ。それで試し撃ちをしたらしい」
「それでは、アメリア嬢が賊を撃退したのか?」
「そうなんだ。犯人を捕らえることはできなかったのだが、妹が賊を撃退した。
それで今、警備を強化している」
とクラウスは言った。
そしてその日、オスカーは久しぶりにルカに会った。
ルカは美しいドレスをまとい、まるで美しい花が咲いているかのようだった。
「きれいだろう? 変性が進むにつれて、ますます美しくなっている」
「儀式はもう済んだのか?」
「いや、まだだ。変性が終わるまで待つように医官から言われている。
子供がほしければ、完全に変性が終わるまで待つようにと言われた」
と、クラウスはオスカーに言った。
それを聞いてオスカーはうなづきながらも、まだルカを取り戻すことができるかもしれないと、心のどこかで思っていた。
オスカーはひざまずき、すっかり美しいレディーになったルカに微笑みかけた。
そしてルカの手をとり、挨拶のキスをしようとしたとき、ルカの指に光る、美しい指輪に目が行った。それは見たことがある指輪だった。総統愛用の、特別な指輪と同じデザインだった。それは疑り深い総統が自分のお気にいりに、必ず送る贈り物だった。
それはロック付きの指輪で、指から外すには、暗証番号が必要だった。そしてそれはGPS機能付きの盗聴器でもあった。オスカーは驚いて、クラウスを見た。
「あの指輪を、どこで手にいれた? あの指輪は総統が、いつも特注で作らせる、特別な指輪だ」
「総統からのプレゼントだよ。結婚祝いでいただいた贈り物だ」
とクラウスは言った。
「凄い指輪だよな。離れていても、妻の動向が良くわかる」
それはクラウスが、四六時中、ルカを監視していることを意味していた。
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