「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

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神界編 第2章 アトランティスの王子ヨシュア

第3話 ヨシュアの許婚ネロはいつもヨシュアをいじめた。

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 アトランティスの支配層の子弟が通う宇宙士官大学校の高等部で、現在、学生を束ねる自治会長は将軍家の跡取息子ネロだった。そしてヨシュアは王族の特権で在籍していると皆にに思われているような、何をしても上手に出来ない士官候補生だった。

 華奢で女性のように見える容姿は、場違いな者として、完全にお客さん扱いされていた。

「ヨシュア! いつまでお前は男のなりをしているつもりだ!
 どう見たって、お前はもう女だ」
と云うなり、最上級生でありヨシュアの婚約者であるネロは、皆の前でヨシュアを突き飛ばした。

 簡単に反対側まで投げ飛ばされ、倒れこんで起き上がれないヨシュアを見て、
「お前に士官は無理だ。こんな情けない上官では、誰が命を預けられよう」
と、ネロはヨシュアに言った。

「もうそろそろ無駄な抵抗は止めるべきだ」
 倒れ込んでいるヨシュアのもとへネロは歩いて行き、ヨシュアに手を差し伸べた。

 しかしヨシュアは差し伸べたネロの手を振り払った。
 そのヨシュアの態度に怒ったネロは、今度は無理やりヨシュアを引き寄せ、身動きが出来ないほど強く抱きしめたのち、むりやり口づけをした。しかしなおも抵抗するヨシュアに、ネロはついに切れた。

「その態度は何だ! 私はお前の許婚なんだぞ! 染色体検査で、お前はすでに変性が始まっていることはみんな知っているんだ。それなのにお前がそれを認めず、いつまでもここに居ようとするから、みんな困っているんだ!」

 ネロは気分次第でヨシュアにつらくあたったり、優しくしたりした。
 ネロとヨシュアのバトルは、もはや毎日の行事のようなものになっていた。
 パリスが卒業してしまった今、誰もヨシュアを守ってくれるものはいない。

「我がフィアンセよ、お前はいつまで私を待たせるつもりなんだ?
 わがままがあまりに過ぎると、優しい私でも、見捨てて置けなくなる。
 さあ、どうするヨシュア? 私が恋しくて離れていたくないと言うのなら、もちろん私も寛大な愛で答えよう。
 しかし今のままではダメだ。だから今から、お前の主人として、お前を調教することにした」
と云うなり、ネロはヨシュアに強烈な蹴りを入れた。

「ヨシュア、この程度の攻撃をかわせなくてどうする。この程度の痛みを耐えられなくてどうする。このまま士官候補生として学校に残っていたいのならば、早く起き上がれ! それが出来ないのならば、早く女神の園へ行き、私の妻となる準備を始めろ!」

 それからしばらくの間、ネロは痛みにあえぐヨシュアを面白そうに黙って見ていた。しかしそれに飽きるとネロは、うずくまったまま起き上がれないヨシュアを再び引き寄せ言った。

「優しい私だから、不細工極まり無いお前を我慢して娶るのだ」
 そして嘲るようにヨシュアに言った。 
「さあ、結婚前だが、ご主人さまを満足させてみせろ。それがいづれお前に出来る唯一の務めとなる。いまだに変性出来ない、お前はくずだが、それでも許そう。未分化の体で半分しかつとめを果たせないとしても、許そう。さあ、そのすべてで、私を満足させてみせろ」

 ヨシュアはもはや、抵抗する力も無く、ネロの愛と言う名の暴力を受け入れるしかなかった。
 ヨシュアに救いの手を差しのべるものは誰もいなかった。

 しかしそんなある日、奇跡が起きた。
 いつもと同じように、ヨシュアはネロの気まぐれの餌食となっいたのだが、
「そこまでだ、ネロ。下級生いじめは止めなさい!
 授業にもどりなさい。いくら婚約者が愛しくとも、ここではいけない。つつしみなさい!」
と、医術の教官ジャドが二人の間に入り、騒ぎを鎮めた。

  ネロはせっかくの楽しみを邪魔されて少し不機嫌だったが、教官の後ろにたたずんでいた一人の若者に気づくと、新しい獲物を見つけた喜びのせいか、さっきまでの不機嫌さはいつの間にか消えていた。

「ちょうどいい、みんなに紹介しよう。彼は異世界から我々の世界の医術を学ぶためにやってきた、プレアデス星の学者でユダくんだ」

 それからヨシュアに、
「ヨシュア、彼は若いが、占星術の分野ではとても有名な方なので、せっかくだから、この際、占星術をきちんと彼に教わるといい」と言った。

 ヨシュアと同じ年齢の子供たちはすでに変成期をむかへ、クラスの半分のものは女神の園へ去っていた。
 誰が見てもヨシュアは女性への変成がすでに始まっているように見えるのだが、検査ではまだぎりぎり未分化という判定が下されていた。

 ヨシュアは特異な体質でもあったが、結局のところ、その強い意志で女性への変成を自分で止めていた。
 何がなんでも大嫌いなネロと絶対、結婚しないという強い意志が変成の認定をギリギリのところで止めていた。
 しかしそれもそろそろ、限界のところまで来ているのは誰の目にも明らかだった。














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