海を見ていたソランジュ

第1章 パラダイス・シティーの闇

第5話 楽園の闇に消えた恋人

　カイルはそれまで、２級市民のことを深く考えたことはなかった。
　ただ単に２級市民とは、劣勢遺伝の持ち主であり、能力が足りないものたち、そしてすべてにおいて１級市民に劣る者たち･･･、と云う認識だった。

　しかしエルは明らかに違っていた。
　他の誰よりも美しかったし、ダンサーとしての能力も一流舞踊団のどの踊り手よりも優れていた。
　それなのにショーダンサーに甘んじていることを、前から不思議に思っていたのだが、エルの居場所を探す過程でカイルはついに知ってしまったのだ。パラダイス・シティーが抱える、深い闇を･･･。

　エルが２級市民として生きなければならなかった理由は、ただひとつ。
　それはエルがパラダイス・シティーが運営するラボ生まれではなく、認可外の場所で不法に生まれた子供だったからだった。そしてエルのようなケースの場合、その子供たちの親は、ほとんどがこのパラダイス・シティーのエリートであり、一級市民であることが多かった。

　パラダイス・シティーはAIが管理する高度に発達した夢の楽園都市だったが、資源が限られているこの地球では、その夢の都市に住める者はごく限られた者たちでしかなかった。
　それゆえシティーの人口はAIが厳しく管理していた。

　子供の誕生もすべてAIが作成した計画のもと、(工場でロボットを作るかのように)、ラボで生み出され、育成された。そして子供たちは、みなラボで一級市民の市民番号を授与された。
　それゆえラボ生まれでないものは、両親が一級市民であろうとも、一級市民にはなれないシステムだった。

　不法に子を成すことはパラダイス・シティーでは重罪であったため、親たちは法を犯したことを当局に知られ一級市民の権利を剥奪されることを一番恐れた。それゆえ、子供たちは生まれてすぐに捨てられてしまうことが多かったのだ。

　まれに２級市民になってでも子供を育てようとする親もいたが、その場合、親は重罪を犯した犯罪人となり収監され、子供は結局２級市民の孤児となり、施設で育つのだった。

　その時初めてカイルは、高度に発達した“楽園”と言われていたパラダイス・シティーの恐ろしい側面を知ると同時に、エルの深い絶望と悲しみを知ったのだった。

　しかし思い出の中のエルは、儚げではあったが、どこまでも美しく優しかった。
　カイルは何としても、恋人エルを探し出すつもりだった。