御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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まさかの地球で激闘が

皆で揃って屋敷へと

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「さて、同盟も終わったし、国家祓魔官として、俺はあんたのことを知りたいんだが」

趣味の悪い笑みを浮かべながら、戒律が紡へと詰め寄る。

「残念ながら、教える気は無い。
初対面で何か企むようなやつを信用するわけないだろ」

「悪かったよ。ちょっとおふざけが過ぎたわ。
これは、冗談抜きでの話なんだが、ゼロ。お前が希望するなら、国家祓魔官にならないか?
俺から上官には話通しておくから」

国家祓魔官か…まさかそんな提案をして来るなんてな。

「…そんな簡単に、国家祓魔官って、なれるものなのか?」

「そんなわけ無いだろ。実際であれば、『筆記試験』『実力試験』『面接試験』の3つを受けた上で、妖界へと出向き、『実地試験』に合格した者がなれるんだよ。
合格率2%のかなり狭い関門だ」

へぇ、そんな厳しい関門なのか。

「そんなものに何故俺を?」

「はぁ…お前、本気で言ってんのか…」

そんなもん本気に決まってんだろ。こちとら『出来損ない』だぞ。

「当然」

「マジかよ。お前は自身の異常性を理解してないようだな」

異常性?いたって普通の高校生なんだが。

「どうやら、本気みたいだな…」

首を傾げている紡に、戒律は深い溜息を吐きながら頭を抑える。
それを近くで伺う蒼華は、困る戒律が珍しいのか、それを眺めながらクスクスと笑っていた。

「お前は、陰陽師の名家、『巫家』と同盟を組んだ。それは間違いないよな」

「ああ、そうだな」

「その時点で異常なんだよ。同盟となれば、『巫家』がお前を脅威に感じたということ。その上、今回は対等の同盟だ。お前を『巫家』が、同列と認めているということだ。鎌倉から続くこの名家がだぞ!その時点ですら異常だ」

その言葉に蒼華も深く頷く。それは、肯定を如実に表していた。

「さらに、歴代最強と言われる蒼華に、化け物と言わせるほどだ。
そんな者はもうただの人物とは言えない。ツチノコ並みの異常生物だぞ。
そんな危険人物、国家祓魔官部隊長として、スカウトしないわけには行かないんだよ」

呆れながらも、強くそう語る戒律の瞳は、その風貌もあり、かなりの迫力であった。
いつのまにか、かなり危険視されてしまったようだ。テルの話し合いに来ただけなのにいつのまにこんな事になったのか…

「まぁ、普通じゃ無いのだけは分かった。
それと、国家祓魔官だが、俺はなれないから諦めてくれ」

なる気もないし、なれないだろうからな。変な期待を持たれる前に、断っておかなければ。

「…何故だ?」

そんな凶暴な顔で見つめられても、答えは変わらないのだが…
てか、何故かって、そんなの一つしかないだろ。




「俺、一般人だから。陰陽師でも無いし」




広間に訪れた静寂。仮面で変わらないゼロと、ニコニコと微笑む蒼華。そして、戒律は…口を開いたまま、一向に動かなくなっていた。
その表情からは、見てわかるほどの驚愕が感じ取れ、戒律の時が、その状態ので止まる。それはまさに古代ギリシャの彫刻のようであった。


