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まさかの地球で激闘が
激怒渦巻く戦場で 4
しおりを挟むside にゃん吉
何にゃこいつ、あの程度の焔で挑発して来たにゃ。
それに、あんなちんちくりんな鎧ごときで、何で威張ってるにゃ?
いきなり焔の鎧を着込み、軽い挑発をしながらこちらを見据える皇牙に、にゃん吉はそんな事を考えていた。
「もうそれでいいにゃ?」
「ああ、もういい」
そうかにゃ、それは良かったにゃ。これで全力でボコれるにゃ。
にゃん吉は皇牙へとぶち込みにいく。
だが…
「にゃ!?熱いにゃ!」
皇牙の周囲に纏う熱量に耐えきれず距離を取る。
周囲が歪むほどの熱を鎧から放出し、それを纏うように皇牙の周囲を巡る。
そこには熱による不可視の防壁が、皇牙の周囲へと発生していた。
肌が焼けるような感覚が、皇牙へと近づくにつれて強くなっていく。
出来るだけ近づいたが…
「これはダメにゃ…暑すぎて近寄れないにゃー…」
想像を超えた熱量に耐えきれなかった。
「ふっ…ほら、これで分かったろ?俺には近づけないんだ、早く諦めてくれ」
予想通りの結果だったのであろう、皇牙はにゃん吉を鼻で笑いながら諦めるように諭す。
なんにゃこいつは!こんな程度でテルを虐めた奴をにゃーが諦めるわけないにゃ!
残念ながら、こんな程度ではにゃん吉を止めることはできなかった。
そして、ここで皇牙にとって運の悪いことが起こる。
にゃん吉はここまで、紡と生活し、戦闘を共にして来た。
あの狂った戦闘狂と共に。
そのことによりにゃん吉は…
「近づけないのであれば遠距離からやればいいにゃ!」
魔法に関して悪影響を受けていた。
通常、魔法使いは魔法を自身で作り上げたりなどはせずに、既存の魔法を使い、その消費魔力や詠唱速度、威力の増大などを研究している。
それは、魔法の創造が、とても難しく、一般の魔法使いでは手の出る領域ではないからであり、もし創造をしたとしても、それを行使する為には、多大なる危険が伴うからである。
そのため、基本的に魔法士は魔法の創造などほぼすることはないのだが…
残念ながら、にゃん吉の近くには、平気に魔法を作るバカがいた。
お菓子魔法という、訳もわからない魔法を平然と使い、思いつきでどんでも魔法を次々と作っていくバカ。
にゃん吉はそんなバカの戦場を常に見てきており、その制作している姿を知っている。そして、それはにゃん吉へと多大なる影響を与えていた。
つまりは…
「出来たにゃ!」
にゃん吉も魔法をその場で作り出していた。
【にゃん吉流雷魔法 ガンマ・レイ】
雷を収束させ、速度と威力、そして貫通力を極めた光線を放つ。
圧倒的な破壊力によりあらゆる物を貫く。
いつのまにかにゃん吉もとんでも猫に成長していた。
にゃん吉は、手を前に突き出す。その真ん中に溜まっていく光。
それは、時間をかけて、だんだんと光を強めていく。
纏を発動した事により、調子に乗っていた皇牙は嫌な予感を感じていた。
先程まで近接で暴れていた猫が、急に距離を取り、手が光っている。
何をし出すのかも、皇牙は分からない。
だが、にゃん吉のやろうとしていることが、危険だと、本能で察知していたのだ。
「チャージ完了、ぶっ飛ぶにゃ!」
急に強く輝いた手から避けるように、皇牙は全力で横に跳ぶ。
皇牙は恥も外聞もなく、全力で回避した。
地面を転がっていく皇牙。その隣、元々いた場所へと伸びていく一直線の光。
何かは分からないが、ギリギリで避けきれたことに皇牙は安堵する。
「外れたにゃ…」
でも、この魔法は威力もいいし、貫通力も中々…んにゃ、とても上手く出来たにゃー!
