御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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まさかの地球で激闘が

激怒渦巻く戦場で 3

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「みつけたにゃー!!」

えっ…まじで!?ここでにゃん吉が来るとか。タイミング悪すぎるだろ。
紡はひしひしと嫌な予感を感じる。
にゃん吉は、テルの元へと歩み寄っていき、急に現れたしゃべる猫の存在により皇牙と優華はその場に止まる。
現場は再度混乱へと包まれていた。
だが、この時、何があってもテルのところへ謝りに行くべきだった。
最大のチャンスを棒に振る事となる。
後に二人は自分たちの選択を盛大に後悔するとも知らずに。



―――――――――――――――――



side にゃん吉


やっと…やっとみつけたにゃ。
姿が変わろうとも絶対に間違えない、あれはテルにゃ!
街中を回り、あらゆるツテを使いながらここにたどり着き、ようやくテルを目にしたにゃん吉は歓喜に震えていた。

にゃん吉はテルへと近づく。
「お姉ちゃん…」
テルがにゃん吉へと泣きそうな顔で呟く。
間違いないにゃ。ずっと聞きたかったテルの声にゃ。
ここ数日を共に過ごし、お姉ちゃんと慕ってくれる少女の声。
その声に、泣きそうになる。
そしてさらに近づくと、テルの姿が目に入る。
なんでこんな姿になってるにゃ…
傷だらけのテルがそこに居た。

お姉ちゃんに何も言わずに、勝手に家を出て行き、こんなところでぼろぼろになっているテル。
にゃん吉は、怒っていた。勝手に出て行ったテルを。
悲しんでいた。信用してくれなかったテルを。
そして、許せなかった。守ると誓ったのにこんな姿にさせてしまった自分を。

ずっと…ずっと考えてたにゃ。テルにあったらどうするか、探しながら考えたにゃ。
ずっと思いつかなかったけど、今決まったにゃ…
それを行動に移す。
テルの元へと近づき、全力でその頬を…





「ぷにゅっ!」

肉球で叩いた。

それは、痛みもない優しい一撃。でも、テルの心にはずっしりと響く一撃であった。

「にゃーは、テルが大事にゃ。だからこれしか出来ないにゃ」

そう言いながらテルへと優しく微笑むにゃん吉。
テルはここまで必死に耐えていたが、もう限界であった。
それを聞いたテルの瞳からは大量の涙が溢れ出していく。

「お姉ちゃん!!」

テルは堪らず、力強くにゃん吉を抱きしめる。
もう、テルにはやっぱりまだにゃーが必要見たいにゃよ。

「テルはお子ちゃまにゃ、そんなにお姉ちゃんが好きなのかにゃ」

照れ隠しのように、そう語るにゃん吉も、ボロボロと涙を流していた。
そんな二人は泣きながらも、とても幸せな顔で笑っている。




今ここに、種族も生まれも違う姉妹が、ようやく再会を果たした。



――――――――――――――――――



よかったなにゃん吉…
戦場が感動へと包まれていく中、紡はにゃん吉を祝福していた。
誰よりも早く探しに出ていくほど心配していたからなぁ。
それに二人共幸せな顔してるし、これで一件落着だな。
早く帰って風呂に入るとするか…
そんな暖かい空気の中…


事態は急変する。
そっと、テルから離れながら…

「それで、テルを傷つけたバカはどこいるにゃ?」

このにゃん吉の一言から。

ちょ、これまずくないか…
近くには未だに動けない二人がその光景を眺めるように立っている。
いや、まだいける。戦闘はもう終わったと伝えることができれば!
「にゃん吉、もう大丈夫ですわ…」
そうだ、テルの隣にはフォルが居る!フォル頑張れ!そのままにゃん吉に説明を…
「フォルは黙ってるにゃ!!」
にゃん吉の一言により現場の全てが静まり返る。

あー、やっぱり当然のようにぶちギレてるよな…
血走った目に、剥き出しの爪、そして無意識に体からは雷が吹き出し、体に巻きついている。
それを見たフォルがこちらへ顔を向けそっと左右に首を振る。それは完全に諦めた顔をしていた。
あきらめるなよ!フォルが諦めたら誰が止めるんだよ…

だが、現場は残酷に最悪の方向へと転がっていく。
大好きなお姉ちゃんに問いかけられたのだ、テルが嘘をつけるはずもない。
残酷な一言がテルの口から放たれる。

「あの二人です…」

それは死刑執行の合図だった。

「どっ…ぱんっ!」
急に皆の視界からにゃん吉が消え、皇牙の前に現れる。
雷を纏い、速度を上げて移動をし、その勢いに任せて皇牙の胸に蹴りをかます。
(やめろぉぉぉおお!!)
それを見ながら、紡は心の中で叫んでいた。

だが、止まるはずもなく、認識すらできていなかった皇牙は防げるはずもなく、森の奥へと吹き飛んで行った。
「あー…にゃん吉、もう戦いは…」
それでもどうにか止められないかと、にゃん吉に声をかける。
だが、それに振り向いたにゃん吉の目を見た途端、
「っ…」
紡は言葉に詰まる。
見ただけで分かる、今にゃん吉に何を言っても意味がない。
海よりも空よりも深い。深淵の地獄を覗いた様な目をしてこちらを見つめるにゃん吉。
そんな狂気すら感じる雰囲気を出しながら、こちらを見つめるにゃん吉はうっすらと笑っていた。

「にゃーは、吹っ飛ばした奴を始末してくるにゃ。そっちの女はご主人にまかせるにゃよ。絶対に確実に仕留めるにゃー」
そう呟き、走り出していったにゃん吉。
残った紡は…
にゃん吉って本当に怒ったらあんなに怖いんだな。
想像を超えた恐怖に震えていた。

