「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

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地上編 第2章 プリンス・チャーミングとジュンス

第17話 メモリー②

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 みじめで散々な2日間を過ごした後、プリンス・チャーミングはひとりラウンジにいた。政府高官に恥をかかせてしまった失態は、彼がどんなに手を尽くそうとも挽回することはできなかった。

 今日がラスト・チャンスだった。
 政府高官がこのホテルに滞在するのは今日までなのだ。
 気が重かった。また今日もあの男のわがままに、振り回されるだろう。
 男の要求は際限がない。そして男は要求をのめば情報を渡すと約束しながら、約束を守らなかった。約束を守らない男と、それでも取引をしなければならないのだ。

 プリンス・チャーミングにはもはや、ため息しか出てこなかった。
 そんな彼の様子を見かねて、ひとりの美しい女性が近づいてきた。
 ダニエル・リーの義理の妹、ジュリアだった。

「聞いたわ。あなたVIP会員を投げ飛ばしたんですって?」

「違います。突き飛ばしただけです」

「何言ってんのよ。相手のメンツをつぶしたんだから、同じことじゃない」

 驚いたことに、プリンス・チャーミングは目に涙をためていた。

「泣くことないじゃない。まったく、困った子ね!」

「僕がどんなに謝っても、許してくれないんです。
 もっと誠意を見せろって、許してくれないんです」

「それで2日間、あいつにつきあったわけ?」

「はい。でも情報をまったく聞き出せなくて・・・」

「それでこれから今日も、あいつのところへ行くわけね」

「はい、他に方法が無いですから・・・」

「バカねぇ~、行っても無駄よ。
 止めなさい。相手の思う壺だわ」

「だったら、どうしたら良いんですか? 
 僕はもう、どうしたら良いのかわかりません」

「簡単なことよ。あんな男は、無視すればいい」

「そんなことをしたら、オーナーが怒ります。
 そんなことをしたら、オーナーは決して僕を許してくれなくなります」

「あなたが失敗したのは、三日前よね」

「はい、そうです」

「兄はあれから何か言った?」

「いいえ」

「情報ってね、三日もたてば、意味がなくなることもあるのよ。
 だからあの男が握っている情報は、もう賞味期限切れかもしれない」

「え?」

「いいこと、今日はあいつのところへ行っちゃダメ!
 あいつはあなたにぞっこんだから、行かなければあいつのほうから、慌ててやって来るはずよ。
 その時、言ってやりなさい。
 約束を守らない人間とは、取引できません・・・って!
 そして、もうあなたとは、絶対会いません・・・
 ってね」

 ジュリアのアドバイスは、正しかった。
 男は事態が急変したことを知り、慌てた。
 一日中、プリンス・チャーミンを探し回り、最後はオーナーにまで
泣きついた。

 彼の持っていた情報は、ジュリアの言うように、すでにもう価値のないものだった。しかし大事な情報源として抑えておきたい相手ではあった。

「今、彼はここにはいないのです。
 でもあなたのことは、伝えておきましょう。
 先日のことはもう、許して下さったと伝えておきます。

 そして次回、こちらに滞在するときは、必ず時間をつくらせますので、ご安心ください。とは言っても、あの子の心を引き寄せるだけのお土産は、やはり必要だと思いますがね」
と釘を刺すことを忘れなかった。

 お土産、それはトップ・シークレット並みのレアな情報のことだった。
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