「光の天使」 光と影のシンフォニー

夢織人

文字の大きさ
上 下
7 / 234
地上編 第2章 プリンス・チャーミングとジュンス

第2話 クラブ「パラダイス」のオークションとゲーム

しおりを挟む
「オークションの勝者が、あなたで良かった」
と、プリンス・チャーミングはジュンスに言った。

 ジュンスはその言葉に、
「君はなんで、こんなことをしているんだ?
 とてもまともとは思えない」
と答えた。


「どんな理由があるかは知らないけれど、こんな仕事は早くやめたほうがいい」
と言い捨てると、部屋から出て行こうとした。

 そんなジュンスに対してプリンス・チャーミングは、
「僕が気に入らないんですね。でも・・・、もう少しこの部屋にいてくれませんか?」
と、おどおどとした口調で言った。

「今、あなたがこの部屋を出て行くと、今夜、あなたが得た僕というドールに対するさまざまな権利がその時点ですべて消費されたことになります」

「だとしても何も問題ないと思うが・・・」

「僕には、大問題なんです」
とプリンス・チャーミングは顔を曇らせながら言った。

「まだ晩さん会は始まったばかりで、夜は長い。
 世界中から集まった会員はこれから始まるゲームをとても楽しみにしているんです」

「どんなゲームを?」

「そのゲームは、“ハイド&シーク”と呼ばれて、ドールが隠れ、それを会員が見つけて、アバンチュールを楽しむものなんだけど、会員はそのゲームを『ペット狩り』と呼んでいます。オークションで相手が決まったドールは別ですが、それ以外のドールはすべて、このゲームの対象となり、『ペット狩り』の獲物ということになるんです。あなたが部屋を出て行った時点で、あなたのオークションの権利はすべて消費されたことになり、僕も狩りの対象にされてしまう。

 その時を待っている会員も、たぶん外にはたくさんいるはずです。
 僕はこの部屋からルールで出れないことになっていますから、会員にすれば、簡単に見つけられる獲物なんです。
 あなたみたいに良い人だったら僕もうれしいけれど、そうじゃない場合のほうが今日は多そうだ。
 さっきのオークション、すごく異常だったと思いませんでしたか?」

 そう言われてみると、ちょっと異常な雰囲気があった。

「だから、できればこの部屋に、とどまっていてほしいのです」
と、プリンス・チャーミングは少し潤んだ瞳でジュンスに訴えた。

 ジュンスは彼のことが、嫌いなわけではなかった。
 ただあまりにサーシャに似ていて、つらくなるのだった。

 「プリンス・チャーミング」は髪の色が違うだけで、あとはサーシャと瓜二つ・・・と言ってもよいほどよく似ていた。

「君の本当の名前はなんていうの?」
とジュンスが聞くと、

「それはルールで教えられないんです」
とプリンス・チャーミングは答えた。

 ジュンスはその答えにむっとなり、怒って立ち去ろうとしたのだが、その時、プリンス・チャーミングがジュンスに抱きついてきて、
「あなたの好きな名前で、呼んでください」
と言った。

 間近で見る少年は、本当にサーシャと瓜二つで、ジュンスは思わず、
「サーシャ」と呼んでしまった。


 その夜、ジュンスは結局、プリンス・チャーミングの願いを聞き入れ、朝まで彼と一緒にいた。
 
「あなたはなぜ、あんな大金を払って、オークションで僕を買ったのですか? 何もする気がないのに、あんな大金を払うなんて、あなたこそ気がふれたとしか思えない。

 第一、こういうことに興味がないようなのに、なぜオークションに?」

「学生時代、大嫌いだった奴に街中で会ってさ、そいつが私の友人サーシャのことを侮辱して、“サーシャよりも何倍も可愛い新しい愛人を見つけた。見せてやる”、と自慢するから見に来たんだ。それが君だよ」

「それで嫌な友達への腹いせに、オークションで僕を買ったんですか?」

「そうじゃない。君があまりにサーシャに似ていたので、サーシャがオークションにかけられているようなそんな気がした。それもあの、嫌な奴に買われようとしていたから、あまりに可哀そうで、見ていられなかったんだ」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】頭に咲く白い花は幸せの象徴か

鹿嶋 雲丹
ミステリー
君の深い苦しみや悲しみは私が背負うから、君は休んでいいんだよ? さあ、どうする? 虫と幼なじみを賭けてゲームをする女子高生・エリカのお話と、虫と冷戦中の恋人を賭けてゲームをするOL・汐里の物語。 白鳥エリカと香川圭介は、同じ団地に住む幼なじみ。 年齢が同じ二人は、保育園から高校まで同じ場所に通っている。高校2年生の今は、クラスまで一緒だ。 大人しくて暗い雰囲気を漂わせていた圭介が、ある日を境に爽やか笑顔を振りまく明るい男子高校生になる。 だが、不自然なのはそれだけではなかった。圭介の頭には、エリカにしか見えない白い花が咲いていたのだ。 圭介はなぜ変わったのか、白い花はなぜエリカにしか見えないのか? 決められた期限内にゲームの勝利条件をクリアできなければ、圭介の、亮太の、それぞれの意思は完全になくなってしまう。 勝ちたい。勝って取り戻す、必ず。 奮闘する女子高生エリカと、その数年後のエリカの友人、OLの汐里の物語。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

処理中です...