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まさかの地球で激闘が

遂に交わる話し合い 3

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人払いの為か、殆ど人がいない『巫家』の屋敷。その屋敷の中を走り回る一人の少年がそこに居た。
鬼気迫るような雰囲気で皇牙は目的の場所へとたどり着く。
そこはとある部屋であった。
その部屋の戸を力強く開けながら叫ぶ。
「優華!最悪だ…!!」
顔を真っ青にし、焦った声を一切隠そうともせずに。
そんな皇牙の見つめる先には一人の少女が佇む。
精神統一をするように、優華が正座をしてすわっており、神聖な雰囲気すら漂っていた。
「どうなりました?」
優華も皇牙の報告を待っていた為か、すぐに伺う。
それは…
「話し合いは、ほぼ決裂。そのうえ、今から狐面と俺の親父が戦うんだと…」
紡と『巫家』の会談についてであった。
二人がここにあの一団を連れて来たという事もあり、かなり心配をしていた。
皇牙は、素早く結果を知る為に、近くの部屋で待機し、優華は、不安で落ち着かない心を紛らわせるため、瞑想をしていた。

そんな二人が待ちに待った結果。それが、会談はが決裂した上に、皇牙の父親があれと戦うとの事。
あの一団の異常性を知っている二人は不安に染まっていく。

「優華、親父はあれに勝てると思うか?」
この状態に希望を探す為に、唯一狐面と最後まで戦った優華へと皇牙は聞く。
それは、自身の父親への信頼も含まれていた。皇矢は、分家の中で最強の地位を築いており、皇牙自身も未だに一度も勝てた事がない父親の勝利を信じきっている。
いくらあの狐面が相手だとしても、当然優華も父親の勝利へと頷いてくれる筈だと思っていた。

だが、現実は残酷である。
「はは…そんなの戦いとすら呼べないんじゃない」
優華の回答は勝ち負け以前の問題。
虚ろな目でそう語る優華に、皇牙の不安はさらに強まっていく。
あの狐面はどれほど強いんだよ…という疑問が頭の中を廻り、出ない答えに顔が歪む。

「皇牙は途中からあの子猫と戦っていたからわからないと思うわよ」
それを見かねて優華が語る。
「私は、あのあと戦ったけど…皇牙。貴方は、途中から戦ったあの子猫の属性ってなんだったか分かる?」
「あ、ああ、雷系統ばかりを使っていたからな、大体はわかった」
「そう、普通なら一度戦えば属性などの相手の情報が多少は手に入るはずなんだけど…」
下をうつむき、そう語る優華を眺めながら、皇牙は「ごくりっ」と息を飲む。

「私が戦って分かったことは何もないわ。
属性も不明、あの狐面は武器すら使わなかったから、得意武器すら分からない。
普通に戦った上で何も分からなかったのよ…」
それは、陰陽師の戦いの上で、異常な事であった。

「いや、でもあれは呪術を使っていたはず…」
そう、呪術ではないがあの戦闘中に紡は魔法を用いていたのだが…
残念ながら、紡の魔法は特殊すぎた…

「そうね、一応つかってた。空中に浮かぶ爆発物を生み出し、空から高温の液体を降らす。皇牙がいた時は、これしか使ってなかったから、私はてっきり炎系統かと思っていたわ」
「いや、それしかないだろ。多分俺と同じく炎系統の特化したタイプじゃないのか?」
「私もそう思っていたわ…でもね、貴方が消えた後、あの狐面が使った呪術は…空に雲を浮かべ触れたものを重くするというもの。
さて、これは一体、どの系統になるのかしらね」
軽く苦笑いしながらそう語る優華はとても疲れた雰囲気を醸し出している。
雲を作り出すなど、陰陽師でも聞いたことがない属性。そんなもの分かるわけがないと、
「雲で対象の重さを変えるって…マジかよ…そんなの聞いたことがない」
皇牙も理解できずに頭を抱える。

紡のとんでも技、お菓子魔法は、やはり陰陽師には理解することができなかったようだ。

「そう、そんな何をし出すかも分からないあの狐面に、ただ強いだけの陰陽師では一方的にやられるだけだと思うわよ」
そう語る優華は、紡に一方的にやられ、手も足も出なかったことを思い出しながら語っていた為か、言葉に力がこもっていた。


「そうか…優華は負けると思っているんだな」
「ええ、正直、あの狐面と戦う皇矢さんがとても可哀想に思えているわ。
何をし出すのかも分からないものとなんて、私はもう戦いたくないもの」
どうやら、優華は一方的な紡との戦いがトラウマになった様だ。
吹っ切れた様な笑顔で、優華はそう呟きながらも手は恐怖に震えていた。

「とりあえず、せっかくだ俺たちも見に行くか…」
「そうね、行きましょう…」
今後の流れが決まる戦いを二人は観戦しに向かう。
武道場へと動き出した二人は未だに暗い雰囲気を醸し出したままであった。



―――――――――――――――


広々とした廊下の中、連行される様に、連れて行かれる紡達。
移動を開始して数分、蒼華に連れられ、畳張りの武道場へとたどり着く。
「やっと着いたにゃー!」「着いたです…」
長々とした話し合いに飽き飽きしていたのであろう。姉妹二人が武道場へと駆け込んで行く。
手を繋ぎ、今までのストレスを解き放つ様に走り回る。
おいおい、こんな所で、そんなにはしゃぐと危ないぞ。
「二人とも、危ないですわよ」
フォルも危ないと感じていたのだろう、その姿を見かねて、二人へと飛んで行く。
ふぅ…フォルが居ると安心するな。
三人を眺めながら、紡はそんなことを考えていた。

その時、
「貴方にはここで戦っていただきます」
そこで蒼華より告げられる。
「ここで戦うのは構わないが、ここが壊れても俺は知らないぞ」
多分暴れたら確実に何か壊れるだろうし、確認しておかなきゃな。
後で請求されたらたまったもんじゃないし。

「問題ありません。この武道場は、呪符により、強化されております。そんじょそこらの衝撃では傷もつきませんので」
「ほう、強化ね…」
せっかくだ、試してみるか。
紡は軽く足を掲げ、床を踏み抜くつもりで足を叩きつける。
「すぱんっ」という音とともに床に足がぶつかり、武道場へと音が響き渡るが、床には一切の傷は残らなかった。
なるほどな、これならある程度暴れても問題なさそうだな。

結果に納得して頷いて居る紡へと蒼華は続ける。
「もし、貴方が破壊しても、私共が弁償を求める様なことは致しません」
そうか、それは良かった。
「分かった」
紡はそれだけを伝えると、蒼華に背を向ける。

実際あの陰陽師と戦えればどこでもいいしな。
それよりも、あいつらどこいった?
にゃん吉達を探し、室内を見渡す。
すると、とある一角ににゃん吉達が陣取っていた。
そこからは、「にゃっ!にゃっ!…」と、テンポよく声が聞こえてくる。

「これは…とんでもない風景だな…」
呆然と紡が見つめるその先では…
「お姉ちゃん…頑張るです」「んにゃ!負けないにゃー!!」




にゃん吉が筋トレをしていた。



テンポよく重りを上下させ辛そうな顔をさせている。
サイドからは、テルが見つめており、頑張るにゃん吉へと声援を向けている。
あー…子猫が筋トレをしている風景は違和感しかない。
それに、にゃん吉が使っているあれ500gだからな…それであんな顔しながら筋トレされてもネタにしか見えないから、なんとも言いづらいんだよ。

ペットボトル一本分の重さを必死に持ち上げるにゃん吉を紡は疲れた顔で眺めていた。

「ラストにゃー!!」
力強く鉄アレイを持ち上げると、限界だったのだろうどかっと床におろし、にゃん吉も床に沈む。
「さすがお姉ちゃん…カッコイイです…」
「当然にゃー」
そんなにゃん吉をテルがキラキラした目で褒め称え、にゃん吉は照れながら喜んでいた。

あきれた顔でそれを見つめていると、頭へとフォルが戻ってくる。
「もう、お話はいいの?」
「ああ、後は戦いが始まるまで待ってるだけだ。
てか、それよりもあいつら何やってるんだよ」
何故か未だに二人で筋トレ続けてるし、使っているのは500gだし違和感が半端無いんだよ。
「にゃん吉が、あの道具を見つけたのよ。それで、テルのために強くなるって筋トレを始めちゃって…それに喜んだテルが横から応援してるって訳よ。
一応、危なく無い様に、軽いやつだけ使う様に言っておいたから、怪我はないと思うわよ」
「ふっ…妹のため、お姉ちゃんは大変だな」
「そうね、でもまぁ、二人とも嬉しそうだしいいんじゃない?」

フォルと二人で、妹のために頑張るお姉ちゃんを笑顔で見つめる。そんな暖かな雰囲気の中、紡は平然と闘いの時が訪れるのを静かに待っていた。



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