海を見ていたソランジュ

夢織人

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第1章 パラダイス・シティーの闇

第4話 血まみれの恋人カイルを見たいのかな?

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 エルの新しい身請け人は、パラダイス・シティーでも有数の富豪の男で、古きよき時代の地球の貴族文化と暴君たちの伝説を愛した。

 男は昔で言う、王侯貴族のような生活を再現して、暮らしていた。
 男はまるで宮殿のような屋敷に、2級市民の美しい少年少女を集めてきては、ハーレムを創るのが趣味だったのだが、男はエルに対してはハーレムに住むペットではなく、生きた美しい宝石になることを望んだ。

 男はエルに宝石入りのチョーカーと一対のブレスレット、そして一対のアンクレットを贈り、身につけさせた。
 宝石に興味の無いエルでも、一目で贈り物が高価なものであることはわかった。

 男は上機嫌でその宝石をエルの素肌に次々と付けていった。
 そして、言った。

「この宝石はとて珍しく高価なものなので、盗難防止の鍵付きなのだよ。
 お前が身に付けると、本当に美しい」
と云うと、男はすぐにその美しい装身具に埋めこまれていた男の指紋認証入の鍵でロックをかけた。
 美しい宝石のついた装身具は、エルを拘束するための特注品で、自由を奪うものでもあった。
 
 男は、クラブ「コカパバーナ」の常連で、クラブではいつも優しい紳士で通っていたから、このようなことになるとは、クラブの誰もが思っていなかった。
 しかし目の前にいる男は、明らかにクラブで見かけたやさしく柔和な紳士ではなく、狂気を宿した暴君そのものだった。 

 エルは初めて、男を怖いと思った。しかしその時はすでに後の祭りで、逃げ出すことなど不可能な状況だった。
 美しい装身具は簡単にエルの自由を奪った。男がスイッチを入れると、ベッド全体がが磁気をおび、美しい宝石入りの装身具は簡単に凶器に変わった。埋め込まれていた磁気のせいで、エルはあっという間に、その両手両足の自由を奪われ、ベッドに縛りつけられた。

 その部屋は照明も凝った仕様で、AI技術がふんだんに使われていた。男が”ゼウス”と名付けたAIは、建物全体を管理していたのだが、ゼウスは男の思考と同期しており、男の願望を忠実に再現した。 

 その夜、部屋の照明は漆黒の宇宙を再現し、エルがまとった装身具は光輝く星となり、エルの美しい肢体を夜空に輝く宝石のように浮かび上がらせた。やがて四方に巨大なスクリーンが浮かびあがり、AIは磁気の流れを調整することによって、エルの体の動きを自由に操つり、男の願望のままに、エロティックな踊りをエルに踊らせた。磁気の巨大な力により、自由を奪われ、意思に反した動きを強要されるエルの苦痛は拷問以上のものだった。エルはもちろん、苦痛にあえいだのだが、その苦痛にあえぐエルの表情をも巨大スクリーンは見逃さずに映し出した。
 男は恍惚とした表情で、スクリーンに映し出されるエルの踊りと苦痛にあえぐ表情を楽しんだ。
 エルはやがて、その苦痛に耐えられず気を失った。

 エルが目覚めたとき、男は優しさとは無縁の表情で、冷たく笑いながらエルに言った。

「今日から、私のことはご主人さまと呼ぶのだ。
 そして命令には絶対服従だ。私はどんな口答えも許さないし、逆らったりしたら、すぐお仕置きだからな」

 そのようにして、エルの地獄の日々は始まったのだが、さらにひと月後、大きな不幸がエルを待っていた。
 恋人カイルが、エルを探して富豪の男を訪ねたのだ。
 そして富豪の男は、エルに恋人がいたことを知った。

 男はカイルが帰ったあと、とつぜんエルの拘束を解いた。
 エルはとうぜん逃げたのだが、部屋を出てすぐに警備のものにつかまり、また男が待つ部屋へ戻された。
 エルは男の前にひざまずかされた。

「エル、私はお前という美しい宝石を壊したくないのだ」
と男は笑いながら言った。男が暮らす宮殿のような家では、男は凶暴な野獣そのものだったので、エルは恐怖に震えた。

「私は今日まで知らなかったのだが、お前には恋人がいたそうだな。
 名前はカイルで、地球防衛軍の中尉だとか・・・。
 今でも愛しているんだろう? だったらなおさら、私に逆らわないことだ。
 あの男を消すぐらい、私には簡単なことなのだから」
と、男は言った。

「これからは、お前が逆らえば、お前ばかりでなく、お前の愛するあの男も捕まえて、私は必ず罰を与えるからな。
 それもお前より何倍もの重い罰を与えてやる。
 愛する男を護りたければ、私には絶対、逆らはないことだ」
と云った。

 なおも恐怖に震えるエルに、男は言った。

「なぜ、カイルのことを知っているかって?
 今日、奴は愚かにも、私に助けを求めに来たのだよ。
 もちろんお前のことは何も知らないと答えたがね。

 お前は2級市民だから、どこを探したって記録は存在しない。
 ヤツはお前の消息の糸口さへ見つけられなくて、困っていた。
 何か手掛かりがあれば、教えてほしいと、わざわざ連絡先まで教えてくれたよ」
と言って、男は悪魔のように微笑んだ。

「さあ、エル、私はもうお前に無理強いはしない。しかしお前が私を満足させられない場合は、お前の恋人カイルがその代償を払うことになる。そのことだけは肝に銘じておくように」
と男は言った。

「さあ、エル、私を満足させておくれ。どうすれば良いかは、このひと月ですべて教えたつもりだ。
 そんなにビクビクするな。お前が失敗しても、私はお前を許すつもりだ。ただいつまでも、待てないぞ。
 私は退屈することが、一番嫌いなのだ。お前がいつまでも態度を改めなにのならば、代わりにお前の恋人を血だるまにするゲームを始める。もちろんその場合は、お前の恋人は命を失うことになるがね」
 そう言うと男は、エルの腕つかみ、強引にエルを引き寄せ、耳元でささやいた。

「さあ、私を満足させておくれ。それとも血まみれの恋人カイルを見たいのかな?」





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