御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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まさかの地球で激闘が

名家と手合わせ現代で 3

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この景色を見ることができて良かった。俺は生きているんだ。
紡は生き抜いたことの余韻を味わいながら、周囲の光景に感動していた。

「私はまだ負けていない!!」
そんな、幻想的な空間に響き渡る、往生際の悪い声。
紡の余韻を邪魔した者。
当然それは、
「鳳凰として、負けられないのです!」
焔姫だ。

「え、なんかいい感じで終わったのにまだやるのか?」
「当たり前じゃないですか!このままで終わるなど、鳳凰としてのプライドが許しません」
しつこいな。あれ防いだんだし、もう終わりでいいじゃないか。
それに、これ以上続けるのなら…
「続けてもいいが、これ以上やるんなら、其処からは命がけ。俺も容赦なくお前を殺しに行くぞ?」
あの技を使ってきたんだ。俺が殺そうとしても、問題ないだろう。
そう語りながら、無意識のうちに、紡は焔姫へと、殺気を叩きつけていた。

「え、ええ、構いません。私が貴方を消し炭に致しますわ」
紡に対し、鳳凰としての意地なのか、見栄を張ってはいるが、実際に焔姫は紡の殺気から、実力差を感じ取っていた。
生物としての危機察知能力。鳳凰として一度も反応していなかったそれが、語りかけてくる。
このまま戦ったら私は消滅する、と。

「大丈夫か。声うわずってるぞ」
「うるさいです!」
はぁ、しょうがない。殺るとしようか。

すらりと流れる様に、木刀を構える。
焔姫も呼応し、白焔を周囲に展開して行く。
ここから始まるのは、先ほどのお遊びとは違う。生きるか死ぬか、ただそれだけの戦い。

「命がけの戦いだ。用意はいいな?」
「勿論です。貴方を蒸発させます。」
「よし、それじゃあ、殺し合いを始め「始めないでください」」

え?

其処にいたのは審判を勤める蒼華。
あ、完璧に忘れてた。そういや当主様もいたな。

「焔姫。もう終わりです。先ほどの一撃の時点でやり過ぎています」
「止めないでください。私はこの者を…」
「焔姫。いい加減にしなさい」
おおっ。当主様怖っ!
すごいな。当主様から般若が出ているように見える。
あれは相当怒ってるな。

「そ、蒼華。何でそんなに怒ってるのです?」
「怒っていませんよ」
「本当に…?」
「ええ、貴方が作った太陽のせいで、軽く髪が焦げたことも、そのせいでこの武道場の結界が全て壊れたことも。私は怒っていませんよ」

ははっ。あれはダメ、やめときな焔姫。
姉御がブチ切れた時と同じオーラが出てる。逆らうどころか、選択を間違った瞬間、死あるのみだぞ。


「蒼華、ごめんなさい…」


そうそう、素直に謝っておけば、


「というとでも、思ったのです?蒼華、邪魔ですよ!」


この鳳凰、まさかバカなんじゃないか?
俺にできないことを平然とやってくれる。
紡の中で焔姫がバカ認定された瞬間であった。

「そう、ならば金輪際、焔姫のお菓子は抜きですね」
「ごめんなさい」
先ほどまでとは打って変わり、見事な土下座。
こいつは本当にさっきまでの鳳凰なんだろうか。
なんか、哀れに見えてくるな。






「謝るから!チョコバット没収はやめて欲しい」



悲報。鳳凰、チョコバットの為土下座する。
其処にいたのは、非常に残念な少女であった。


「はぁ…焔姫。貴方は別の部屋に行ってなさい。貴方の相手は疲れたわ…」
お菓子のため、逆らうのは不利だと感じたのだろう。途中止まりながらチラチラとこちらを眺め、また歩き出す。それを繰り返し、漸くトボトボと武道場を後にして行く。
何故だかその背中には哀愁が漂っていた。


「待たせてごめんなさい」
「ああ、見てて面白かったからそれはいいんだが、俺は殺し合いしても構わなかったんだが良かったのか?」
当然負ける気は無いけど。
「やめていただけると有難いです。あのまま続けていれば、この武道場は崩壊。そして焔姫も…
手合わせという話でしたので、其処まで行くとやり過ぎです。私共『巫家』としても、死人が出る事態は望んでいません」

そうか。俺も、結構満足したしいいんだけど。
「だったらあの鳳凰どうにかしといてくれよ。もし襲ってきたら潰すから」
「はぁ…あの子に理解できるかは分かりませんが、『巫家』の総力をかけてどうにかします」
どうやら、『巫家』も、あの鳳凰に手を焼いているようだな。
「よし、それじゃあ戦いは終了だな。どっかゆっくりできる部屋とか借りてもいいか?」
「ええ、皇牙。案内して差し上げなさい」
「分かりました」
室内の隅で静かにしていた皇牙が、こちらへとやってくる。
「こちらです」
さて、移動する前にっと。
「おーい。お前ら移動するぞー」
「「「はーい!」」」
俺の元に三匹が駆け寄ってくる。
暇してたのか、寂しかったのか。全員が俺に飛びかかる。フォルが頭。テルが足。そしてにゃん吉が…



「にゃん吉、頼むから離れてくれ。前が見えん」
俺の顔面に張り付く。
へばりつくように狐面を掴み、足をプラプラさせていた。

「んにゃ!?にゃーの祝福の抱擁を拒否するなんて!にゃーはとっても傷ついたにゃよ!!」
祝福の抱擁って。そのせいでお先真っ暗になってるんだけど。

「傷ついたにゃーを癒すために、スルメを要求するにゃー!」
「あ、でしたら私はクッキーで」
「オレンジジュースです…」
どうやらうちの子達は逞しく成長しているようだ。


「お前ら。俺のこと、歩く冷蔵庫とかと思ってるんじゃ無いのか?」

一応、これでもご主人だよな?

