5 / 7
第1章 ベルヴァルデ帝国へ
04 * 深まる謎
しおりを挟む場所は変わり、マレーベン聖王国。
「ティナ、大丈夫かい?」
「殿下、心配してくださって有難うございます」
ちょうどリベルタスが襲われていた時間、ティナとフォーリは様々な色のバラが咲く薔薇の庭園にてティータイムを楽しんでいた。
ティナは憂いのある表情を見せながら、少し無理に笑って見せた。
「優しい君はあんなのでも姉を愛していたのだろう?僕は出会った当初から自分が偉いと勘違いして鼻にかけたような態度が気に食わなかったけどね」
「そう…ですわね」
ティナはその言葉でリベルタスのことを思い出して怒りが顔に出たのだが、見せてはいけないとすぐに笑顔を繕って見せた。
フォーリは気づかず紅茶を飲むとそのまま話を続けた。
「婚約の時、彼女ともここを散歩することになったのだが―――」
******
「まぁ!素敵な薔薇ですわ!フォーリ殿下、見せていただきありがとうございます」
「そうだろう?僕はこの黄色い薔薇が特に好きなんだ。僕の髪の色に似ていて」
10歳のリベルタスは屈託のない満面の笑みを浮かべる。
フォーリはこの時、リベルタスの表情を見て、その美しさに少し見惚れていた。
ならば彼女に薔薇を送ると喜んでくれるのだろうか?
そう思い、黄色い薔薇をつまんで見せようとした。
「殿下!いけません!」
「!?」
フォーリは摘もうとしたその右腕をリベルタスにつかまれた。
(どうして?僕は君に花を贈ろうとしただけなのに)
リベルタスはさっきの美しい表情とは打って変わり、鬼の形相のように見えた。
「申し訳ありません。薔薇には棘がありますので殿下が怪我をなさってしまう可能性があります。薔薇の棘で傷を負うと最悪、死んでしまう恐れも…」
「無礼だぞ!王宮の薔薇に毒があるとでもいうのか!?」
王宮に毒なんてありえない。
彼女の発言は王宮を侮辱しているようにも聞こえる。
フォーリはリベルタスに対する最初の印象が良かった分、嫌悪感が膨れ上がってしまった。
「いえ、そういうことでは…。薔薇の棘は複雑な形状でそのため感染症を引き起こす可能性もあるのです。あと、女性に黄色い薔薇を渡すのはあまり…」
「うるさい!!!」
自分が物知りだというアピールか?
それとも王太子である自分を馬鹿にしているのか?
こんな薔薇の棘なんかで怪我をするとでも?
この僕が花をプレゼントしてあげようというのに、何が気に食わない?
「何も言わず黙って受け取ればいいものを。気分が悪い。もう帰ってくれ」
フォーリはそのまま庭園から去り、この日はお開きになったのだ。
******
「そうでしたの。勘違いも甚だしいですわね」
「だろう!それに比べ、君は本当に素晴らしい!」
今度は隠さずに嫌悪感を表わすティナの姿を見て、フォーリはやはり自分は間違っていなかったんだと喜び、数日前の話を振り返った。
それは、生誕祭の前日。
聖女の力が目覚めた時のことだ。
公爵家へ訪れていた際、立ち眩みを起こしたリベルタスはそのまま棚にぶつかってしまった。
婚約者の傷つく様を放置するのは恥だと庇ったのは良いものの、落下物が頭に当たり、フォーリの頭から血が流れてきたのだ。
リベルタスは自分が助けるとわかってやったに違いない。
そのまま酷く慌て泣きながらフォーリを心配するふりをしたのだ。
「殿下!大丈夫ですか!?すみまっ、申し訳ありません、私のせいで…誰か、誰か来て!殿下が!」
「お姉さま!?どうなさったのですか!?」
そこへ、リベルタスの声に気づいたティナが駆け寄ってきた。
泣き慌てて悲しんでいるリベルタスと頭から血を流すフォーリを見て、ティナは目を大きく見開き驚いた。
ティナがフォーリに近づき頭に触れた時だった。
目も開くことのできないほどの美しい光がフォーリとティナを包み、たちまちフォーリの傷は跡形もなく治ってしまったのだ。
これが、聖女の覚醒の時の流れだった。
「僕を心配して聖女の力が目覚め、そして僕の傷は治った。そんな君に強く惹かれたんだ。婚約できて本当に幸せだよ」
それを聞いたティナは嬉しそうに微笑んだ。
******
一方、ベルヴァルデへ向かうリベルタス達。
光が収まり、心配し駆け寄る皆が見た姿に驚いた。
死にかけだったあの猫に傷はなく、白い綺麗な姿をしていたのだ。
「聖女の力…?」
「ファウスティナお嬢様が聖女のはずでは…。」
この光に包まれた光景は先日の聖女覚醒の時と同じものだ。
貴族は魔法を使えるものが多いのだが、治癒の力は聖女にしか現れない。
そして、聖女が二人現れたという記録も残されていない。
聖女の力がティナではなく、リベルタスのものだったという可能性もあるのだ。
「リベルタスお嬢様が聖女だったということ…?」
「いえ、聖女は確実にティナだったはずよ。」
リベルタスは知っていた。
前回の生では、一度も治癒の力が発生することはなかったし、聖女覚醒の際も間違いなくティナがフォーリ殿下に触れた瞬間に治癒が起きていたし、あの光もティナとフォーリ殿下から出ているものだった。
ティナに何かがあったのだろうか。
それとも、過去に戻ったことで、他にも何か変わったことがあるのだろうか。
(けれど、こんなことが知れ渡ったら大ごとだわ。隠さないと…。)
この白猫が元気になったことに喜びを感じたが、この力がバレると、マレーベンに戻されるかもしれない。また、あの惨劇が起こるかもしれない。
両親に愛されず、最愛だった妹に訳も分からず恨まれたまま、生きていたくはない。
リベルタスは猫を抱えたまま立ち上がり皆を見た。
「双子なのだから、私にも力があったのかもしれないわ。けれど、このことが知られると少し面倒なことになるかもしれない。秘密にしていてくれる?」
「勿論です!」
「我々もリベルタスお嬢様の護衛です。他言いたしません。」
皆が胸に手を当て敬礼する。
この事実はリベルタスを除いてこの場の4人しか知らないのだから、言わなければバレるはずもない。この4人であれば安心できる。
「お嬢様方!馬車の準備ができたようです!」
後ろから馬車に残っていた一人の護衛が走ってくる。
サンドイッチは食べれなかったけれど、今無理して食べる必要もない。
ユーリとバルト達は先に馬車へ向かった。
(一体、どうなっているの…。前回では力を使えなかっただけ?過去とは違う未来になっていることが多すぎる。これは一度、調べてみないと…。)
猫を降ろし、リベルタスもその後をついていった。
この一連の流れを見ていた者がいたことにも気づかずに。
「へぇ、面白いことになってるじゃない。」
湖の奥の茂みからリベルタス達を眺めているその女性は、静かに笑った。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる