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第1章
王女ルナの恋 ⑤ 主治医リールイは大尉の呼び出しに怒り心頭だった。
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医師リールイはその日、数週間に一度しか訪れない“聖なる時間”を、あの俗物極まりない大尉に邪魔されて、怒りの頂点にあった。
大尉はその日、くだらない些細なことで、リールイをまた呼び出し、文句を言ったのだ。
「先生、何時になったらあの重罪人は、国家のために役に立つ人間に、なるのでしょうね?」
大尉はリールイを小馬鹿にした口調でなおも続けた。
「上には研究は順調に進んでいると、あなたは報告しているようですが、私の目には、何も研究は進んでいないように見えますがね?」
「あなたに心配してもらわなくても、順調に進んでいます」
リールイはぶすっとした面持ちで、そう答えた。
リールイにとって、上の命令など、もはやどうでも良かった。
リールイはすでに、“聖なる者”である、あのあまりに哀しい運命を国家から背負わされた青年を、何としても助けるつもりでいたのだ。
ソヨンが気づくように、秘かに写真と秘密情報を漏洩させたのも彼だった。
彼はアメリカでの留学時代、韓国出身のソヨンとも、そしてロシアの富豪の娘であるニーナとも出会ったのだが、3人は学年のトップを競い合った仲だった。
ニーナもソヨンも、とても優秀な学生だったのだが、リールイの優秀さは、その上をゆき、教授も舌を巻くほどだった。しかし彼はそれほど豊かではない家庭の出身だった。アメリカに残れば、その才能をたぶん発揮できたはずなのだが、両親の希望もあり、彼は結局、母国へ戻った。
しかし後ろ盾の無い彼は、出世とは無縁だった。
リールイがこの鉄条網に囲まれた、秘密の研究施設へ赴任することを引き受けたのは、高給と出世の糸口を求めてのことだったのだが、“聖なる者”と出会い、共に過ごす時間のなかで、その思いはいつしか跡形も無く消えていった。
大尉はその日、くだらない些細なことで、リールイをまた呼び出し、文句を言ったのだ。
「先生、何時になったらあの重罪人は、国家のために役に立つ人間に、なるのでしょうね?」
大尉はリールイを小馬鹿にした口調でなおも続けた。
「上には研究は順調に進んでいると、あなたは報告しているようですが、私の目には、何も研究は進んでいないように見えますがね?」
「あなたに心配してもらわなくても、順調に進んでいます」
リールイはぶすっとした面持ちで、そう答えた。
リールイにとって、上の命令など、もはやどうでも良かった。
リールイはすでに、“聖なる者”である、あのあまりに哀しい運命を国家から背負わされた青年を、何としても助けるつもりでいたのだ。
ソヨンが気づくように、秘かに写真と秘密情報を漏洩させたのも彼だった。
彼はアメリカでの留学時代、韓国出身のソヨンとも、そしてロシアの富豪の娘であるニーナとも出会ったのだが、3人は学年のトップを競い合った仲だった。
ニーナもソヨンも、とても優秀な学生だったのだが、リールイの優秀さは、その上をゆき、教授も舌を巻くほどだった。しかし彼はそれほど豊かではない家庭の出身だった。アメリカに残れば、その才能をたぶん発揮できたはずなのだが、両親の希望もあり、彼は結局、母国へ戻った。
しかし後ろ盾の無い彼は、出世とは無縁だった。
リールイがこの鉄条網に囲まれた、秘密の研究施設へ赴任することを引き受けたのは、高給と出世の糸口を求めてのことだったのだが、“聖なる者”と出会い、共に過ごす時間のなかで、その思いはいつしか跡形も無く消えていった。
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