「よし、終わったし俺達も帰るぞ」

もう同盟締結も終わったしここにいる意味もないからな。
未だ固まったままの戒律から逃げようと、紡は即帰宅する為に皆を呼ぶ。

「兄ちゃん早く帰るー」

「帰って…遊ぶ…」

元気の有り余る双子が、袖を引っ張って来る。

「あら、もう帰るのですか。
折角同盟を結んだのです。もう少し居ても構わないのですよ」

「家に残ってるのも居るからな、帰らせてもらう」

勘弁してくれ。ただでさえ疲れてるのに、こんな休まらない場所に居続けるほど、俺はドMじゃない。

「そうですか。いい時間ですので、是非晩だけでも食べて行かれたらと思いましたが」

「それは次回にお願いする」

もう二度と来る気は無いがな。
帰宅を急ぐ紡であったが、それに待ったをかける
者が現れる。

「そのご飯は魚はあるのかにゃ」

やばい、にゃん吉が興味を示したようだ。

「煮付けから、刺身。フライや焼き魚まで、用意いたしますよ」

そう語る蒼華の目は、完全に獲物を狙う釣り人。まさにかかる獲物を冷静に釣り上げる様であった。

「それはいいにゃ!早く食べるにゃよ!」

勘弁してくれ。魚料理にあっさりと釣られたにゃん吉に紡は呆れる。
本当にこの猫は…残念だ、と。

「こう言っている事ですので、食べて行かれてはどうですか?」

勝利を確信しているのか、余裕の表情で紡も誘う。
残念だったな、当主様。こっちには最終兵器があるんだよ。
その余裕をぶち壊してやろう。

「そう言えば、ピーがテルの帰宅パーティを準備していたはずだが、ピーの料理は良かったのか?」

そんな予定などない。
だが、胃袋を掴まれているにゃん吉ならば…

「早く帰るにゃよ!ご馳走が待ってるにゃ!」

当然。あっさり手のひらを返すよな。

「と言うわけで、俺たちは帰るとするよ」

「そうですか…残念です。本当に…」

その残念とは、食事のことではないんだろう。どうせ俺の正体を聞きたかったとかだろうな。

「もし次会うことがあれば、宜しく」

「そうですね、次も必ず会いましょう」

それだけを交わし、紡は皆を連れ広間を後にしていく。
その背後を眺め続けている蒼華は、楽しげな雰囲気で小さい子供達に囲まれて歩いていくゼロを、優しげな表情で見つめていた。





―――――――――――――――――





外へと出ると、戦闘や、会談でかなり時間を使ったためか、もう既に日は暮れ、暗闇を街灯が明るく照らしていた。
陽も落ちたためか、今日は涼しい風が吹いており、それは、疲労を感じていた紡に帰宅までの活力を与える様であった。
静寂の中、揃って門へと向かっていく。

「これはまた…派手にやったな」

目の前に整然と広がるその光景。そこは、紡がここに出向いた時は門だった場所。
堅牢な分厚い木製の門が塞いでいたはずのその場所は、現在…大量の砕けたクッキーが落ちていた。
所々には、綺麗に光り輝く飴玉も落ちており、此処で何があったのかが容易に想像できる。
多分、全力で破壊したんだろうな…
それ程までに、この場所は荒れ果てていた。

「僕が門をクッキーにして」

「私が…飴玉で砕いた…」

紡が褒めてくれたと思ったのだろう。二人は腰に手を当て、小さな胸を張りながらドヤ顔をしていた。

そうか、頑張ったんだな。でもな、幾ら何でも、15mほどを更地に変えているなんて、お兄ちゃんは思わなかったよ…

外が丸わかりなほどに開けた門の跡地。
建造物は一切が削り取られた様に消えている。
何もない中目立つ様に、地面に大量に残る、無残に砕けたクッキーと飴玉だけがその建物達の名残を表している様で、その場には哀愁が漂っていた。
紡は申し訳なさを少し感じながら、足早に更地を通って、『巫家』を後にしていく。




暗闇の中、街灯に照らされながら、騒がしく帰り道をひた歩く。

「兄ちゃん、手を繋ご!」

「ずるい…私も…」

もう、しょうがないなぁ。
なんだかんだ言って、求められて嬉しい紡は二人と手を繋ぐ。

「あったかいねー!」

「ポカポカ…」

二人も満足したのか、手を握りながら紡へと可愛らしい笑顔を向けていた。

「では、私はここですわ」

珍しくフォルも乗ってきた様で、紡の頭へと着地し、お気に入りの安定する場所を探し出したのか、そっとそこに腰を下ろして落ち着く。

「そこにいるのはいいけど落ちない様に気をつけろよ」

「ええ、大丈夫ですわ」

紡が心配してくれたのが嬉しかったのか、フォルの声は弾んでいた。



「皆…仲良いです…」

それを後ろから、自分のことの様に喜びながら見つめている女の子。
屋敷の皆が幸せそうにしていることが、只々嬉しく、それを見つめるだけでも幸せを感じていた。
本当は…彼処に私も入りたいです…だけど…
今回テルは、皆に多大に迷惑をかけてしまったこともあり、近寄ることもできずただ眺める事だけで我慢する。

そんな女の子の背後から忍び寄る白い影…

「テルにゃ」

「え…お姉ちゃん…?」

妹大好きにゃん吉だ。

「にゃ!」

その言葉とともに、テルへと手を差し出す。

「どうしたのです…?」

そのまま動かないにゃん吉を疑問に思った、テルが問いかける。

「んにゃ、寂しがり屋のテルが寂しくない様に、にゃーがつないであげるにゃよ」

それは、にゃん吉の優しさであった。

「お姉ちゃん…ありがとうです…」

差し出された手をそっと握る。

「暖かいです…」

その手は、とても暖かく、ふわふわで、心まで温めてくれる幸せを含んでいた。

「もう寂しくないにゃよ」

そう語るにゃん吉は、とても優しく、とても暖かく、そしてとても格好良くテルの瞳には写っていた。

「それじゃあ、にゃー達もご主人のところに走るにゃよ!二人でご主人を揉みくちゃにしてやるにゃ!!」

「うん…お姉ちゃん、私も揉みくちゃを頑張るです…!」

姉妹は走り出していく。紡を揉みくちゃにすることを目標に。ずっと手を繋いだままで向かう二人は、満開の桜の様に、美しい笑顔が咲き乱れていた。






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