悔しがりながらも、にゃん吉は喜んでいた。
地面から立ち上がり、過ぎ去っていった光線の先を見る。
そこには、灼け爛れ溶けた岩が丸い穴を開けて立っていた。
その奥にも歪な形の木や岩などが続いている。
(ふざけんな…あんなもん食らったら即死じゃねぇかよ…)
漸く、目の前の子猫の異常性を真の意味で理解した。
挑発して良いような相手ではない。この子猫は今の状態でも、簡単に俺を殺すことができる相手なんだ、と。
そして…
「今死ぬわけにはいかない。全力で戦わせてもらう『焔装技 焔舞』 」
皇牙は、先程までの止める戦いをやめ、相手を殺すための戦いへと変えた。
それはこの場で生き残るためでもあり、殺すぐらいでなければ、あの猫は止められないと判断したためでもあった。
皇牙の周囲を纏っていた焔が、刀へと形を変える。
両手に2本を持ち、空中に2本を浮かべる。
その4本を操り、燃え盛りながらにゃん吉へと切りかかっていった。
足からはジェットのように焔を吹き出し、それを推進力として移動する。
地面を滑るようににゃん吉の元へと移動する。
その顔は生き残るため、鬼気迫る顔をしていた。
「暑苦しいにゃ!こっちに来るんじゃないにゃ!!」
いきなり必死な顔で追いかけて来て、気持ち悪いにゃ…
にゃん吉は残酷である。
皇牙から高速で逃げ回りながら、にゃん吉はガンマ・レイで迎撃していく。
連射ができないために、単発での迎撃であったが、皇牙からすれば、当たれば即死、回避だけに手一杯になっていく。
残酷なことに、いくら焔で移動スピードを上げようとも、雷のように高速で動くにゃん吉を目で追うことは出来ても、皇牙が追いつくことは出来なかった。
何度光線を回避し続けても変わらぬ現状。
にゃん吉には追いつくことも出来ずに、ジリジリと減っていく体力と妖力。
このままではいつか光線が当たり、確実に力尽きる。
その現実が、皇牙へとのしかかっていく。
その為か…
(はぁ…このままじゃジリ貧だし…しょうがない、全ての妖力を使い全力でぶちかますか)
最終手段を使う決意をする。
「んにゃ?」
なんで、追いかけるのをやめたにゃ?もしかして何かする気かにゃ。
急にこちらに来ることを諦めた皇牙ににゃん吉も警戒する。
空中へと手をかざす。すると周囲を飛ぶ刀が解け、只の焔へと変わる。
「『蒼焔』」
皇牙のその呟きとともに、急に変化が訪れる。
それは、生まれ変わるように纏っていた全ての焔が蒼く色を変えていく。
青白く輝く焔に囲まれる鎧を纏った一人の武士。皇牙は、その場で唯一幻想的な雰囲気を醸し出していた。
時間を減るにつれ、さらに蒼い焔が力強くなっていく。
燃え盛る蒼焔の中、皇牙は刀を上段へと振り上げる。
そして、蒼焔が最高まで高まった時…
「灰塵に帰せ『秘技 蒼焔龍』」
そう言いながら、力強く刀を振り下ろした。
皇牙から蒼焔の塊が、にゃん吉へと向かい飛んでいく。
それは、形を龍へとかえ、通り道の全てを飲み込みながら突き進む。
飲み込まれたものは、跡すら残らず蒸発していく。
この龍はそれ程の熱量を有していた。
「んにゃー…あれはちょっとやばいにゃ…」
多分あれに当たったら猫の丸焼きになってしまうにゃ。
んにゃ、しょうがないにゃ。あれを使うにゃー!
迫り来る蒼い龍を前に、にゃん吉も最終手段を使う。
それは、誰にも見せたことのない、正真正銘にゃん吉の最終手段であった。
ふわりとにゃん吉の纏う雷が消える。
それに皇牙は気づくが、手を抜くようなことはしない。
今までの戦いで、目の前の子猫に、そんな事をしては自分が死ぬだけだ、と気づいたためである。
それは、正しく、にゃん吉は諦めたわけでもなく、凶悪な魔法を発動しようとしていた。
「魔力がギリギリにゃけど、やってやるにゃ!」
にゃん吉が地面に手をかざすと、それは発動する。
周囲へと雷が散り、にゃん吉を中心にドームを描くように展開されていく。
それは一定範囲で止まり、にゃん吉を守るように展開されていた。
そして、迫り来る蒼焔の龍がぶつかる。だが結果はすぐに現れた。
「う…嘘だろ…」
皇牙は驚く。それは当然だろう。
自信満々に殺す気で放った蒼焔の龍が、ドームにぶつかった途端、雷へと変換されていった。
頭からぶつかったかと思えば、そこから雷へと変わる。ドームの中へと入ることも出来ずに、進むに連れどんどんと形が消えていく。
どんなに進んでも、にゃん吉に一切の傷をつけることも無く、最後はさらりと消えていった。
「そんなの…どうすりゃいいんだよ…」
