御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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まさかの地球で激闘が

激怒渦巻く戦場で 5

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時は戻り、にゃん吉が飛び出していった後…


「えっと…本当に戦うのですか?」
「ああ、申し訳ないがな」
優華は困惑した顔を浮かべ、紡は仮面の下で苦笑していた。
戦場とは思えない空気の中二人は対峙する。
まぁ、そうだよな。あそこまで説教して解決した感じになりながら、もう一度戦えなんて、俺だって困惑する。
でも、にゃん吉に怒られるわけにはいかないしなぁ…

そんな中、優華が申し訳なさそうに話し出す。
「でも…さっきまで一方的に二人掛かりでもやられていたのに、私一人で戦っても勝負にすらならないと思いますが…」
「あー、そこのところは大丈夫だ。一応死ぬような攻撃はしないから」
もうきちんと反省してるみたいだし、殺す気は無いからな。
まぁでもせっかく戦うんだ。この子にも利があるように、
「そうだな…訓練だと思って戦ってくれればいいよ」
うん、訓練なら俺にもこの子にも利があるだろ。
俺も試したい魔法がまだまだあるから、その方が有難いし。

この訓練という言葉に優華はただの手合わせだと考え…
「そうですね…こんな格上の者との訓練なんて想像できるものでは無いですし、是非お手合わせをお願い致します」
了承してしまう。それが地獄への片道切符だとも知らずに…


「では、行かせていただきます!『呪符、雪月花』」
優華の周囲へと再度氷の花が周囲に舞い散る。
さらに、「『呪符、雪華繚乱』」周囲の花が勢いよく弾け飛び、それがまた花へと変化していった。
一つの花から、十個ほどに分裂していく花は太陽の日差しを浴びてキラキラと輝く。
最終的に、戦場を百を優に超える花が舞い踊っていた。
「おお!これはまた…とても綺麗だな」
森の中で輝く氷の花、なかなか風情のある光景じゃないか。
戦闘中ながらも紡はその風景に目を奪われていた。

「そうですか、私もこの技は気に入ってますのでそう言っていただけると嬉しいです」
そう呟く優華は周囲を漂う氷の花もあり、とても美しく輝いていた。

「よし、せっかくそっちが綺麗な技を使ってくれたんだ、俺も一つ面白いのを見せてやろう」
雪の花から思いついたやつもあるし、せっかくならそれを使うか。
紡は魔法を展開していく。

「っ!」
先程の戦いにより、紡の技に優華は無意識に身構える。
急に爆発物を生み出し、空から高熱を持つ謎の液体を大量に降らせる。
それは、優華には理解できない技ばかりであり、何を起こすか分からない紡の魔法に恐怖すら抱いていた。

そんな紡が語る面白い魔法。当然まともな技ではない。
真剣な目で優華は紡を見つめていた。

そんな中発動される魔法。それは…

「えっと…それですか?」
「ああ、これだ」

紡の手に浮かぶ白いふわふわした塊であった。

「ふぅ…そうですか」
何事かと身構えていた優華は息を吐く。
見つめる先に堂々と、手のひらの上に浮かぶ雲のようなもの。
何が来るかと警戒していただけに急に気が抜ける。
だが、それは甘かった。見た目はただの雲だが、それを作り出したのは紡だ。
優華はまだ目の前の狐面の異常性をきちんと理解していなかった。

「じゃあいくぞ」
その掛け声とともにふわふわと優華へと向かい飛んでいく雲。
さぁ、どう対処するかな。この雲は思ったよりも凶悪だぞ。
紡はニヤニヤしながらそれを眺めていた。

「そこ!」
その雲を打ち消すために氷の花弁を雲へと打ち込む。
あー…やっぱりそうするよな…だが分からない雲にそんな急に攻撃なんかしたら…

「ぼとり…」
ぶつかると同時に、急に花弁が地面に落ちる。
そして、ぶつかった場所から新たな雲が生まれ出す。
ほら、分裂しちゃったよ。
その光景に優華は呆けた顔で固まる。


【お菓子魔法流 阻害術 重力綿菓子グラビティコットン
攻撃を受けるたびに分裂させる綿菓子を生み出す。分裂しながらも、対象を目指してゆっくりと飛んでいき、物に触れるとその重さを10倍に増やす。