「はぁ…しょうがない、俺の安全のためだ」
優華の方へと紡は向き直す。
未だ、皇牙が消えた理由もわからず、混乱していた優華は紡に見つめられて冷静を取り戻す。

あー…あんなに説教してから言うのは辛いんだがなぁ…
まぁ、あんなにゃん吉には逆らえないし…
「悪い、俺の為にもう一度戦ってくれ」
「え…?えっ!?」
優華へと絶望の一言を告げる。

そんなグダグダの中、この二人の二度目の戦闘が幕を開けていった。



――――――――――――――――――



「うぐっ…痛ってぇな…」
突如として襲われた衝撃の正体もわからずに、吹き飛ばされたことにより、かなり遠くの地面に突き刺っていた皇牙。
かなりの距離を吹き飛ばされながらも、皇牙はなんとか意識を保ち立ち上がる。
「いきなりなんだよ」
意味もわからずにここまで飛ばされたことに悪態を吐く。

そこに忍び寄る白い毛玉。

「みぃつけたにゃぁ…」
「っ!」
背後から聞こえてくる声に、背筋に寒気が走る。
背中に氷を入れられたような衝撃に皇牙は冷や汗が止まらない。
だが、このまま固まっているわけにもいかない。
いつ背後の何かが襲ってくるのか分かったものではない。
皇牙はゆっくりと、背後にいるものを刺激しないように振り向いた。

そこに居たのは、一匹の子猫。
「なんだよ、さっきの子猫かよ」
先程までのテルのやり取りを眺めていた皇牙は、テルに抱きついていたこの子猫のことを普通の妖だと勘違いしていた。
それが致命的な間違いとも知らずに。

「おい、ここは危険だから早く狐面のとこまで戻りな」
「危険なのは一人だけだから大丈夫にゃよ」
そう語った途端、にゃん吉を中心にドーム状に雷が展開される。

「いっ!あぶなっ!」
皇牙は全力で後ろに飛び回避する。
だが、急な攻撃により完全に回避することが出来ず、片腕が感電により動かなくなる。
「大丈夫にゃ、テルにあそこまでしてくれたやつにゃ。簡単には殺さないにゃよ」
にゃん吉の目は本気だ。

「なんで今日はこんな化物しか来ないんだよ…」
妖狩りに来たら、化け物のような狐面に襲われ、なんとか生き残ったと思ったら、次は雷を操る化け物猫。今日1日で、皇牙の精神は限界まですり減っていた。
そのせいか、無意識に口から悪態を吐く。




「…ご主人が前に言っていたにゃ」
前に戦場へと赴く前、ご主人がにゃーに言っていたあの言葉にゃ。
今でも忘れない、戦う前だと言うのに何故か嬉しそうに、にゃーへと語ってくれたにゃよ。
「『生きがいの為に命を賭ける』。にゃーも漸くその気持ちがわかった気がするにゃ」
にゃん吉の生きがい。それは妹、テルを守ると言う事。
それを貫き通す為ならば、にゃーは喜んで戦うにゃよ。
お姉ちゃんになった時に、覚悟は決めたにゃ。それを今こそ貫く時にゃよ。

「ここからは本気で行くにゃ」
にゃん吉が纏っていた雷の出力が上がり、周囲へと広がる。
それは、翼のように広がり、にゃん吉を包み込んでいく。


【にゃん吉流雷魔法 電光千鳥】
雷魔法をベースに身体強化を行い、移動速度を極限まで引き上げる。
体に触れたものには感電を与え、行動を阻害する。


フォルの翼に憧れて、にゃん吉が編み出した雷魔法であった。
にゃん吉がその場から消え去る。
「なっ!?くそっ!」
皇牙は、急に消えたにゃん吉に反応もできず、ただ勘を頼りに刀を振るう。
がきんっ!!
運良く刀へとにゃん吉の爪がぶつかる。

「んにゃ、この速さでもまだ反応できるのかにゃ…」
にゃん吉の呟きが聞こえてくる。
(馬鹿野郎、ただの山勘だ。そんな速さに対応できるわけないだろーが…)
苦々しい顔をしながら皇牙はにゃん吉を見据えていた。

「あー…もう!子猫すらここまで強いなんてどうなってんだよ!!」
叫びながら皇牙は覚悟を決める。
このまま戦ってもただ一方的に嬲られるだけだ。本気を出さないと、この猫相手では、戦いにすらならないと。

「しょうがない、やってやるよ。我が意思に応えよ『焔聖』」
目の前に皇牙は式神を召喚する。そして…
「焔聖、纏うぞ!」
小さい焔へと、式神が変化し、皇牙へと吸い込まれて行く。
全て吸い込まれ、消え去ってから数瞬、爆発する様に焔が燃え盛り、皇牙を包み込む。
それは燃え盛る業火のように力強く燃え。
静かに弱まって行く。
そしてその中から現れる者。それは真っ赤な鎧を着込み、二本の刀を腰に刺す、体に焔を纏う武士がそこに現れていた。


【『巫家』秘伝奥義 まとい
式神を自身の体へと憑依させる技であり、『巫家』が武闘派と言われる所以である。
式神の性質を高め、増幅させて扱うことが出来る。
だが、人の体に式神を憑依させる性質上、使用後はその反動により、使用者の肉体を破壊する為動くことすら出来なくなる。


「はぁ…これは使いたくなかったんだが…しょうがない。おい、子猫!丸焦げになりたく無ければ早めに降参してくれよ!」

『巫家』の纏に多大なる信用があるのだろう。気が大きくなった皇牙はにゃん吉を挑発する。それが、自分の首を締めることになるとも知らずに…
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