「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

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神界編 第3章 ヨシュアとユダ~終わりの始まり

第11話 パリスに駆け寄り、抱きつく小さな男の子

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 やがて宮殿の扉が開かれた。
 まだ帰りたくない様子の簡易食堂の娘に、パリスは笑みを浮かべ言った。
「一緒に来るかい?」

 娘は満面の笑みを浮かべ、パリスに言った。
「いいんですか?」
 
 パリスは頷き、娘に言った。
「私はこの星のことはよくわからないので、一緒にいてくれるとありがたい」


 プレアデスの宮殿の庭は、緑が多く、まるで森の中を歩いているようだった。
 簡易食堂の娘と一緒にいるおかげで、貧しい身なりをしていても、誰にも怪しまれたり、詮索されることもなく、刺客の目も容易にかわすことができた。
 
 美しい緑に囲まれた宮殿は、まるで理想郷にいるような錯覚をパリスにあたえた。
 この5年の間、感じたことのなかった安らぎをパリスは感じていた。
 そしてパリスは道の途中で、小さな男の子が周囲の目を気にしながらも、パリスに駆け寄ってくるのを見た。

「あの、お兄ちゃまは、ヨシュアお姉ちゃまのお兄ちゃまですか?」

「ヨシュアを知っているのですか?」

「はい、僕はヨシュアお姉ちゃまが、大好きなんです。
 姉のラクシュミ―よりも大好きです」

 とつぜん現れた可愛らしい男の子は、嬉しそうにパリスに抱きついてきた。
 あまりに可愛らしい誘惑に、パリスは小さな男の子を思わず抱きしめ、抱きかかえた。

「坊やのお名前は?」

「子供扱いするのはやめてください。
 僕は今は小さくても、たくさんお勉強をして、たくさんお食事をとって、たくさんフォースの練習をして、ユダさまよりも素敵な大人になるのです。
 そしてヨシュアさまと結婚します」
 小さな男の子は、可愛らしい声でそう言った。

 そしてパリスの耳元で囁やくように言った。
「だからユダさまには内緒ですが、ヨシュアさまとの結婚をお許しください」

 小さな男の子は、それは真剣なまなざしでパリスにそう言ったのだが、パリスには男の子が何を言っているのか、さっぱり訳がわからなかった。
 しかし簡易食堂の娘は、その小さな男の子が、王子ミトラであることにすぐに気づいた。

「あなたは、ミトラさまではありませんか?」
 娘は可愛い小さな男の子にそう尋ねた。

「はい、ミトラです」
 小さな男の子は素直にそう答えた。

 そこへユダが、美しい姫ぎみを二人連れてやってきた。
 ふたりとも目が覚めるような美女だった。
 ボーとしてパリスが見とれていると、一人の美女がパリスに言った。

「お兄さま!」
 そしてその美しい姫君は、パリスのもとへ駆け寄ってきて言った。

「私です、お兄さま。ヨシュアです」

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