紡が氷の花の分裂から思いついた、阻害魔法であった。
「な…なんですかこれ!」
おー、必至に逃げ回ってるな。
もうこの綿菓子の危険性に気づいたか。
「がんばれー」
眺めながら、紡は呑気に応援する。
だが、優華にはそんな余裕がもう無くなっていた。
周囲に浮かべてしまった氷の花のせいで、攻撃をしなくても花へとぶつかり、そこから分裂していく白い綿菓子。
それにひきかえ、氷の花は重さに耐えきれずに次々と地面へ叩きつけられていく。
綿菓子の数はすでに十を超え、それが全て優華の元を目指し、ゆっくりながらも着実に向かっていく。

「だめ…避けきれない…」
紡に攻撃を行うこともできずに、只々避けるだけしかできない優華は既に限界だった。
綿菓子に何をしても止まらず。増やすわけにもいかないため攻撃もできない。出来ることは避け続けることだけ。
(どこが、面白い技ですか!こんな凶悪な技どうしようもないですよ!!)
優華は最初に見たときに甘く見ていたことを後悔していた。


んー、なかなか避けるじゃん。もう少しスピードを上げても良かったかもな。
それに、相手に気付かれたらあまり分裂しなくなるし…これは要改良だな。
紡はそんな必至に優香が避ける様を、魔法の評価をしながら眺めていた。
そして、ついにその時が訪れる。

「きゃっ! ドスっ!!」
ついに綿菓子が優華へとぶつかる。
急に体重が増えたことにより足が耐えきれずその場に座り込んでしまった。

「あー、大丈夫か?」
「ダメです…もう動けません…」
やはり、戦いにすらならなかったことに優華はふて腐れていた。
これでも、時代の当主として修行に明け暮れ、同年代では負けることはないと自負していた。
だが、そのプライドごとボロボロに砕かれる。
相手の術すらわからず、ただ一方的に攻撃され、こちらからは反撃すら出来ていない。
(こんなの…戦いとすら呼べない…)
不甲斐ない自分の姿に優華は涙を浮かべていた。

「もう、私の負けです…動けないのでもう戦えな「よし、じゃあ次の技いくぞ」…えっ…」
泣きそうな顔で降参を宣言していた優華に、絶望が襲いかかる。
側から見ていればそれはただのいじめのような光景。
だが、魔法の実験を楽しんでいた紡はそんな事気にもせずにお菓子魔法を発動していく。

これ以上何か使われたら本当にやばい!と、優華は顔を真っ青にさせながら全力で止めにかかろうと…
「もう無理です!私のこうさ、ふべっ!」
したが間に合わない。
話していた優華の顔に真っ白なパイが張り付いた。


【お菓子魔法流 嫌がらせ術 パイクラッシュ】
ただ単純にパイが顔のみをめがけて飛んでいく。
それは、どんな美人でも顔面を崩壊させる。
対象への悪戯を極めた、只々嫌がらせのためだけに全てをかけた技。


「大丈夫、死ぬことはない。せっかくの手合わせなんだ、実験に付き合ってもらうよ」
テルのことへのお仕置きも兼ねてるからな。手加減はしない。
ニヤリと笑いながら優しい顔でそう語りかける紡。
優華は顔にかかったパイの隙間からそれを見つめながら思う。

(こんな手合わせ…了承するんじゃなかった…)

それは今更の後悔であった。



その光景を遠くから眺めていた一人の女の子。
「紡さん…やり過ぎです…」
テルは紡にドン引きしていた。


――――――――――――――――



「ご主人、何してるにゃ?」
あ?ああ、にゃん吉戻ってきたのか。どうやらあの少年も一応は生きてるみたいだが…なんでフォルに掴まれてんだ?

「おつかれさん。俺はせっかくだからちょっと実験してたんだよ」
色々試せたし楽しかったから、ついついやり過ぎてしまったな。
「そうにゃ!なんでご主人はにゃーに説明してくれなかったにゃ!!」
いや、そんなの決まってるだろ。
「伝えたけど聞いてくれなかったじゃん」
勝手に現れて、勝手に暴れ出して、勝手に戦いに行ったのに、俺にどうしろと。
それにあの時のにゃん吉怖かったし…
「にゃむ…」
にゃん吉は気まずそうな顔をする。

そんな話をしていると…
「大丈夫か優華!」
皇牙が優華の元へとホバリングしていく。
やば、忘れてた。あの子放置したままだったな。
「あー、大丈夫だぞ。一応死ぬようなことしてないし」
「狐面、あんたにはこれが本当に大丈夫って言えるのか?」
皇牙が見つめるその先にはクリームに塗れながら…

