海を見ていたソランジュ

第1章 パラダイス・シティーの闇

第2話 カイルは仕事を放棄し、ひと月以上も会えなかった恋人に会いに行った。

　その日、カイルは新パラダイス・シティー統治官アンジーの護衛官、と言う輝かしいエリートコースの仕事をついに放棄した。そしてエリートコースを外れようとも、この任務のおかげで一月以上も会えなかった恋人エルに会うべく、ひたすら走り続けた。

　もう我慢の限界だった。
　恋人エルとの将来を考え、エリートコースの任務に無理矢理自分を合わせようとしたが、もはや耐えられそうもなかった。
　カイルは士官たちの憩いの場であるクラブ「コカパバーナ」へ向かい、ひたすら走り続けた。

 　そしてクラブの前に辿りついたカイルは、開店前にも関わらず、
「もうエルは来ているんだろう？」
と言い、中へ入ろうとした。

　しかしオーナーは、
「困ります、お客さま」
と言って、中へ入れようとはしなかった。

「なぜ、入れないんだ？ 私とエルは公認の仲なのに」
と言うカイルに、しかしオーナーは冷たく言い放った。
「もはや、公認の仲ではありません」

　そう言われてもカイルは、とまどうばかりで、
「オーナー、良く顔を見てくれよ。私は･･･」
と名前を言おうとしたカイルに、
「地球防衛軍カイル・ドルー中佐ですね」
とまたもや男は、冷たく言った。

「私はドルーさまのような、不誠実な男の誘惑から、エルのような世間知らずで純情な才能のあるダンサーを、守る義務があるのです」
と言うと、ドアを閉めようとした。

「不誠実･･･？」
そう言われてもカイルは戸惑うばかりだった。

「私のどこが不誠実だって言うんだ。
　浮気なんか一度もしたことが無いし、優しすぎて傷つきやすいエルのことをいつも心配しているのに、どこが不誠実だって言うんだ？」
と言って、カイルはなおも中に入ろうとした。

　しかしオーナーは、
「エルとの約束を破りましたよね？」
と責めるようなまなざしで冷たく言った。

「約束を破った？　何のことだ？」
とまたもや途惑いながら、カイルはオーナーに言い返した。

「それは美しい女性と、この１ヶ月、いつも一緒だったと、親切に教えてくれた常連客がいるんです」
とオーナーはカイルに言った。

「エルはあなたの身に何かあったのではないかと心配して、食事も喉に通らなかったのですよ。それなのに、あなたときたら、目も覚めるような美しい女性と浮気をしていたなんて！」

「それは濡れ衣だ。私は浮気などしていない。何かの間違いだ」
とカイルは反論した。しかし･･･

「エルはあるとき、常連のかたから、知らない女性と一緒にいるあなたの浮気現場写真を見せられたのです。
　エルはとうぜんショックで倒れてしまいました。それから本当に、エルがどんなに大変な思いをしたか、あなたは知らないから、そんな顔をしていられるのです」

「とにかく、エルはもうここにいないし、どこにいるかも教えられません」
とオーナーはカイルに冷たく言い放ち、ドアをぴしゃりと閉めた。