「ご主人をそんなこと思うわけないにゃ!」

ああ、やはりにゃん吉は優しい。そうだよな、俺はお前らの大切なご主人…













「温度管理が甘いから、クーラーボックスにゃよ」


さらにランクダウンした。


隣で深く頷く二人。さっきの戦いで怪我をしてないはずなのに、心が痛い…。


皇牙に導かれるままに案内され、武道場から離れて行く。
そこには、元気な三匹と、空を見上げて何かを堪える狐面がいた。



―――――――――――――――



ゼロが去っていき、汚れた武道場の中には、蒼華と優華が残っていた。
騒音を撒き散らす者達は遠くに消え、戦場に訪れた静寂。
それは、先ほどまでここで繰り広げられていた戦いの終了を物語っているようであった。

そんな武道場で、突如始まる親子の会話。

「優ちゃん…あんな化け物どこで拾ってきたのよ。捨ててきなさい」
「お母様…それは大変申し訳ないとは思いますが、あの者達に私の話が通ると思いますか?」
「あー…無理ね。ごめんなさい無茶を言って」
顔がそっくりな二人は、これまた揃って疲れた表情をしている。
その顔は、二人の精神的な疲労感の重さを表していた

「私も、あの方と手合わせしましたけど、あれ程の力をまだ持ってるなんて…」
「え、聞いてないわよ!優ちゃんあれと戦ったの!?」
「あれを戦ったと言うのかは分かりませんけどね。どちらかと言えば、遊ばれたの方が正しいですよ」
「それは…また。よく無事だったわね」
一見見た目が変わらないため、蒼華はそう告げたが…

「無事ですか…あの戦い…無事ってなんなのでしょう。次々と押し寄せる生クリーム…絶えず追いかける綿菓子…迫ってくる…逃げ場がない…息が…できない…苦しい…」
「ちょっと!優ちゃん大丈夫!?」
見事に紡のトラウマが再発してしまったようだ。

「はぁはぁ…ふぅ。ごめんなさい。取り乱しました。もう大丈夫です」
「そ、そう。大丈夫ならいいのだけれど」
優華の虚ろな目で語る姿に、蒼華は恐怖していた。一体戦いで何があったのかすら聞くこともできずに。

「それで、お母様から見て、あの方はどうですか?」
「そうね、一言で言うならば謎。力も謎、戦い方も謎、全てが謎だらけ。
ああ言うタイプが一番困るのよ。こちらが刀で戦っているところに平然とミサイルランチャーを向けてくる。そんな存在。
何をし出すのかもわからないから対策しようもないし」
紡のお菓子魔法は蒼華にとって、それだけのインパクトがあった。
「どうしますか?このまま放置するわけにもいかないですよ」
「それは、大丈夫。決めてるから。私達『巫家』はあの者に同盟を申し入れます」

同盟、それは通常あり得ない提案であった。
陰陽師第2位の名家が陰陽師でもない一個人を対等とみなしたと言うこと。
鎌倉から続く名家がそんな契約をしたとなれば、周囲へと恥を晒すことにもなる。

「なっ!?個人と同盟なんて、聞いたことがないですよ。他の者が何を言ってくるかもわからないし…」
「いいのよ。言いたい奴には言わせておきなさい。あのゼロは、それだけしなければならない程の実力があるのよ」
蒼華は、朧げながら、紡の実力を感じていた。
長年当主として、色々な人物を見て来た事による観察能力。その力が今、発揮される。

「私にはどれだけの実力か、まだ判断出来ないのですけど、それほどなの?」
「ええ。最後の焔姫との命がけの戦い。もし、やっていれば、焔姫は消滅していたでしょうね」
「焔姫って鳳凰ですよ。不死の鳳凰を消す事なんて…」
「あんな何を仕出かすか、わからない人物ですもの。それくらいあっさりやってのけると思うわよ」
それは、予想というよりも確信。
蒼華は、焔姫が武道場から去って行くとき、体が震えている事に気付いていた。
(あの焔姫を殺気で震えさせるなんてね…)

「それがもし本当ならば、誰も文句が言えませんね」
鳳凰を、不死を消す。それは、世の理に逆らうという事。それを成し遂げる程の実力を持つ一般人。
そんな奴に文句を言う者などいるはずもなかった。

「同盟はもう決定事項です。あとは、どうにかゼロに介入出来ればいいんだけど…」
こちらの住居や顔、名前まで知られているのに、ゼロについてわかっていることは何一つ無い。それだけはまずいと、蒼華は悩む。

「素直にゼロへと聞いてみては?」
「あそこまで厳重に顔を隠してるのよ。教えてくれるはずもないわ」
馬鹿正直にいっても、相手はあのゼロ。戦闘中に遊び出すような、謎人間だ。素直に聞くはずもない。
『巫家』を守るため、二人は必至に頭を回転させて行く。

「んー…これは、最終手段を取らなきゃいけないかも…」
「えっ…最終って?」
疑問顔の優華に、蒼華は笑顔で告げる。
人生最大の試練を。







「優華。ゼロを誘惑して落としなさい」




当主から、時期当主への無茶な試練。
この提案が、ゼロと優華、そして『巫家』の関係をさらにややこしくしてゆく。



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