自身の最高の技が簡単に消えた事により、心が粉々に砕け、さらに体に押し寄せる疲労に耐えきれない皇牙はその場に座り込む。
その視線の先には、そこに、蒼焔の龍が居たであろう、溶けた地面だけが残され、それ以外は何も残らなかった。
「上手くいったにゃ!」
そんな状況を作り出したにゃん吉は、両手を挙げて、笑顔で喜んでいた。
にゃん吉が発動し、皇牙の精神を破壊したその魔法は…
【にゃん吉流雷魔法 雷の世界】
自身の周囲を領域とし、その中に入るもの全てを、術者の意思で雷へと変換させる。
変換後の雷は術者へと流れ、それを力へと変換する。
凶悪魔法であった。
自身の守りとしても使え、攻撃へと転換できる。問答無用で、他者から力を奪い取り、自身の強化とする万能性。
それは、最終手段として、名に恥じぬ魔法である。
驚愕の顔のまま、にゃん吉を見つめるしか出来ない皇牙。
その目線の先で、残酷にも、蒼焔の龍からぶんどった雷が、蒼く色を変えにゃん吉を包み込み、強化を施していく。
自身の最高の技を封じられ、『纏』により、もう殆ど動くこともままならない皇牙。
それに対し、変換により、さらに強化されたにゃん吉。
この攻防により、勝負は決した。
「はぁ…もういい、殺せ。俺はもう動けない。」
もう無理だ、と皇牙は諦める。
ここまで圧倒的な差が生まれたのだ、それも当然のことであった。
「んにゃ、潔いにゃね」
にゃん吉が座り込む皇牙へと近寄っていく。
「こんな状況で、聞いてもらえるかはわからないんだか、最後の頼みを聞いてもらえないか?」
「言ってみるにゃ」
ただの命乞いなら即惨殺してやるにゃ。
そんな事をにゃん吉は考えていた。だが、
「俺はどうなっても構わない。だが、さっきまで一緒にいた女だけは助けてもらえないか?」
それは、優華の心配であった。
「…ご主人が殺って無ければ救ってやらんこともないにゃ」
「そうか!ありがとな!」
皇牙は死ぬ前というのに、満面の笑みで感謝していた。
「それじゃあ、もう終わりにゃ」
変換された雷を手に集めていき、皇牙へと向ける。
「ああ。優華の事、頼んだ」
それだけを残し、潔く皇牙は目をつぶった。
もうこれで終わりにゃ。
手から雷が放たれ…
「はい、そこまでですわよ」
る事はなかった。
空から急に現れた一匹のヒヨコ。
それがとどめの一撃を止めた。
「フォル、もう終わるにゃ」
「はぁ…にゃん吉、もう戦わなくてもいいですわよ」
呆れた声でフォルは話す。
「んにゃ?どういうことにゃ??」
「それは…」
漸く話を聞いてくれたにゃん吉へと、フォルはここまであった事を説明していく。
それを聴きながら、どんどんと顔を赤面するにゃん吉を見て、フォルは可愛らしさを感じていた。
―――――――――――――――――――――
「もう!なんで早く言ってくれないにゃ!!」
自身が独りよがりで戦っていたと気づいたにゃん吉は、恥ずかしがりながら先を急ぐ。
「そんなの、聞く気がなかったにゃん吉のせいですわ」
それをフォルが軽くあしらっていた。
「あー…喧嘩しないようにな」
その二人の中、皇牙は一切動け無くなってしまった事により、フォルに肩を掴まれ、宙をホバリングしながら移動していた。
「ははっ…俺がひよこに運ばれる事になるなんてな…」
皇牙は、陰陽師の名家、『巫家』の分家である『更科』の者として、ひよこに運ばれる自分の姿が滑稽で、それに恥ずかしさを感じながら苦笑していた。
「嫌ならば叩き落としますわ、選んでも構わないわよ」
そんな、皇牙へとゴミを見るような目でフォルは見つめている。
フォル自身も、テルを傷つけた皇牙に対し、並々ならぬ怒りを覚えていた。
それこそ、にゃん吉がボコボコにしてなければ自身がしていたほどに。
「あー…悪い、そんなつもりじゃないんだ」
こんなところに、動けないまま取り残されるわけにもいかず、皇牙は必至に言い繕う。
「気をつけるのですわよ。貴方を殺したいのはにゃん吉だけではないのだから」
「ああ、分かっている」
(ははっ…嫌われたものだな…)
これ以上二人の怒りを買わないように、皇牙は言葉に気をつけながら運ばれていく。
「やっともどったにゃー!」
最初の場所まで戻ってきたにゃん吉は元気よく叫ぶ。
たが、その先に見える風景が異常であった。
森の中で、紡と優華が対峙し、それを離れた所からテルが見つめている。
それは変わらなかった。
この場所での異常な点。それは…
優華が生クリームに包まれ、紡が爆笑していた。
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