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「リベルタス・フィン・ベルフート!この瞬間より貴様との婚約を破棄する!!」



 王宮の広いダンスホールに王太子、フォーリ・マグタ・マレーベンの声が響く。

 今日はリベルタスがフォーリと婚約し6年、フォーリが16歳になる成人祝いパーティーのはずで、こんな悲惨なものになるはずではなかった。

 リベルタスの濁った白い髪は、まるで今の悲壮感を表わしているかのようだった。



「フォーリ殿下!一体、なぜ急に…」

「黙れ!!」



 リベルタスがフォーリの奥に目をやると、そこには双子の妹、ファウスティナがいた。

 彼女はリベルタスと違い、白が光に照らされ輝くように薄い金色の髪をしており、厳しく育てられてきたリベルタスと違い、両親には愛されて育ってきた。
 そして、何の能力もないリベルタスとは違い、ファウスティナはこの国唯一の聖女だ。



「ティナから、いや、聖女ファウスティナからすべて聞いている!」



 ティナは家族が使っている愛称だ。
 言い直しているものの、二人の仲の良さを見せつけられた気がしてより一層胸を締め付けられた。

 フォーリはリベルタスを睨みつけながら指を差し、そのまま続けた。



「能力のない貴様がファウスティナに嫉妬し、毒入りの料理を食べさせたり、大切なものを盗もうとしたり、挙句の果てには階段から突き落とし殺そうとしたそうだな!」

「そ、それは、誤解です!!」

「ファウスティナ、ベルフート公爵家の侍女、そしてベルフート公爵からの証言もあるのに、なにが誤解だ?」



 ダンスホールにいる他の貴族たちは「許せない!」「言い訳を聞く必要はない!」「聖女様になんてことを!」と続々と非難の声を上げる。

 心当たりがないわけではない。
 でも、それらの話は本当にすべて、誤解なのだ。

 毒入り料理はティナの誕生日に作ったクッキーにナッツが入っており、アレルギー反応によって発作を起こした。
 その時にナッツアレルギーが発覚したのだが、もちろん、私を含む誰一人としてナッツアレルギーだと知っていた者はいなかった。

 盗みの件も、ティナのお気に入りのネックレスが紛失で大騒ぎになった際にリベルタスの部屋から出てきたのだが、それも二人で一緒に遊んだ時にティナのお気に入りのネックレスのチェーンが切れ、たまたまリベルタスの服に引っかかっていたというもの。

 そして、階段の突き落とし事件は、リベルタスが階段から落ちそうになったのをティナが助けた衝動でそのまま落下してしまった。
 おそらく、見ていた侍女には突き落としているように見えたのかもしれない。


 だが…



(ティナと違って、私は誰からも愛されていない…。そんな私が言ったって信じてもらえるわけがない…。)



「聖女ファウスティナは優しいから国外追放で許してやれと言っていたが…。」

「そこからは儂が伝えよう。」



 静観していた陛下が口を開いた。
 陛下が口を開くということは、フォーリの一存ではないということで、もう既に王国で決まってしまったことなのだ。


 そして、ティナの国外追放の願いを受け入れられなかったということは。



「この国唯一の聖女を殺そうとした罪、家族といえども見過ごせるものではない。聖女が許そうとも、さすがに庇う事はできぬ。よって、一ケ月後に斬首刑とする!」



 陛下はリベルタスを恨みのこもったような目で睨んだ後、大きく息を吸い、そのまま続けた。



「そして!この瞬間にて聖女ファウスティナ・フィン・ベルフートと王太子フォーリ・マグタ・マレーベンの婚約を発表する!」



 陛下の決定と、貴族たちの喜ぶ賛成の声を聴き、リベルタスはその場に力なくへたり込んでしまった。

 陛下が発言するよりも先にわかってしまった。
 国外追放よりも、もっと重い刑なのだということを。

 でも、私は今まで死刑を宣告されるような非道なことをしてきたことは一度だってない。
 だから、心が追いつかない。


 ファウスティナとリベルタスは、双子ではあるが、生まれた日付は一日違いだった。

 早く生まれたリベルタスよりも難産でかなり時間がかかって生まれたのだ。
 そのため、両親はティアを心配し、たくさん愛を注いで育ててきた。
 一方リベルタスは長女であり、王太子と婚約させるため厳しく育てられてきたのだ。

 愛称「リビィ」と呼ぶのは妹のティナだけで、両親からはいつも「リベルタス」と呼ばれていた。ティナは「ティナ」と優しく呼ばれていたのに。

 何をしてもティナを妬み虐めている姉に見られてしまっていた。
 婚約者であるフォーリもいつからかティナと仲良く過ごすことが多かったのも何となく気づいていた。
 ティナの聖女の力が発動したのが11歳の時だった。
 もう少し早ければ、そのままフォーリとティナが婚約していたのだろう。



(誰も愛してくれない。味方もいない。早く終わってしまうほうが楽だわ。)



「衛兵よ、この者を連れていけ。」



 そうして、リベルタスは成す術もなく牢屋に連れていかれたのだった。




 ******




「…さま。リビィ姉さま。」



 リベルタスは、ティナの声で目が覚める。
 牢屋の目の前に、普段めったに着ないであろう、黒い質素なドレスを着たティナがいた。



「私は、ティナのことを愛していたわ」

「ええ、知っています・・・・・・わ」



 にっこりとほほ笑むティナは、双子のはずなのに自分と違い、とても美しく思えた。
 あれから何日たったのかもわからないが、まもなく処刑される姉を、最後に一目会いに来たのだろうか。



「あぁ、愛しい私のお姉さま。両親にも婚約者にも愛されずに、なんて可哀想な。ずっと辛かったでしょう?」



 ティナが今にも涙が溢れそうな泣きそうな表情をして牢に近づくので、無意識にそっとリベルタスもティナに近づいた。
 そして、そっと檻に手を伸ばした時だった。




 ガッ!!!




 ティナが左手で腕を引っ張ってきたのだ。
 そして、狂気じみた、聖女らしからぬ顔で高らかに笑う。
「ふふふ、あははははは!!!!!」と。



「お姉さま、次こそ幸せになれることを祈っておりますわね。せめて、一瞬で息の根を止めてあげますわ」



 手に持ったナイフに魔力を込めているのか、自分に向けられたナイフは不思議な色に光りだした。
 魔力を込めて確実に殺そうとする意思をそこに感じる。


 首に熱を感じた瞬間、目の前のティナが赤色に染まり、視界が暗くなっていく。



「お姉さま…、私は絶対に許しませんわ…。」



 ティナの声が暗闇から聞こえたものの、痛みも感じないし、動くこともできず、死を感じていた。



(私は何もしていないわ。なぜ、どうして、そんなに私を恨んでいたの…?)



 少し待てば斬首刑で死を迎えるのに、わざわざそんな私を殺しにくるほどにも。

 私は、あなたを愛していたのに。
 貴女は、私にないものをたくさん持っていたはずなのに。


 そして、リベルタスの生はそこで終わったのだった。

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