御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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まさかの地球で激闘が

名家と同盟現代で 2

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「「(お)兄ちゃん!!!」」


え、何でここに二人がいるんだ?
紡の視線の先。そこに、可愛らしい双子が並んでいた。

「ど、どうしてここに二人が?家で何かあったのか!?」

ピーが居るから安心していたが、もしかしたら大問題が…

「兄ちゃんいなかったから迎えきたよー」

「寂しかった…帰ったら遊ぶ…」

はぁ…よかった。寂しくて、ここまで来ちゃっただけだったか。
どうやら二人は、かなり時間が経っても一向に戻らない紡達を迎えに来てくれたようだ。

「そうか、ごめんな。帰ったらいっぱい遊ぼうな」

「「やったー!!!」」


「やはり貴方の関係者でしたか」

何度目になるか、蒼華は額を手で押さえながら疲れた表情を浮かべている。
蒼華からしても、ここまでの騒動が絶え間なく訪れるなど、今までにない経験。かなりの精神的疲労が襲いかかっていた。

「ああ、うちの子達だ。可愛いだろ?」

「ええ、可愛いですね…我が家の門を粉砕していなければですが…」

粉砕?ああ、そういや爆音の原因はこの二人だったな。

「二人ともちょっといいか」

「「何ー?」」

「ここに入ってくるときに、何かあったのか?」

あの爆音だ。多分何かしらがあったんだろうな。


「えっとね、この屋敷に兄ちゃんが居るってわかったから、入ろうとしたんだ!」

「そうしたら…入り口にいた気持ち悪い人が、私達を叩きだそうとしたから…粉砕して来た…」

そうか、気持ち悪い人ならしょうがないな。粉砕しても困る人はいないだろ。

「そうか、二人が無事で良かった」

「お兄ちゃん…私頑張った…気持ち悪いのに立ち向かったよ…」

褒めて欲しいのか、チコは紡をチラチラ見ながらアピールしている。

「偉いぞー。チコは勇気があるな」

やはりうちの子は可愛いな。ほら撫で撫でだぞ。
紡に撫でられながら、チコは嬉しさを隠しきれず、ニヤニヤしている。

「兄ちゃん、僕も頑張ったよ!あの気持ち悪いの殺さなかった!」

コアも僕も撫でてと参戦してくる。

「そうか。きちんと手加減したんだな。偉いぞー」

うちの子達も成長してるんだな。
不審者を殺さない気配りができるようになっていたなんて。
何をしていようが、身内に甘い紡であった。

二人は撫でられて満足したのか、紡から離れ、未だ灰になったままのにゃん吉達の元へと走り去っていく。

『にゃーちゃん…どうしたの…?』

『にゃん吉は今、現実の不条理と戦っているのよ』

『んー、よくわかんないけど頑張れー!』

どうやら、応援団が増えたようだ。良かったなにゃん吉。


「なんかうちの子が迷惑かけたみたいで悪かったな」

「はぁ…貴方の身内ということで納得しました。
此方としても、被害は門の粉砕と、門番が一人重体になっただけですので、問題ありません」

それは結構な問題だと思うのだが。

「ならば良かった。それじゃあ、同盟とやらの続きと行きますか」

「そうですね。優華、持って来なさい」

当主の呼び声とともに、戸が静かに開かれ、そこから、両手に一本の巻物を持ち、それを重要物のように丁寧に扱いながら、優華が厳かに入室する。
同盟締結の為の巻物であろうそれは、黒く光沢のある外装をしており、通常の巻物よりはかなり小さく、怪しくなにかが周囲を揺らめいていることから、ただの巻物ではないことがわかる。

「契約の巻物、お持ちいたしました」

「ありがとう。貴方は横に控えていなさい。時期当主として、この場に立ち会うことを許可します」

優華は真剣な面持ちで、蒼華の右後ろへと、そっと座る。

紡は、当時の『神祇官』にいた頃にも、見たことが無い、謎の巻物を指差す。

「なんだそれ?」

なんか怪しそうに揺らめいているし、危なそうなんだが。

「これは契約の巻物です。これを用いて契約を行うと、契約者両方に楔を埋めつけます。
どちらかが、契約に背いた行動を行うと、それに応じた処罰が、楔を通じて契約者に襲いかかる。同盟によく使われる契約書のようなものです。
作成にかなりの妖力を消費しますので、なかなか作られることのない希少なものですね。『巫家』にもこれを含め、二本しかありません」

