「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

文字の大きさ
上 下
71 / 234
神界編 第3章 ヨシュアとユダ~終わりの始まり

第21話 旅の僧侶と二人の天使

しおりを挟む
 ある夜、プレアデスの城都の街外れで小さな簡易食堂を営む親子の前に、婦人とふたりの小さな子供を伴った旅の僧侶が姿を現した。

 簡易食堂の娘はすぐにその僧侶が誰であるかに気がついた。
 何年も前に一度会ったきりだったが、シャンバラの次期大神官ユダに間違いなかった。
 そして一緒のご婦人にも見覚えがあった。
 プレアデスの宮殿で王女ラクシュミーと一緒にいた異国の姫君だった。

 ふたりの小さな子供たちを見て、娘はさらに驚いたのだが、僧侶はそれに対して、笑いながら
「私の子供だと思ったか?」
言った。

 そして僧侶は、少し嬉しそうに笑っていたが、
「そなたが思ったように私の子供ならば良かったのだが、残念ながら、私の子供ではないのだ」
言った。

 それを聞いて、娘は少し安心したようだった。
 しかしすぐに、少し怒った口調で、
「それは当たり前です。あなた様はシャンバラの次期大神官。すべてをこの宇宙の平和に捧げなければならない特別なお方なのですから」
と言った。

「突然現れて、このような頼み事をするのは心苦しいのだが、この親子を少しの間、かくまってやってはくれまいか」
とユダは娘に言った。

「このご婦人と子供たちは、訳あって敵対する二つの組織から追われているのだ」

「この子たちは高貴な血を引いているのだが、それ故、ある者たちが政争の道具にしようとしている」
とユダは子供たちを見ながら言った。

「確かこの姫君には、お兄様がいたはずですが・・・」
と娘はユダに言った。

「その兄君と対立する前アトランティス王の息子が、彼女の夫で、この子たちの父親なのだ。
 兄を頼れば、この子たちは謀反を防ぐために彼女の兄に殺されることになる」
と、ユダは子供たちを見やり哀しそうに言った。

「上の子は、前アトランティス王アレスが王朝を継ぐ者としてて遺言を残した王子なので、どうすることも出来ないのだが、下の子の存在は、あまり公にはなっていない。
 私の子ではないが、もし彼女の兄の部下たちが現れ、彼女と子供たちを連れ去ろうとしたならば、下の子は、私の子ということにしてほしい」
と言った。
「そうすれば、下の子は、少なくとも殺されないですむ」
とも言った。


 ヨシュアの子供だちがユダの子供ではないと云うことを知ったとき、簡易食堂の娘は同じくユダに恋心を抱いたことがあるものとして、ヨシュアの心情を痛いほど理解できた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病院の僧侶(プリースト) と家賃という悪夢にしばられた医者

加藤かんぬき
ミステリー
 僧侶サーキスは生き別れた師匠を探す旅の途中、足の裏に謎の奇病が出現。歩行も困難になり、旅を中断する。  そして、とある病院で不思議な医者、パディ・ライスという男と出会う。  中世時代のヨーロッパという時代背景でもありながら、その医者は数百年は先の医療知識と技術を持っていた。  医療に感銘を受けた僧侶サーキスはその病院で働いていくことを決心する。  訪れる患者もさまざま。  まぶたが伸びきって目が開かない魔女。  痔で何ものにもまたがることもできなくなったドラゴン乗りの戦士。  声帯ポリープで声が出せなくなった賢者。  脳腫瘍で記憶をなくした勇者。  果たしてそのような患者達を救うことができるのか。  間接的に世界の命運は僧侶のサーキスと医者パディの腕にかかっていた。  天才的な技術を持ちながら、今日も病院はガラガラ。閑古鳥が鳴くライス総合外科病院。  果たしてパディ・ライスは毎月の家賃を支払うことができるのか。  僧侶のサーキスが求める幸せとは。  小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。 さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。 “私さえいなくなれば、皆幸せになれる” そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。 一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。 そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは… 龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。 ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。 よろしくお願いいたします。 ※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。

暴れん坊小町

クライングフリーマン
ミステリー
京大卒で「斎王さま」に選ばれるほど容姿端麗。「警視」の肩書きを持つ魅力ある女性警察官には、妙なあだ名があった。それは。「暴れん坊小町」。

超能力者は探偵に憧れる

田中かな
ミステリー
愛上探偵事務所助手、奈良篠郷平は超能力者である。彼の手にかかればどんな事件もすぐに解決!…とはいかないようで… 舞台は日本のどこかです。時代は電気通信機器が少し普及し始めた頃です。 この物語はフィクションです。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...