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第1章 ベルヴァルデ帝国へ
01 * 目覚めるとそこは
しおりを挟む「はっ…!!」
目が覚めると、ふわふわの布団で、いつもと同じ自分の部屋。
外からはしばらく過ごしていた牢屋とは真逆の明るい陽射し。
リベルタスは無意識にそっと首をなでた。
妹、ファウスティナにナイフで切られたはずの首に痛みもないどころか、傷が残っている様子もない。
死んだはずではなかったのか…?
傷が治るほど寝ていたというのか…?
いや、一ケ月後に斬首刑と言われてから幾つかの日が過ぎていたのだから、傷が治るほどの時間もなければ、自室に戻ることが許されるはずもない。
でも、今までの話を夢だとは思えない。
「どういうこと…?」
そっと声を漏らした時、「コンコン」と部屋をノックする音がした。
「お嬢様、ユーリです。よろしいですか?」
「どうぞ。」
ユーリは幼いころからのリベルタス専属の侍女だ。
水色の髪がとても美しいのだが、侍女なので後ろへお団子にして纏めているのがとても勿体なく感じる。
姉のように優しく見守っていてくれて、彼女だけは私とティナが仲良かったことを知っていてくれていた。
(状況がわからないから、とりあえず様子を見なくては…)
そう心に決めると、そっと息を吞んだ。
「あら?お嬢様、顔が真っ青ですけれども、悪い夢でも見ましたか?」
そういう彼女は、最後の記憶よりも少し若く見えた。
「えっと…、そうかもしれないわ。ちょっと変な夢を見てしまって、日付も混乱しているの。今日は何日だったかしら?」
「本日は4月1日、お嬢様の婚約者フォーリ殿下の11歳の生誕祭です!話し方も大人びてしまうくらい怖かったのですね。大丈夫ですよ、お嬢様。夢は夢で、現実ではないのですから。」
そう微笑みながら、持ってきたピッチャーから水をグラスに注いで手渡してくれた。
氷のおかげか混乱していた頭が冷えて、この奇怪な状況を考えることができそうだ。
(フォーリ殿下が11歳ということは、あの事件から5年前…。そして、昨日はティナの聖女の力が発覚した日じゃない!生誕祭のことはよく覚えてるわ。散々だったもの。)
生誕祭にて、ティナの聖女の力の発表とお披露目も兼ねていた。
婚約して1年後だったため、周りの貴族からの批判も酷かった。
なぜ婚約して1年後だったのか。
婚約する前なら聖女と婚約させることができたのに。
双子ならば婚約者を替えても問題ないのでは?
双子でありながらも髪の色も姉より妹のほうが綺麗なプラチナブロンドで見目麗しく要領も良いし、数時間先に生まれただけで決められた婚約よりも妹のほうが適任なのでは?
そういった声が悲しくもリベルタスまで聞こえていた。
聖女の力が発覚してから、フォーリとティナの仲も深まっていったのだ。
さっきまでの、牢屋でのアレは、未来予知だったのか…
(いや、あの生々しい痛みは現実よ。ということは、時間が巻き戻った?そんなことあり得るのかしら…。でも、実際起きているのだからそうと思うしかないわね。)
未来予知にせよ、巻き戻ったにせよ、先に起こることはわかっているということ。
ならば違う未来にすることもできるかもしれない。
「お嬢様…?大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい、ユーリ。考え事をしていたわ。」
「昨日のことでしたら、心配しないでくださいね。ファウスティナお嬢様が聖女だからといって、お嬢様が無下に扱われることなんて許されませんから!あれほど勉強を頑張っていらしたもの!」
「ありがとう、そういってくれるのはユーリだけよ。」
「では、本日の準備を致しましょうか?」
ユーリはリベルタスの不安をかき消すかのように温かく微笑んだ。
(とりあえず、時間は5年はあるのだから、ゆっくり考えればいいわ!そして、あの悲劇を防ぐようにすればいい。)
心に決め、リベルタスはベッドから降りた。
******
着替えにメイクにヘアセット。
その時間だけでもゆっくり考えられる時間はあった。
(まずはなぜああなったのか整理をしなくては…)
死ぬ前には聖女に対してのナッツアレルギー事件と盗難事件、突き落とし事件によってリベルタスは斬首刑を言い渡された。
―――ファウスティナ、ベルフート公爵家の侍女、そしてベルフート公爵からの証言もあるのに、何が誤解だ?
私の侍女であるユーリが証言するには可能性が低い。
おそらく、ティナの侍女の証言なのであろう。
お父様であるベルフート公爵はティナには甘いが厳格な方だ。
そう思われても仕方がない。
(悲しいのは、ティナにまで信じてもらえていなかったということね。)
ドレスを着替えながら「はぁ」とため息をつく。
嫌われ続けてると思い、挙げ句の果てには殺されかけたのなら、殺したくなっても仕方がない。
聖女であっても、一人の人間なのだから。
(…いや?おかしいわ?)
アレルギーの件、盗難の件は悪意があると思われても仕方がない。
けれど、階段の突き落とし事件は?
…誤解じゃない。
ティナはリベルタスを庇って落ちたのだ。
リベルタスがティナを殺そうとしたと、誤解するわけがない。
(よく思い出すのよ。そういえばあの時…)
―――私は、ティナのことを愛していたわ
―――ええ、知っていますわ
そして、リベルタスはティナに殺されたのだ。
殺されかけた仕返しに殺されたわけではない。
そこにあったのは、そう、確実な。
(悪意の殺意…でしかないわ。)
リベルタスを排した後、二人は婚約をした。
聖女を殺そうとした悪女を葬り、聖女と皇太子が結ばれることになる。
ティナがそうするように仕向けていたのだ。
それを悟ってしまった瞬間、どうしようもない感情が湧き上がってくる。
ティナへの怒り、行き場のない虚しさ、殿下への憎しみ、そして、捨てきれないティナへの愛情…。
そんなことを考えていたら、いつの間にかメイクもヘアセットも終わっていた。
「お嬢様、終わりましたよ。本日もとてもお美しいです!」
「…そう?ありがとう。」
鏡に映った自分の表情が、とても醜く見えた。
瞳の色に合わせた淡い水色のドレスも、淀んだ白い髪の色も、全てが悲壮感を漂わせたようにしか見えなかった。
でも、今はまだ起こっていない事件だ。
これ以上、起こっていない未来に落胆しても仕方ない。
フォーリ殿下との婚約を解消しティナとフォーリ殿下が結ばれるようにすれば、あの最悪の未来を変えられるに違いない。そして、ティナと和解することもできるかもしれない。
「よし!ユーリ!私は頑張りますわ!」
「えっと…?よく分かりませんが、私は応援してます!」
未来を知っているのだから、これからティナに嫌われず、フォーリ殿下と婚約解消し、断罪されない未来にすればいい。
両手でかわいらしくガッツポーズをしたリベルタスを真似して、ユーリも小さく両手でガッツポーズをするのであった。
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