そんな便利な物があるのか、さすが『巫家』だ。
だが、処罰か…こんな適当な契約に縛られるのも嫌だな。

「処罰があるんなら…」

「大丈夫です。今回は契約に背いた場合は、この巻物が炎上するだけにしますので。
そうしなければ、貴方は契約を受けないでしょうから」

何が何でも同盟締結へと行きたい蒼華は必至に止めにかかる。
処罰などなんでもいい、目の前の危険人物達を野放しにして、『巫家』との繋がりが途切れる方が最悪だ、と。
ただの子供二人が、迎えに来たという理由で、平然と襲撃を行い、その親玉は、遊び半分で皇矢を倒しているのだ。そう判断することは、当然の結果であった。

「そうか、それならいいぞ」

「それは良かった…」

平然を必死に装いながらも、内心はかなり酷いものであった。
断られたのであれば、今後もずっとこの者達の不安が続いていく。『巫家』存続にも関わるほどだろう。
そのような足枷をつけられたまま、精神をすり減らしながらも会談を続けていた。
漸くその不安という重圧から解放されたことにより、ここに来て初めて、蒼華は心から安堵したのであった。

「それでは、立会人を連れて来ますので、少々お待ちください」

蒼華は室内を後にする。
反動からか、部屋から出ていく蒼華は、今までの雰囲気と違い、陽気なステップを描いているように、ウキウキとしていた。








「…」

「…」


室内に残された二人。
先程の皇牙の自室と同じ状況。
だが、紡は先程とは違う不安に苛まれていた。


「…少しいいですか」

「な、なんだ?」

通常であれば、美少女と二人で見つめ合う空間。人によれば魅力的な場面であろう。紡とて、それが嫌というわけでは無い。だが…優香の言葉一つ一つに冷や汗が止まらない。









「あそこにいる少年を私は知っている気がするのですが」



ですよねー…そりゃばれるわ。仮面を被った子供なんてなかなかいるものでは無いからな。
だが、俺はばれるわけにはいかない。なんとかごまかせるといいのだが。

「気のせいでは?」

「そうですか…」

そうそのまま何事もなかったように…
紡の願いは叶わない。

「ねぇ、そこの男の子、ちょっといいかしら」

残酷だ。優華はコアを呼びかける。
それに伴い、未だ止まらない冷や汗が勢いを増していく。
当然、その場に男の子は一人しかいない。呼ばれたコアが優華の元へと走っていき…


「あ!あの時のお姉ちゃんだー!」


はい、バレました。
一切の曇りもない笑顔で、優華へと笑いかけるコア。
ああ、間違っていない。間違っていないんだが、出来ることなら忘れていて欲しかった…

「との事ですが」

「人違いです」

苦し紛れに即答する。だがそれも通らない。

「この状況で、通用するとでも?」

だよな…時々くる、現金当選メールくらい信用できないわ。
確信を抱いた目で見つめる優華を誤魔化す術は紡は持ち合わせていなかった。

「はぁ…そうだ、あの時のお兄ちゃんだよ」

優華に見えるだけ、そっと仮面をずらし、ため息混じりに笑顔で返す。

「そうですか…」

それにしてもまさかこんな事でばれるとは。『巫家』に来たのは失敗だったかもな。

「悪いな、もう戻っていいぞ」
「はーい!」

まさかの正体発覚に、にゃん吉の元へと戻るコアを見つめながら、紡はここに赴いたことを後悔していた。


「あの時は、有難う御座います。貴方のお陰で、私はこの筆と出会うことが出来ました」

懐からそっと一本の筆を取り出す。

「ああ、確か龍の筆だったか。俺はいらないからいいけど、いつも持ち歩いているのか?」

「ええ、こんな危険物、部屋に置いておくわけにはいきませんから」

そうかそうか、危険物か。

「…それ、そんなにやばいの?」

「…これを持つことがバレた場合、陰陽師同士の戦争が起こるほどに」

へー、そんな筆一本で戦争かー。


「…」

「…ごめんな」


どうやら、俺が渡した筆は、核爆弾並みの危険物だった様だ。


一切会話の無い二人の間。やはり先程と変わらず、二人の間には気まずい空気だけが流れていた。






―――――――――――――――――





「お待たせ致しました、今回の立会人をお連れ致しました」

広間へと未だ変わらない雰囲気の増加が戻ってくる。
その背後、そこには見たこともない薄汚れた男が、ふらふらと此方へと歩み寄る。
ふらふらとしながらも、その体は筋肉の鎧に包まれており、維持にかなりの労力を有している事が感じ取れる。
力強い面持ちに、髪の毛を逆立たせたその姿はまるで百獣の王の様であった。