「パイ怖い…綿菓子怖い…パイ怖い…綿菓子怖い…」

繰り返し呟きながら体操座りをする優香がそこにいた。

あー、楽しすぎてやらかしてしまったかな。
途中から、ノリだけで魔法作ってたし。
まぁ、でも…
「死んでなけりゃ、大丈夫だ!」
生きてりゃ問題ないだろ。

そう語る紡に、皇牙は諦め必至に優華を励ます。
「しっかりしろ!もう大丈夫だぞ!正気を保つんだ!!」
「もう…パイ来ない?生クリームで息が止まって…」
「ああ、もう大丈夫だ!」
いつもの凛々しい風貌は全くなく、幼い女の子のようにプルプルと震える優華を、安心させるように皇牙は抱きしめる。
そこでは、謎の感動が生まれていた。




それからしばらくたち、漸く優華は復活し、いつもの冷静を取り戻す。
「さて、それじゃあやり直しになるがきちんとテルに謝ってもらおうか」
「謝るにゃー!!」
二人は疲労によろけながらも、テルの元に歩み寄っていく。
そしてテルの前へと止まり、二人とも跪く。

「俺たちの都合で君には多大なる迷惑をかけてしまった。
ここまで命を狙い続けたこと、そして、君を傷つけてしまったこと、誠に申し訳ない」

「私たちがしていた所業がどれだけ酷いか、そちらの方のお陰で理解することができました。
貴方には命を狙い、そして、傷つけるなどと多大なるご迷惑をおかけ致しました。
ここに謝罪させて頂きます。誠に申し訳ありませんでした」

それは心のこもった見事な土下座であった。
それに対しテルは…
「もう大丈夫です…ずっと不安で怖くて苦しかったけど…貴方達のお陰で私には…大好きなお姉ちゃんができたです…
私は貴方達を許すです…」
許すことを決めたようだ。
許してもらえたことに二人は安堵のため息を吐く。
紡の隣ではにゃん吉が照れてニマニマしていた。

「それに…」
さらにテルが続ける。
「そのお姉さんの…あんな姿見たら…どんな人でも許すです…」

どうやら、テルが許した理由に、紡のお仕置きも入っていたようだ。

「優華…お前何をされたんだ…」
「聞かないでください…」
誤魔化す優華の顔は真っ赤に染まっていた。


「よし、これで終わりだな!帰るとするか!」
早く帰って風呂に入ってから、ピーの料理でテルのお帰り会でも開くとしよっと。
背伸びをしながらそこから去ろうとする紡。
だが、
「まだにゃー!!」
にゃん吉から待ったがかかる。

「どうした?もう終わったろ?」
これ以上何するっていうんだよ。
「まだにゃよ、聞いたところ、この二人は実家の指示できたはずにゃ。
なら、実家にも、もうテルを襲わないように話をつけるにゃよ!!」
それを聞き、顔面蒼白となる皇牙と優華。それもそうだろう、このままいってしまうと、『巫家』へと、このとんでも集団が押し寄せる事となる。それだけは絶対に起こしてはならない。

「わ、私達が責任を持って説明いたしますのでそれだけはやめて頂ければ!!」
「あ、ああ!絶対にそんなことさせないようにするからさ、ここは俺達に任せてくれ!!」
必死に止めようと言葉を並べる二人。
だが、妹のために動くお姉ちゃんは残酷であった。
「ダメにゃ、信用できないにゃよ」
断固として拒否するにゃん吉。
何度説得しても信用できないと繰り返すにゃん吉に二人は諦め、狐面を見つめる。
その目はこの子を頼むから止めてくれ、と物語っていた。
だが、二人は分かっていない。見つめている狐面はにゃん吉のご主人でありながら、重度の戦闘狂であるということを…


はぁ…そんな目で見つめないでくれよ…
でも、そうか。テルがまだ『巫家』から襲われる可能性はある。
『巫家』へと行くっていうのも悪い選択ではないんだよなぁ。
考えていた紡。だがここで、紡の悪癖が出る。
それに陰陽師の名家『巫家』であればそれなりに強い奴もいるだろうし…
うん、戦いに行くか!

この戦闘馬鹿は、目標が、話をつけに行く事から、戦闘へと変わっていた。

そして、見つめている皇牙と優華へと…
「『巫家』へと、案内して貰おうか」
残酷に告げる。

これにより、以後長く関係の続いて行く、紡と『巫家』が初めて関わることとなる。

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