「此方、国家祓魔官第三部隊隊長を務めてます、嵯峨崎 戒律さかざき かいりと言います。私の昔からの友人ですので、今回立会いをお願い致しました」

「へぇ…こいつが。俺は嵯峨崎だ。本当は、名家なんて格式張ったとこなぞ来たくなかったが、蒼華から面白いことを聞いてな。
なんか、名家『巫家』が、一個人と同盟を結ぶ上に、その相手は、蒼華が『ありえない』と言うほどの化け物だと…」

「戒律、それ以上口を開けば息の根を止めますよ」

「っ…おお、怖い怖い。まぁ、一応国家祓魔官の部隊長をしている。なんか困ったことがあったら俺のとこに来てくれ」

戒律は紡へと一枚の名刺を差し出す。

「悪いな、有り難く…」

受け取ろうと差し出しながら、宙で紡の手が止まる。
それは、まるで何かを警戒する様に、名刺との間を保ち続け、それを差し出す戒律を紡は睨みつけていた。

「どうした?受け取らないのか?」

ニヤニヤとした気持ち悪い笑いをしながら此方へと語りかける戒律。

「受け取ってもいいが、そうするならばお前の式神を跡形もなく殺すぞ」

バレてるぞ。その名刺の裏に、何か潜んでいるのは。
殺気を含んだ視線を名刺へと紡は向ける。

「はぁ…戒律、やめておきなさい。この方ならば、本当にやりますよ」

「え、マジで?」

ああ、跡形もなく消しとばしてやるよ。

「私は言いましたよね。この方はそれ程だと。貴方が式神を消しとばされようが困りませんが、同盟の邪魔になる様なことは、やめて頂いてもいいですか?」

「うわ…『巫家』に喧嘩を売ったバカを見に来たつもりだったが、それ程なのかよ…」

蒼華も睨みつけながら戒律へと本気の殺気を向ける。
ゴミを見る様なその目が力強く語っている、『てめぇ、邪魔すんじゃねぇよ』と。

「あー…悪い。もう何もしないからさ。ほら、これでいいか?」

名刺を投げ渡しながら、勘弁してくれと言う表情を浮かべていた。
『巫家』当主と謎の化け物。戒律からしても、その二人との敵対は避けたかった様だ。




「じゃあ、早く終わらせるか」

置かれていた、契約の巻物を掴み、戒律が宣言する。

「今回は、『巫』とゼロ、この二つの同盟だ。
同盟内容としては、


一、相互武力干渉の禁止。
二、相互臨時の際の救援。
三、相互情報共有。
四、相互技術共有。


一以外は強制ではなく、あくまでもできる限りとのことで間違いはないか?」

「ああ、問題ない」

「私共もよろしいです」

「そうか、ならば双方、契約の巻物を確認した後に、調印を」

蒼華が確認もせずに、ささっと調印を済ませ、紡の元に巻物が回ってくる。

んと、契約内容は…問題なし。背いた場合もこれが燃えるだけ。下手な追加事項もなしか…
こんな契約書を出して来た時点で何かしら仕掛けてくるのかと思ったが、何もしないとは。『巫家』はあいつらほど愚かじゃなかったみたいだな。
紡は此処まで、陰陽師、さらには名家の『巫家』を紡は一切信用していなかった。
幼少から染み込んだ、陰陽師の名家はクズしかいないと言う常識のため。
『神祇官家』により染み付いたその考えはなかなかに根深かった。
だが、結果は真逆。
思っていたよりも、拍子抜けな結果に紡の気が抜けていく。
確認も終わり、呆れながらもさらりと記入を済ませる。

「両者の記入を確認した。それじゃあ、立会いとして俺も記入させてもらう」

戒律が巻物へと筆を入れてゆく。

全ての記入が終わると、巻物から溢れていた揺らめきがふわりと宙に解けていく。

「問題ない、これで終わりだな。此処に、嵯峨崎 戒律が、『巫』とゼロの同盟締結を宣言する」

はぁ…漸く終わったか。テルの襲撃から始まり、時期当主と皇牙の二人と戦い、『巫家』のお偉いさんとの手合わせを経ての漸くか。
こんなことになるなんて思わなかったな。

「今後は同盟関係として、よろしくお願い致しますね」

思い返し、遠くを見つめる紡へと、蒼華が笑顔で手を差し出す。
その表情からは、この同盟を心から喜んでいることが読み取れる。

「まぁ、なんだ。いろいろあったが一応宜しくな」

今までとは違う、蒼華の優しげな面持ちに困りながらも紡はその手を掴む。


今此処に、陰陽師では日本で初めての、対個人の契約が果たされた。
それは『落ちこぼれ』、『出来損ない』と実家から捨てられた紡が初めて陰陽師の世界に認められた瞬間であった。
この契約により、幸か不幸か、紡は今後、陰陽師の世界へと足を踏み入れていくことになる。





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